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殺し愛と目標

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「覚悟などせずとも良いように徹底的に強くなって頂きます。片手で人の足をひねり潰せるようになってください」

「両利きになるより難易度上がってない!?」

 勿論、泣こうが喚こうが結局は戦うので剣は持つのだけれど、覚悟はお願いだからしないでくれ、そう言われたので人を未熟故に殺す事が無いように……との事だけれど。片手で足をひねり潰すって化け物じゃん、あのオカマじゃん、この細腕でどうするちゅーねん。心の中でドスドスと毒づくと心を読んだのかキッとグラスが睨んできて慌てて目を逸らした。

「正直、私はカリスティアが戦うのは反対です。私の未熟さの償いとして戦うことを了承しているに過ぎません。条件を厳しくさせて頂きます」

「じゃあ私も正直に言うよ。六年もお世話になっているんだから、グラスの負担にならないくらいには強くなりたかった。カロネちゃんもリュピアちゃんとも、昔みたいに笑っていたいと願う我が儘に付き合って貰ってるから……。けど、それもおこがましいという事がわかった。だから、グラスの条件をどれだけ厳しくても私はやる……」

 その言葉を聞いたグラスが、悲しそうにも嬉しそうにも取れるような微妙な感情を表し切れないように笑って目を細めて……私が最初に送った呪氷の杖を携えた。ウィーンママの家から遠く離れた平地……夏の温度が一気に下がってゆくのが感じる。夏の日射しは熱いのに私の吐く息は白く凍った。

「でしたら、私がウィーン様に付けて頂いた稽古を施しましょう……。今から15日、休まずに私と殺し合うつもりで戦いなさい」

「つもりというか、アダムスで誰かの手で殺されるくらいならば、今此処で死ねって気迫を感じるわ」

「大当たりです」

「大当たりなんかい!!! いいよ、やるよ、相手が殺しに来ても余裕でさばける位になってやる!!!」

 グラスが殺し合うと言ったら、例外なくそれは有言実行される。けど、グラスに殺されるのはわりといやじゃないと思うあたり、私は相当グラスに溺れてると思う。けど、ゴメンはゴメンなので私も未熟な剣を構える。型も基礎もガタガタだけれど、死なない為に頑張る。まさか、グラスが強くなるためにウィーンママと殺し合いをしていたなんて初めて知った。

(ほんと、守られてたんだなぁ……)

 あの一言も発する暇が無いような気迫の中で、私は先手を打って正面から駆け込み、私はグラスの首に向かって本気で剣を振り下ろした。








セシル・ルフレ。

出身は宗教国家ヘレ・ケッテ・カルゲン

輝きの意味を持つ宗教国家の貴族、エクラ、オレオル、ルフレ、リュウール、エタンセル、スプランドゥールの中のルフレ家の者。

 リチェルリットは全てを受け入れるとあって訳ありや、出自に不確定を携えるものも多い。その中でセシルは、ルフレ家の当主直々に、リチェルリットの友好の証としてこの城に仕えることを命じられた男。っと表向きには中々のこじつけ具合だがそうなっている。

「次は……僕ですね」

 緊張が走る。優男が一体どんな者を携えているのかという恐怖が私の中に産まれる。カリス様は元奴隷だったということは、心の中でするりと入った。けれど、この場に姫として居る者のカンでこの男の発言は一嵐がくるとわかった。

「最初に、話しを遮ってしまった事に謝罪を申し上げます。申し訳ございません。アルマ様」

「ああ……」

 外は嵐なのにこの男の周りだけに、春の日向が訪れたような、軽く耳に心地良い謝罪の声が響きわたる。アルマはそれを短い返事で受け取った。それを見たセシルが「ありがとうございます」と、このありがとうだけで、彼は善人であると錯覚してしまいそうな声音を奏でた。

「最初に、私の信頼なる友人であるアイツは生きています」

 セシルの口からアイツだなんて初めて聞いた。アイツというのは法王の事で間違いないだろう。そう解釈をして紅茶を一口飲んで次を待った。

「今はスケイス……と名を改めてカリスティアちゃ、カリスティアさんとグラスさんの元でアダムスに向かって居ます。情報は魔属性の魔物使役で監視させている者からです」

「宗教国家出身なのに良く魔属性使おうと思ったわね……」

 宗教国家は今でこそ天使族に反旗を翻しては居るが、天使族のポチと言われているほどに天使と人間以外を迫害する国だった。神聖属性と天使が使う属性以外のものは邪なる魔法として狩られていた場所だ。そんなところの出身が普通に魔属性を手段として使おうなどと思うことに純粋に驚いてしまった。

「口も演技も魔法も信仰も、使えるならば惜しみなく使うのが僕ですから」

「まさか、その優男面もか?」

 アルマが、指はさせないから目で問いかけるように優男フェイスのセシルに問いかけた。

「ええ、演じるだけで優しいと思われるなんて楽ですよ。それだけで信用と信頼が楽に稼げますから」

「神とは……」

 今までの共通意識だった落ち着く普通の善人、セシルという男の像がパラパラと頭で崩れてゆく、勝手に思った方が悪いと言ったらソレまでなのだが。リアンが絞り出すように神とは……と呟いた。それにセシルはさらなる爆撃を落としてきた。

「権力者が楽に人を動かす為の偶像に決まっているではないですか、私の信じる神は【種族差別のない世界の実現】という目標です。話しを進めていいですか?」

「大分はちゃけましたね……」

「良いわ、どうぞ進めて」

 リュピアが引き攣ったような声を発している中で、せめて私だけでも冷静であれと、話しを進めるように言った。こうやって歪だけれども、この国の幹部達の上に立って思い知らされる。ことごとく我が国の人間は個性と癖と灰汁が強い曲者ばかり。けれど実力は間違いなくどの国よりも誇れるものだ。
 私は悪魔に支配されずに全てを受け入れる国を作る。だから、頑張って信じてくれるもの達の為に適材適所で指示を下し、悪魔に勝利する。カリス様が厄災だから世界の敵として殺させるなんて冗談じゃありません。厄災すらも受け入れるのが我が国だ。

「僕とアイツは、外と内から差別をしない世界を実現させるため、その一手として僕はルフレの名を個別に与えられて此処に来ました。 次期法王だったアイツに、家とは関係なく僕はルフレと名乗ることを許されているということです。

 アイツの予知能力で、実はカリスティアさんの存在は数年前から存じ上げて居ました。アイツの当時の予知の言葉を借りるならば【全を手に入れれば厄災となり】【全を拒絶すれば救世となる】と二通りの予知が聞かされています

 けど、安心してください。アイツがカリスティアさんを殺さずにそのまま、仲間として居るということは、後者ですから。その後者であることを確認できたので、僕はあちらからこちらへ寝返りました。

 前者でしたら、そのままあちらについて殺すつもりだったのは否定しません。けど、僕も信じて居ました、彼女が自分の能力に溺れるほど、ご自身を愛せないようでしたので。弁明しても仕方がないのでそれは置いて置きますね。

 国の為ではないのは申し訳ないですが、僕の信ずる神の許す範囲でご協力致します」


「こちらこそ、歓迎するわ」

 その一言を言うので精一杯だった。とんでもないことを言って退けても頭と雰囲気は味方だと勘違いさせてくる。声音も顔も仕草も、全てが貴方の味方ですと優しく包むようなのに。これが演技だと言うのだ。味方で良かったと思う反面とても恐ろしい。口よりも物を言う目すらも偽るこの男が味方で……本当によかった。




 




 



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