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一眠りの6年でも変わる物と変わらない者

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「……結局着せられた」

 現在……多分18歳頃のグラスは今頃に仕事と修練を終えて家に帰っているはず。とのことで、夜のとばりが降りて星が瞬き澄んだ空気が身体を抜ける良い天気の中で、でばがめする気満々の様々なエルフから要らないエールを送られる。周りの目線が落ち着かなくて、現在グラスが家にしているという所に早足で向かう。この周りを飛ぶ光の球からもクスクス笑われて、顔が赤くなる。

(べ、別に夜這い仕掛けてこいって言われたわけじゃないし、あ、あとこんな夜中にわざわざ巧妙に隠蔽を使用してまで、見に来るお前らは暇人か~!!!)

 見るからに大きな大樹を基礎とした自然基準の村だから、でばがめといったら最高の娯楽なのだろうけど、娯楽に仕立て上げられる側は堪ったもんじゃない。恥ずかしさでグラスの家までかかれている地図を左手で握りつぶしながら、やっと家の前までたどり着く、たどり着いてすぐに恥ずかしさを押し殺してノックをする。心の中で(此処で恥ずかしがってウジウジしてたら、この暇人共の酒の肴にされるから嫌だ!)の一心での決死も雰囲気もクソもない少し乱暴君なノックでも、扉の向こうから記憶の中のグラスとは違う声変わりをして歳相応に低くなった声が返事をしてくる。

(……ひっひっふー! じゃない、のをかいて飲む、いや、そんなことしたら肴に、でもこんな気持ちで……あぁぁぁん!!!)

 周りの外野が、急に涼しい顔して堂々としているから、つまらないと野次が飛んでくるが安心してください。内心吹雪&台風の異常気象に見舞われてますよ私の心は!!! なんて威勢良く文句言えるはずも無く、ついには、木材の扉が開かれてしまう。

 どーにでもなーれ、っと括れても無い腹を無理矢理くくって、そうだ、いっそのこと接客だと思って笑おうとしても顔が緊張で引きつって笑えない。なんなら、今までの無表情にさえもなれてないだろう。いや、なれるわけがなかったのだ。

「カリスティアッ……。なんて顔を、ふふ、どうぞ入ってください」

 よく一目で分かったと関心しつつも、グラスの姿を上から下まで流すように見てみる。背丈はもう、追いつかないほど高くて、白銀の髪は長く一つにまとめられて切りそろえられた前髪と男らしさを感じさせつつも中性的な顔と綺麗な青色の瞳が、驚いた顔をした後に、目に涙を静かに浮かべながら優しく笑って子供の頃のように左手を繋いで引っ張ってくれた。中に入るとグラスらしい必要最低限の家具だけがそこに置かれていた、入って手を繋いだままリビングに連れて行かれて、椅子に座らせてくれる。こんな、こんなかっこよくなられたらなんて顔すればいいんだか……。

「その様子だと、目覚めてすぐに此処に来させられたのでしょう? すぐに軽い物を用意しますから待っていてください」

「うん、ありがとう」

 感極まるとはこのことか、いつの間にか左も右も頬がずぶ濡れだ。なんて顔を……そう言われて初めて自分が泣いていたことに気がついたのだ、あのときの告白してくれたグラスのように。そんな自分を座らせて優しく頭を撫でるとキッチンの方へ向かった。後ろ姿も、撫でてくれた手も6年の月日でここまで成長するのを感慨深いと思う反面で、その成長を見届けられなかった悔しさが胸に重しのようにのしかかるが、もう、思っても仕方ないことだとその重しに、すぐに終止符を討つ。

「お待たせしました、胃に優しい野菜のスープです。食べられそうならばパンもありますのでいつでも言ってください」

「わー、ありがとう! いただ……。ワタクシ、自分で食べられますことよザマス」

「下手くそな誤魔化し方をしても無駄です。お分かりでしょう? 私の性質」

「エーエー! わかってます。わーかーりーまーしーたッ!!!」

 四人用のリビング机の向かいでは無くて隣に座った時点で察してはいたけれども、やっぱり自分の手で食べさせようとしてきた。誤魔化しは、効くことは無くて結局私が折れて丁度良い温度のスープを飲ませられることとなる。美味しいしコクのある優しいスープは、エルフの国だからこそ取れる野菜がふんだんに使われてるのだろう……文句なしの花丸の美味しさで、あっという間に胃にするりと収まってしまった。

