14 / 96
14.懲罰
しおりを挟む
「アデーレ院長、朝からシスターメロディを見かけないのです。どこにいるかご存知ないでしょうか?」
「お部屋にもいないんですぅ……」
いつも一緒にいるアントワネットとクラリスも心配になって、アデーレに尋ねた。
するとアデーレは眉一つ動かさず、
「いいえ。ですが、もしかするとあなた方を置いて一人脱走したのかとしれません」
「そんな……彼女はそんなことをする方ではありません!」
「そうです! 何を考えているか分からない時もあるけど、とっても優しい人です!」
「何を考えているか分からない時もある? でしたら、彼女の本性を見抜けていなかったかもしれない、ということにもなりますね」
二人の必死な訴えに対して、アデーレは柔らかな声音で言い切った。
昨晩のことは誰にも言っていない。アントワネットとクラリスにも。メロディを本気で心配している二人には悪いけれど、彼女は私にだけアデーレの悪事を教えた。きっと、あの子たちを巻き込みたくないからだ。
それにアデーレがメロディの行方を知らないなんて嘘に決まっている。
落胆するアントワネットとクラリスに背を向けた時に見えたのだ。あの鞭おばさんの口元が吊り上がっているのを。
間違いない、メロディ失踪にはアデーレが関わっている。
私が直接問い質そうと考えていると、
「ん?」
いつの間にか両脇にいたおばちゃん修道女に肩をがっしりと掴まれて、どこかへ連れて行かれる。
修道院から数分ほど離れたところでぽつんと佇んでいる物置小屋が見えた。
ま、まさか。
「アデーレ院長のご命令です。あなたはここにやって来た時に儀式を途中で放棄し、食事の最中に私語を連発していたり問題行動が多いので、暗闇の中で反省していなさい」
「お、お待ちください。反省なら後でしますので、その前にアデーレ院長にお聞きしたいことが……!」
「口答えはよろしい」
二人がかりで小屋の中に押し込まれて、あっという間に鍵を閉められる。
「開けてください! ちょっと!」
「二日経ったら出してあげます。ああ隅に排泄用のタライがあるので、催した時はそこにどうぞ」
真っ暗でよく見えないんだが?
どうにか脱出しようとする私を無視して、二人分の足音が遠ざかっていく。
その最中に、
「ふう、これで問題児の動きは封じたわね」
「あの泥棒娘だけじゃなくて、あの陰気な娘にまで動かれては困りますものねぇ。二日飲まず食わずで過ごしていたら、噂通りの気弱な性格になるんじゃないかしら?」
という会話がばっちり聞こえた。
メロディのことだって気になるのに、こんなところに二日もいられない。
「ええい……!」
助走をつけてドアに体当たりするけれど、びくともしない。せめて何かものはないかと小屋内を見回しても、本当に隅っこに放置されているタライの他には、天井付近まで積み上がった藁しか……
いや、おかしい。先程まで真っ暗闇だったのに、どうしてうすぼんやりとでも室内の状況が把握できるんだろう。
それは、オレンジ色の光に照らされているからだ。そしてその光は、私の真横から──
「リグレット嬢、何故このようなところに?」
ランタンを持ったレイスが怪訝そうな表情で私に尋ねた。
「お部屋にもいないんですぅ……」
いつも一緒にいるアントワネットとクラリスも心配になって、アデーレに尋ねた。
するとアデーレは眉一つ動かさず、
「いいえ。ですが、もしかするとあなた方を置いて一人脱走したのかとしれません」
「そんな……彼女はそんなことをする方ではありません!」
「そうです! 何を考えているか分からない時もあるけど、とっても優しい人です!」
「何を考えているか分からない時もある? でしたら、彼女の本性を見抜けていなかったかもしれない、ということにもなりますね」
二人の必死な訴えに対して、アデーレは柔らかな声音で言い切った。
昨晩のことは誰にも言っていない。アントワネットとクラリスにも。メロディを本気で心配している二人には悪いけれど、彼女は私にだけアデーレの悪事を教えた。きっと、あの子たちを巻き込みたくないからだ。
それにアデーレがメロディの行方を知らないなんて嘘に決まっている。
落胆するアントワネットとクラリスに背を向けた時に見えたのだ。あの鞭おばさんの口元が吊り上がっているのを。
間違いない、メロディ失踪にはアデーレが関わっている。
私が直接問い質そうと考えていると、
「ん?」
いつの間にか両脇にいたおばちゃん修道女に肩をがっしりと掴まれて、どこかへ連れて行かれる。
修道院から数分ほど離れたところでぽつんと佇んでいる物置小屋が見えた。
ま、まさか。
「アデーレ院長のご命令です。あなたはここにやって来た時に儀式を途中で放棄し、食事の最中に私語を連発していたり問題行動が多いので、暗闇の中で反省していなさい」
「お、お待ちください。反省なら後でしますので、その前にアデーレ院長にお聞きしたいことが……!」
「口答えはよろしい」
二人がかりで小屋の中に押し込まれて、あっという間に鍵を閉められる。
「開けてください! ちょっと!」
「二日経ったら出してあげます。ああ隅に排泄用のタライがあるので、催した時はそこにどうぞ」
真っ暗でよく見えないんだが?
