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五章 ボランティア
三十四話 ボランティア④
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壁際に沿って、ホームセンター内を移動する。なるべく音を立てずに……
入り口にたくさん角材が置いてあったので、とりあえず拝借した。暗いし、緊張するな……
中へ入ってから数メートル進むと、早々にいた。縦に並んだ陳列棚の三ブロック先だ。
棚の影に隠れながら、先へ進むのを躊躇する。一頭だけであれば、さっさと倒して先に進んだほうがいいか……いや、角の向こうに見えないもう一頭がいた場合、ヤバい。そんなことを考えながら、チラチラ確認している間にいなくなってくれた。
よし!
その後、問題なく進んでいくが、電気のスイッチがあるスタッフルームは一番奥のようだった。
奥へ進めば進むほど、どんどん暗くなっていく。目視ができないほどの暗さではないが、天井からぶら下がっている看板の文字を読み取るのは困難だ。
俺は五感を研ぎ澄ました。特に注意を要するのは陳列棚が途切れている所である。通路にいないか、棚の影から注意深く確認する。いても離れていれば、大丈夫だ。忍び足で素早く次の陳列棚まで移動する。
入り口から建材コーナーを通り過ぎ、工具コーナー、収納家具コーナー……俺は店内の一番奥まで移動した。途中、工具コーナーで使えそうなニッパーを見つけリュックに入れる。金槌や懐中電灯も近くにありそうだが……裏側の棚かもしれない。探す余裕はなかった。
縦向きに並んだ長い陳列棚が奥まで六ブロック続いている。二つ背中合わせに配置された棚を一ブロックとして、横には十列くらい……
俺は店内の一番奥まで来て、動けなくなった。音である。かなり近くから、ゾンビのふらついた足音が聞こえる。俺は陳列棚の影に身を潜めた。大丈夫だ。近くから聞こえる足音は一頭のみ──しかし、さらなるピンチが俺を襲った。
気配を感じて振り返る。今いる陳列棚の端から一頭出てきた。距離にして四メートル。挟まれた。ビビっている暇はない。攻撃力の低い角材では三、四発入れなければ倒せない。ゾンビはまだ俺に気づいていなかった。
背後から現れたゾンビに、俺は向かって行った。音を立てぬよう、爪先立ちで小走り。近づいて一気に角材を振り下ろした。
ゴン! ゴン! グチャ……
やはり三発必要だったか……余韻に浸っている時間はなく、今度は反対側から音の主が飛び出してきた。今は俺を認識し、呻きながら襲いかかってくる。
結構早いな──
ターゲットを認識している時のゾンビの動きは早い。脳天に角材を叩き付け、一瞬止まったところですぐ二打目を入れる。動きが鈍ったらトドメだ。スムーズに倒したと思っても、ゾンビはだいぶ俺に接近していた。初めて戦った時みたいにつかまれはしなかったものの、ギリギリの線だ。倒すのに三発は危険過ぎる。一頭ずつならともかく、複数頭では絶対やられる。
しかも、今の二頭を倒した音に他のゾンビたちは反応している。あちらこちらから呻き声が聞こえ、明らかにこちらへ向かって来ているのがわかった。戻るか……いや、戻るにしても危険過ぎる。とにかく移動せねば……音のほうへゾンビは向かってくる。棚の影に隠れながら、慎重に移動する余裕はなくなった。
俺は店内奥の通路を飛ぶように走った。自らの呼吸音が大音量で耳に入ってくる。俺、こんなに鼻息荒かったっけ??
金物コーナーを抜けてリフォームコーナーまで……トイレや洗面台の前を走り抜け、とうとうスタッフルームのドアを見つけた。
やった!! 電気つけれる!
ドアノブを回す。ガチャリ……よかった。開いてる……
すぐにでも中へ入りたかったが、今までの経験がそうさせなかった。すんでのところで俺は重いドアを開け放った。本能的に入るのを躊躇したのである。体が自然と危険な行為を学んでいた。
「ウギギィアアアアア!!」
ゾンビの呻き声は、全身に赤信号だと伝えた。開け放したドアからゾロゾロと出る出る出る……ゾンビ……
俺はドアの裏側で呼吸を止めた。苦しい。気を緩めれば、変な声がもれそう……背中を滝のように汗が流れ落ちる。外開きのドアが幸いしたのだ。開けた時、俺はドアのうしろに隠れることができた。ゾンビたちは俺に気づかず、反対方向の通路へと進んで行く。
五頭くらいか。
出て行くゾンビが途切れた後、スタッフルームへ入って行く勇気はなかった。部屋の中は真っ暗だろうし、ゾンビが何頭残っているかは不明だ。ドアから手を離し、俺は出入り口のほうへと走った。リフォームコーナーを背に鉄パイプの陳列棚を通る……そ、鉄パイプの……鉄?パイプ……だと!?
ラッキー!!!
五十センチくらい。程よい長さの鉄パイプをゲットすると、棚の端からゾンビが現れた。
グチャ──
一撃!! やっぱ金属サイコー!! リーチもちょうどよいし、最近愛用してた金槌よりグレードアップしてる。
背後から追ってくる気配はなかったので、棚が途切れた所にだけ気をつけながら移動した。気配がある場合は単数か複数か耳を澄ませ、単数であれば強行突破する。幸い複数でいることはなかった。なにより鉄パイプをゲットできたことは大きい。一撃で倒せれば、他のゾンビが音に釣られて寄ってくるまえに逃げられる。とにかく走って、走って、走り抜いた……
命からがらホームセンターの外へ出た時、俺は全身汗だくになっていた。頭の中で太鼓を打ち鳴らす音が聞こえる。ああ、俺の動悸だよ。リュックからタオルを出した。
はぁーー、怖かった──
入り口にたくさん角材が置いてあったので、とりあえず拝借した。暗いし、緊張するな……
中へ入ってから数メートル進むと、早々にいた。縦に並んだ陳列棚の三ブロック先だ。
棚の影に隠れながら、先へ進むのを躊躇する。一頭だけであれば、さっさと倒して先に進んだほうがいいか……いや、角の向こうに見えないもう一頭がいた場合、ヤバい。そんなことを考えながら、チラチラ確認している間にいなくなってくれた。
よし!
