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奥ゆかしい処刑場

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 それぞれ、出発前に身支度を、カリスティアは冒険の為の軽い防寒具、登山セット、治療箱など、具現化で手軽にできる分だけ用意をして、いざ、出発。

「アガガガ、さっきまでは美しい花畑がなじぇ、こんな吹雪に……」

「ふぇ、くっしゅん! うー……。町に付く前に凍死する……熱だす。防寒具役に立たないいいー……くしッん!」

「ウィーン様、火の魔法で彼らを暖めながら進みますので魔物の処理お願いします」

「グラス君ありがとう、わかったわ……。二人ともごめんなさいね、カリスティアちゃんの魔法武器だと遠回りの方向さしてたから、通常の道を案内したんだけど……ちょ、ちょっとカリスティアちゃんとデブ王さん?にはキツかったわね」

 救援要請で町に迎えに行ける範囲が、悪魔の国を抜けてお隣の魔族の国の所じゃないと無理というのをグラスに伝えられた一行はならば、一番ここから近い魔族の国の町か村に行くために歩いていたのだが、ウィーンにもっと早くて良い道があると伝えられて、カリスティアの短剣とは少しずれた方向へ行ったらあら不思議、花の雨と吹雪を交互に繰り返すデタラメな気候に早変わり。

 悪魔族のウィーンは勿論、氷雪適応体質のグラスは、二人の寒さを少しでも和らげるよう衣服を明け渡した軽装でもなんてことはなしに、春の気候とは変わらない顔で歩いている。カリスティアは歩きながら氷雪適応の腕輪かなんか具現化しようとしていたのだが、寒さと寒さからくるくしゃみで、寒さで集中できなくて魔力を練るのが遅いわ、くしゃみで練った分が霧散するわで、半場諦めてグラスにひっついて歩いていた。

「70年前のハンマーじゃ流石に使いにくいわ」

 この花の雨と吹雪に適応できる屈強な魔物相手に、人妻の包容力のある姿で身の丈ほどのハンマーで軽くなぎ倒して進むウィーン。そうして進むと吹雪が止んですぐに、青空から色とりどりの花が降ってきて、花が落ちると吹雪で降り積もった雪が、しゅわ、しゅわ、と溶けて花が積もってゆく、そうして一気に春のような暖かい気候へとなっていくのだが。

「熱い……寒い……熱い……寒い……ちょっと待って、スキルでデブ王と私の分の氷雪対応……は魔力を使うから寒さを無効にする上着作る」

「速く作れ……。次に吹雪が着たら俺は死ぬぞ」

 極寒の中で急に春の気候になったものだから、身体は暖かいを通りこして熱いと感じて汗を吹き出す。そうやって通る物の体力を奪うこの通りは【奥ゆかしい処刑場】との異名を持つ場所である。カリスティアは次に吹雪になったら確実に死ぬ予感が全身を駆け巡るままに【寒さ無効上着】を二人分作り、それぞれグラスとウィーンから借りた衣服を返してそれを着る。来た瞬間にまた吹雪になったが、カリスティアは寒さが感じないうれしさと、間に合わなかったら……っと思うゾクゾク感。もう二度とこんな所来るもんか!っと少しだけ頬を膨らまして歩みを進めた。



ーーー

 日が昇る前から日没まで歩き通しで、やっとのこと抜けたデタラメ気候の処刑場。お散歩気分のウィーンに食材の解体と料理や警戒など全てを任せて、人間三人のうち二人はぐったりと火に当たりながらと乱雑に敷いた布の上に寝転ぶ。馬鹿元国王は疲れていびきかいてでっぷりと脂肪を蓄えた腹を存分に出してゴロゴロと警戒心無く夢の国へ、グラスは此処で緊張の糸が切れたのだろう、最初はカリスティアに見張りはするから寝るように言ったのだが、カリスティアが無理矢理に寝かせて、膝枕で頭を撫でて胸をトントンと心臓と同じ速度で、胸を叩くと眠らないと言わんばかりに涼しい顔をしていたグラスがいつの間にかスヤスヤと寝落ち。

