16 / 96
16.協力
しおりを挟む
私をじっと見据える瞳の中では、激情の炎が大きく揺らめいているように見えた。怒りか、悲しみによるものか。或いはそのどちらも含まれているのか。
ただ動機はどうあれ、修道院のために動いてくれるのは確かだ。
「そのために証拠も集めておきました。ですが、それはあくまで外部的なもので、言い逃れできない決定的な物証が必要です」
「じゃあ、今すぐにでも修道院をガサ入……調査をお願いします」
「いいえ。僕にはこの件に強制的に介入する権限がありません。アデーレ院長に調べたいと申し出たところで。断われるだけでしょう。一応イレネー様にも協力を仰いだのですが、余計なことを考えるなと言われてしまいまして」
なんてこった。これではお手上げ状態だと焦燥感に駆られていると、
「というわけで、メロディ嬢と同じ手段に出ましょう」
内に秘めた感情を覆い隠すように、レイスは笑顔で提言した。
「つまりこっそり探る……と?」
「はい。それも夜に。暗闇だと動きやすく、若い修道女も部屋に閉じ込めているので、あちらの警戒心も薄れているはずです」
「それはそうかもしれませんが」
メロディの安否が分かっていないのに日が沈んだら行動開始なんて、悠長にしていていいのだろうか。
すると私の考えを見透かしたように、
「メロディ嬢は無事だと思いますよ。……言い方が少々悪くなってしまいますが、彼女含めた修道女は大事な『商品』ですからね」
本当に言い方が悪い。が、おかげで希望を持てた。
けれど、まだ懸念材料が残っている。
「どうやってここから脱出するんですか? 私、魔法とかそういうの全然使えないんですけれど……」
「そうですね。本当は夜までここでじっとしているのが正しいでしょうが、僕もこんな不衛生なところにいつまでもいたくはありませんから、さっさと出てしまいましょう」
レイスはうっすらと笑いながら、部屋の隅に行くと壁に手を当てた。
直後、壁の一部分が水分を含んだ角砂糖のように音もなく溶けていった。外から涼しげな風が入り込み、小屋内の澱んだ空気を浄化していく。
溶解した壁の向こうには木々が立ち並んでおり、小屋の真後ろは森に繋がっていることを思い出した。
「ちょうどいい時間になるまで、森で身を潜めていましょう」
「はい」
「……ぶっ。くくく……」
突然レイスが笑い出した。何だ何だと訝しんでいると、レイスは私を見て一言。
「あなたはこのまま事が終わるまで隠れていることもできるのに、すっかり僕に協力するつもりでいますね」
「いや……足手纏いになりそうなら、残りますけれど」
「そんなことはありません。一人でも仲間がいてくれる方が気が楽ですから」
……あくまで私はセラピー要員に過ぎず、実用の見込みはないようだ。
それでも置いていかれるよりはマシだろう。修道院にも戻れず、じっと森に潜伏し続けるなんて暇で死ぬ。
ただ動機はどうあれ、修道院のために動いてくれるのは確かだ。
「そのために証拠も集めておきました。ですが、それはあくまで外部的なもので、言い逃れできない決定的な物証が必要です」
「じゃあ、今すぐにでも修道院をガサ入……調査をお願いします」
「いいえ。僕にはこの件に強制的に介入する権限がありません。アデーレ院長に調べたいと申し出たところで。断われるだけでしょう。一応イレネー様にも協力を仰いだのですが、余計なことを考えるなと言われてしまいまして」
なんてこった。これではお手上げ状態だと焦燥感に駆られていると、
「というわけで、メロディ嬢と同じ手段に出ましょう」
内に秘めた感情を覆い隠すように、レイスは笑顔で提言した。
「つまりこっそり探る……と?」
「はい。それも夜に。暗闇だと動きやすく、若い修道女も部屋に閉じ込めているので、あちらの警戒心も薄れているはずです」
「それはそうかもしれませんが」
メロディの安否が分かっていないのに日が沈んだら行動開始なんて、悠長にしていていいのだろうか。
すると私の考えを見透かしたように、
「メロディ嬢は無事だと思いますよ。……言い方が少々悪くなってしまいますが、彼女含めた修道女は大事な『商品』ですからね」
本当に言い方が悪い。が、おかげで希望を持てた。
けれど、まだ懸念材料が残っている。
「どうやってここから脱出するんですか? 私、魔法とかそういうの全然使えないんですけれど……」
「そうですね。本当は夜までここでじっとしているのが正しいでしょうが、僕もこんな不衛生なところにいつまでもいたくはありませんから、さっさと出てしまいましょう」
レイスはうっすらと笑いながら、部屋の隅に行くと壁に手を当てた。
直後、壁の一部分が水分を含んだ角砂糖のように音もなく溶けていった。外から涼しげな風が入り込み、小屋内の澱んだ空気を浄化していく。
溶解した壁の向こうには木々が立ち並んでおり、小屋の真後ろは森に繋がっていることを思い出した。
「ちょうどいい時間になるまで、森で身を潜めていましょう」
「はい」
「……ぶっ。くくく……」
突然レイスが笑い出した。何だ何だと訝しんでいると、レイスは私を見て一言。
「あなたはこのまま事が終わるまで隠れていることもできるのに、すっかり僕に協力するつもりでいますね」
「いや……足手纏いになりそうなら、残りますけれど」
「そんなことはありません。一人でも仲間がいてくれる方が気が楽ですから」
……あくまで私はセラピー要員に過ぎず、実用の見込みはないようだ。
それでも置いていかれるよりはマシだろう。修道院にも戻れず、じっと森に潜伏し続けるなんて暇で死ぬ。
82
お気に入りに追加
5,511
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
修道女エンドの悪役令嬢が実は聖女だったわけですが今更助けてなんて言わないですよね
星里有乃
恋愛
『お久しぶりですわ、バッカス王太子。ルイーゼの名は捨てて今は洗礼名のセシリアで暮らしております。そちらには聖女ミカエラさんがいるのだから、私がいなくても安心ね。ご機嫌よう……』
悪役令嬢ルイーゼは聖女ミカエラへの嫌がらせという濡れ衣を着せられて、辺境の修道院へ追放されてしまう。2年後、魔族の襲撃により王都はピンチに陥り、真の聖女はミカエラではなくルイーゼだったことが判明する。
地母神との誓いにより祖国の土地だけは踏めないルイーゼに、今更助けを求めることは不可能。さらに、ルイーゼには別の国の王子から求婚話が来ていて……?
* この作品は、アルファポリスさんと小説家になろうさんに投稿しています。
* 2025年2月1日、本編完結しました。予定より少し文字数多めです。番外編や後日談など、また改めて投稿出来たらと思います。ご覧いただきありがとうございました!

