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殴られれば痛い世界

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「神聖なる騎士団2番隊隊長および、パラディンのオレオル様。私が彼女と代わりにお相手致します」

「我が神を迎え入れる邪魔をするとは……悪魔! 貴様の名を名乗れ!!!」

 物静かかつ慎重にカリスティアと応戦していた男とは思えない激高ぶりで、私に剣を向けて怒鳴る男。その一つの心理の変化を落ち着いて観察して分析をする。元の聖騎士……ましてはパラディンを冠するものが黒を着るなどと言うことはあり得ない。この者達の言い分を考慮するならば、カリスティアはこの宗教国家の神として祭り上げられた。祭り上げた人物が……カリスティアを利用して国を動かそうとしているというのが打倒か。または、カリスティアの中に居るサクリ様の手引きか。
 
 そこまで考えて、何番目のオレオル様か不明なままに、愛想を振りまくように笑みを含めて杖を携える。威嚇するように相手の目を合せ、いつでも、首をはね飛ばせるように静かに魔力を循環させる。

「失礼しました。私はSS級冒険者の称号を頂いています……グラスと申します。以後お見知りおきを」

 生きて帰れるならば、口にせずに相手の首に向けて杖を振り回す。咄嗟に先ほどのカリスティアのように首で受け止めるが、【所有者以外を弾く】能力で男の身体は宙に浮きすぐ底の木へと飛ばされた。

「おや、そのまま自身の剣で首を跳ねて貰おうと思いましたが」

 カリスティアがやられたことをそのままこの男に倍にして返してやったが、そこはパラディン……多少首の皮が切れた位で納めていた。私が微笑み追撃のために杖へと魔力を込めると、尋常じゃない速度で跳ね上がり私の方へ剣を振り回した。カンカンと剣と魔力を纏った杖が交わる音が響く。男の自分でも手首に響くような痛みが走るほどの力とスピード。未だに神聖魔法を使わない所が気になるものの、現段階では勝てない強さではない。

「力押しは……些か苦手なのですが」

「嘯くなよ悪魔風情が、筋力に特化した俺を……この」

「筋力、つまり貴方は五番目のオレオル様ですか」

「五月蠅い!!!」

 激高したオレオル様の剣筋が殺意を込めてうち放たれる。筋力ということはあり、数度押し負けて後ろに退避をしつつ魔力を練り上げる。カリスティアの杖は折れることも傷が付くこともなく剣の応戦にも答えてくれる。カリスティアに変わらぬ感謝と、思いを乗せて今度は打ち合うのではなく受け流す方向へ戦術を変える。激高したお陰で、僅かな剣筋のブレが現れ始めたのを利用するために。

 動揺も怒りもさらに増大させなくては、そう考え……宗教国家の中の彼の家に関する情報を頭の中に引っ張り出した。

 輝きを意味する家名を持つ主要貴族のうちの一つであるオレオル家、オレオル家は主に聖騎士のさらに上のパラディンに相応しい騎士を産みだして来た家だ。オレオルの家の者には特定の名前はなく主に番号で呼ばれる。

ステータスのHP、MP、体力、精神、筋力、防御、速度、魔力の八個のうちのどれかに特化した番号で呼ばれる。オレオル様の場合は五番目だ。この宗教国家の中では一番軽視されやすいステータスの筋力を持つ男……。

「素早さもある、私の戦術の変化を見逃さない頭もある。中々に素晴らしい武人です。貴方は」

「悪魔の甘言に惑わされない」

 余計に警戒を強めてしまった。私はやはり褒め方というものを勉強したほうがいいのだろうか? 褒めて激高させるどころか不快と吐き捨て、私を倒すという意思が固まった目をされてしまった。
「ぐぅ……っは! あ」

 力押しの応対で、今度はわざと押され負けして剣を払われるタイミングを狙って杖を腕輪に戻し、予測していた手応えがなくなり動揺のままに身体が傾く男の懐へ入り込む。

「きさ」

 男の懐に入り込み、鎧の隙間からでる男の胸倉の布を掴みあげ、崩れた体制を利用して男を頭から地面に叩き付けた。無意識の抵抗で叩き付けられる瞬間に振り下ろされた剣が僅かに私の衣服を切り裂き、右肩に血を滲ませた。久々に怪我らしい怪我をしたものだと、意識のない男の身体を魔力で縛り上げ、ジンジンと痛む右肩を左手でて抑えた。

