46 / 66
46話 お帰りください
しおりを挟む
ネイリーズ伯爵夫妻と別れ、ソフィアがノア宅をあとにしたのは、日が落ちる直前だった。
冬の日は早い。城に着いた時はもう真っ暗だ。伯爵夫妻にカルボナーラを振る舞ったのが午後二時ぐらいである。ソフィア自身はあまり食べていないのだが、そんなに空腹ではなかった。考えることがたくさんあると、食欲は減退する。
主殿の玄関ホールでケツ顎ジモンに呼び止められた。
「ソフィア様っ!! やっと帰ってこられましたか!! 早くこちらへ! ご案内いたします!」
なにか起こったのだろうか。慌てた様子だ。いつものボヤッとしたキャラクター感が抜け、騎士団長らしくなっている。
「どうしたの? なにごとです?」
「公爵閣下が城中の人間を大広間に集めて、なにか始めようとされているのです。私は案内役を仰せつかったのですよ。ソフィア様が帰られたら、すぐに開始されますので……」
その内容は?……と聞いても、ジモンは頭を振るばかりだ。まったく聞いていない話にソフィアは不安を募らせた。
昨晩、支配欲に満ち、それこそ天下人となった公爵閣下は今朝、これまでで最大級の甘ったれになった。裸体を絡ませ眠って起きてからは、ソフィアに密着し、一ミリも移動させてくれなかったのである。恒例のベッド上の朝ご飯にて、リヒャルトの両手はソフィアの髪をさわったり、ソフィアへ食事を運ぶためだけに使われた。自分のために使わないのは、意地であろう。全部食べさせられたいという。
そんな甘えん坊から、今聞いた行動力は想像つかない。しかし、心配しつつもソフィアはリヒャルトを信じていたので、早く会いたいと思った。
ガランとした城内はいっそう広く感じる。人がいないだけで、城は別物になる。忘れ去られた遺跡を歩いているような既視感を覚えた。
椅子も設えず、大広間の奥でリヒャルトは立って待っていた。目が合うと、眉間の険が取れる。
「ソフィア! 帰ってきたか! ジモン、ごくろう」
弾んだ声を出し、ソフィアを定位置の自分の隣に立たせた。上目で訴えるも、リヒャルトは答えず。女にされて一日も経っていない、依然として過敏なソフィアの手を握った。
これでも外向きの顔である。二人きりになった時の甘ったれ暴君を思い出して、ソフィアはゾクゾクしてしまう。
広間には城で働くありとあらゆる業種の人が集まっていた。
衛兵、学匠、武術指南役、庭師、メイド、執事、料理人、下男下女、洗濯女、機織り女──百人以上いるだろうか。来る途中、ひとけがなかったのはこのせいだったのだ。
ソフィアたちの近くにはルシア夫婦、宰相セルペンスがいる。夕食前で空腹なのもあるだろう。機嫌の悪さが見て取れる。
「いったい、なにごとですの?」
案の定、ルシアがリヒャルトに食ってかかった。リヒャルトは平然と冷たい笑みを浮かべる。
「ソフィアが帰ったら、始めると言っただろう? 早速、本題に入ろう。話すのは君たち夫婦のことだ」
それを聞いて、ソフィアは身体をこわばらせた。リヒャルトが手を握ってくれなかったら、ルシアの様子を観察できなかったかもしれない。
ルシアは碧眼を見開き、拳を握りしめていた。驚きに疑念が混じるのは、普段からリヒャルトがルシアに冷たいせいだろう。
「まず、君たち夫婦には明日にでも出て行ってほしい」
「どういうことです? 失礼にもほどがあります。わたしたちは国の命でこちらに参りました。これは国同士の問題になりますよ?」
「承知のうえだ。兄……国王の了承もとってある。歓待する義理などないと判断したまで」
今にも怒りを爆発させんとするルシアに代わって、エドアルドが口を開いた。
「そそそ、そんな……戦争になるぞ」
過激な文言に反して腰は引けており、声も小さい。集まった人たちの半分にも声は届いてないだろう。こんなダサい小者に恋していたのかと思うと、今さらながらソフィアは恥ずかしくなる。
この臆病者の援護は意外や意外、身内から出た。宰相セルペンス。