「おかわりはいりますか?」

「大丈夫、6年もなにも入れてないんじゃ急に入れたらあれだし……まぁ、6年の身体がこうやって動くのを見ると気にしなくてよさそうだけど、一応様子を見る」

「エルフの最先端治療プラントのおかげでしょう。胃のほうは繊細ですからね、その方が良いでしょう」

 そう言って、あっさりと立ち上がって皿を片付けるとこちらに戻ってきて、また隣に座るのかと思ったらそのまま後ろから包み込むように抱きしめられた。逃がさない、逃がしてなるものかっと言わんばかりに強めの抱擁だ。自分の首筋に顔を埋めたと思ったら、チリチリとした痛みが首筋に走ったと思うとすぐに安心したような吐息が走った場所にかかる。恥ずかしいものの、嫌ではないから何も言わず受け入れる。満足したグラスが首筋から離れると頭に語を乗せてくる。大分甘えたになったんじゃないか?と笑いそうになるも、すぅっとグラスの魔力の流れが変わったので、背筋が思わず凍り付く。

「グラス?」

「ここに、ここでずっと暮らしませんか」

 グラスは……私をこの国から出したくは無い、ずっと安全な所で居ろと言いたいのが、背中と私の身体を拘束する魔力の流れから分かる。けれど、それではいけないんだ。なんとなく断片的でノイズまみれの何かだけど……このまま居たら、安全も何も無いような気がするから。それに……私は、カロネちゃんもリュピアちゃんも置いたままにはできない。どのみち逃げられないのだったら……進むしか無いのだ。そう思う勝手な私は拘束するグラスの手に左手をそっと添える。

「できない。行かないといけない。世界が……リュピアちゃんやカロネちゃんもグラスも……」

「カリスティアを失うくらいなら、世界がどうなろうと国がどうなろうとも……他人が、私自身もどうなろうが構わない!!!」

 ギシギシと自分の身体がグラスの力で悲鳴をあげているが、それも受け入れる。頭から落ちてくる氷と評された者の熱い涙も、好意も、気持ちも、全て受け入れる。受け入れるけれど、私の考えはかわらない。何故か騒乱の中心に追いやられてしまったけど、それで腐って怖がって逃げていてもなにも変わらないならば、グラスも、リュピアちゃんもカロネちゃんもラブちゃんやウィーンママ……いろんな人が笑って暮らせる可能性を追いたい。

「なんて言っても、カリスティアは進むでしょう……そうして、結局こういうことになると私が折れるハメになる。わかりました、付いて行きます。私が、カリスティアを守ります」 

 結局はグラスは折れて、抱きついた手を放したかと思うと隣に崩れるように座って笑ってくるもんだから、私も口角が自然とつり上がるのが分かる、私に取っては一眠りの6年だけど懐かしくて、すこし冗談を言ってみたくなったので、悪戯にニカっと笑ってみせる。

「いや、危ないから私一人でいくから、付いてくんなー」

「歩く騒乱の貴女を野放しにしたら、周りが危ないので、カリスティアから周りを守らねばいけませんのでついて行きます」

「ついさっき、他人がどうなろうが構わないって言わなかったけー?」

「構いませんよ? ただ、憐れみは持ち合わせてますので、カリスティアにこき使われる未来の犠牲者を思ってのことです」

「ただ、こき使うのではなく、スキルを伝承するこき使いかただろー」

「おかげで私は元王子の中で唯一腐った食べ物から美味しい料理を作れるでしょうね。王子に腐ったジャガイモ握らせるのは世界中探しても貴女だけですよ」

「おかげで家事もできる色男になったじゃんかー」

 お互いに言い合いと冗談の言い合いで一夜が明ける。この言い合いが最後にならないようにお互いに気を引き締めて旅立ちの準備を始めるのであった……。




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