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チートの恩恵

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「リエル様が騎士団長と決闘……。あぁ……」

「ヌファン! しっかりして!!! ヌファンが倒れたら貴方の旦那さんと息子さんはどうするのよ!!!」

 心労が祟ったヌファンさんは報告を聞いた途端に壁に腰を付けて放心してしまった。つい先ほどまで元気よく行ってくると言ったリエル様は、なんと騎士団長の息子さんに差し出されて騎士団長と決闘するという、信じがたい事となったのだ。報告している私、レドビスといえど些か信じがたくあるのだが事実なのだ。
 いち早く事態の報告をと、リエル様の部屋を掃除している二人に報告したのだが、ヌファンさんは放心してソーラさんはソレを泣きながら揺さぶるという事態だ。

「やっぱり、リエル様の反対を押し切って我々も付いて良くべきでした……。あぁ、リエル様」

「戻ってきてよ。ぬ~ふぁ~ん!!!」

「ご報告は以上です。それでは」

 レミリス様への報告はしなくとも、あの方ならば今頃把握しているだろう。今は公務を行っているカペルリットの元へと報告せねば。そう思い茶番を繰り広げるメイド二人を置いて出て行った。その後にカペルリットの元へ向かえば。

「あれ、レドビス様! こんにちは、どうされましたか」

「現在騎士団に居られるリエル様に付いてご報告が」

「我が君になにか?」

 あの貧弱な小僧は、翡翠色の髪を編み込んで結び肩に流し、与えられた衣服は上品に着こなしてもはやあのときのボロボロな姿とは予想の付かない程になじんだ姿だ。リエル様の事と聞けばまるで自分の事のように目の色を変えて、傷付き、喜び、悲しみ、笑うまっすぐさは今の応答だけでもわかるように変わらない物だった。戦いでは平均を超さぬものだったが、確かにその志は見て居て清々しい者よ。
 成長した弟子の姿にまぶしさを感じながらも、カペルリットとその横でリエル様の様子見とばかりにふんぞり返るハゲに報告をした。迂曲あり色々ありの現在騎士団長と決闘をすることになったということを。

「我が君……。我が君ならきと、だいじょ、ううぅぅ……」

「カペル、お前の仕事はこちらだよ。向かうことは許さない」

「言われなくともわかっていますよ。ナザル様」

 最初は親子だと聞いて、笑い合っている所を端から見ていたのだが、いつの間にか、もはや赤の他人。言いようによっては血の繋がった敵と言わんばかりに二人の親子関係は冷め切っていた。まっすぐなカペルリットはまっすぐに不快感を父親に表した。それを、ナザルカラク様は聞き分けのない子供を見るような困った目でカペルリットを見てから、表情と正しこちらへと顔を向けて静かに。

「報告以上なら、下がりなさい」

「……。レドビス様、すいません。また我が君に関する報告があったらお願いします」

「はい、では失礼します」

 冷たく言い放つ言葉をカペルは一睨みしてから、申し訳なさそうに逆に頭をこちらに下げて笑った。そのまま、部屋を退場して数歩進んで一言。

「元正義の宰相も所詮は下を知らぬ者か」

 勿論、自身の若かりし頃のクロージス様の口伝に正義の宰相ナザルカラクは居た。正義の宰相がカペルリットの父だと聞けばどんなに素晴らしい人物かと思えば……。正義は正義でも自身の考えうる独善の正義を進む父親だとは思いもしなかった。ナザルカラクは確かに追放されたが、その素晴らしい手腕と頭脳で数多の国から引き抜かれてきた。下になど降りてこなかったのだ。どうしても、ナザルカラクは市民の気持ちなどわかりようもないのだ。
 その点、カペルリットは攫われて奴隷として市民の下の暮らしを幼き頃から余儀なくされ、数多の宿主を転々としては売られ続けて居た。嫌でも市民の気持ちはわかる男だ。だから、どうしても自身の父と相容れぬのだろう。

「さて、戻らねば」

 自分がいくら弟子のカペルリットを思った所で、親子関係は改善しようもない。今は決闘することになったリエル様の元へと戻らねば。そう思い、一度執務室の方向へ向き直ってから、改めて反対側に足を進めた。








【良いですか、この紫色の魔具は精神を安定させる効果を何重にも重ねて宝石に詰め込んだ物です。これで、万が一の暴走の確立が減るでしょう。高級品なので壊さないでくださいね。壊したら、そっくりそのまま……ワタクシとまっすぐ婚約という形で進ませて頂きます。エエ、絶対に壊さぬように……リエル様?】

【はいはいはいはいはい!!! 心に留め置いて大事に使わせて頂きます!】

 剣を握りしめてチラリと指輪を見れば、思い浮かぶあの道化の黒い笑顔とオーラ。本当にこんな物で暴走しないで居られるのかと疑い半分に、剣に魔力を込めた。目の前の騎士団長を標的にして少しずつ……。

「先手はリエル様にお譲り致します」

「そりゃ、どうもッッッ!!!」

 初回の頃遠くの山をハゲさせた。あの魔力を乗せた透明の魔力の刃を振り下ろして熊の騎士団長へと剣を振って放った。あのときよりも高密度かつ素早くなった魔力の刃がまっすぐに騎士団長に向かっていき。

「リエル様、流石ですが魔力の密度が甘いですぞ」

「意外と知略派なようで」

「よく言われます」

 あのハゲ山よりも威力の高い魔力の刃を、軽く横に薙ぐだけで切られた。いや、薙ぐだけじゃない、私は魔力を込める時に暴発したさいの危険度を下げるために柄の部分に近い所は弱めてる。そのお陰で魔力にムラが出来て、弱い所が出来る。それを、この熊は一瞬で判断して軽く相殺してきたのだ。

「流石騎士団長。息子さん後で一発殴らせて」

「リエル様のお手を煩わせる訳にはいきません。リエル様が望む回数私が息子を殴り倒しましょう!」

【空間転移】

 本当にお前は人間か! っと突っ込みたくなるような速度で私の目の前に現れた団長の拳を避けるために、出てきたリエルちゃんが使ったという【空間転移】を見よう見まねというか、賭けで唱えたら僅か私の足の5歩分だけ後ろへと転移した。成功した物の殴る為に振り下ろされた拳を風圧で足がよろけた。

「上級魔法を咄嗟にお使いになるとは、流石リエル様「流石師匠! 愛してるー」やかましいわ!馬鹿息子! 貴様もそのくらいの素養と身体があるのだぞ! 見習え!!!」

 なるほど、ちゃらんぽらんのダメ男だけど騎士団長がそういう位には実力や潜在的な物はあると。この世界は残念なことに髪色で属性がわかるなんてことは、あんまりないからわからないけど。珍しい火属性なのかな? そう思えって彼を見れば、ウィンクしてきた……殴りたいその決め顔。

【夕にも昼にも慣れず 迷い垂れ下がる陰鬱は処知れず 反骨 曖昧 耄碌 無為 我はそこに在らずともそこに在る
インビジブルニール】

「ほう、闇属性の魔法とは」

 最近無属性でわかったことは、どの属性でも扱えると言うこと。人間や様々な物体には属性、基本的には、火、水、地、風、闇、光などの種類となる。上級魔術はハブるけど、本来は自分の持つ属性の魔法が使いやすくなる。別に自身の属性外の魔法は使えないと言うわけじゃないが、消費は激しいし使いづらいしで、基本は自身の属性に沿った魔法を使うのが普通だ。そして、私は属性の制約を受けずに全ての魔法を使用できるのだ。

(テニク・メーカー・アンドールは光以外の全ての属性が使えて、クロージス・メーカー・アンドールは闇属性以外の属性が使える。ある意味強姦で産まれたからできあがったチートだったり……背景が悲しいわ)

 そのまま、【インビジブルニール】という姿を消すだけの闇魔法を使って、静かに団長の下へと忍びこんで剣を足に振り下ろした。闇属性は同じ闇属性の者でなくては使ったことは感知されない。団長が闇属性だという情報は無かったから、勝った! そんなわけ無いのにそのときの私はそう思ってしまったのだ。


(このまま……いけぇぇぇぇぇぇ!!!)





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