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火蓋が切られるのは免れず

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 クルクラフトの出来事はよくも悪くも一つの歯車を回す大きな出来事となった。レン・マーヤンには会うことはできなかったのは残念だったけど。帰ればカペル君とレミリスに死ぬほど心配され、そしてプレゼントを渡せばどちらも子供らしさを見せて喜んでくれて……。けど、幸せは一旦ここで終了。

 あとは怒涛の毎日だった。私自身は騎士団だけでなく魔術団にも入り浸り……何度も体の成長とやりたいことがかみ合わずに体調を崩しながら前に進んだ。女王なのに手は豆だらけだし筋肉は程よくついてきた……おかげで貴族からは蛮族だの下々のどぶさらいが得意な王女だのさんざん言われた……そのたびに。

「リエル様、今日の成果はこちらです」

「ありがとう、どさくさに紛れて腰を回さないで、背骨たたき折るよ」

「おや、サイ様がワタクシのために尽力していただけるのでしたら、それも……」

「МだかSだかどっちかにしろーい!!!」

 レミリスが何度もその貴族たちを黙らせてくれた。あれから数年……早いものだった、目の前にいる不敵な顔と道化さは変わらないレミリスがにっこりと笑う。ちょうど20歳を迎えたというのに結局最後までどうけどうけしてる。少年と少女の間のような見た目はそのままに背丈が高くなったレミリス。胸元にはクルクラフトで買ったネックレスが揺れており、毎日つけているために少し金具が褪せてしまっているけど大切にしてくれてうれしい。ネックレスを見てほほ笑んだのを見たレミリスは、成長した顔を惜しげなくさらして微笑みを向けた……やっぱり成長しても、黙ってたらかっこかわいいのに。黙ってたら。

 薄い茶髪は色素が薄くなりいつの間にか金髪へと変貌を遂げたレミリス。月に照らされる稲穂のような輝く色彩の髪は短く切られているのに、独特の少女みと少年みを感じさせる風貌だ……。ドワーフ子ちゃんと一緒で成長しても最後まで中性的なのはかわらなかった。

 今日も今日とて執務室でカリカリしている私ももちろん成長して結婚適齢期の一歳下……14歳となった。リエルちゃんの風貌は、わかりやすく例えるならば雪の女王だった。あれだけ剣のために日に肌をさらしたというのに肌は病的なまでに白いまま焼けることはなく、瞳は少しだけ鋭さをましたような気もするけど基本はクリクリしている美女に育った。

 感慨深いぶかくて、思わずリエルちゃんの体をセクハラしてしまった……いや、前世の自分のおばさんっぷり考えるとそれくらいはしたい。だって、本当に美少女なんだもん。おばちゃんこんなかわいい娘いたら絶対同じことする…断言する!

 わ…み

 ん?

 腰に手を回そうとするレミリスを蹴り飛ばして応対していると、執務室の外からなじみのある声が近づいてきた。その声に目を煌めかせて扉を見つめれば、飼い主をやっと見つけた犬のようにせわしなく執務室の扉が開け放たれた。

 肩で息をして前のめりに顔を下げている男……翡翠の髪はいつの間にか腰のあたりまで長くなり、見ようによっては女にも見えるけど、顔をあげればくっきりと男らしい眉と凛々しい目……眼鏡があったらさぞかし知的派に見えるだろう涼やかなクールな顔もち……17歳のカペル君は私を見てパッと笑顔になって駆け寄ってきた。

「我が君! ついに…ついに僕奴隷解除できましたよ!」

「おーめ~でーとーう!!!」

 カペル君のあとからこれまた成長して中々に大男になったグランド君が苦笑いで入ってくる。今回はやーっとやーっと奴隷解除の方法をしている奴隷商人を見つけてやらせることができたのだ! 今回もレミリスに見つけてもらってグランド君の護衛のもと行ってもらったのだ。