「グーリンガムから来られた友好的なお客様、それも王族を無下にあしらっては、敵対すると断言しているようなもの。どういうおつもりです?」
逆三角髭は落ち着いており、リヒャルトを言い負かそうとする気概が感じられる。ゾッとする蛇の目はリヒャルトの首根っこを狙っていた。だが、そんな不気味な男に対しても、リヒャルトは姿勢を崩さない。
「では、理由を申そう。彼らは我が国の状況を探り、資金協力を得るために参ったのだ」
資金協力の言葉に人々はどよめいた。ソフィアも初耳だ。我が親ながら、敵国に金をたかるとは図々しすぎる。しかし、セルペンスは当然知っていたのか、動じない。
「ソフィア、すまない。金の件は君に余計な気を使わせると思い、黙っていた」
温かい銀の目に見下ろされ、ソフィアは怒りたくても怒れなかった。自分に関することは、包み隠さず話してほしかったのだが。
ルシアが即座に弁明した。
「姉が王の代理である閣下の妻ですし、援助を求めるのは当然ではないですか?」
「妻と実家との関係性が正常なら、私も平和的に話しただろう。だが、妻はグーリンガムで邪険に扱われていた」
リヒャルトが声を張り上げ、ざわざわしていた城内の人々は静かになった。ルシアの意地の悪い視線は、ソフィアに向いている。ソフィアはうつむいた。
「それ、本人が言ったんです? やーね……昔からそうなんですよ。わざと地味な格好をして「わたくし、いじめられてるの」って、男性の気を引こうとする。ね、エド?」
ルシアの隣のエドアルドがうなずくのは、見なくてもわかった。このような中傷には慣れているはずなのに、ソフィアが逃げたくなるのはリヒャルトのせいだ。嘲られるみじめな自分をリヒャルトに見られたくない。ソフィアはリヒャルトのおかげで強くなり、弱くもなっていた。
指に絡むリヒャルトの体温が上がってくる。強く手を握られ、彼が怒っているのだと、ソフィアはわかった。
「妻を侮辱するのは、もうやめていただきたい。妻は……ソフィアは一言も実家でのことを話していない。私が聞いたのは、あなた方の供をしてグーリンガムから来た人たちからだ」
少し離れ、壁際に固まっていたグーリンガム人たちは目を泳がせている。ルシアは振り返って彼らを一瞥すると、鼻で笑った。
「おかしなことを言わないで? 姉が自分で言ってることでしょう? 誰かがそう言ったのなら、それは言わされてるだけです。わたしが尋ねれば、すぐに発言を翻しますわ」
それはそうだろう。ルシアを恐れ、グーリンガムでは誰も本当のことを話せなかったのだ。
──と、ここで手を上げる者が一人。
「発言してもよろしいでしょうか? 私は騎士団長のジモン・ジュリアス・フォン・ラシュルガーと申します。公爵夫人をグーリンガムから、このリエーヴにお連れしたのは私です。ソフィア様は馬車も供の者も用意してもらえず、たった一人で私と同じリエーヴ行きの馬車に乗られました。荷物は小さな桑折一つ、使用人のような服装をされていたのです」
「それは姉が自分で望んでしたことです。最初から厚かましくリエーヴの厄介になるつもりで、なにも用意させてなかったんだわ」
ルシアの嘘はジモンの周りにいた騎士たちによって、かき消された。同意する声は使用人たちのほうにまで、広がっていく。彼らはジモンとソフィアを迎えに行った者たちだ。
「見送りは数人の職人と学匠だけ。家族で見送られる方は一人もおられなかった」
「あと、年老いた侍女だ」
「荷物も騎士団長がお持ちしたのだ」
ルシアがひるんだところで、リヒャルトが口を開いた。
「ソフィアは友好の証として、この
国に来たと思っていたが、ちがうようだね。道具として利用されただけだ」
「リヒャルト様は姉に騙されているのです。姉の言葉に惑わされ、争いを引き起こすおつもりですか?」
「いい加減、ソフィアを悪く言わないでほしいのだが?」
「は?」
リヒャルトは周囲の人々を見回した。
