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血は花のよう、その道は

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 必死で守った我が君に降り注いだ鮮血は、血の花のようだった。白く陶器のような肌にぴしゃりと被る鮮血は。恐怖で目の閉じた我が君に、とてもお似合いでした。皮肉なほどに……。血など見るようなことなんて無いようにと何度も願っていたのに。貴女に……あんなことなんてさせたくなかったのに。
 瞼の向こうから、そんな懺悔が聞こえた。ゆるゆると瞼を開ければ、長い間寝ていた時特有の軽い頭痛がツクリと、眉間に走る。やがて、目を開ければ未だ見慣れる我が城の天井と、その傍らには……。悲痛そうに下向いて私の左手を握って座るカペル君が居た。

「守りたいのに……何でッッ」

「充分、守ってくれてるよ」

「我が君ッ! お見苦しい所を、すびばぜん」

 守ってくれている大丈夫と伝えれば、顔を上げるカペル君。鼻も真っ赤っかで目も真っ赤っかだった。乱暴に涙を拭おうとする手を優しく制して、身を乗り出すようにカペル君を抱きしめた。言葉よりもこうして生きている実感を伝えたくて、何も言わずにずっと抱きしめた。きゅっとさらに抱きしめようとして……私の身体に急に痛みが走った。

「いてててててて、な、何コレ。あ、あ、なんでこんな、全身筋肉つ、つつつつ」

「我が君! どこが痛いのですか!? 我が君? 我が君!!!」

「全身が痛いです。だから振らないでお願いします!!!」

 6歳から一気に、運動しすぎた40代に逆戻りをした全身筋肉痛に見舞われた。一気に泡吹いてガクガクし始めた私を、決壊した涙腺と感情の赴くままに揺さぶるカペル君。騒ぎを聞きつけたヌファンとソーラが慌ててディザスター先生を連れてきてくれたのだけど。

「頭の怪我ならともかくの、わしの炎で筋肉痛はちょっとの~気分が乗らないわい」

「そんなぁ……」

「ディザスター様、どうかお願いできませんか?」

「無理じゃ、筋肉痛は破壊と再生を同時に行う治癒じゃ、下手に治す方が為にならん。ちょうど働き過ぎのようじゃし、休みだと思えばいいじゃろ」

「こんな激痛の休みいやだぁ」

 そんな私の叫びなど通じることはなく、作中の荒々しさが消えた代わりに振り切れた奔放さで、お茶目なお爺ちゃんのように軽やかに行ってしまった。結局の所だけど、ベットに全身筋肉痛で寝たきりとなりまして。ソーラやヌファンにあーんという感じで、食べさせてもらったりした。その中で、私は一体何日寝ていた? と言う話しになって、カペル君がさらにしくしく泣きながら5日と言った。

「我が君……その。気絶されたあとは覚えていらっしゃいますか?」

「ん? んーん覚えてない」

「お、覚えてらっしゃないのでしたら、そのままがいいと思います」

「それはいけません。報告というのは大事な信頼関係を築く上での最低限の礼儀です。リエル様は今や一国を任される王なのですから、知り得て後悔しようとも受け止めなければなりません」

「でも、う、はい。お話しします」

 気絶した私に一体何があったんだと不安になりながも、必死で話そうと、どもりながらも声を紡いだ。カペル君から次々と零れる言葉は衝撃的の一言だった。だって……。


 身体が6歳の私が……10以上の襲撃者を残らず惨殺したなんて。簡単に信じられるわけがなかった。








 我が君が気絶しても、僕は腰の剣と我が君の身体を抱きしめて震えるだけだった。普段聞かないパトリシア先生の怒号が僕の心を煽り。壊れた結界で、防御を失った馬車は次々と矢が刺さった。皆決死の覚悟で我が君を守ろうと戦った。我が君、我が君だけはそう思って抱きしめた。もう……襲撃されて夜を跨いで日が昇り始める頃。何が何でも守るぞっと何回も震えて誓った。

「僕の、僕の大事な、妹」

「お兄ちゃん……こあい?」

「我が君、大丈夫ですよ」

 舌足らずな我が君の僕を心配する声。気絶から回復したのか夢うつつ気味な我が君の目は、個々がどこかもわからぬようにとろりとした目立った。もしかして、お心に傷が……と心配した矢先に我が君は、その細い手で4歳差もある僕の手を両手で解き放ち、矢が割れた窓から入って反対側に刺さるような、状況で僕を押し倒してお腹の上にまたがった。

「こあいこあい、お兄ちゃん。こあいね。こあいこあい、いいこいいこ。お兄ちゃん大好き。お兄ちゃんはどっちの味方なのかな? お母さん? 私?」

 舌足らずに何度もこあいこあいと、絶えずに言い続ける我が君に恐怖と悲しみを感じた。あぁ、もしや今回の事でお心をやられて、本来の子供にお戻りになられたのかと。元を考えればこちらの我が君の方が実年齢と近い。だから、やり直しがきく大丈夫と自分に言い聞かせ、僕は我が君の虚を見つめるような目を見て宣言しました。

「何があろうとも、僕は我が君の味方です。何があろうともこの魂に誓います」

「よかったぁ。ありがとうお兄ちゃん」

 虚の目を潤ませて嬉しそうににへらと笑う我が君。これならば、そう思って我が君に手を伸ばそうとした。

「んむ」

「いけないことしちゃった。待っててね、お兄ちゃん」

 我が君は僕に噛みつくようなキスをした。僅かに呆けて開いた口に舌をいれて、僕の舌を悪戯半分にぺろりと舐めて美味しそうに目を細めた。地を這うような自分を兄と呼ぶ声に、恐怖で放心した僕は我が君が僕の下げている剣を手にして抜くのを止められなかった。

【空間転移】

 何気なく呟かれた上級魔法と名称と共に、我が君が目の前から消えてすぐ聞こえて来たのは男の悲鳴だった。

「リエル様! おもどりくだ」

「だって、遅いよ。おそーい、大層に始まりを告げてあげたと思ったら、早々に死ぬなんてばからしい。レドビスもそう思うでしょう?」

「なにを、」

「後ろ」

 レドビス様の声に弾かれるように僕も、馬車から飛び出せば。レドビスが必死にリエル様を戻そうと説得していたんだ。けど、その説得するさいに集中を切った為に、背後を取られたレドビスを……リエル様が、敵の首を跳ねて守った。
 目を背けたくなるような光景だった。我が君はあっという間に襲撃者を蹂躙した。腹を切り裂き、魔法ですりつぶし、素手で骨を折り。まさに狂った武神のような動きだった。狂気に取られて型もなにもかもめちゃくちゃなのに、誰一人我が君に傷を付けることすら出来なくて。

「利害の一致でこうして、ここまで。はやくあるけ、別に、逃げ、そうね。過去の私の腹でも裂けば。遅い、遅い、遅い、まだ弄れる巻き進め」

 ブツブツ何かを言いながら、ずっと、休むことなく蹂躙した。どれもこれも何重にも何百にも押し固めたような憎しみの言葉で……。僕はいつの間にか、我が君に駆け寄っていた。大事な妹で、大事なリエル様が壊れてしまう。そう思えば、血塗れの我が君に躊躇無く僕は駆け寄った。

「我が君」

 僕はこれ以上……我が君に十字架を背負わせたくなくて、錯乱した我が君に切られる覚悟で抱きしめた。我が君はわかりやすく震えて動揺した。何でと言いたげに口をへの字にする我が君は……我が身は……虚ろにも泣きそうな程に目を潤ませていた。振りほどかれても良い……だからと決死の覚悟で抱きしめたものの、思った反撃はなかった。

「わたしは わるくない。始まりが、お母さんが悪い」

「大丈夫です。僕は、僕は我が君のずっと傍に居ますから。ほら、剣から手を離しましょう? 大丈夫、大丈夫ですから。僕はずっと、ずっと近くに居ますから」

 悲痛な幼子の叫びに、僕の心は締め付けられた。繰り返し大丈夫と、一緒に、傍に居ると繰り返して居るうちに。我が君は糸が切れたようにくたりと、気を失った。襲撃者は我が君が残らず始末したので、騎士達は死亡者はでなかった。けれど、レドビス様とパトリシア様以外全員が重傷で、意識さえも朦朧としていた危険な状態だった。急いで、レドビス様が緊急用通信水晶を使用して……こうして迎えが来て。今に至ります。






「なるほど……。全く塵の一つ分さえも覚えてない。けど、お兄ちゃん」

「はい!」

「止めてくれてありがとう。本当に、ありがとう」

 お礼と共に、顔面も筋肉痛だから歪だけど笑顔でお礼を言うと。「戻ってよかったです!」っとさらに涙腺を崩壊させて泣かれた。本当に、何だったのだろうと思いつつも。

(リエルちゃん……一体私に何をさせたいんだろう)

 また、別の思考ではそう思うばかりだった。


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