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おかあさんのいうとおり

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 いつからか、私の娘の首を絞めた水面から映像が見えるようになった。大きくなったカペルとリエルが仲良く手を繋いで微笑んでいる姿が……。私とナザルの子だからか、水面に映るカペルはリエルに気があるようだった。それは私の幻視でなければいいのだけど……。

『馬車から身を乗り出したら危ないですよ! 我が君~!!』

『じゃあ、腰の部分もって支えてて、お~い!』

『なんてこと言うんですか! 我が君、危ないですってば~!』

 幻視でも私が腹を痛めて産んだ子が、仲良く手を取り合って笑い合ってくれるなら。自分の子の首を絞めた手を水面にかざして思った。クロージス母様に似た白髪の髪が水面の淵を落ちて揺らす。リエルにも継承された穢れ泣き純白の色。

【まま、大好き。大好きだから私の手を取って】

 時折、幻聴のリエルが話しかけて来るようになった。首を絞めて、何度も罵声を聞かせたのに大好きだと言ってくれる。何度も、何度も、そのたびに私は苦しくなる。犯される時に、舌を噛み千切れなかった自分の弱さと、子供に当たる自分の浅ましさで、何度も胸が引き裂かれそうになっては、水面に縋るように身を乗り出して映る二人を見た。

 手を取ってと言われて水面に手を突っ込むけれど、揺れて二人の光景は消えてしまった。私の娘は一体何を求めているのだろう、何を。閉じ込められた庭園で何度も考えては答えが出なかった。

「私は何をすれば」

「フリアエ様、剣を取るべきでございます」

「だ、誰なの?」

 何度目かの自問の問いを口から零したら、知らぬ声が私の後ろからかけられた。咄嗟に後ろを振り向けば、まるで天使のような顔の男が、こちらをみていた。顔立ちやガタイから男だと推測できるが……。そうこうしている間に、男は目の前まで来た。体力の落ちた身体では、立つことすらままならなくて、尻が浮き上がった瞬間、地面にべたりと伏してしまった。
 それを男は優しく抱き起こすと、何かに焦がれたような瞳を私に向けた。そしてカチャリと私の手に、先ほどまで持っていた剣を握らせてきた。ゾッと身体が強ばる中で、男は口を開いた。

「自分は、かつてクロージス様と手を取り破れたとある同性愛者の子供です」

「ま、まさか」

「剣を取り、娘さんを殺して見ませんか?」

 お茶を誘うように軽々しく言われた言葉は、思ったよりも拒絶感がなく……私の中に染み渡った。何度も殺そうとは思った。けどしたくない、どうあれ私の大事な子どもだと言って、私は首をこれ以上無いまでに振った。そうしたら、男はケラケラ笑いながら、憧憬を見るような瞳で私を見た。そして、私の顎を掴んで、眼球と眼球が触れてしまいそうな程に、近づけながら、毒にも似た聞きがたい何かを私の耳に流し込んだような気がした。

「それは何故?」

「大事な子供だから、確かに痛かった、憎かったけど、だいじな、大事な娘だか……」

「大事だからこそ殺しなさい。育てられぬ、向き合えぬなら、作った責任として一生面倒を見るか……。さもなくば責任ももって殺しなさい。犬猫と一緒ですよ、捨てる側は拾って幸せになって欲しいと、軽い希望を願って捨てるけど、実際は捨てられた者が生きながらえて得する事など、宝を見つけるような確率だ。

 それなら、生き物の生命与奪を握る責任として、飼えなければ殺せ。自分の手で、他人に押しつけて周りを振り回して良い気になるなよ。貴方は自分の手でこの世という地獄に……我が子を送ったんだ」

【聞いちゃだめ、おかあさんのいうとりになっちゃうから、ままダメダメダメ!!

