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廃村とヤチェネクスの森

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「蛇が出る、瞬きで弾ける、幻舞げんぶを……愛のための舞を……どうか」

 乞うように何かに祈っている母、両腕はもうないのにそれでも祈りを止めぬ姿は巫女と呼ばれるのに相応しい人物ということなのか、それとも……自分の両腕すらない事に気づかないほどに狂ってしまったのか、俺の作った料理を美味い美味いと食ってくれたお袋はもう、そこには居なくなってしまったのか。居るのに居ない、矛盾しているようで矛盾していない、それほどまでに目の前の生気のない母の顔が、祈りの声が狂っているように聞こえるんだ。

「なぁ、母さんもう良いだろ? 親父の為に前を向こうぜ。村ももう終わりだ……知ってるだろ?税収に継ぐ税収でもう、みんなやってけないんだ。母さんも親父も頑張ったんだ……だから母さんも一緒に村を出よう」

 親父とお袋は、今は廃村となって捨てられた村で腰を落ち着けた人間なんだ。親父は冒険者で、お袋は神に祈る神楽を舞う巫女って職業の人間だ、出会いやなれそめはどちらも厳格だったから聞いても聞かせてはくれなかったが、お袋も親父も幸せそうだった……。二人とも紫と蝶が好きで……お袋はイヤリング、親父はペンダントを身につけて……それを見るときは、本当に幸せそうだった。

 けど、ペルマネンテの王が増税を初めて払えぬのなら、村を捨てて町に移住するようにと命令したんだ。それでこの村は……払えなかったんだ。お袋も親父も村長と村の為になるのならばと、落ち着けた腰を持ち上げて……悪魔族の国と天使の国の境目にある洞窟にある宝石を取りに言ったんだ。その宝石があれば村の税もしばらくはやりくりできるほどに高価な宝石を取りに……。

 17歳の俺も、村の皆も、親父とお袋の強さを知っていたから無事に帰ってきてくれる。こうやって村の皆とまた暮らして、笑って、村で収穫した木の実でジャム作って……畑耕して……そんな当たり前なことが訪れると信じて疑わなかった。

「母さん、親父、無事に帰ってこいよー俺が手に塩かけて、二人の大好物いーっぱい作って待ってるからな! 腹かっぽじって帰ってこい 」

「かっぽじるのは耳だ。お前の料理の為にがんばるさ、な? お前」

「ええ、アナタ……。ドロウの料理楽しみしているわ。でも、私達がいないからって料理漬けで睡眠をおこたらないように」

「へーい」

 お袋も親父も、厳格で驕ることをせずにどんな相手でも全力と節度を持って戦う人だった。だから負けるなんて……怪我すらもしないと信じて疑わなかった。だからお袋と親父が帰ってくる日もいつも通り料理をして、お袋と親父の好きな料理を沢山、沢山作って待っていた。

「仕込みよし、これで」

「ドロウ」
 
 仕込みが終わって帰ってくる時間丁度に、弱々しいけれどはっきりとした母さんの声が家の入り口から聞こえた。そのときは何で入ってこないのだろうと思ったけど、きっと仕込みが途中なことを心配して入ってこないんだと思って、お袋の声が聞こえた扉を、自分でも気持ち悪いくらいににっこにっこで開けたんだ。

「ッ母さんおかえ……り?」

 傷もなにもない、笑顔で俺の料理を待っているお袋と親父がそこに居ると信じて開けた扉の向こうは、両腕がなく、何日も止まることなく歩いたのだろう足はズタズタで血まみれで、上半身も下半身も……何もかもが血まみれとなっていた。そんな両腕のない母親の口には……親父の紫色の蝶のペンダントが、くわえられていて……。そんな母を見た俺は放心のあまり言ってしまった。

「親父は?」


「ドロウ……ごめんね。ご、めんなさ……。ごめッッッ。うぁ……あああああああああああああああああああああ!!!!」

 初めて見たお袋が大口を開けて泣く姿を、口にくわえられたペンダントは歯に引っかかって、血も涙も唾液も混じった苦汁をぽたぽたと玄関の床に落ちる音は、今にも覚えている。


「終わらない、あの人もそこ、あたしゃもここ、ここなんだよ。行っておいでドロウあたしゃはここから動かない」

「ここから動かないって、母さん一体なにする気……なんだコレ、おい! 魔法を、結界を解いてくれ! お袋! 
お袋! かぁさん!!!」





 私とグラスは予定通りにドロウ君に話しを聞くためにカフェに来た。プライベートな話しと言うことで従業員の休憩室にお邪魔をしています。カフェの皆様の休憩スペースにお邪魔するのは若干気が引けたけど、話しの内容的にとてもじゃないけれどオープンに出来る話ではないのでありがたかった。

