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戦の高揚

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【私も彼女も反逆する。私は私の為、彼女は他人と自分の為に】

 私は目を瞑れば別の世界の事を見ることが出来た。私の居る世界を作った世界風に言うなればアカシックレコードという物にアクセスしているような感じだ。私は、私は全ての元素をその身に宿し新たな属性……無属性を扱える唯一の存在。そう、作られた。世界を見れるように作られた。悲しい生い立ちになるように私は作られた。

 ままが狂っているなら私はもっと先に狂っていた。この世界から私達を作った世界に手を伸ばして……適正のある魂を引き上げて身体を交換する。

【この子、別に悪くないのになぁ。メアリースーって役割なのかな】

 唯一冷静に見てくれたあの人の魂を引っぱり上げて、あんな糞みたいな世界に押し込むのは気が引けた。

でも……

【まぁ、でもいいなぁ……こんな失敗資本主義社会じゃなくて、やっぱ二次元が】

 利害が一致しているから、私は彼女を引き込んだ。触媒を通じて彼女の魂を引きずりだして、私の中に入れる。けど、下手に彼女の魂だけを身体に押し込んだら、拒絶反応で魂が砕けるだろうから、凄く痛いけど自分の魂を半分に引きちぎって自分の中に残して……。

 大橋賽の身体に自分の魂を入れた。

 日本人という人種らしい黒毛と茶髪の混じった髪質と、少しのっぺりとして大人なのに子供っぽい顔立ち。少し小じわが目立つ口元はニッコリと笑えば、朗らかな人の良さが溢れるような顔となった。偶々、仕事帰りで着替えるところだったのだろう、姿見の前で蹲っていた。

 足下には忌々しい触媒が、忌々しいラストを飾るページを開いて私に見せつけていた。本に見せつけるなんて意思はないが、イライラしてきた私はそう感じて、触媒を踏みにじった……何度も何度も。

【出生に恨みを持つテニクの再来と呼ばれた子供を、クロージスの子供が打ち倒し……ナザルカラクと結ばれて、奴隷として悲惨な生活を送ったカペルという子供が、打ち倒したテニクの再来にトドメを刺す……家族の恋愛ファンタジー。輪廻とロンドの果ての二次創作……。忌々しい……。待っててね、お母さん……作った責任を取って貰うから】



 私は異世界で、大橋賽も同じ異世界で、互いに反逆へと進んでゆく。そうなるように、私は今まで苦しんでも世界を怨まないように頑張ってきたのだから、やりとげて見せる。







【天乱蒼天 一切を濁さず 縣の縛り解き放ち 大陸の自由を約束する 区別を否定し我々に縛りはなし 恐れはなし 帝の登るところに陽が連れ立つ 去れば陰が降り立つ 太古より続くその輪廻を見届け運び 全ての縛りを解き放つが我である

 上級風魔法 クリマートゥリーフ・マウスィミー】

【立つ瀬は背徳 退き瀬は甘美 押し引きを一体その名を刻む 底に支えし塵に沈む我の名は えにしの意図
威力補助詠唱】

 最初にカペルと魔術部隊に、風魔法の大規模上級風魔法を放って貰った。相手の戦線構築を邪魔する目的だから、攻撃が素早くて、なおかつ消費の少ない風魔法を一発。その代わり攻撃威力が低いけど、私の無属性の威力補助を持って……国境に設置された砦と壁をまるごと吹き飛ばした。死に急ぐ馬鹿はいないだろうけど、今これだけそろって居る状態で向かってくる兵士は皆無であることを願う。

「全軍……前進」

 完全に情報を遮断した上での奇襲攻撃は成功。そのまま砦から押し入り……内側と外側からワジェライ王国を叩き潰す。流石に砦の中に押し入れば、敵の勇敢な物から無謀な物まで一斉に追い掛かってくるのを……

「ゴメン」

「ぐぁ」

 まず先に私から相手の首を跳ねた。まだ、若く未熟な兵士といえど、女の私があっという間に人の首を跳ね上げたことで、兵士の何人かが剣を捨てて逃げる。それは深追いせずに前に進む指示を送った。エヴァ王国の戦力的には長期戦は向かない。短期で損害をだしてから、内部を手薄にして暗殺部隊が動き安くなるように仕向ける。

「我が国の王リエル様が一人討ち取ったぞ! 我々も遅れを取るな! すすめッッッ!」

 指揮官の叱咤によって士気が上がって予想よりも兵士の動きが良くなる。カペルは、のらりくらりと相手を伸してから魔法で戦闘不能にするという、器用な立ち回りをしている。今この場では私とカペルは強さを示すためにどうしても前に出ないと行けない。

 本当に危険なお仕事。

 私もカペルも言葉はないけれど、互いの体調を気にし合いながら、敵と剣を交えた。あのトロールの時のお陰か、眼球スレスレに刃物が振られても動揺せずに避けられる。あのときの……カペルが死にかけたあのときよりは怖くない。けど、油断はできない。攻守の入れ替えは少しでも間違えれば、我々の方が大打撃を被る……。どんなときでも冷静に指揮棒を振る機会を窺って。

「ごめん」

「が」
 
 敵の首と四肢を跳ねる。鎧は気がつけば血みどろで、私の白い髪は血に染まる。あのときの暴走を思わせるクラクラとする血の匂いと、先ほどまで生きていたことがわかる暖かい血肉の残骸が顔に当たる感触。むせ返る吐き気が意識をもうろうとさせると同時に、感覚は何故か研ぎ澄まされていき身体の動きはよくなる。

高揚感から、行けるかもしれないという気になってくるのを何度も頭で言い聞かせて押さえつけながら。

「全軍…前進」

 予定通りに前進の指示を出す。







 血肉が舞い踊る。そんな光景……僕の血の繋がった恋人は戦場でそれはそれは綺麗に舞って居る。今にも散って消えそうな雪の花のように。朝溶けの雪が春に飲み込まれて消えるように、美しい白銀の髪は血を纏って戦場に咲いていた。

【良いですか、絶対にリエル様に暴走を起こさせないように……そして。戦の高揚感に飲み込まれないように監視してください。それが、貴方の……この戦場で指揮官のリエル様よりも重要な貴方の役割となります】

 僕の役割をこの乱戦の中で認識して、リエルの目を見る……あのリエル様とは思えない血走った目。急いでリエルの傍へと近寄って、耳打ちをする。

「そろそろ撤退の時です」

「うん、わかった」

 わかったと無機質に言いながらも、ちゃんと声を張り上げ撤退の声をあげるリエル。いくつかの兵は戦の高揚感で言葉が聞こえていないのか、未だに撤退することなく戦い続けているが仲間はそれを止めることなく忠実に仲間を見捨てて行く。それを、リエルがどうにか指揮しようとするところを僕が止めて下がらせる。

「戦の場所で、大事なのは指揮に忠実な物です……行きましょう」

「……」

「リエル」

「うん」

 優しい彼女は、そういう切り捨ての指示がうまく出来ない。だから、僕が代わりに切り捨てる事を担うことにした。苦しいし、その判断を下す度に怨嗟の声の幻聴が聞こえる。けど、それでも僕はやらないと行けない……。だって、僕はリエルが皆が好きだから、僕は切り捨てても前に進まないと。

【カペル君】

 今度は、僕がリエル様の手を引いて進まないといけないんだ。今度は……僕が……。



ー小話【チョコットデー】ー


「まさか消し炭を送られるとは、酷いではないですか」

「やかましい、大人しく犠牲者になってよ」

 実は言うと、この世界もバレンタインデーなる物があるらしい。なので、厨房の人に無理を言って使わせて貰って居るんだけど。

「ひーっひひ、こりゃすげー。これだけでなんか人を殴打できそ、あいでッッ!」

「殴るよ」

「殴ってから言わないでくれ!!!」
 
 うまく出来ないので、グランド君とレミリスを実験台にしてチョコを作ってます。何故か絶望的なまでに堅くなるチョコレート。ちゃんと普通に冷やしているのになんでこんな、人を殺害できそうなほど異常な堅さを誇るチョコが出来上がっるんだろうと何度も首を傾げた。

「う~。これじゃカペルにあげられる出来にならない」

「焼けば消し炭 冷やせば凶器 しっかりとお二人の血を継いでいるのではないですか? アッハッハッハ」

「チョコレートだけピンポイントに呪われてたまるか! うまくなるまで二人とも永遠に付き合って貰いますからね!」

「「え?」」







 



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