「おまえたちを集めたのは、ソフィアの名誉を回復するためでもある。ここにおられる妹君は、ソフィアに対して根拠のない誹謗を繰り返している。聞いた者も多いと思うが、これを機に宣言しておく。我が妻ソフィアは人を欺いたり、謗ったりもしなければ、国庫の金を浪費してもいない。これ以上の悪評を広める者がいたら、私は断固戦うつもりだ!」
大広間は騒然となった。人々が口々に言うのは、ルシアから聞いたソフィアに関する嘘だ。エドアルドと不倫しているだの、国庫の金を無駄遣いして遊んでいるだの、グーリンガムでは使用人たちをいじめていただの……皆が「私も聞いた」「俺も聞いた」と声を上げた。悪い噂は相当広まっていたようだ。
それにしても、悪評の内容はほとんどルシアに当てはまる。よくもまあ、自分のことを棚に上げて、ありもしない嘘をばらまけたものだ。
ここまでされては、ルシアは反論しようがない。ぶりっ子の仮面はあえなく崩れ落ちる。般若の形相になり、ヒステリックに叫んだ。
「黙りなさいっ!! 主が主なら家来も家来だわ! 躾がなってないのよ! 姉の嫁ぎ先のくせに、実家が困っていても資金も出さない、王女であるこのわたしを侮辱する。もう二度とこんな国、訪れるものですか! 父にはここであったことを、しっかり申し伝えておきますからね! 無能で汚い赤毛をかばって、国を失うことになっても知らないですから!」
ルシアの金切り声は、城中の者たちの怒りに火をつけたようだった。騒ぎは収まるどころか大きくなり、非難の目を向けられたルシアはさすがに及び腰になった。
「わかったわ。もう帰らせていただきますわ! 帰る準備をしていただけます?」
「君はソフィアとちがい、自国からたくさんの従者を連れてきているじゃないか? 馬車四台じゃ、まだ足りないとでも?」
リヒャルトのイヤミには答えず、ルシアはおびえるエドアルドを引きずるようにして、大広間を出て行った。
冬の日は早い。城に着いた時はもう真っ暗だ。伯爵夫妻にカルボナーラを振る舞ったのが午後二時ぐらいである。ソフィア自身はあまり食べていないのだが、そんなに空腹ではなかった。考えることがたくさんあると、食欲は減退する。
主殿の玄関ホールでケツ顎ジモンに呼び止められた。
「ソフィア様っ!! やっと帰ってこられましたか!! 早くこちらへ! ご案内いたします!」
なにか起こったのだろうか。慌てた様子だ。いつものボヤッとしたキャラクター感が抜け、騎士団長らしくなっている。
「どうしたの? なにごとです?」
「公爵閣下が城中の人間を大広間に集めて、なにか始めようとされているのです。私は案内役を仰せつかったのですよ。ソフィア様が帰られたら、すぐに開始されますので……」
その内容は?……と聞いても、ジモンは頭を振るばかりだ。まったく聞いていない話にソフィアは不安を募らせた。
昨晩、支配欲に満ち、それこそ天下人となった公爵閣下は今朝、これまでで最大級の甘ったれになった。裸体を絡ませ眠って起きてからは、ソフィアに密着し、一ミリも移動させてくれなかったのである。恒例のベッド上の朝ご飯にて、リヒャルトの両手はソフィアの髪をさわったり、ソフィアへ食事を運ぶためだけに使われた。自分のために使わないのは、意地であろう。全部食べさせられたいという。
そんな甘えん坊から、今聞いた行動力は想像つかない。しかし、心配しつつもソフィアはリヒャルトを信じていたので、早く会いたいと思った。
ガランとした城内はいっそう広く感じる。人がいないだけで、城は別物になる。忘れ去られた遺跡を歩いているような既視感を覚えた。
椅子も設えず、大広間の奥でリヒャルトは立って待っていた。目が合うと、眉間の険が取れる。
「ソフィア! 帰ってきたか! ジモン、ごくろう」
弾んだ声を出し、ソフィアを定位置の自分の隣に立たせた。上目で訴えるも、リヒャルトは答えず。女にされて一日も経っていない、依然として過敏なソフィアの手を握った。