 跳ねるウサギのようにはしたなくぴょこぴょこ飛びながらカペル君に抱き着くと嬉しそうに「えへへ」っと笑うカペル君。成長しても太陽属性は変わらず…見た目は月が似合いそうなんだけどそのギャップがいい。そんな和気あいあいとした雰囲気の中で


パンパン


「リエル様、そろそろおじかんですよー!」

「あーっと、そうだそうだ、まってーソーラ!」

 7年たったのに変わらない見た目…美魔女と言えばいいのかホカホカな雰囲気も変わらないししわもなにもない……。人間のはずだけどいつまでもきれいなままだった。実は今はヌファンは休職中で現在はソーラ一人で私の面倒を見てくれている。

 ヌファンは一度長期休暇……家族の団欒を優先してもらっているんだ。ヌファンはヌファンで普通に人間らしく年を取るのにソーラは若いまま…少し闇を感じるけれど突っ込むところではないと結論付けて、ソーラの後を追う。今回はゆっくりカペル君を祝いたかったんだけど、この後に私たちは別の重要な案件が入っているためにお祝いそこそこに、支度を済まさなければならない……革命軍との話し合いをね。







 少女がメイドと共に執務室を出て行った。取り残された男三人はそれぞれ互いを見合わせる。その中で苦笑いを作って私は沈黙を破った。

「……失恋決定かもしれませんね」

「何を言うんですかレミリス! 掛けた勝負は最後まで全うしてください、レミリスは十分素敵な方なのですから…僕よりも」

「そう考えられるところがすでに、お前がコレに勝ってるってこったーよ」

「どの口で私をコレ呼ばわりするか」

「この口だ! 俺のセクシーな口はいくらでも見ていいぜ1分500円でな」

 雪月花のうつくしさを放つ少女のいつの間にか大人になった笑みをみて、あきらめ半分にため息を漏らす。それを叱咤する恋敵に苦笑いを浮かべて少女の消えていった扉を見つめてネックレスを軽く握る。暖かい少女の魔力が自身を包む……魔力は口よりも物を言う。クルクラフトから帰ってきた時から……私に勝機はないのは見えていた。このネックレスにこもっているのは、愛情は愛情でも情欲ではない……親愛にも友愛の感情、それでもとても強い感情だった。

 カペルリットを兄と慕うよりも、私と軽口をたたいて……まるで私のほうが兄ではないかと自惚れるくらいには強い親愛の情。一方のカペルリットの腕輪には隠しようもない劣情の魔力がひそかに漏れでいる。なんともまぁ、こう上手くいかないものか……愛というのはと笑う。

「ぬかせ……。お前などもうどうでもよい。少し話は戻りますが……それでも守りたいという思いだけはカペルリット貴方には負けるつもりはありません」

「どうでもいいなんて、レミリスちゃんひっどーい。幼なじみが泣くぞ……まぁ、いいか。だってよカペルリット」

「望むところです! 僕も絶対に負けませんから!」

 こうして、私たちが笑いあえるのはこの先あと何回なのだろうか……。これから、おそらくは戦争が始まる。革命軍は先に私たちの降伏を求める。それにこたえるわけにはいかない……我々は戦わねばならない。悪魔でアンドールの為とうたい、いつでも後ろをさせる状態で……挟まれながら戦わねばならない。

治水も軍事力増強もなにもかもやれることはすべてやり遂げた。

人事を尽くして天命を待つ

あとできるのは神頼みのみ……神など信じてはいないが今回は私も祈ろう。

リエル様とサイ様がこの激流の戦いの中で迷えど前に進めるように私は祈ろう。

私はリエル様がサイ様が世界に悪と断じられることになろうとも私は従い続ける。

親愛なるサイ様が進む道が私の道であると信じて……私は信じてもいない神を今一度信じて祈りましょう。


貴方の笑顔が絶えないように。

「焦がれている筈なのに、どこか晴れやかな気持ちだな…。本当に心という物は理解ができないものだ」






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