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死んだ方がマシな程に痛い塗り薬

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母さんが正気に戻ってくれて良かった……。じゃなかったら、僕は




母さんを殺していた。

 

 リエルの後を追い掛けた僕は、数度見失いながらもどうにか辿り着いた先で……リエルが母に切り裂かれているところを見た。声はなく、心の中で何度もリエルに生きてと叫んだ。備えている剣を抜いて、問答無用に自分の母を殺そうと物陰に隠れている間に、リエルが反撃をして……母さんを正気に戻してくれて……ありがとう。

 じゃなかったら……。じゃなかったら、僕はお母さんを手に掛ける所だったのだ。








 あの戦から、二日経ってやっと村へと着いた。お母様は兵士に監視と治療を命じて身柄を拘束。のちに、城下町と城は、レミリスの独断で、クルクラフトの同盟をしようして、あの雷の砲弾を防ぐことができて、被害者は誰一人居ないという報告を聞いた。その報告を聞いてから、特別に馬車を一つ借りてお母様の身柄をいち早くエヴァ王国の城へと収容するために、護衛を付けて行かせた。

「カペル、リエル、ごめんなさい。また……城で」

 そう言って、馬車で運ばれている様子を、私もカペルも見えなくなるまで無言で見つめ続けた。その後は、歓迎してくれる村の人達の好意に甘えて、そこの宿のベットにお邪魔させて貰った所で治療をされているんだけど。薬学の知識をちゃっかりディザスターからも頂戴したカペルが持っているのは……。効き目は抜群だけど気絶&失神するほど染みる薬だ。


「リエルちょっと、じっとしててください」

「無理無理無理無理ッッッ!!!」

 このあたりで調合できる重傷者に使える薬はそれしかないと聞いて……私はカペルから逃げ回っている。

「リエル!」

「いーやーだー!!!」

 宿屋でバタバタと部屋の中で走り回る。埃が舞い散り、ギシギシと板が鳴り響く。正直、こうして走ってるのも満身創痍なんだけど、カペルの持っている。毒々しい黄色の塗り薬のほうが塗られたら倍は痛い「大丈夫ですって、リエルが失禁「わああああああああ、聞きたくない~!!!」リエル!」勿論だけど、前にカペルの持っている薬は使ったことがあるんだ。山に遠征に行かされた時に、崖から転落したんだ。そのときに使われたんだけど。

 あまりの痛さの余りに、女王としての尊厳もろとも失禁して下からちょろちょろと流してしまった……悪夢の薬なんだ。

 確かに、普通の野草で手軽に作れる重傷者にも効く薬って貴重だよ? でももうやりたくない。


「ほら、ここに、ご老体用のおむつも用意してますから! これで失禁しても」

「失禁失禁うるさいわ! いやったら、い~や~!!!」

 今度は、ポケットからご婦人用のおむつを持って追い掛け始めたので、私は半泣きなりながら首を振って部屋全体を走って、逃げ回った。パンプキンパンツと言えば良いのだろうか、某日曜日を飾る愉快な一家の妹のはいているような感じのおむつを履かされるのだ。痛い痛くないがなくても嫌だ。そうやって、嫌々逃げていると、段々とカペルの目が据わってきた。

「デザインもカワイイ花柄ですから心配しなくても」

「そういう問題じゃない!」

 結局、怪我している私のがカペルより体力がないので捕まり。抱きかかえられたと思ったら、私の身体を優しく流れる手つきで、寝かせて。

「わ が き み ?」

「ひぃ」

 黄色い塗り薬を持ったまま、それはそれは妖艶にニッコリと笑ってすぐに、私の切られた部位に容赦無く塗り薬をべっとりとねじりこむように押しつけた。

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

「リエル、もう少し、ですから!」

 傷口に、悪魔の塗り薬を塗り込められ。喉から血がでる程叫んで気絶した。この年で老人用のおむつはかされて、死ぬほど痛い塗り薬を塗られて、私のメンタルはボロボロだった。それでも、薬の効果は絶大で気絶から目が覚めれば、切られた跡は一日でなくなっていた。目が覚めたのに気がついたカペルが、パッと顔を明るして「よかったです!」と優しく抱きついてくれた。