これでも外向きの顔である。二人きりになった時の甘ったれ暴君を思い出して、ソフィアはゾクゾクしてしまう。
広間には城で働くありとあらゆる業種の人が集まっていた。
衛兵、学匠、武術指南役、庭師、メイド、執事、料理人、下男下女、洗濯女、機織り女──百人以上いるだろうか。来る途中、ひとけがなかったのはこのせいだったのだ。
ソフィアたちの近くにはルシア夫婦、宰相セルペンスがいる。夕食前で空腹なのもあるだろう。機嫌の悪さが見て取れる。
「いったい、なにごとですの?」
案の定、ルシアがリヒャルトに食ってかかった。リヒャルトは平然と冷たい笑みを浮かべる。
「ソフィアが帰ったら、始めると言っただろう? 早速、本題に入ろう。話すのは君たち夫婦のことだ」
それを聞いて、ソフィアは身体をこわばらせた。リヒャルトが手を握ってくれなかったら、ルシアの様子を観察できなかったかもしれない。
ルシアは碧眼を見開き、拳を握りしめていた。驚きに疑念が混じるのは、普段からリヒャルトがルシアに冷たいせいだろう。
「まず、君たち夫婦には明日にでも出て行ってほしい」
「どういうことです? 失礼にもほどがあります。わたしたちは国の命でこちらに参りました。これは国同士の問題になりますよ?」
「承知のうえだ。兄……国王の了承もとってある。歓待する義理などないと判断したまで」
今にも怒りを爆発させんとするルシアに代わって、エドアルドが口を開いた。
「そそそ、そんな……戦争になるぞ」
過激な文言に反して腰は引けており、声も小さい。集まった人たちの半分にも声は届いてないだろう。こんなダサい小者に恋していたのかと思うと、今さらながらソフィアは恥ずかしくなる。
この臆病者の援護は意外や意外、身内から出た。宰相セルペンス。
「グーリンガムから来られた友好的なお客様、それも王族を無下にあしらっては、敵対すると断言しているようなもの。どういうおつもりです?」
逆三角髭は落ち着いており、リヒャルトを言い負かそうとする気概が感じられる。ゾッとする蛇の目はリヒャルトの首根っこを狙っていた。だが、そんな不気味な男に対しても、リヒャルトは姿勢を崩さない。
「では、理由を申そう。彼らは我が国の状況を探り、資金協力を得るために参ったのだ」
資金協力の言葉に人々はどよめいた。ソフィアも初耳だ。我が親ながら、敵国に金をたかるとは図々しすぎる。しかし、セルペンスは当然知っていたのか、動じない。
「ソフィア、すまない。金の件は君に余計な気を使わせると思い、黙っていた」
温かい銀の目に見下ろされ、ソフィアは怒りたくても怒れなかった。自分に関することは、包み隠さず話してほしかったのだが。
ルシアが即座に弁明した。
「姉が王の代理である閣下の妻ですし、援助を求めるのは当然ではないですか?」
「妻と実家との関係性が正常なら、私も平和的に話しただろう。だが、妻はグーリンガムで邪険に扱われていた」
リヒャルトが声を張り上げ、ざわざわしていた城内の人々は静かになった。ルシアの意地の悪い視線は、ソフィアに向いている。ソフィアはうつむいた。
「それ、本人が言ったんです? やーね……昔からそうなんですよ。わざと地味な格好をして「わたくし、いじめられてるの」って、男性の気を引こうとする。ね、エド?」
ルシアの隣のエドアルドがうなずくのは、見なくてもわかった。このような中傷には慣れているはずなのに、ソフィアが逃げたくなるのはリヒャルトのせいだ。嘲られるみじめな自分をリヒャルトに見られたくない。ソフィアはリヒャルトのおかげで強くなり、弱くもなっていた。
指に絡むリヒャルトの体温が上がってくる。強く手を握られ、彼が怒っているのだと、ソフィアはわかった。
「妻を侮辱するのは、もうやめていただきたい。妻は……ソフィアは一言も実家でのことを話していない。私が聞いたのは、あなた方の供をしてグーリンガムから来た人たちからだ」
