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滴るような不穏の楽しみ

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 一日目のお祭りは、出場していた幹部とカリスティアとグラスと他の強豪達の圧倒試合で終了した。けれども観客は笑顔だった。情勢の不安定で、自国と他国が不穏に揺れ動く中でそれを忘れさせてくれるのならばと、この祭りにあらゆる者が集まった。市民、貴族、冒険家、犯罪者、商人、あらゆる者が集まるこの祭りでも……例外なく、全ての人間を法の下で受け入れるのだ。

「ほっほっほ、ということでじゃ、絡まれてる女人を助けてられたのは素晴らしいがね、断罪はこちらに任せてくれんか」

 最初にあった幹部の会議(数名欠席あり)で居た。髭を蓄えた髪の毛も服も真っ白な仙人みたいなおじいさんの王国法管理最高裁判官 ロイエ・ペッカートが、カリスティアとグラスの二人の子供にお菓子をごちそうして食べさせている途中に、カリスティアに釘を刺した。日当たりの良い木の香りと花の香りが漂うカフェ【ハーツフラワー】の二階バルコニーでの見た目穏やかな孫とおじいさんのお茶会にしか見えない光景だと、勘違いした婦人が微笑ましいと笑う声が聞こえる。

 

 なぜ、このような自体になったのはグラス試合が終わって数刻後に、とある女の人が柄の悪い自由をはき違えた冒険者に絡まれているのをカリスティアが発見した。グラスはカリスティアに任せたら余計な災害になるから、自分が行くと説得するも、カリスティアは聞かずに柄の悪い冒険者の男一人を拳で黙らせたあげくに、カリスティアが具現化スキルで作った油性ペンで「単細胞」と冒険者の額に書いて、グラスの静止も聞かずに引き釣り回しているところを、試合を瞬きの速さで勝ちをもぎ取り、日課の見回りをしているロイエがたまたま見かけて今に至る。

「カリスティア……。止めに入り無力化するまででしたら許可されますが、それ以上、今回のは額の落書きなどはこちらの法で禁じられています。止めに入り無力化まで、それ以上は罰則はこちらも場合によっては事を起こした人物と同等の罰則がかかる可能性があります。全ての裁きの決定権は裁判官に委ねられます」

 グラスもちゃっかりロイエのオススメカフェのコーヒーを味わいながら、今回このおじいちゃんに捕まった理由を淡々と話してくれる。最近は本当に柔軟になったなグラス……っと感慨深いながらも大分自分の扱いに慣れている余裕綽々な態度が、ちょーっと悔しく感じて下唇を噛みそうになるカリスティア。それを拗ね始めたと勘違いしたロイエが優しくカリスティアの頭を撫でて、髭を蓄えた顔で笑う。

「っというてもの、不問じゃが余りやんちゃするでないぞ、おじいちゃんと約束してくれんかね?」

「うん、次からはしないよー。あとこれ、助けた女の人の持ち物なんだけどね、お姉さんすぐ居なくなっちゃって返せなくて、なら返してあげてほしいの」

 仙人のような見た目の御仁が、なにかの粉の入った瓶を見て僅かに目を陰らせる。それはそうだろう、異世界でもそういう薬はあるのだ。カリスティアは接客業で壊れた自慢の表情で無表情を貫く、ロイエはしきりに開けてない事をカリスティアと念を込めてグラスにも優しい口調で聞いてきたが勿論開けてはない。それがわかると、ロイエはソレを受け取り「ありがとよ」っと言って三人分の代金と追加のお菓子と飲み物を頼めるように銀貨3枚を店に余分に払って出て行った。

「ねぇねぇ、グラス。なんかおじいちゃんがビックリしたけどあの白くて綺麗な砂みたいなのってなんていうの?」

「なんでしょうね……。けれども高価な物と聞きますから、知り合いでも見知らぬ人に好意で渡されても受け取ってはいけませんよ。その砂を使った詐欺もありますから」

 上手く躱されてしまったカリスティアはあっさりと身を引く、こればっかりは関わったら面倒を通りこして最悪を招きそうだから。お互いにおじいちゃんの好意に甘えてカフェに少し長居させてもらってカフェの店員さんに感謝と謝罪をして二人のお土産探しを再開させた。

「うーん……。やっぱり具現化スキルで」

「聞こえてますよカリスティア?」

 お土産がどうもパッとしないので具現化スキルでちゃっかり用意しようとしたらグラスに釘を刺された。グラスと話し合った結果で絶対に購入した材料で具現化することとのことで手を打って二人のそれぞれ喜ぶだろう物を具現化して買い物は終わった。


「カリスティアさーまー!!!」

「ただい、ま? えーっとリュピアちゃんの手に握られている貴族のひとって」

「なんでもないです! 姫様も今取り込み中なのですこしお待ちくださいませ!」

 二人一緒に城に帰って最初に姫に会いに行こうとしてグラスがノックをすると出てきたのは、頭から血を流して白目剥いて泡を吹いている男の左腕を引きずったリュピアちゃんだった。リュピアちゃんは取り込み中とだけいってドアを閉めてしまう。

「…………」



「…………」

 グラスとカリスティア、どちらも姫の扉を開ける気にはなれずに。時折聞こえてくるカロフィーネ姫の「それぞれ、薬、密偵、なんと嘆かわしいですわ!」という声と男の悲鳴を聞きながらその取り込み中が終わるまで待ち続けていた。

(ちょ、ちょっと教えたらこんなに強くなるとは……怒らせないようにしよ)

(ついに押し負けてアレを了承してしまったのですね……国王様)



 

 
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