 さて、パラディンを傷付けずに情報をどうやって吐き出させるかと、男を見下ろして考えると。愛しい声が右の耳から聞こえた。


「グーラースー!!!」








「グラス!? 痛くない? 大丈夫? すぐ治すからえーっとストックストック、あったあった、速く私の上級ポーションのんでぇぇぇぇ!!!」

「ありがとうございます、落ち着いてください! おちつい……落ち着きなさい!!!」

 グラスが右肩を負傷したのを見た私は、ストックの中を漁りながらグラスに突撃した。慌ててグラスに飲めといいながらしっかり全体に被るように、ぱしゃーん!っと封を解いて中身をグラスに被せたら、グラスの一喝が頭の上から降ってきた。私はポーションでグラスの右肩の傷が治ったに安心して、怒られながらもにへらにへら笑っているとグラスに、特大ため息をつかれた後に「ありがとうございます」っと頭を撫でられてご満悦でした。

『おかあさんとおとうさんつれてこいって いったのに なんでこんなくそみたいなせかいの かみさまに されないと いけないのか わかんない』

 聖騎士だかパラディンだかの人達の身体を、具現化でだした丈夫なワイヤーで縛り上げてからどうするか?っと皆で話し合うさなかでサクリちゃんの悪態が頭の中に響いた。最初の無邪気さは消えて段々とお口が悪くなっている所に苦笑いが思わずに浮かぶ。

「カリスティアちゃん……一人で虚空に笑ってると怖いんだが」

「いやーサクリちゃんが……皆にも声聞こえるようにできれば」『できるよ』「できるんかい!!!」

 端からみたら私のとち狂った一人芝居に訝しむ面々に、ちょびっとばっかし魔力を送ると。


『わああああああ! さくりちゃんだぞー! きゃきゃ!』


「うわぁ!!! なんだんああなあばばばばば」

 サクリちゃんの声が聞こえるようで、普通の人間ことドロウ君はアニメの作画崩壊さながらの顔芸で、後ろにひっくり返って喋った。私の中でまともじゃない人認定している他は驚きはすれどすぐに表情を正して受け入れた。いや……。

「きゃー! 娘が増えたわ!!!」

 ママは嬉しくて座りながら羽パタパタさせて浮き始めた。いつものことと結論つけてスケイスが先んじて話しをし始めた。

「あーサクリはんやっけ?俺らのことは知っているでええかいな?」

『しってるよー へんなくちょうのおじさん!』

「おじさん……まあええわ。今回のこと説明できるけ?」

 おじさんという単語にわかりやすく、ガイコツ姿で俯くスケイスにキャッキャと騒ぎながらもそれに答えるサクリちゃん。

『せつめいできるよ』

 そう言って説明してくれたことをまとめるとこうだ。

 あの天使だのギャーギャー言ってくる変態の親友を、具現化で多少の無理の元で治した……私の意識外で、そのときに天使と崇められたから、これまた私の意識外で……自身の母親と父親を殺せるようにとの命令を下した。何故そうしたかと言うと。元々怨んでいたのに加え、本来ならば自分の意識は消えて笹野沙羅である私の意識だけが残るはずが。意識は残ったままだし、力の根源は私だけど。制御……アクセルブレーキはサクリちゃんという実質、願いを叶えるに等しい力をそのまま手に入れたような状態になって、サクリちゃんは話しが違うと激高。

 クスリを飲まされたことを笠に錯乱したように、組織の中で暴れ倒して脱出のちに、私の魂の意識を具現化して、身体の所有権を移して眠りについた。私が力に溺れて他者に迷惑を掛ける可能性を考えて、力を上手い具合に成長に合せて調整するために起きるときもあったそう。

 まぁ、こんな世界とおさらばしたいのに出来なかった恨みのはけ口として、お母さんとお父さんを殺したいため、殺したらまた眠りにつきたいそう。

「焦って死ななくても産まれて生きてれば……」


『こんな、ぶたれれば いたいせかいなんかに うんでくれなんてたのんでないし うまれるのがえらべないなら せめてしぬことくらいえらばせてよ』


 ドロウ君の決死の説得は、サクリちゃんに両断された。





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