少し離れ、壁際に固まっていたグーリンガム人たちは目を泳がせている。ルシアは振り返って彼らを一瞥すると、鼻で笑った。
「おかしなことを言わないで? 姉が自分で言ってることでしょう? 誰かがそう言ったのなら、それは言わされてるだけです。わたしが尋ねれば、すぐに発言を翻しますわ」
それはそうだろう。ルシアを恐れ、グーリンガムでは誰も本当のことを話せなかったのだ。
──と、ここで手を上げる者が一人。
「発言してもよろしいでしょうか? 私は騎士団長のジモン・ジュリアス・フォン・ラシュルガーと申します。公爵夫人をグーリンガムから、このリエーヴにお連れしたのは私です。ソフィア様は馬車も供の者も用意してもらえず、たった一人で私と同じリエーヴ行きの馬車に乗られました。荷物は小さな桑折一つ、使用人のような服装をされていたのです」
「それは姉が自分で望んでしたことです。最初から厚かましくリエーヴの厄介になるつもりで、なにも用意させてなかったんだわ」
ルシアの嘘はジモンの周りにいた騎士たちによって、かき消された。同意する声は使用人たちのほうにまで、広がっていく。彼らはジモンとソフィアを迎えに行った者たちだ。
「見送りは数人の職人と学匠だけ。家族で見送られる方は一人もおられなかった」
「あと、年老いた侍女だ」
「荷物も騎士団長がお持ちしたのだ」
ルシアがひるんだところで、リヒャルトが口を開いた。
「ソフィアは友好の証として、この
国に来たと思っていたが、ちがうようだね。道具として利用されただけだ」
「リヒャルト様は姉に騙されているのです。姉の言葉に惑わされ、争いを引き起こすおつもりですか?」
「いい加減、ソフィアを悪く言わないでほしいのだが?」
「は?」
リヒャルトは周囲の人々を見回した。
「おまえたちを集めたのは、ソフィアの名誉を回復するためでもある。ここにおられる妹君は、ソフィアに対して根拠のない誹謗を繰り返している。聞いた者も多いと思うが、これを機に宣言しておく。我が妻ソフィアは人を欺いたり、謗ったりもしなければ、国庫の金を浪費してもいない。これ以上の悪評を広める者がいたら、私は断固戦うつもりだ!」
大広間は騒然となった。人々が口々に言うのは、ルシアから聞いたソフィアに関する嘘だ。エドアルドと不倫しているだの、国庫の金を無駄遣いして遊んでいるだの、グーリンガムでは使用人たちをいじめていただの……皆が「私も聞いた」「俺も聞いた」と声を上げた。悪い噂は相当広まっていたようだ。
それにしても、悪評の内容はほとんどルシアに当てはまる。よくもまあ、自分のことを棚に上げて、ありもしない嘘をばらまけたものだ。
ここまでされては、ルシアは反論しようがない。ぶりっ子の仮面はあえなく崩れ落ちる。般若の形相になり、ヒステリックに叫んだ。
「黙りなさいっ!! 主が主なら家来も家来だわ! 躾がなってないのよ! 姉の嫁ぎ先のくせに、実家が困っていても資金も出さない、王女であるこのわたしを侮辱する。もう二度とこんな国、訪れるものですか! 父にはここであったことを、しっかり申し伝えておきますからね! 無能で汚い赤毛をかばって、国を失うことになっても知らないですから!」
ルシアの金切り声は、城中の者たちの怒りに火をつけたようだった。騒ぎは収まるどころか大きくなり、非難の目を向けられたルシアはさすがに及び腰になった。
「わかったわ。もう帰らせていただきますわ! 帰る準備をしていただけます?」
「君はソフィアとちがい、自国からたくさんの従者を連れてきているじゃないか? 馬車四台じゃ、まだ足りないとでも?」
リヒャルトのイヤミには答えず、ルシアはおびえるエドアルドを引きずるようにして、大広間を出て行った。
1
お気に入りに追加
92
あなたにおすすめの小説
【R18】らぶえっち短編集
おうぎまちこ(あきたこまち)
恋愛
調べたら残り2作品ありました、本日投稿しますので、お待ちくださいませ(3/31)
