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一日だけの別れのち圧殺

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「リエルさま~、追加の手紙です」

「ひぃぃ~ん!!!」

 暗殺者騒ぎで私のエヴァ王国の予定がさらに早まって……それに焦った知らない親戚達の手紙がどっさり来たのだった。絶対に血筋でアビスは襲ってくるとは思ったけど、その影響が手紙って……。

「ソーラ、ソーラも疲れたら休んで良いよ? ヌファンは今日は居ないし」

「いいえ! そんなのいいんですよ~。そんなに私はやわじゃありませんよ!」

 暗殺者を退けたヌファンは、私とカペル君が目覚めるまで寝ずの番で一緒にいてくれた。その後日の勤務も参加しそうな所を私が待ったを掛けて休んで貰ってる。そのかわり数日ソーラが一人で私とカペル君のお世話をすることになるから、申し訳ないんだけど。そんなことをお気にせず~と、ほわほわソーラは笑ってくれた。

 それに癒やされながら、一つまた便せんを取ると……ブライエ家の蝋封の手紙が一つ。丼からあふれ出そうなほどに沢山くる知らない親戚の手紙の中に埋もれていたようだ。


『明日一日だけ、ブライエ家に泊まりにいらっしゃいませんか? お話がございます』


 手紙を閉まって机に置く。明日の剣と魔法の稽古の時にいけばいい……。一日だけブライエ家に泊まるのは、子供に関心の無い馬鹿王ならば、報告しなくても気にも留めないだろう。さて、カペル君は此処に居た方がいいのか……それとも、一緒に行くのかどっちだろう。

「ソーラ」

「なんでしょう? リエル様」

 呼べばちょこんと、首を傾けてこちらに目を向けるソーラは可愛い。歳が凄い気になるけど。ソーラにブライエ家の手紙を見せて言った。

「ブライエ家のお誘いで明日一日だけ、ブライエ家に泊まってくる」

「手がはや、イエイエ、お泊まり会でございますね! わかりましたご一緒します」

 手が早いて言いかけた……。危ない危ないと、急に熱くなった顔を仰ぎながらソーラには似合わない早口で、了承した。純粋な6歳として、何よりもレディーとして『手が早い』発言を華麗にスルーして次の言葉を紡いだ。

「それなんだけど、お兄ちゃんが此処に残るようだったら、カペル君と一緒に居てくれないかな? 流石に危ないし」

「リエル様が一番危ないんですけど。そうですね、わかりました。ただし、ブライエ家に着くまでは私も付いて行きますから!」

「はーい」

 小さい子に言い聞かせる保母さんのように、大きく大らかにダメですよ? と言われたのでノリで幼稚園児のように大きな返事をした。気を良くしたソーラが私の頭を、なでぐりなでぐりしてくる。その撫でられる最終にカペル君のノック音が部屋に響いたので、慌てて返事をした。ナイスタイミング!?

「我が君! お話したいことが」「お兄ちゃん! 話したいことが」

「あ」「あ」

「我が君からどうぞ」「お兄ちゃんからどうぞ」

「……」「……」

 これ以上無いまでにシンクロした私とカペル君は……互いに見つめあったままに停止した。ここまでシンクロするとは思わなくて、互いに目をパチクリさせる。横に控えているソーラは「かーわいー!」っとハイテンションで私とカペル君を交互に見て居る。私はどこの芸人だろうと思いながらどっちが話すか……とアイコンタクトをして様子を見た。カペル君は声なく身振り手振りで「どうぞ!」っと伝えてくれたので、じゃあ私がと最初に発言することになった。

「じゃあ、私から……ブライエ家へ泊まることになったけどお兄ちゃんどうする?」

「あぁ! ちょうど良かったです。僕はレドビス様に一日泊まり込みの稽古を付けて下さるそうで……我が君に許可をと来ました。ですので、ご遠慮させていただきます」

 声音はちょうどよかったと嬉しげに言うのに、眉尻は少し下がっている。主にブライエ家の名前を出した時の僅かに多動になった。一体カペル君に何したんだよ……そのことも込みで締め上げよう。心の中を煮えたぎらせながら、ソーラへ顔を向けた。

「じゃあ、ソーラ。お兄ちゃんに明日からついてあげて」

「はい!」

「何故、ソーラさんが?」

「それは私からご説明しますね。カペル君が上の人とかに絡まれた時の為にです。ブライエ家にリエル様を送ってからそちらに向かいますね」

「……わかりました。ありがとうございます」

 またブライエ家の言葉で多動になった。おやつをつまみ食いしたわんちゃんのような感じで、クール面がプルプル震えるから、可愛くて心の中で何度も親指を立てた。そして、明日一日会えなくなるから……という理由でいつもより訓練と勉強を速く終えたカペル君とそのまま話すこととなった。


「それで、詠唱を必要とする魔法のが僕は得意みたいで……剣術や体術と複合して使うのは向かないみたいで」

「ある意味それもいいかもね。下手に出来ることが多いと、器用貧乏になるだろうし。魔術は魔術で、剣術は剣術、体術は体術とさっくり割れてるのいいと思うよ。ソーラはどう思う?」

「そうですね~。武術を目指す者で無い限りは、下手に魔法と組み合わせるよりは一つ一つに絞ったほうが習得が速くていいと思います! そう言う一点特化の努力はヌファンが得意なので聞いてみるといいと思いますよ。カペルリット君」

「……なるほど。ありがとうございます! リエル様、ソーラさん」

 最初は楽しく話してたんだけど、いつの間にか真面目な話しに。カペル君はどちらかと言うなれば、魔術師でも剣士でもなれるって、パトちゃんやレドビスから前から聞いていた。カペル君は今こそ栄養状態が良くなって、中々にすらりとバランスの良い体躯をしているし……これからの身体の成長も込みで、将来有望。それに、魔法を使う上で中々に筋がいいと聞いていた。

(中々に可能性の塊だなぁ)

 魔法は闇と風で暗殺者向きの魔法適正しているけれど、私のカペル君はそんな道に落ちないと信じてる。私の目をみて嬉しそうにはにかみ、大分相応になって、褒めて欲しい出来たことを伝えてくれ……褒めれば嬉しそうに赤らむ顔。一応身体は年上なんだけど、精神面だと弟のような気がして最近は本当に可愛らしい。生きているうちに堪能しとこう……そう思ってニコニコカペル君を見てたら。

「我が君、わ、我が君も、偉いです……!」

「ありがとう」

 突然に私を褒めるような話題に変わった。あれが素晴らしい、これが凄い……直線的でまっすぐな賛美がくすぐったい。ちょっと恥ずかしくなって、カペル君に待ったを掛けた。カペル君は目をパチクリしながら、ニッコリと笑った。

「僕、我が君の良いところ沢山知っています。……だから、笑って下さい」

「うん、ありがとう! お兄ちゃん」

 どうやら、私の僅かな哀愁はカペル君に届いてたようだ。レミリス仕込みの哀愁や本心を隠す笑顔をしたのに……わかってしまったようだ。私は今度は困ったように笑うと「先ほどより。今の笑顔のほうが素敵ですよ」っと恥ずかしげも無く笑って言い退けた。晴れやかに笑うクール面から繰り出される褒め言葉は中々に破壊力があった。自然と口角が上がって何時しか本当に笑って、お互いを褒め合った。


 そして、迎える一日の別れの日。


「お兄ちゃん。復唱! ピクニックは帰るまでがピクニック! 帰るまで油断しないこと」

「ピクニックは帰るまでがピクニック……帰るまで油断しないこと。我が君、ピクニックではないです?」

「細かいことは気にしないで、家を長期開けるときに一番危ないのは油断した帰り道……。だから、帰り道しっかりと帰るまで警戒を怠らないようにとのことだから」

「なるほど、わかりました我が君……我が君もお気をつけてください」

 そうやって、二人抱きしめ合って別れた。決して恋人同士じゃなくて、家族通りの気安い抱擁……にへら~っと二人笑い合って互いに向かった。私はソーラにブライエ家まで送って貰ってからブライエ家の家に着いた。着いてすぐに、レミリスの部屋へと向かった。何だかんだレミリスの部屋に入るのは初めてだなって思いながら、メイドさんの案内通りにレミリスの部屋の扉の前まで来た。メイドさんが三回ノックをして「リエル様がいらっしゃられました」と扉へ向かって言った。その後に「お入りください」とレミリスの声が聞こえた。

 開ける前にメイドさんが頭を下げて、退場していったので私はありがとうとお礼を言ってからドアノブに手を掛けて……停止した。

(もしかしたら、レミリスの事だしなんかあるかもしれない。もしかしたら、あの踏んだことの仕返しとして今の場を今更設けたとか? それなら、グランド君がどうにか止めてくれるだろうけど……レミリスはやるって言ったらやりそうだし、その可能性を考慮して開けたほうがやっぱいいかな? う~。けど、最初から人を疑うのアレだし……もういいや、思いっきり開けちゃえ)

 暫く考え込んだあとに意を決してドアノブを回して思いっきり開けた。

「たのもー!!!」


うぐぅ……。


「あれ、レミリスは?」

「そこだ」

 思いっきり開けたのだけど、肝心のレミリスは居なかった。きっちりと片付けられた執務机の横に控えていたグランド君が、私の方を、口元抑えてプルプルしながら指さしたから後ろを向くと、誰も居ない廊下の壁で、グランド君に向き直って首を傾げると……私が開けた扉から、ドンドンっという音がした。




まさか……。











 部屋の中に入って扉の裏側を見ると……鼻を押さえているレミリスが居た。本当に痛かったのか若干目は潤んでて、それでも肩を揺らして笑いながら。

「本当に予想外のことを……貴女はしてきますね。圧殺されるかと思いましたよ」

 そう言った。笑顔はそこはかとなく黒いオーラが漂ってきた。恐怖に思考停止した私は何を思ったのか、日本人として美しい正座をレミリスの前でして、おもいっきり床にゴツン! と音が鳴るほどに頭を下げた。


「ぬ゛お゛お お おッッッ!!! ごべんなさぁぁぁぁぁい!!!」

 
 レミリスの黒い笑顔の恐怖で停止した悲鳴が、今頃喉元を這い上がって来て、あのときのように女とは思えない、潰れた蛇のような声を出して叫んで謝罪をした。






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