「これが……【老い巫女の保護】の内容です。数々の冒険者に頼んだんだが……誰一人もお袋の結界は解けなかった。それで、今回の厄災の兆候で……俺は逃げれるけど、お袋はどうなるか不安で、不安でッ……!」

 それに……その紫色で蝶のイヤリングは心当たりがあるから、もしかしたら……悪魔族の国に居たあの魔物はもしかしたら、ドロウ君の……。やめようまだ確証には至って居ないのだから。

「話しは分かりました。一つ、ドロウ君に確認して欲しいことがあるのだけどいいかな?」

「なんですか、俺が出来ることならなんでも」

「このイヤリングに心当たりは?」

 いつものように空っぽのポーチに手を突っ込んで最初から入っていたかのように【幻蝶の耳飾り】を取り出して彼の前に差し出して見る。みるみるうちに目が見開いて、口が開きイヤリングと私の顔を何度も、何度も、見合わせる。どうやら、このイヤリングは……彼のお母さんのイヤリングで間違いないみたいだ。

「……ッ!!! それは、お袋のイヤリングです! なんで!」

 何故持っているか、その話しを横のグラスに叱られることを覚悟しながら話す。悪魔族の国で顔が黒い霧に覆われて腕が四本あり裂けた木の腹を持つ黒く、禍々しい魔物に襲われたときに落としていったものだということを、できるだけ事細かに伝えると。横のグラスから私にだけ向けられる冷気が首をひゅっと撫でてくる、コレ絶対にあとでもっと根堀歯堀聞かれるやつだ。

 ドロウ君の奢りで今度は失敗していない、とても美味しい紅茶をすすりながら、状況を読み込めていないドロウ君を待つ。その横で「カリスティア、後でまたお話がありますので」と、言葉で命を刈れるようようなひんやりとした低温の声音を耳元でささやいてくるけれど無視した。絶対いま横を向いたら氷を纏った鬼が見えることを知っているから。

「……します」

「ん?」

「お願いします! 報酬は俺の持っている資産の何もかもを持っていっても構わねぇから……お願いします! お袋にそのイヤリングを……それで出てきてくれるかわかんねぇーけど、こうやってお袋のイヤリングを持った貴方達が現れたのには……意味があるはずなんだ!!!」

「うん、任せて。できるだけのことをするよ」

 泣きながら頼まれたら、私が断れるはずもなく……元々押しに弱い性格ではあるのだけれども、できるだけのことはしようと了承する。なんか、ここまでトントン拍子に色々舞い込んでくると運命って本当にあるのかと思ってしまう。依頼の正式受理手続きをするために聞いた所によると、未だにペルマネンテに厄災は進行中でかつ5日後には魔族の国経由に国境まで進行してくる勢いだそうだ。

 善は急げ、話しを聞いたところで目線の冷凍ビームをまっすぐ私に向けて放ってくるグラスになんとか後で聞くと言うことで、一応は納得して貰いながら、事情は事情なので、グラスの水晶通信で軽くウィーンママとスケイスに依頼の詳細と今の状況を報告してから、すぐにこの町から歩きで一時間くらいの廃村へと出発をした。


「……なんかペルマネンテの魔物ってちょっと弱いね」

「魔力濃度が薄いですからね。その代わりに冒険者などの育成などがしやすくこの国に来てから冒険者を始める者が多いです。けれども今回の廃村の森ヤチェネクスは姿を隠すインビジブルキラーという魔物の生息地です。弱いと行ってもS級になるレベルの所なのは確か、油断しないでください」

「はーい、じゃあ最初の時に教えて貰ったあの水浮かべて死角見る奴使えるかね。攻撃する瞬間は一応姿見えるみたいだしね。丁度見えてきた」

 見た目は普通の森だけど、入り口には看板があってペルマネンテの言葉で、冒険者など戦闘の出来る者以外の立ち入りを禁ずると書いてある……というのを横のグラスに読んで貰った。そんなに重要ならヤバそうなのがわかりやすいように、赤い染料で書いて欲しいところだけれど……まぁ、あのデブ王が納めてるならそんなことに金使わないか。

「んじゃ、グラスの監督のもといきやしょーかね!」















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