R18執筆1年目の時に書いた短編完結作品23本のうち商業作品をのぞく約20作品を短編集としてまとめることにしました。
※R18に※
※毎日投稿21時~24時頃、1作品ずつ。
※R18短編3作品目「追放されし奴隷の聖女は、王位簒奪者に溺愛される」からの投稿になります。
※処女作「清廉なる巫女は、竜の欲望の贄となる」2作品目「堕ちていく竜の聖女は、年下皇太子に奪われる」は商業化したため、読みたい場合はムーンライトノベルズにどうぞよろしくお願いいたします。
※これまでに投稿してきた短編は非公開になりますので、どうぞご了承くださいませ。
孤独なまま異世界転生したら過保護な兄ができた話
かし子
BL
養子として迎えられた家に弟が生まれた事により孤独になった僕。18歳を迎える誕生日の夜、絶望のまま外へ飛び出し、トラックに轢かれて死んだ...はずが、目が覚めると赤ん坊になっていた?
転生先には優しい母と優しい父。そして...
おや?何やらこちらを見つめる赤目の少年が、
え!?兄様!?あれ僕の兄様ですか!?
優しい!綺麗!仲良くなりたいです!!!!
▼▼▼▼
『アステル、おはよう。今日も可愛いな。』
ん?
仲良くなるはずが、それ以上な気が...。
...まあ兄様が嬉しそうだからいいか!
またBLとは名ばかりのほのぼの兄弟イチャラブ物語です。
【完結】前世の不幸は神様のミスでした?異世界転生、条件通りなうえチート能力で幸せです
yun.
ファンタジー
~タイトル変更しました~
旧タイトルに、もどしました。
日本に生まれ、直後に捨てられた。養護施設に暮らし、中学卒業後働く。
まともな職もなく、日雇いでしのぐ毎日。
劣悪な環境。上司にののしられ、仲のいい友人はいない。
日々の衣食住にも困る。
幸せ?生まれてこのかた一度もない。
ついに、死んだ。現場で鉄パイプの下敷きに・・・
目覚めると、真っ白な世界。
目の前には神々しい人。
地球の神がサボった?だから幸せが1度もなかったと・・・
短編→長編に変更しました。
R4.6.20 完結しました。
長らくお読みいただき、ありがとうございました。
懐妊したポンコツ妻は夫から自立したい
キムラましゅろう
恋愛
ある日突然、ユニカは夫セドリックから別邸に移るように命じられる。
その理由は神託により選定された『聖なる乙女』を婚家であるロレイン公爵家で庇護する事に決まったからだという。
だがじつはユニカはそれら全ての事を事前に知っていた。何故ならユニカは17歳の時から突然予知夢を見るようになったから。
ディアナという娘が聖なる乙女になる事も、自分が他所へ移される事も、セドリックとディアナが恋仲になる事も、そして自分が夫に望まれない妊娠をする事も……。
なのでユニカは決意する。
予知夢で見た事は変えられないとしても、その中で自分なりに最善を尽くし、お腹の子と幸せになれるように頑張ろうと。
そしてセドリックから離婚を突きつけられる頃には立派に自立した自分になって、胸を張って新しい人生を歩いて行こうと。
これは不自然なくらいに周囲の人間に恵まれたユニカが夫から自立するために、アレコレと奮闘……してるようには見えないが、幸せな未来の為に頑張ってジタバタする物語である。
いつもながらの完全ご都合主義、ゆるゆる設定、ノンリアリティなお話です。
宇宙に負けない広いお心でお読み頂けると有難いです。
作中、グリム童話やアンデルセン童話の登場人物と同じ名のキャラで出てきますが、決してご本人ではありません。
また、この異世界でも似たような童話があるという設定の元での物語です。
どうぞツッコミは入れずに生暖かいお心でお読みくださいませ。
血圧上昇の引き金キャラが出てきます。
健康第一。用法、用量を守って正しくお読みください。
妊娠、出産にまつわるワードがいくつか出てきます。
苦手な方はご注意下さい。
小説家になろうさんでも投稿します。
成り上がり令嬢暴走日記!