わたしは、ままうらんでないの、まま、まま、まま、まま……】

「良い気になってなんか……」

 幻聴のリエルも、私の本能も、この男の聞く耳を持ってはいけないと警鐘を鳴らしてくる。けど、警鐘をならしても身体は瞳に縛られて何にも出来ない。動かない身体で唯一動く口で、反論を試みたが……。

「では、フリアエ様が娘さんを殺そうとしたときに……貴方は何を思った?」

「なにを、」

 震える口で反論しようとしたら、頭を駆けめぐるあのときの光景。リエルが水に沈んでも、それでもいいならと抵抗しないで、水の中で私に身を委ねたあの光景が……。首を絞めた感覚も、水の冷たさも、全て、全て覚えている。

【「私は悪くないの……悪く……ないッッ!!!」】

 そうだ、【私は悪くない】私はこれから起こるだろうリエルの迫害を考えて、辛いことに晒されるならば、私の責任としてリエルを殺そうとしたんだ。これから先、リエルも私も辛いことに晒される。それこそ、死んでしまいたいと思うほど、ならば最初から私は、生きるくらいなら死んだ方がいいと判断して殺そうとした。正しいことだと思いたかったから、悪くないと叫んでも……結局私は……。

「責任を果たしませんか? お母さんの悲願を達成して、口伝を現実に……そして、貴方の手で娘を解放しませんか? こんな、生きれば死ぬだけの繰り返しの世界から……。革命軍は貴方を歓迎しますよ」


生きているから皆悲しくて苦しい。みんな、生きているから悲しくて苦しい。こんな、こんな生きて死ぬだけの人間の……終りある生き物の生に意味はあるのだろうか。

苦しいのならば最初から産まなければ、産まれなければ悲しくも苦しくもない。


「とってくださるので?」

「ええ、戦います」

 この世界を壊す為に。私も皆も産まれなければ貧困も争いも何も関係ない。全てを壊してやる……全てを私の責任、私の手で、私の過ちとして全部、全部壊してやる。これ以上……私も皆も苦しい未来に怯えないように。そう誓って剣を握れば、男は私を抱えて庭の外へと向かった。護衛騎士は何も言わずに……。あぁ、ここまで敵の息が掛かるほどに愚かな国になったんだ。感想はそれだけしか湧かなかった。

【お母さんを壊せるのは、ままじゃなくて……私だよ。だから】

「うるさい」

 幻聴に別れを告げた。もう、こんな悲しくて苦しい世界なんて……。クロージス母様がどうにも出来なかった世界を私が壊してやる。剣を握り閉めて抜いた。後ろの男はそれはそれは嬉しそうな声音で、「忍びこませた工作員で逃亡及び我々の正義を知らしめましょう」と言った。

 悲しいなら、苦しいなら最初から我々は産まれなければ良い。


その思いを……誰かが反出生主義と名付けた。









「穢れた血がよくもまぁ、こんな所へと。ご足労なことですわ」

「出たなテンプレ悪女」

「悪ッ!? 誰が悪女ですって!!!」

 【お主達の好きに国を守れ】と言う、来た意味も糞も無いアンドールの会議が終了して、さて帰ろうなんて思ってカペル君とソーラ&ヌファンを引き連れて帰路についていると。テンプレのマイベルお姉様が、侍女をぞろぞろ連れて、これでもかって位に噛みついてきた。暇だな~と思いつつも思った事を口にすれば、マイベルお姉様は激高して、城に飾り付けてある花瓶を掴んでコッチにぶん投げてきた。

 それを難なく、成長したカペル君が叩き落とすと。みるみるうちに顔を真っ赤にして激高し始めた。あーあーと思いながらも無視して通り過ぎようとすると、はしたなくヒールをならして私達の前へ仁王立ちすると私に向けて指を指したマイベルお姉様はこう言った。

「万死に値しますわ!!! マイベル・メーカー・アンドールの名において極刑に処す!」

 っと言う声と共に城中が爆発音に包まれて揺れた。ソーラもヌファンもカペル君も一斉に私を守るように動いた。固まるように折り重なり爆発をやり過ごす。揺れる中でチラリとマイベルお姉様を見ると、顔を赤から真っ青にしながら悲鳴を上げていた。どうやら……マイベルお嬢様が起こした事じゃないらしい……当たり前だけど。

ピシリッ

 嫌な音が私の、私達の頭上から鳴り響いた。それに素早く反応した私達は未だ爆発の揺れが続く中でどうにか立ち上がり、その場を離れた。上を見る余裕はないけど確かに天井と壁に亀裂が入るピシリッと言う音が鳴り響いて。

「リエル様!」

 もうすぐの所で……天井が崩れ落ちてきた。


上を向けば大きな岩が

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