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22.メロディにとって(前)

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 メロディにとって、この世界は汚いもので溢れていた。

 侯爵家に生まれたメロディは、金で困るという経験を一度もしたことがなかった。
 広い屋敷、お洒落なドレス、美しい装飾品、豪勢な食事。自分で家事をする必要はなく、舞踏会に行けば見目のいい男たちに手を差し伸べられる。
 自分ではあまり意識したことがなかったが、メロディの容姿はまずまずのレベルらしい。どこぞの男爵家の姉妹と同格だとか、あの家の三女もこのくらい美人だったらだとか色々言われたものの、その家のことに詳しくないメロディにはどうでもいいことだった。

 それに貴族という身分を有する自分自身に、吐き気を催すほど嫌悪していた。
 身なりの整った人間たちが行き来する街並み。けれどその裏では、日々食べるものにも困っているような人間が大勢いる。
 自分たちがシャンデリアの真下で笑顔で踊り、その合間に飲み食いしている間にも飢えている人々がいる。
 その現実に耐えられなかった。

 家を飛び出して、貴族ばかりを狙う盗賊の一味に加わった。
 彼らの多くはメロディと同じ元貴族で、貧しい人々を救いたいと願った者ばかりだった。

 貴族の屋敷に忍び込み、手に入れた装飾品を他国に売り飛ばして、得た金を平民たちに配る。ひたすらそれを繰り返す。
 メロディの役目は侵入、そして逃走経路の確保。メロディには魔法の才能がなく、他の仲間のように戦闘には向いていなかったが、自分の仕事を失敗したことはなかった。
 いつしか新聞には『平民たちの味方』と記事にされ、何だか誇らしい気分になった。



 義賊としての人生が終わりを告げたのは、家出してから二年後。
 盗んだ金品を平民たちではなく、自分たちのために使いたい。そんなことを言い出す仲間が次第に増え始めて──ついに仲間割れが起こってしまった。
 その結果、数人が命を落として、このままでは全員殺し合うことになると危惧した一人が外部に助けを求めた。

 同士討ちが止むと引き換えに、メロディたちは全員逮捕された。
 平民からの嘆願によって厳罰は救われたものの、メロディの両親は盗賊に成り下がった娘を嫌悪した。蔑みの表情を浮かべながら勘当を宣言し、修道院で一生過ごすようにと言い渡した。
 どうして盗賊になったのか、理由を聞くこともなく。
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