「おはよ。誰が着替えさせてくれたの? 結構血みどろだったらお礼言わないと……カペル?」

「いやーははははは」

「カペル」

「僕が着替えさせました」

 顔を真っ赤にして、上目遣いに「ごめんなさい」と言われると素直に怒れない所か。段々と恥ずかしくなってきて顔が赤くなる。確かに、兄妹だけど……。確かに兄妹だけどッッ! 恥ずかしさの余りに顔を両手で覆い隠して俯いた。感覚的におむつも普通の下着にされてるし……見たんだよね? と何度も自問自答してから心の中で騒ぎ倒した。

 お互いになんとも言えずに顔を赤くして俯いた部屋の雰囲気に終止符をうったのは、妖精族の国王ヴァンヴェルディからの魔法通信が入っているという知らせだった。




 目の前には通信用の水晶と、その中に映る銀髪の妖精国の国王……。国王は最初こそ威厳のある不思議な美しさのオーラを纏っていたが。私の「はらへほへ~」と倒れそうなやつれ具合を見て、切れ長の美しい目を丸くさせていた。若干の沈黙の後に

【見ぬあいだに些かやつれ……】

「気にしないでください。それで結果はどうなりましたか?」

 見なくてもわかることを言ってきたから、被せるようにそう言った。あと、やつれているだけじゃなくて、声もガラガラです。言わなくてもわかるだろうから、無駄に喉を使わせないでくれ……。そう睨み付けると、面白そうに美しいお顔に笑みを浮かべた。

【フフ。我々妖精族が、あの程度の砲弾に負けることなどまさか思うまいな?】

「万が一は考えてた」

【では、その万が一も無いということをこうして知れたな】

 正直に言えば自信満々にそう返された。なんか、話せば話すほどに最初の頃の神聖さが剥がれて中々気さくになったなーとチラリと見れば【何事も初手だ】と短く言って苦笑された。やっぱり上に立つには化けの皮は必要なんだなーっと関心する反面に。それじゃ、今回は……というところで。魔法水晶を繋げる魔力を注いでくれている魔術師の顔が青くなってきた頃に別れを告げた。

「あぁ、そうだ。レミリスというやつがアンドールに……」

「え、アンドールになんだって? あの、ちょっとぉぉぉぉぉぉ!」

 別れを告げてから思い出したという顔をして、途中まで言った所で水晶の通信が切れてしまった。私は、その先は!? と叫ぶように言っても水晶は綺麗なまま……。

「申し訳ありません!」

「いいの、いいのよ……」

 謝罪をする魔術師に、逆に謝罪をして部屋から立ち退かせた。ついでに、外に控えてくれているカペルを呼んで欲しいとだけ告げて、水晶を魔術師達に渡した。

「今度は何だって言うのさ~!」


ー小話【ヌファンの心配】ー

「リエル様……」

「ヌファン、そんな呟いてもしかたないよ」

「そーだよかーちゃん! ほら、俺と遊ぼうぜ~!」


 ブロンドをオールバックにして、いつものように私の入れたコーヒーを飲む旦那と。髪の毛は私に似て黒色で、目は夫に似て青色の我が息子。

「それに、俺もリエル様のお力になりたい! ねーねー速く体術教えてくれよー」

 ドクターストップが掛かってから、私は休日を増やされこうやって家族と一緒に笑い合うことが増えた。まだ甘えたい盛りの息子と、未だに私を見て美しいと言ってくれる夫。嬉しくて暖かい……けど。

「リエル様……」

「また始まった。そーゆーの。しょくぎょーびょーって言うんだぜ」

 おこがましいのは承知なのですけど、私に取ってリエル様も守りたい家族……。だから、何度も呟いて足を止めてしまうほどに……心配で仕方がなかった。

リエル様……届くのならば、生きてください。生きて……皆の元へ。
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