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6.食事係

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 少し沈んだ気持ちになってしまったが、修道院生活二日目にして、早くも友人を三人手に入れたのだ。
 休憩時間は情報収集タイムに宛てることにした。



 まず、このナヴィア修道院の院長であるアデーレについて。
 彼女は何かをやらかして修道院に入れられたわけではなく、自分から入ると志願したらしい。哀れな貴族女性たちを救済したいとか、色々理由をつけて。
 けれど実際はいつまでも結婚できず、実家に居ても邪魔者扱いされていたので、逃げるように修道院に入ったという噂らしい。
 で、十年前に院長に着任。現在に至る……と。
 昨日ビシバシ叩かれる私を薄笑いで眺めていたおばちゃんたちも、アデーレと似た理由で入った方々だそうだ。
 
 同じ修道女でも彼女たちは看守的なポジションで、罪を犯してやって来た私たちは囚人のようなものらしい。

「リグレット様、アデーレ院長たちには絶対に逆らってはいけませんからね。怒らせると……」
「鞭でバシーンとされてしまうのでしょう?」
「そ、それだけなら痛いだけですけれど、酷い時は物置小屋に二日間も閉じ込められるのですっ!」
「二日も!?」
「真っ暗な空間の中で食事も水も与えられず、ずっとです。夏に入れられた修道女は脱水症状を起こしていました」

 アントワネットは案ずるように、クラリスは怯えた表情で、メロディは神妙な顔つきで私に話してくれた。
 二日間も物置とは。もはや虐待の域だ。絶句する私に、アントワネットは溜め息をつきつつ続きを語る。

「月に一度、この修道院を経営されている公爵様の部下の方々がいらっしゃるのですが……」
「その方々に、アデーレ院長たちの体罰を告発できないのですか?」
「それがその時間帯と夜間の間は外に出られないよう、私たちの自室に外側から施錠されて閉じ込められてしまうのです。部下の方々に色目を使うかもしれないからという名目で」

 そうだったのか。夜は爆睡しているので気づかなかった。
 抜かりない……と呆れていると、休憩時間が終わりを告げたので再び芋掘りを再開する。
 どうやらこの畑は土と水の精霊の加護のおかげで、種をいてからたった二、三日で野菜が採れるらしい。流石はファンタジーだ。




 昼食は例のパンと、酢と胡椒にまみれた野菜が登場した。
 何じゃこら。ここの味付けは0か100しかないのだろうか。

 こんな食生活を続けていたら心が病んでしまう。   
 しかし、食べないと生きていけないので、無心になって胃に食べ物を詰め込んでいく。酸っぱいし噎せる。
 で、夕飯はまたあの無味スープと炭かと、覚悟を決めていた時だった。

「シスターリグレット、今晩の夕食係はあなたです。頑張ってくださいね」
「え? あ、はい」

 おばちゃん修道女に声をかけられた。
 どうやらこの修道院の食事、少なくとも若い修道女は自分たちで食事を用意するらしい。
 で、私の番が来たと。

「あの、どのようなものを作ればよろしいでしょうか?」
「そんなこと、ご自分で考えてはいかが?」

 なるほど、謎が一つ解けた。他の修道女もこのような無茶ぶりをされた結果、数々のトンチキメニューが爆誕したのだろう。
 掃除もろくにできない人間が、料理を完璧にこなせるのかと聞かれたら首を横に振る。

 リグレットも料理経験は当然なし。私……もお貴族様にお出しできるようなものは作れない。流石に海水スープとか魚炭を作ったりはしないが。
 とりあえず気楽にいこうやと、自分に言い聞かせる。なぁに、誰が何作っても同じみたいな空気があるから多分許してくれるだろう。調理歴0日の女に誰も期待などしないはずだ。

 半ば諦めの境地で厨房へ向かう。
 前に何かの動画で見たことがあるような、西洋の台所といった造りだ。やたらとでかいオーブンもある。
 そして全体的に汚い。食べ物のカスが散乱しているわ、鍋に焦げが残っているわで鳥肌が立った。衛生管理! 衛生管理! と叫び回りたい。
 よくこれで、今まで食中毒出なかったものだ。

 夕飯作りの前に掃除をし終わった頃には結構時間が過ぎていて、そこから慌てて調理を始めた。
 もうあまり凝ったものは作らず、適当なのでいいだろう。
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