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王様気取りとお姫様気取り

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 結局、グラスの強い押しによって若干太ったことに不機嫌のまま、中央へとたどり着いた。中は聖都と言って良いほどに綺麗で、見るからに豊かでゴミはない……完璧な美しさを誇っていた。けれど、アダムスのように人などは出歩いておらず、辛うじて出会ったのは白の聖都では目立つ黒の鎧の聖騎士だった、出会ってすぐにあれよと、大聖堂の中へと私達は通された。拍子抜けするほどにあっさりと。

「めくるめく世界の流れに惑うことなくこの時に居られる天使様、ようこそいらっしゃいました。貴方のお母様とお父様をすぐにつれて参ります……どうぞ、御拝見ください。天使様の下部達も共に」

 最初の頃に会った、あの人の良さそうな兵士だった姿は塵と消えたように原形はない。此処は中央の大聖堂の中、オレオレの人のようなことを警戒していたのに、手厚く通されて拍子抜けした物の……此処に居る聖職者と呼ばれる人間は黒の衣服を纏っていた。歩いて目を合せればひれ伏され、祈りを捧げられ、ある意味初めての光景に嫌でも身がすくんだ。その中で……法王のイスの横に立ち喋っているあの男の顔は……もう行くところまで行き着いたような濁った何かに縋る目。

 「カリスティア」すぐ後ろにグラスとスケイスが控えてなければ、逃げ出したいような異様な雰囲気。罪人として扱いたいのか……神として扱いたいのかがわからない不透明な恐怖を呼び起こすこの状況。居心地の悪い空気は気道にヤスリ掛けを行っているように、喉に引っかかる感触がした。

「さぁ、今に……」

カーン!!!

 スケイスが話しを遮るように強く床を叩いた。狭い部屋の中で反響する。慌てて私はストックの中からあの襲って来た黒聖騎士を取り出して、あの変態の目の前に投げ捨てた。その場に控えていた別のお偉いさん方などがわかりやすく動揺の声を上げた。けど、目の前の変態はオレオレさんを一瞥して……残忍に微笑んだ。突然突き出された黒聖騎士10人のち9人は、わかりやすく怯えて「お許しを……」と震えて変態を見て居た。

【「最初に、襲われたことをストックからだして告発するんやで? わてが話し付けたるから主はんは出すだけでええ、わてが杖をついて合図したときに頼むで」】

 最初侵入する前に言われたこの言葉をもう一度思い出し、グラスと私は一歩後ろに下がり、反対にスケイスは私とグラスを隠すように前に出た。人間の姿に戻っているだけあって背中は骨の時と違ってがっしりと大きい。あれだけ似合わなくて目の痛い蛍光色のような金髪が、今は暗闇の道しるべのように強い存在感を放っていた。

「神と、天使と崇め奉られるこの方……カリスティア様に害をなした者達でございます。我々やカリスティア様に剣の鋒を向けたのに飽き足らず……。侮辱の言葉を幾度と口にしました。このことのご説明を強く要求致します。返答に偽りと不相応な理由がございましたら、カリスティア様含め我々は、宗教国家ヘレ・ケッテ・カルゲンを二度と訪れ祝福することはございません。もう一度復唱させて頂きます……このオレオル家の者含めたパラディン達の行動のほど、処分に関すること、全てご説明頂くことを強く要求します」

 普通に……スケイスが……シャベッタ!!! しかも敬語で喋ってる!!! 

 とある動かない鳥のように背中に向けて言いようもない視線を向けてしまった。チラリとグラスを見てみても、グラスは涼しい顔をしていてあの変態の出方を窺っていた。私だけ微妙に馬鹿っぽい驚き方してるんじゃ……と心配になったけど「あの元法王様が……」っという中年くらいのおばさんの声が聞こえて、そうだよね? 自分だけじゃなかった! っと心の中で一喜一憂した。緊張感が薄れたが、警戒は怠っていない。スケイスの言葉の返答をしようとして声を発した変態に、すぐに目を向けて聞く体勢へと入った。

「私の至らなさによって引き起こされた事です。申し開きもございません……ましてや天使様に偽りなど。罪深い、罪深いですよ。是非とも断罪の間にて10人全員を処刑致しましょう。彼らの行動を深く把握していなかった私の……至らなさでございます。申し訳ございませんでした。ご説明は、この者をキッチリ尋問を行ってから改めて正式な書類と共に正式にもう一度謝罪させていただきます」