笹乃笹世
恋愛
異世界転生キタコレー!
と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎
えっあの『ギフト』⁉︎
えっ物語のスタートは来年⁉︎
……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎
これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!
ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……
これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー
果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?
周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
婚約解消して次期辺境伯に嫁いでみた
cyaru
恋愛
一目惚れで婚約を申し込まれたキュレット伯爵家のソシャリー。
お相手はボラツク侯爵家の次期当主ケイン。眉目秀麗でこれまで数多くの縁談が女性側から持ち込まれてきたがケインは女性には興味がないようで18歳になっても婚約者は今までいなかった。
婚約をした時は良かったのだが、問題は1か月に起きた。
過去にボラツク侯爵家から放逐された侯爵の妹が亡くなった。放っておけばいいのに侯爵は簡素な葬儀も行ったのだが、亡くなった妹の娘が牧師と共にやってきた。若い頃の妹にそっくりな娘はロザリア。
ボラツク侯爵家はロザリアを引き取り面倒を見ることを決定した。
婚約の時にはなかったがロザリアが独り立ちできる状態までが期間。
明らかにソシャリーが嫁げば、ロザリアがもれなくついてくる。
「マジか…」ソシャリーは心から遠慮したいと願う。
そして婚約者同士の距離を縮め、お互いの考えを語り合う場が月に数回設けられるようになったが、全てにもれなくロザリアがついてくる。
茶会に観劇、誕生日の贈り物もロザリアに買ったものを譲ってあげると謎の善意を押し売り。夜会もケインがエスコートしダンスを踊るのはロザリア。
幾度となく抗議を受け、ケインは考えを改めると誓ってくれたが本当に考えを改めたのか。改めていれば婚約は継続、そうでなければ解消だがソシャリーも年齢的に次を決めておかないと家のお荷物になってしまう。
「こちらは嫁いでくれるならそれに越したことはない」と父が用意をしてくれたのは「自分の責任なので面倒を見ている子の数は35」という次期辺境伯だった?!
★↑例の如く恐ろしく省略してます。
★9月14日投稿開始、完結は9月16日です。
★コメントの返信は遅いです。
★タグが勝手すぎる!と思う方。ごめんなさい。検索してもヒットしないよう工夫してます。
♡注意事項~この話を読む前に~♡
※異世界を舞台にした創作話です。時代設定なし、史実に基づいた話ではありません。【妄想史であり世界史ではない】事をご理解ください。登場人物、場所全て架空です。
※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義なのでリアルな世界の常識と混同されないようお願いします。
※心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。
※価値観や言葉使いなど現実世界とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
※話の基幹、伏線に関わる文言についてのご指摘は申し訳ないですが受けられません
(完)貴女は私の全てを奪う妹のふりをする他人ですよね?
青空一夏
恋愛
公爵令嬢の私は婚約者の王太子殿下と優しい家族に、気の合う親友に囲まれ充実した生活を送っていた。それは完璧なバランスがとれた幸せな世界。
けれど、それは一人の女のせいで歪んだ世界になっていくのだった。なぜ私がこんな思いをしなければならないの?
中世ヨーロッパ風異世界。魔道具使用により現代文明のような便利さが普通仕様になっている異世界です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる