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語る

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 村の存続のため、皆のため、自分の為、何よりも大事な息子の為に、夫とあたしゃ悪魔族の国へと旅だった。元々それなりに腕に覚えがあったからさ、あたしゃも夫……ラベネスも難なくあの雨降ったり槍がふったり花が降ったと思ったら……吹雪に、カリスティア顔色が悪いが大丈夫かい? 大丈夫ならば話しを続けるよ。

 そんなデタラメな気候も潜り抜けた。とある希少な宝石のある洞窟へ……それが全ての過ちの始まりだったんだよ。洞窟も、魔物も、手応えはあれどどれも脅威にはほど遠いものだった。あたしゃも夫も最深部まで拍子抜けするほどにあっさりとたどり着いた。けれど、そこであたしゃ見ちまったんだよ。見てはいけない物をな。

「やっぱり! それぞれの固有スキルを封じ込めるのにはこの宝石を触媒にするのが一番だ。あの忌々しい悪魔を……我が一族の悲願を……。そこ、たまたまみちゃったー。聞いちゃったーで、済まさないよ」

「逃げろ、緋、クッソッッ!!」

 目に痛いほどの虹色の髪を持つ女が狂ったように、その希少な宝石をなめ回しながらそういったんだ。どこから気づいたのか知らないが、女は強かった。あたしゃの結界を素手で砕き、夫の渾身の打撃はモロに入ってもけろっとしていやがったのさ、異質な強さと話しの内容で逃げおおせている中でなんとなく把握できた。この者こそが……世界にひっそりと大きく根付く人身売買のドンじゃないかってね。確証はないけれど、巫女の感というかねそんな気がしたんだ。

 ……それで、結末はかわらないがね。

「そろそろ飽きたし……実験に付き合って貰うよ」

「アナタッ!!! 貴様」

「おっと、良いのかなぁ? その大事な ア ナ タ がすっごーい黒くなって苦しんでるよー。 それでは、悲願の日までの再会が感動的なことを祈っているよ」

 口の裂けた木が生える森で、逃げている夫の胸を無慈悲にあいつが貫いた。あたしゃ取り乱してすぐに、そいつに一撃食らわそうとしたが避けられたあげくに、良くも分からない言葉と馬鹿にしたような口調だけを残して逃げられてしまった。

 夫は苦しみながら肌が黒くなり自分の首を絞めてのたうちまわった。痛みで理性を失った夫をなんとか取り押さえようとするが、結界すらも破壊するほどの強さで頭を打ち、土に顔を埋め、獣のそれのように唸り声をあげた。

「離れ、ろぉ、にげぇぇぇぇぇぇ……」

「そんなッアナタを置いてなんか」

 のたうち廻る夫が急に静かに止まった瞬間にはっきりと私に向けてそう言って、自身の首にぶら下がったペンダントをあたしゃに投げ渡した。けれど逃げろと言われて逃げられる訳もなかった。あたしゃそれでも食い下がってまた苦しみ始めた夫を抑える為にすがりついた。

「あああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 夫がさらに叫んだ瞬間に夫の魔力が魔物のそれへと変わり始めたんだ。口からも鼻からも目も耳も夫の全てから黒いものが吹き出したんだ。

「イヤ……リィ、ング!!!」

 イヤリングは俺が預かる。そう言いたかったのを把握してあたしゃ耳からイヤリングを外して、なけなしの理性を振り絞る夫の服の中にイヤリングを入れたんだ。そうしてまた夫は苦しみだして。私の両腕に縋るように掴み。

 あたしゃの両腕を引きちぎったんだ。


「にげ……………………」


 痛みで声がでないけれど、夫の最後の逃げろに一押しされて、自身の千切れた腕にぶら下がるおっとのペンダントを口で咥えあたしゃ、飲まず食わずで村まで走ったんだ。宝石も手に入れられなかった。夫も救えなかった、腕も失った……けれど失意なんて抱いている暇なんてなくて……手に残ったドロウだけを頼りに帰ったのさ……。


「そうして、厄災として近づいているのは……あたしゃの夫だ……。あの男は何があってもこの村に来る……絶対に。だから待ってなきゃならんのさ、夫を……勝てるかはわからんけど……あたしゃの手で決着を付けるために」

 何故そんなことわかるのか? 疑問に思ったがそれを聞くのは無粋というもの。私の目的は質問することではなくイヤリングを届けて、自分の意思でこの場から動いて貰うこと。一つ荷が下りたように肩を垂れ下がらせる様すらも愛と哀がその場に解けるようななんとも言えない雰囲気を生み出している。皺の一つ一つに塵が積もり頭は汚れでべたつき、それでも何かを果たす為に待つ者。普段の私ならばここまでの覚悟を目にして食い下がることはせずに手を引くだろう……けれど。

『「かぁ………さ……ん」』

 けれど、私は願いを背負っているのだから、大の男があそこまで崩れるように泣いて懇願してきたんだ。ただでは手を引けない。

「それを……息子さんの目の前でちゃんといいましたか?」

「…………」

「別に、私は此処を捨てて移住しろなんていいません。けれど、息子さんに説明するくらいはして良いんじゃないでしょうか? ……私の経験で申し訳ないですけれど、何にも伝えずに消えるのは……貴女も彼も最後まで苦しむことになります……絶対に」

 目が濡れている。目の前の……一人の子を持つ女性だからこそ、心配でしょう身に染みるでしょう。この先の未来を思ったが故に今を迎えたからこそ、さらに自分の手で息子さんの未来に陰を落とす選択をしようとしているのを理解して欲しい。

 枯れた喉から嗚咽が漏れ出る。けれど言葉は発しないで沈黙を続ける彼女に……。自分が如何に残酷なことをしているのかを突きつける為に、私は緋想さんにゆっくりと近づき、皺だらけの煤だらけの頬に左手を添えた。とても……震えている。

「…………」

「死にゆく貴女は死という逃げ道はあるけれど、息子さんはそうはいかない。拒絶された悲しみと救えなかった苦しみを背負ったまま生き続けないといけない」


 私は、緋想さんに添えていた手を下げて、彼女の前に手を差し出す。腕はないけれど言葉があれば良い。


「せめて、息子さんに……話してあげてください」






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