ードクンッー


 変態が深く頭を下げた所で、ちょうど法王のイスの置いてある間の扉が開いた。その開いた時に聖騎士なのかパラディンなのか……。首に魔力封じの枷を付けられた麦のような金髪の女の人と黒髪の男が、中途半端に歩ける程度の治療を施された姿で入ってきた。その姿を見た瞬間に心臓が悪い意味で高鳴った。無理矢理兵士に顔を上げさせられた二人の顔は……サクリちゃん。この身体の本来の所有者であるサクリちゃんに皮肉なほどに似ていた。

『かわって』

「……うん」

 悲しいけれど、サクリちゃんの言われるがままに了承すると。あのときのように意識はあるのに身体が勝手に行動している不可解な光景になった。サクリちゃんは手慣れたようにストックから水明の剣を取り出して、親二人の元へとまっすぐに向かった。

 ギリギリ、カチャカチャ、カッカッカッ、剣を握りすぎて柄が悲鳴を上げる音、力を入れすぎて手が震えて剣が泣く音、怒りをまぜこぜにしたような甲高い靴音。声はないのに悲痛さが感じられる音を立てながらサクリちゃんはついに親二人の目の前まで来た。

「久しぶり、お父さんお母さん」

「サクリフェス……お願いだ、たすけ」

 助けを乞うた瞬間に、男の伸ばした右腕が朱を噴いて宙を舞った。いつの間にか巻き込まれぬように後ろに下がった聖騎士達の黒い鎧にいくつか血が掛かっていたが、気にすることはなく当たり前の断罪だと言わんばかりの無の表情で、その光景を見ていた。声のない呼吸音の叫びをあげた男は、ミミズのように地面をのたうち廻った。サクリちゃんは容赦無く暴れ回る男を蹴り飛ばした。男は気絶したようにくたりと力を抜いたが、すかさずサクリちゃんが左の手のひらを剣で貫いて、無理矢理覚醒させた。飽きたように次は怯えるように震える女の人へとサクリちゃんは歩みを進めた。

「すなら……」

「なに? お母さん」

 目の前に来たところで、女の人はサクリちゃんに似た瞳で泣きながら訴えた。

「殺すなら殺しなさい。愛せなかった……貴方がお父さんに殴られているのを止めなかった……私が悪かったわ。だけど、愛していた。ちゃんと愛していただから」

「愛してるなら最初から最後まで悪人で居てよ。泣いて謝られても時間も壊れた心も戻っては来ないよ? 謝罪だって相手が求めなければ、ただの自身を慰める薄汚い手段でしかないよ。お母さんはいつもそうだったよね? 殴られても謝るばかり、お父さんに感化されて私を殴っても泣いて謝るだけ。謝りはすれど絶対に自分からは行動を起こさない……ある意味、お父さんよりたちが悪いよ。お父さんは唯々王様気取りに、お母さんは悲劇のお姫様気取り……お似合いだね」

 そこからの光景は目を背けたくなるようなものだった。治して壊して治して壊しての繰り返しだった。私が目を背けているのに、グラスは涼しい顔でその光景を見ていた。スケイスは人間の顔で眉間に皺と目には痛々しい悲しみを乗せて居た。変態は嬉々と祈りを捧げていたが、周りは全員、その光景に目を背けていた。唯一まともに目を向けて受け止めているのは私では無くグラスだけだった。

「終わりにするよ」

 無機質な声が響いた。男を下に女を上にして重ねた後に剣を二人の首元に持っていった。今にも人を殺すというのに私の心は澄んでその光景を見られた。治して壊しての繰り替えしの中で、私は気づいたのだ。私もサクリちゃんも繋がっているのなら……その心と感情を知る事ができるんだって。

 だから、サクリちゃんが剣を大きく振り上げて……力一杯振り下ろした時も信じてこの光景を見ていられた。



 目の前には見慣れた白銀の髪と、金属通しが交わる甲高い音。


「後悔……なさらないのでしたら。賛成とのことでしたので」


 グラスが止めてくれると信じて最後を見ることができた。


 


 


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