「カリスティアちゃんの寝ちゃって大丈夫よ?ママに任せて」

「まだ大丈夫、もうちょっとこのすまし顔鉄面皮の寝顔を拝んでから寝るよ」

 冗談で言い続けてたママ呼びは、最初は何気なくスルーされていたのだが繰り返しそう呼び続けてると最近は進んで自分をママだと言ってくれる。勿論、冗談半分なのはそうなんだけれども。悪魔の国の月は赤く、木々は大口を開けたように裂けて、地面は相変わらずの紫色。こんな場所だからか疲れているはずなのに眠れないのだ。そんなことをウィーンは察してか、あたりの警戒はしつつも「ちょっとお話しましょう。二人ともぐっすりだからちょっとくらいじゃ起きないから」っと気遣ってくれていた。


「いらっしゃいませ! こうかな?」

「いらっしゃいませ! こんにちは~が望ましい。お客様に会話の余地を与えないいらっしゃいませは望ましくないって私の居たところじゃそうなってた。あとは、お客様の鼻か顎をみるように、じゃないと睨んでいるようになってしまって失礼にあたる。いらっしゃいませ~こんにちは、ごゆっくりご覧くださいませまでやって、普通の接客って言われてたわね(たったの時給800円程度でここまで、求めてくる良い国ジャパンのお客様だけの常識だけどな)」

「むぅ~どうして無表情からそこまで顔を変えられるのかママわかんない~!」

「まぁ、リチェルリットで接客やってみたけど、私の居たところみたいに料理が一分以内に出てこないと暴れる客も居ないし、売り上げがノルマまで行かなくて発狂して、熱した油掛けてくる上司もいないし、いらっしゃいませって言っただけで、話しかけんな死ねって言ってくる客もいないから……大丈夫だよ……うん」

 普通に接客は怖くはない、怖いのは客であることをフォローしたつもりが、しっかりとウィーンに接客は怖い仕事というのが植えついてしまい「絶対にしないわ」っと真顔で拒否されてしまった。カリスティアは必死に誤解を解くも解かれることはなく、「グラス君に買って貰えて良かったわね……奴隷生活辛かったでしょう?」っと確かに奴隷とどっこい、下手すれば奴隷より酷い労働環境だったから否定はできないけれど、色々違う解釈をされてしまう結果に終わった。

 接客や、好きなこと、色々話し終えて、そろそろカリスティアも眠くなってきた所で、ウィーンが急に緑黄の目を見開き国王の首根っこを掴み叫ぶ。

「カリスティアちゃん!!! グラス君を持って後ろに飛んで!!!」

「ガァァァァァアアァあぁぁぁぁぁア、アガア、アァ……」

「何コイツ!?」

 ウィーンに言われるままに、後ろに飛び上がると、今まで薪と座るために適当に折った丸太があったところが、急に出てきた黒い人型の物体が口から放った黒い光線で一瞬にして掻き消える。爆風はなく、黒い光線が触れた部分だけ音もなく消える。月明かりたよりに姿を見ると、腕が4本と周りの大口を開けたように避けている木々とおなじように避けた木のようなハラと、顔は黒いもやがかかってみえない化け物。ウィーンが化け物に聞こえないように小さく耳打ちしてくれた。「この森の主で滅多にお目にかかれない魔物だけど、目が悪いからこのまま隠れて」ちゃっかりグラスとデブ王に精神系魔法のスリープを掛けてから、ウィーンがカリスティアの身を片手で守るように寄せて警戒をする。

 やがて、その化け物が後ろをくるりと向いて、先ほどの光線を吐いてあたりの物質を消しながら、けたましい唸りをあげて去って行った。あの化け物が向かった方向に、キラリと光る何かがあって、ウィーンが別の開けた土地を探しに行っているのを見計らって、寝ている二人を置いて光る何かを拾い上げた。

【幻蝶の耳飾り】

・自分が対象に殺される可能性を教えてくれる。

幻は蝶のようにひらひらとつかめず実体はない、けれど貴方が信じればそれは真実になる。幻覚さえも真実と肯定する自己愛は、貴方を守る障壁となります。

 見た目は暗闇の中薄く発光する艶やかな紫色のイヤリング。魔法で加工されているのか、渇望の指輪のように薄く魔力を秘めた一品。何故か自分が持っていないといけないような気がして、迷わずにストックに入れる。

「カリスティアちゃーん。離れちゃだめじゃない」

「ごめんなさーい。光線で消えた後知りたくてごめん」






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