どうにか脱出しようとする私を無視して、二人分の足音が遠ざかっていく。
その最中に、
「ふう、これで問題児の動きは封じたわね」
「あの泥棒娘だけじゃなくて、あの陰気な娘にまで動かれては困りますものねぇ。二日飲まず食わずで過ごしていたら、噂通りの気弱な性格になるんじゃないかしら?」
という会話がばっちり聞こえた。
メロディのことだって気になるのに、こんなところに二日もいられない。
「ええい……!」
助走をつけてドアに体当たりするけれど、びくともしない。せめて何かものはないかと小屋内を見回しても、本当に隅っこに放置されているタライの他には、天井付近まで積み上がった藁しか……
いや、おかしい。先程まで真っ暗闇だったのに、どうしてうすぼんやりとでも室内の状況が把握できるんだろう。
それは、オレンジ色の光に照らされているからだ。そしてその光は、私の真横から──
「リグレット嬢、何故このようなところに?」
ランタンを持ったレイスが怪訝そうな表情で私に尋ねた。
83
お気に入りに追加
5,500
あなたにおすすめの小説
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
悪役令嬢ですが、当て馬なんて奉仕活動はいたしませんので、どうぞあしからず!
たぬきち25番
恋愛
気が付くと私は、ゲームの中の悪役令嬢フォルトナに転生していた。自分は、婚約者のルジェク王子殿下と、ヒロインのクレアを邪魔する悪役令嬢。そして、ふと気が付いた。私は今、強大な権力と、惚れ惚れするほどの美貌と身体、そして、かなり出来の良い頭を持っていた。王子も確かにカッコイイけど、この世界には他にもカッコイイ男性はいる、王子はヒロインにお任せします。え? 当て馬がいないと物語が進まない? ごめんなさい、王子殿下、私、自分のことを優先させて頂きまぁ~す♡
※マルチエンディングです!!
コルネリウス(兄)&ルジェク(王子)好きなエンディングをお迎えください m(_ _)m
2024.11.14アイク(誰?)ルートをスタートいたしました。
楽しんで頂けると幸いです。
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢
岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか?
「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」
「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」
マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。
嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜
みおな
恋愛
伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。
そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。
その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。
そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。
ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。
堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・
拝啓、婚約者様。ごきげんよう。そしてさようなら
みおな
恋愛
子爵令嬢のクロエ・ルーベンスは今日も《おひとり様》で夜会に参加する。
公爵家を継ぐ予定の婚約者がいながら、だ。
クロエの婚約者、クライヴ・コンラッド公爵令息は、婚約が決まった時から一度も婚約者としての義務を果たしていない。
クライヴは、ずっと義妹のファンティーヌを優先するからだ。
「ファンティーヌが熱を出したから、出かけられない」
「ファンティーヌが行きたいと言っているから、エスコートは出来ない」
「ファンティーヌが」
「ファンティーヌが」
だからクロエは、学園卒業式のパーティーで顔を合わせたクライヴに、にっこりと微笑んで伝える。
「私のことはお気になさらず」
転生令嬢の涙 〜泣き虫な悪役令嬢は強気なヒロインと張り合えないので代わりに王子様が罠を仕掛けます〜
矢口愛留
恋愛
【タイトル変えました】
公爵令嬢エミリア・ブラウンは、突然前世の記憶を思い出す。
この世界は前世で読んだ小説の世界で、泣き虫の日本人だった私はエミリアに転生していたのだ。
小説によるとエミリアは悪役令嬢で、婚約者である王太子ラインハルトをヒロインのプリシラに奪われて嫉妬し、悪行の限りを尽くした挙句に断罪される運命なのである。
だが、記憶が蘇ったことで、エミリアは悪役令嬢らしからぬ泣き虫っぷりを発揮し、周囲を翻弄する。
どうしてもヒロインを排斥できないエミリアに代わって、実はエミリアを溺愛していた王子と、その側近がヒロインに罠を仕掛けていく。
それに気づかず小説通りに王子を籠絡しようとするヒロインと、その涙で全てをかき乱してしまう悪役令嬢と、間に挟まれる王子様の学園生活、その意外な結末とは――?
*異世界ものということで、文化や文明度の設定が緩めですがご容赦下さい。
*「小説家になろう」様、「カクヨム」様にも掲載しています。
初恋が綺麗に終わらない
わらびもち
恋愛
婚約者のエーミールにいつも放置され、蔑ろにされるベロニカ。
そんな彼の態度にウンザリし、婚約を破棄しようと行動をおこす。
今後、一度でもエーミールがベロニカ以外の女を優先することがあれば即座に婚約は破棄。
そういった契約を両家で交わすも、馬鹿なエーミールはよりにもよって夜会でやらかす。
もう呆れるしかないベロニカ。そしてそんな彼女に手を差し伸べた意外な人物。
ベロニカはこの人物に、人生で初の恋に落ちる…………。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる