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先手必勝

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コンコン。

「はーい」

「我が君」

「いらっしゃーい」

 私が自身の部屋で、戦術とかを覚えるのに夜中にウンウン唸っていたら、カペルが入ってきた。こんな夜中に仕事服以外で合うなんて何年ぶりだろうと思いながらも、夜中だから自分で手早くお茶を入れてカペルをソファーに座らせた。私も向かい側に座ってカペルを見ると、やけに真剣な顔ををしたカペルがこちらを見ていた。一体何事だ? なんて思いながら口を開いたら

「リエル」

 何かを言う前に、念願の我が君やリエル様を乗り越えて呼び捨てで言ってくれて。感極まって喉が震え、出すはずの声が出なかった。そのまま、真剣な目でカペルはせっかく座ったソファーに立ち上がり、私の横に座ると。私を抱き寄せた……。何もかもが突然過ぎて、頭の思考が付いて行かない中で、カペルは私の耳を数度噛みついてから、私の顔を傾け貪るようにキス……いや口吸いをした。その表現の方が合うように深くて互いを求めて、舌を吸いあった。

「は、ぁ……」

「リエル、リエル」

 レミリスか、それともナザルカラクか、誰にそそのかされたのやらと冷静な頭で思いながらも、何度も深く口を貪った。それとも、戦争という単語に煽られたのか……。今のこの瞬間の蕩けるような夢が、始まれば消えてしまうかもしれない。そんな思いが、こんな刹那的な行動に繋がっているのかも知れない。冷静な頭でそう考えたら、それが愛おしくて、何度も貪る間にカペルの翡翠の髪を梳くように撫でた。

「カペル」

 私達は、一度恋情のスイッチが入ると互いの名前しか呼ばなくなってしまう。けど、それがいい。呼ぶだけで大体相手の求める事がわかるからだ。だから、名前を呼ぶだけでカペルは私を姫抱きにして、私の寝室へと向かった。危なげなく扉を開けて、私の寝室に入って……まっすぐにベットへ向かうと。

ゆっくりと私をベットの上に落として、さらに深い口吻をした。

ぺちゃ、ひちゃ、互いの口から零れる液など気にせずに思うがままに互いの口内を蹂躙した。その間にもカペルは私の身体を何度も優しく撫でては。悔しそうに目を細めた。

「まだ、夫婦じゃありませんからね」

「……今回の戦争が終わったらさ、少しでも速く夫婦の契りができないか調整しないとね」

「僕も手伝います。一緒に帰ってきましょうね」

 本当に帰ってこれるか、わからない。わからないけど、互いに約束をして戦争後の未来の話しになった。結婚したらレミリスやナザルに書類押しつけて色々旅行に行こう。それと、アレも、ソレも……。確実じゃないからこそ、互いを約束で縛りたくなる。

 一緒に……一緒に帰って来れたらいいなぁ……。


 それから、久々にカペルと一緒にベットでおねんねして、数日……ついにその日が来た。



「という訳でして、何だかんだマーベラストとパトちゃんの二人はうまくやってくれるだろうから、内側と外側の同時並行攻撃でまずワジェライ王国を落とす」

 と言うことで、情報操作は勿論だけど、レミリスに任せて……ついに私は戦場に立つことが出来た。お日様がやっと顔を出す頃の時刻は。それはそれは涼やかなな気温と、鼻の通りのいい交じりのない澄んだ空気が身体を巡る。それぞれ、緊張の面持ちのまま私は鎧を着て行軍を指揮した。

「リエルさ、リエル……」

「カペル」

 少しだけ、許して欲しい。二人一緒に帰って来れるかどうかもわからない……だから、皆にバレぬように耳打ちするような形で口をこっそり合せた。緊張で、震えているカペル君の唇を悪戯に舐めてからった。そしたら、真っ赤になってうるうるの目で見下げてくるから、なんかとても可愛くてニッコリと笑うと、さらに撃沈するかのように両手で顔を包んだ。ケラケラと笑い出しそうになりながらも、また……一緒に肩を並べて愛し合えるようにと。神様にもリエルちゃんにも願いを込めて私は行軍を止めた。

 コツコツと足音を立てて前へ出る。ワジェライ王国とこちらを繋ぐ国境が見えている。相手方の監視の兵士はこちらに気がついては慌ただしく、何かを叫んでいる。その様子をみて、私はゆっくりと左手を天へと突き上げた……。この手を振れば……戦争が、私の手で、私の責任で、戦争が起こる。私の震えを隠すように、私の後ろへとピッタリと寄り添うカペルが私の耳に「大丈夫ですよ」と囁いてくれる。それだけで、勇気が湧いてきた。ゆっくりと国境を見据え……。

 湧き上がっていたその恐怖を飲み込んで、私は腕を振り下ろした。






「行軍……開始」








 【生命与奪を握ったのなら自分で殺してよ。産まれるということは同時に死を与えること。世界の為? 人口が足りない? それ、私達には関係ない。もはや産む理由が愛情ですらないって救いようがない】

「いやあああああああああああああああああッッッ!!」

 革命軍……王族の室内の中で、叫ぶ女性の声が廊下に響き渡る。何度も自分の娘と息子と旦那の名前を呟いては狂って叫ぶフリアエ様。ひとしきり叫んだ後に

「私の息子と娘が結ばれて婚姻したの、おめでとう、おめでとう、はっぴーばーすでー、ばーすでーばーすでー。これであの子のねがいがひとつ叶ったね ままうれしい」

 と、謎の妄言を度々言うようになった。確かに妖精族などの長寿な種族(例外獣人)は近親での婚姻は合法だし、当たり前にある……だが、何故そんな情報など知らないはずなのに。だれも情報を与えてないのに、自身の息子と娘が婚姻したことを知ったのだろうか。

 お付きのメイドがそれとなくフリアエ様に聞いてみるように指示すれば。

「リエルが、リエルが世界に聞いてくれるの、リエルはお母さんの見られるんだって、見られる、ぐすっうえぇぇぇぇぇぇん!」

 嬉しそうに言ったと思ったら、今度は泣いて、次は何故か

「私は私だ! 何が、あ? 私だってママになろうと頑張ったのに、酷いよ、リエルが居たお腹が痛いの! わかる!?」

 次は異常に怒り出す。誰が見ても、戻ってはこれない精神病患者だ。それでも、革命軍トップは手放さないどころかその狂ってるのを面白そうに見るばかり。いつ、自死するんじゃないかと恐れて一応は拘束危惧を付けちゃいるが……。

「俺らのが先に狂いそうだ」

「そう言うなって、仕方ないだろ」

 それも万全じゃないので、見張り役に俺と横の若造と一緒に扉番させられているんだが。毎日こう狂った人間の悲鳴を聞いてちゃこっちのが頭がおかしくなっちまいそうだ。

「やれやれ、どっちでもいいから速く戦争なんて終わらんもんかね」

「聞かれたら団長にむち打ちされるぞ。先輩よぉー」

「へへ、違いないね」

 それでも、人間ていうのは慣れる生き物なんだと思う。扉では防げない狂った声が聞こえる中で楽しく歓談できるくらいにはなった。そんなこんなで話している間にフリアエ様の大絶叫が終わったから、怪我してないかの確認の為に、俺は扉の鍵を開けて扉を開いた。

ザシュッ

「兵士さん。私の夫と息子と娘が迷子なんです。どこにいらっしゃいますか?」

 開けた瞬間に、見たこともない槍を持ったフリアエ様が、俺の腹部を貫いてニッコリと笑っていた。どうやって、拘束器具を解いた?

そんな疑問なんて答えられる筈もなく、フリアエ様は俺の身体を蹴り飛ばす形で槍の刃を抜いた。

「逃げろォ……」

 咄嗟に、若造の後輩にそう言い放ち突き飛ばした。なんて顔してやがると、怒鳴る暇も無く……俺の身体は壁に打ち付けられる音をならし。そして、腹部の焼けるような痛みに意識はかき消された。




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