その後、問題なく進んでいくが、電気のスイッチがあるスタッフルームは一番奥のようだった。
奥へ進めば進むほど、どんどん暗くなっていく。目視ができないほどの暗さではないが、天井からぶら下がっている看板の文字を読み取るのは困難だ。
俺は五感を研ぎ澄ました。特に注意を要するのは陳列棚が途切れている所である。通路にいないか、棚の影から注意深く確認する。いても離れていれば、大丈夫だ。忍び足で素早く次の陳列棚まで移動する。
入り口から建材コーナーを通り過ぎ、工具コーナー、収納家具コーナー……俺は店内の一番奥まで移動した。途中、工具コーナーで使えそうなニッパーを見つけリュックに入れる。金槌や懐中電灯も近くにありそうだが……裏側の棚かもしれない。探す余裕はなかった。
縦向きに並んだ長い陳列棚が奥まで六ブロック続いている。二つ背中合わせに配置された棚を一ブロックとして、横には十列くらい……
俺は店内の一番奥まで来て、動けなくなった。音である。かなり近くから、ゾンビのふらついた足音が聞こえる。俺は陳列棚の影に身を潜めた。大丈夫だ。近くから聞こえる足音は一頭のみ──しかし、さらなるピンチが俺を襲った。
気配を感じて振り返る。今いる陳列棚の端から一頭出てきた。距離にして四メートル。挟まれた。ビビっている暇はない。攻撃力の低い角材では三、四発入れなければ倒せない。ゾンビはまだ俺に気づいていなかった。
背後から現れたゾンビに、俺は向かって行った。音を立てぬよう、爪先立ちで小走り。近づいて一気に角材を振り下ろした。
ゴン! ゴン! グチャ……
やはり三発必要だったか……余韻に浸っている時間はなく、今度は反対側から音の主が飛び出してきた。今は俺を認識し、呻きながら襲いかかってくる。
結構早いな──
ターゲットを認識している時のゾンビの動きは早い。脳天に角材を叩き付け、一瞬止まったところですぐ二打目を入れる。動きが鈍ったらトドメだ。スムーズに倒したと思っても、ゾンビはだいぶ俺に接近していた。初めて戦った時みたいにつかまれはしなかったものの、ギリギリの線だ。倒すのに三発は危険過ぎる。一頭ずつならともかく、複数頭では絶対やられる。
しかも、今の二頭を倒した音に他のゾンビたちは反応している。あちらこちらから呻き声が聞こえ、明らかにこちらへ向かって来ているのがわかった。戻るか……いや、戻るにしても危険過ぎる。とにかく移動せねば……音のほうへゾンビは向かってくる。棚の影に隠れながら、慎重に移動する余裕はなくなった。
俺は店内奥の通路を飛ぶように走った。自らの呼吸音が大音量で耳に入ってくる。俺、こんなに鼻息荒かったっけ??
金物コーナーを抜けてリフォームコーナーまで……トイレや洗面台の前を走り抜け、とうとうスタッフルームのドアを見つけた。
やった!! 電気つけれる!
ドアノブを回す。ガチャリ……よかった。開いてる……
すぐにでも中へ入りたかったが、今までの経験がそうさせなかった。すんでのところで俺は重いドアを開け放った。本能的に入るのを躊躇したのである。体が自然と危険な行為を学んでいた。
「ウギギィアアアアア!!」
ゾンビの呻き声は、全身に赤信号だと伝えた。開け放したドアからゾロゾロと出る出る出る……ゾンビ……
俺はドアの裏側で呼吸を止めた。苦しい。気を緩めれば、変な声がもれそう……背中を滝のように汗が流れ落ちる。外開きのドアが幸いしたのだ。開けた時、俺はドアのうしろに隠れることができた。ゾンビたちは俺に気づかず、反対方向の通路へと進んで行く。
五頭くらいか。
出て行くゾンビが途切れた後、スタッフルームへ入って行く勇気はなかった。部屋の中は真っ暗だろうし、ゾンビが何頭残っているかは不明だ。ドアから手を離し、俺は出入り口のほうへと走った。リフォームコーナーを背に鉄パイプの陳列棚を通る……そ、鉄パイプの……鉄?パイプ……だと!?
ラッキー!!!
五十センチくらい。程よい長さの鉄パイプをゲットすると、棚の端からゾンビが現れた。
グチャ──
一撃!! やっぱ金属サイコー!! リーチもちょうどよいし、最近愛用してた金槌よりグレードアップしてる。
背後から追ってくる気配はなかったので、棚が途切れた所にだけ気をつけながら移動した。気配がある場合は単数か複数か耳を澄ませ、単数であれば強行突破する。幸い複数でいることはなかった。なにより鉄パイプをゲットできたことは大きい。一撃で倒せれば、他のゾンビが音に釣られて寄ってくるまえに逃げられる。とにかく走って、走って、走り抜いた……
命からがらホームセンターの外へ出た時、俺は全身汗だくになっていた。頭の中で太鼓を打ち鳴らす音が聞こえる。ああ、俺の動悸だよ。リュックからタオルを出した。
はぁーー、怖かった──
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