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密かな一手

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「だからと言って……お前は王の命令なしに厄災への接触を計った罪人だ。今此処で……厄災を我が国の為に駆逐すると誓えば……目は瞑るがな」

「結構です。たった数千人の兵で脅せると思わないでいただきたい……。貴方こそ良いのですか? この悪魔族の国の王に兵を率いての来訪を許可を取っていないのではないですか」

(……ポーションのおかげで意識は戻ったけど、いまいち目覚めにくい状況だなこれ)

 油断した私も私だけれども、そうとうペルマネンテの王族はグラス以外頭がぱっぱらぺーなんだなと思ってしまう。国王が他人の土地で人を刺したことも大問題だし、なにより悪魔族の国の王様……魔王様?に許可を取らねばいけないはず。そんな数千人も待機させてるなんてわかったら戦争だ。

 というか目を瞑っているおかげで感覚が冴え渡ってるのと、スケイスの契約のせいなのか目を瞑って集中すれば結構な距離の生きている人間を把握してみることができる。グラスの言った通りに数千人弱待機させていて……頭が痛くなった。せめてこの悪魔族の国の魔王様が優しいならばなんとか見逃して……ちょっと難しいかなこれ。いやでも……、ダメだ、どこをどう考えてもペルマネンテ破滅の未来しか見えない。

 グラスの一周回った呆れのため息に、冷や汗が吹き出そうになる。今優先しないといけない旦那さんのこととか色々あるのに。そんな中で、スケイスが高速で近づいてくる気配がした。良いタイミング!っと心の中でgoodをする、グラスは未だにお兄さんと言い合っているからそろそろ起きて伝えねばと思った頃に遠くにスケイスの声とウィーンママの声が聞こえた。

「人の背中に乗っておいて乗り心地悪いだの、骨に響くだの、いちいち五月蠅いわよ!」

「じゃかあしい! こっちは老体ねんぞ!!! はよ行くんや、グラスはんが国王八つ裂きにするまえに行くんや」

「わかってるわよ! お尻に手を置かないで! 私の愛しのウィーンの身体が穢れる」

「どこが尻やねん、あーそー。欲求不満ねんなぁぁぁ? 女向けの良いところ紹介したろかー!!!」








(通り過ぎてますがな)

 言い合いが空中で聞こえたが、言い合いをしながらそのまま私達を通りすぎって行ってしまった。グラスが内臓も出そうなほどに深いため息をついた、思わずに意識無いフリの私さえも、苦笑いが耐えられない。

「……悪魔族の国の魔王の許可が無いのは貴様らも同じだ。その点俺は悪魔族の国を思って兵を動かしたと大義名分が立つ」

「なに言ってんだこいつ」

「……コレに普通の思考を求めてはいけません。疲れます」

 グラスに抱かれたまま呆れて言ってしまった。グラスとは相反する目をした王が見る見る顔を赤くして私を睨んできた。グラスが目覚めた私をゆっくりと下ろして立ち上がらせながら、自分の兄をコレ扱いしながら毒づいた。怒った国王が私を刺した剣で再度私を攻撃しようとするが、グラスに素手で止められていた。そんな遅い剣じゃそりゃそうなりますわな。不意打ちくらった私が言っても説得力ないけれど、不意打ち食らわなければ普通に勝てる、お上品な剣術だった……。上流の人間のするお遊びの剣術だ。

 私の剣術が爪楊枝なら王様のは綺麗に磨き過ぎて折れたゴボウといったところか。

「とりあえず下がっていてください。ペルマネンテの国王様にお怪我があってはいけません。色々策略はあるのは承知ですが今は厄災を退けるのが先決です。事を急くこの場での議論では、王様の期待に応えられる答えを私達の愚鈍な頭では提示することができませんので……倒してから考える時間を私達めに与えて下さいませんか?」

「愚弟より、コレのがマシか良いだろう倒してこい。」

 よし、グラス録音できる水晶で王様の発言を録音したな? 確認の為にグラスの顔を見ると少し悪戯めいた微笑を浮かべて見返してきた。いやー考える=自分の都合のいい答えの方程式を持っていらっしゃる人間は扱い安いことー。別に考えることしかしませんよーだ!!!

(此処に居る全員、タダで罪人になんてしないし、なってやるもんか!)

 王を下がらせて再度……耐えながらまってくれている旦那さんの元へとグラスと共に戻る。黒い霧が辺り一帯の空気になじんで息苦しい。緋想さんとドロウ君はなんとか無事に木々の隙間に隠れてくれているみたいで、窺うような気配がする。このまま……緋想さんが石の使い方を把握できるように。

 不適に何かを企む馬鹿王の策略の犠牲にしないように。





「おまえさんの弟の城の趣味悪!」

「そりゃShakah色欲ベルだもの、弟も私と同じ人間が好きだからしかたないわ」

「だからって、この城はないやろ!!!」

 人間募集中! 今ならば三食賄い付き! のうたい文句がでかでかと石造りの城に向けて悲痛なツッコミが響き渡る。カリスティアとグラスが依頼で厄災とタイマンを張るという無茶なことをしでかしたことの尻拭いに、狂犬を退けたあとにアドラメルクの弟のベルの元へと来たのだ。
 アドラメルクが他の魔王を何らかの理由で殺し尽くし、王としての継承権を自身で捨てて消えたのちに王位を継承して自称ではなく本当の正式な魔王として君臨してる妹は、数十年おきにこっそりとコンタクトを取っていたためアドラメルクが言うには、中は良好で今回も自分が言えばすぐに許可してくれるはずとのことだ。

(いやいや、流石の悪魔でも、こんな魔王殺しの姉をもって快く迎えて許可してくれるわけ……)

「はい! あね様が言うのでしたら許可します。魔王ベルの名の下にカリスティアとグラスとあね様御一行に厄災接触の許可することを宣言します」

「許可するんかい!!!」

「うるさいですね、その他」「その他ってちょ」「うるさいです、我が城に就職した人間と、あね様とあね様の好きな人以外はその他です。叩きますよ」

「ウィーンはん、あんさん弟の教育悪いねんぞ」

「いいのよ、頭から一気にぐしゃりとやっておしまい」

 たどたどしい言葉と、好青年の身体の不釣り合いで生じる歪さが、男女という生物を魅了しそうなほどに危ない美しさが魔王の周りに放たれている。だが、魔王と言うだけであってアドラメルクが許可した瞬間に本当に自分を潰そうと、目にもとまらぬ速さで綺麗な顔によだれを垂らしながら攻撃しようとしてきた。間一髪でアドラメルクが「気が変わった、やめなさい」と静止の言葉を発したおかげで死は免れた。

 魔王の物騒な片鱗に、吹き出すことはない汗が滲むような気がする。骨の身体が威圧ですこし軋むが、問題はない。一国の王とはいえ……悪魔族の国の敷地での出来事だ、ペルマネンテ国王が反論できるはずがない。流石にそこまで愚かだとは思いたくはないのだが……。様子見に通ったときに王があの場にいることを考えて馬鹿過ぎてトンデモナイ問題を起こすだろうなぁ。頭蓋骨の頭をがしがしと掻いて頭を抱える。

(カリスティアはんが絡むと、ほんまに予知が効かん時は効かんな。けど、今回の厄災どうにかせにゃ、あのラブマルージュだったかのう、そいつの依頼を達成できない未来は確実やから、結局はやることにはなったんかのう……)


 それぞれがそれぞれに世界の為に仲間のために行動したことによって……ペルマネンテという国が完全に消え去る一手になること誰も知らない。



「んふ、ふ、ふ」

 密かにそれを見越していた者を除いて。 
 


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