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第1章 僕は君を守りたかった

2. -怪我人-

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ユズハから色々と文句を言われながら俺は待ち合わせ場所である町外れの門に向かった。
田舎町ではあるが一応町を囲う石壁はあるんだよな。
魔獣が現れるようになってからは一定規模以上の町や村には町を囲う石壁が作られ町への出入りも管理されるようになったためだ。
まぁ高さも低いし大型の魔獣に攻め込まれたら役には立たなさそうだけど・・・

そんな石壁の丁度中央付近に作られた町の正門に着くと暇そうに門扉に寄りかかっている小柄な少年が居た。
シンだ。

「悪い!シン遅くなった!」

俺がシンに声を掛けるとシンが笑顔で近づいてきた。

「いえ。こちらこそお仕事がお忙しいのに」

本当真面目でいい子だよな~

「もう!シンは散々待たされたんだから怒っていいのよ!」

っていうか、何で俺がユズハに文句言われなきゃならないんだ?
今日の約束はシンとだけだろ?そもそもユズハが何で居るんだ?

「そういえばユズハは何でいるんだ?もしかして一緒に行きたいのか?」
「・・・そ そうじゃないけどアレクとシンだけじゃ心配だから一緒に行ってあげようって思ったのよ。ほら最近はこの近くでも魔獣が出るって話だし」

確かにこの数か月で随分魔獣が増えてるみたいだな。
ギルドも討伐チームを作っるって言ってたし。

「はは そりゃ心強いな。じゃそろそろ行くか」
「はい!」
「ちょっと!軽く流したけど本当に最近危ないんだからね。聞いてる?」

元気よく返事をしたシンと騒いでいるユズハを伴って町の門に向かおうとしたところで、門を警護している衛兵が何やら慌ただしく騒ぎ立てている声が聞こえた。

「何かあったのかもしれない。行って見よう」
「ちょ アレクさん!」

衛兵のところに近づくと知り合いの衛兵ジークが門の外で血まみれの男を介抱していた。
男は苦悶の表情を浮かべている。

「きゃあ!!!」
「っ!!どうしたんだジークそいつは」

男を見てユズハが悲鳴を上げる。
俺は注意を払いながら男を見ると首から銀色の冒険者プレートを下げていることに気が付いた。
俺も昔持っていた王都のギルドで発行されるB級冒険者のプレートだ。
もしかしたら王都のギルド所属の冒険者?

「アレクか。ちょうどいいところに。
 そこの草むらから急に現れて・・・息はしているがかなりの重傷だ。
 回復魔法を頼めるか?」

どちらにしてもこのままじゃマズいな。
俺は男に手をかざし回復系の呪文を使った。

「ヒール」

俺は回復系含め様々な魔法を使う素養があったが、如何せん魔力の総量が少なく魔法は補助系を中心に覚え剣士の道に進んだ。
回復系の呪文も初級のヒールやアンチポイズン等は使えるけど、怪我や状態異常を完全復旧させるには時間が掛かる。まぁ使えないよりは全然いいけどね。

しばらく魔法をかけているとヒールが効いたのか男の表情も少し落ち着いてきた。

「俺の魔法じゃ回復に時間が掛かる止血は出来たと思うし多少は痛みも和らいだと思うからすぐに教会か医者のナダルさんのところに。
 身分は多分大丈夫だ。お前もそのプレート見たことあるだろ?王都の冒険者だよ」
「あぁそうだな」

そう言いながらジークは男を起き上がらせ背中に背負おうとすると意識を取り戻したのか男が俺達に話しかけてきた。

「た、頼む仲間を・・・」
「お おい大丈夫なのか?無理すんなよ・・・って仲間?」
「あぁ・・・魔獣と交戦中だ・・・あれは・・・あの魔獣は普通じゃない。
 俺は戦闘開始早々に利き腕をやられちまって、団長が・・・救援を求めてこいって・・・囮になって俺を逃がしてくれたんだ。それにあのまま進んだらこの町に来るかもしれない」
「団長?(パーティのリーダーか?)」

確かに男の右腕は魔獣にえぐられたような深い傷を負っていた。
装備を見る限り剣士だけど、この状態では剣も振るえないだろうな。
それに出血も酷かったし、そのままにしていたら命も危うかったかもしれない。

ただ、この人の実力はわからないが、B級クラスのパーティがこれほどに被害を受ける魔獣が村の近くに現れたのか?
この辺りは比較的治安も良いし魔獣が出ても低級レベルの魔獣しか生息していなかったはずだ。
いや・・・そういえば確かに最近魔獣が増えてるって話はあったな・・・

「どんな奴なんだ。その魔獣は?」
「・・・トロルの亜種と・・・それを操る黒いローブを着た・・・信じられないかもしれないが意志を持った人型の魔獣だ。
 あいつら・・・俺達や商隊のみんなを嬲り殺しながら笑ってやがった」

"黒いローブ"
その言葉を聞き"忘れていた"いや”忘れようとしていた”悪夢を俺は思い出した。
俺の大切な人達を奪った元凶。

「何処に居るんだそいつは!!」
「ア アレク・・・さん?」

珍しく声を荒げた俺にユズハやシン、ジークが驚いている。
あの日以降俺がこんなに感情を露わにしたのは初めてかもしれない。

と、男はゆっくりと町の外、森の方を指差し言葉をつづけた。

「この先の街道脇の湖だ・・・。
 俺達はギルドの依頼で隣国に物資を運ぶ商隊の護衛をしていたんだが、休憩をしていたところを急に・・・気配も全く感じなかった。
 奴は物資には目もくれず俺達を襲ってきて商人達や俺の仲間も・・・ただ団長は最後まで奴らと戦っていた・・・団長ならきっと・・・生きているはずだ。
 お願いだ!仲間を・・・仲間を頼む!!」

そういいながら男は再び意識を失った。
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