村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。

【完結】 悪役令嬢が死ぬまでにしたい10のこと
淡麗 マナ
恋愛
2022/04/07 小説ホットランキング女性向け1位に入ることができました。皆様の応援のおかげです。ありがとうございます。
第3回 一二三書房WEB小説大賞の最終選考作品です。(5,668作品のなかで45作品)
※コメント欄でネタバレしています。私のミスです。ネタバレしたくない方は読み終わったあとにコメントをご覧ください。
原因不明の病により、余命3ヶ月と診断された公爵令嬢のフェイト・アシュフォード。
よりによって今日は、王太子殿下とフェイトの婚約が発表されるパーティの日。
王太子殿下のことを考えれば、わたくしは身を引いたほうが良い。
どうやって婚約をお断りしようかと考えていると、王太子殿下の横には容姿端麗の女性が。逆に婚約破棄されて傷心するフェイト。
家に帰り、一冊の本をとりだす。それはフェイトが敬愛する、悪役令嬢とよばれた公爵令嬢ヴァイオレットが活躍する物語。そのなかに、【死ぬまでにしたい10のこと】を決める描写があり、フェイトはそれを真似してリストを作り、生きる指針とする。
1.余命のことは絶対にだれにも知られないこと。
2.悪役令嬢ヴァイオレットになりきる。あえて人から嫌われることで、自分が死んだ時の悲しみを減らす。(これは実行できなくて、後で変更することになる)
3.必ず病気の原因を突き止め、治療法を見つけだし、他の人が病気にならないようにする。
4.ノブレス・オブリージュ 公爵令嬢としての責務をいつもどおり果たす。
5.お父様と弟の問題を解決する。
それと、目に入れても痛くない、白蛇のイタムの新しい飼い主を探さねばなりませんし、恋……というものもしてみたいし、矛盾していますけれど、友達も欲しい。etc.
リストに従い、持ち前の執務能力、するどい観察眼を持って、人々の問題や悩みを解決していくフェイト。
ただし、悪役令嬢の振りをして、人から嫌われることは上手くいかない。逆に好かれてしまう! では、リストを変更しよう。わたくしの身代わりを立て、遠くに嫁いでもらうのはどうでしょう?
たとえ失敗しても10のリストを修正し、最善を尽くすフェイト。
これはフェイトが、余命3ヶ月で10のしたいことを実行する物語。皆を自らの死によって悲しませない為に足掻き、運命に立ち向かう、逆転劇。
【注意点】
恋愛要素は弱め。
設定はかなりゆるめに作っています。
1人か、2人、苛立つキャラクターが出てくると思いますが、爽快なざまぁはありません。
2章以降だいぶ殺伐として、不穏な感じになりますので、合わないと思ったら辞めることをお勧めします。

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?
ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」
バシッ!!
わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。
目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの?
最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故?
ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない……
前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた……
前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。
転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

婚約破棄に全力感謝
あーもんど
恋愛
主人公の公爵家長女のルーナ・マルティネスはあるパーティーで婚約者の王太子殿下に婚約破棄と国外追放を言い渡されてしまう。でも、ルーナ自身は全く気にしてない様子....いや、むしろ大喜び!
婚約破棄?国外追放?喜んでお受けします。だって、もうこれで国のために“力”を使わなくて済むもの。
実はルーナは世界最強の魔導師で!?
ルーナが居なくなったことにより、国は滅びの一途を辿る!
「滅び行く国を遠目から眺めるのは大変面白いですね」
※色々な人達の目線から話は進んでいきます。
※HOT&恋愛&人気ランキング一位ありがとうございます(2019 9/18)

誰からも愛されない悪役令嬢に転生したので、自由気ままに生きていきたいと思います。
木山楽斗
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢であるエルファリナに転生した私は、彼女のその境遇に対して深い悲しみを覚えていた。
彼女は、家族からも婚約者からも愛されていない。それどころか、その存在を疎まれているのだ。
こんな環境なら歪んでも仕方ない。そう思う程に、彼女の境遇は悲惨だったのである。
だが、彼女のように歪んでしまえば、ゲームと同じように罪を暴かれて牢屋に行くだけだ。
そのため、私は心を強く持つしかなかった。悲惨な結末を迎えないためにも、どんなに不当な扱いをされても、耐え抜くしかなかったのである。
そんな私に、解放される日がやって来た。
それは、ゲームの始まりである魔法学園入学の日だ。
全寮制の学園には、歪な家族は存在しない。
私は、自由を得たのである。
その自由を謳歌しながら、私は思っていた。
悲惨な境遇から必ず抜け出し、自由気ままに生きるのだと。

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる