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プロローグ
第2話 人生を取り返したい女探偵
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白装束の二人が去った後、俺は一人テーブルの前に座り、彼らからもらった錠剤を眺めていた。
――代金は後払いで構いません。効果が実感できたら、ここまでご連絡ください。
白装束の女、「アイボリー」が残した言葉が耳にこだまする。「アイボリー」が話した連絡先はパンフレットの下に書いてある。
俺はすがる思いで錠剤を手に入れた。
――本当にこれを飲めば俺の人生は変わるんだよな……
外れくじばかりの人生だった。もう、これを飲めばゴミみたいな人生と、おさらばできる。また、人生をやり直せる!
俺は立ち上がると、透明なグラスに水を注いだ。
錠剤が入ったビニールを破り、俺はその錠剤を掌に載せた。
左手にコップ、右手に錠剤を乗せ、俺はそれを口元に運んだ――
ピンポーンピンポーン
部屋のインターホンが鳴っている。
あとちょっとで生まれ変われたのに……! 俺は思わず憤ってしまった。
スマホを眺めると、もう時刻は夜十時を回っていた。なんだよ、こんな時間に……。
俺は怒りを抑えながらもインターホンが連打されている玄関口に向かった。
カードキーを取り出し施錠を解除して、ドアノブを引く。
「誰ですか」
不機嫌そうな声でドアを開ける。
――あ……! よかった、まだ飲んでいなかった……!
ドアの先には俺より少し背が低い、長い黒髪の女性。そして、彼女より背丈が五十センチほど低い、明るめの茶髪の女の子。
ふたりは当初、俺の姿を見て目を丸くしていたが、安堵したのか胸に手を当てて安堵の表情を見せた。
「つ……椿? どうしてお前がここに……?」
俺には何が何だか理解できなかった。目の前にいる女は、俺が小学生時代からの友人である女――神原椿が目の前に立っていた。
椿と会うのは成人式以来だが、まさかこんな形で再会するとは……。
しかもその椿はおかしな風貌をしている。椿は茶色い前後につばがついた帽子に、白いシャツの上に茶色いマント、そしてスカートを身に着けている。一昔前の探偵のような風貌だ。
その隣の女の子も似たようなコスチュームを着ているが……そもそもこの女の子は誰なんだ?
「あ、ごめん……じゃなくて、あなた、さっき変な二人組から何かもらった?」
「変な、二人組?」
「そう。白い服を着た男の人と女の人来なかったかしら? 私たち所用で東京に来ていたんだけど、ちょうどその二人を見かけて、後を追ってきたの。そしたらちょうどあなたが住んでるアパートに二人組がいたから、後を伺っていたの」
椿の状況説明に、俺の脳内は大混乱状態だった。
あいつらってやばい奴なのか? あと、“私たち”って……ほかに誰かいるのか?
「な、なあ、椿。まず、知りたいことがめっちゃあるんだけど……」
「後で詳しく話すわ。それより……薬、もらったでしょ? “人生をやり直せる薬”」
話題をそらされむっとするが、今は椿の意見を飲み込んだ。
とはいえ、幼馴染に人生をやり直したいと話すことは気が引ける。ふと椿の顔を見ると、彼女は眉根を寄せつつもその目は真剣に俺を見ていた。椿の強いまなざしを見ると、話さざるを得ない気にもなってしまう。
「……ああ、今部屋の中にあるよ」
「入っていいかしら」
「……」
追い返したいが、なぜか喉で言葉が突っかかる。俺はものすごい違和感を抱いていた。
「いいのね? じゃあ、失礼します」
そう言って椿は革靴を脱ぐと、部屋の中に入って行った。一緒にいた女の子も後に倣って部屋に上がる。
目の前に明るい茶髪の女の子が通り過ぎたとき、彼女は俺に顔を向け、一言お辞儀した。
「ごめんなさいね、リツさん……」
「あ、ああ……」
あれ、なんでこの子、俺の名前知ってるんだ?
しかもこの横顔、どこかで見たような……いや、今はそれどころじゃない! 俺は急いで2人を追いかけた。
「ちょ、椿!」
俺は声をあげるが、二人は意に介さずテーブルの上にあるパンフレットと薬を見ていた。
「お姉ちゃん、これ、わたしが飲んじゃった薬だよ」
「やっぱり。あいつ、うっかり飲むとこだったみたいね」
椿はため息をついて胸を撫で下ろした。
「もう少し遅かったら……危ないところだったわ」
「危ないって、勝手に人の家に上がっといて、お前らいったい何なんだよ」
俺は怪訝な顔になって椿たちに声を上げた。
「ごめんね。でも、この薬、絶対飲んじゃ駄目よ。飲んだらあなたも……紅葉みたいになってた」
そう言って椿は茶色い髪の女の子に顔を向けた。女の子はこくりと頭を上下させる。
紅葉、という名前。俺には聞き覚えがあった。
でもあの子、前会ったときは中学生だったよな……。今は高校生のはず。なんでこんなに小さいんだ? 人違いか? でも、椿を見て “お姉ちゃん” って言ってるし……。
「まさか、この子、椿の妹の、紅葉ちゃんか?」
「ええ。紅葉はこの薬を飲んだのよ」
「え、マジか⁉︎」
俺は驚愕のあまり目が飛び出そうになった。
この女の子が、紅葉ちゃん? 俄かには信じられない。
確か、最後にあったのは三年前の冬、成人式のころだ。車から晴れ着姿の椿と、中学生の制服を着た女の子がいたけど……。
記憶の中の紅葉ちゃんと、目の前にいる女の子を見比べる。
確かに顔は幼い頃な紅葉ちゃんそのものだ。
「い、一体、紅葉ちゃんに何があったんだ?」
「薬を飲んで小さくなってしまった。この“人生をやり直せる薬”に救いを求めてね……」
――代金は後払いで構いません。効果が実感できたら、ここまでご連絡ください。
白装束の女、「アイボリー」が残した言葉が耳にこだまする。「アイボリー」が話した連絡先はパンフレットの下に書いてある。
俺はすがる思いで錠剤を手に入れた。
――本当にこれを飲めば俺の人生は変わるんだよな……
外れくじばかりの人生だった。もう、これを飲めばゴミみたいな人生と、おさらばできる。また、人生をやり直せる!
俺は立ち上がると、透明なグラスに水を注いだ。
錠剤が入ったビニールを破り、俺はその錠剤を掌に載せた。
左手にコップ、右手に錠剤を乗せ、俺はそれを口元に運んだ――
ピンポーンピンポーン
部屋のインターホンが鳴っている。
あとちょっとで生まれ変われたのに……! 俺は思わず憤ってしまった。
スマホを眺めると、もう時刻は夜十時を回っていた。なんだよ、こんな時間に……。
俺は怒りを抑えながらもインターホンが連打されている玄関口に向かった。
カードキーを取り出し施錠を解除して、ドアノブを引く。
「誰ですか」
不機嫌そうな声でドアを開ける。
――あ……! よかった、まだ飲んでいなかった……!
ドアの先には俺より少し背が低い、長い黒髪の女性。そして、彼女より背丈が五十センチほど低い、明るめの茶髪の女の子。
ふたりは当初、俺の姿を見て目を丸くしていたが、安堵したのか胸に手を当てて安堵の表情を見せた。
「つ……椿? どうしてお前がここに……?」
俺には何が何だか理解できなかった。目の前にいる女は、俺が小学生時代からの友人である女――神原椿が目の前に立っていた。
椿と会うのは成人式以来だが、まさかこんな形で再会するとは……。
しかもその椿はおかしな風貌をしている。椿は茶色い前後につばがついた帽子に、白いシャツの上に茶色いマント、そしてスカートを身に着けている。一昔前の探偵のような風貌だ。
その隣の女の子も似たようなコスチュームを着ているが……そもそもこの女の子は誰なんだ?
「あ、ごめん……じゃなくて、あなた、さっき変な二人組から何かもらった?」
「変な、二人組?」
「そう。白い服を着た男の人と女の人来なかったかしら? 私たち所用で東京に来ていたんだけど、ちょうどその二人を見かけて、後を追ってきたの。そしたらちょうどあなたが住んでるアパートに二人組がいたから、後を伺っていたの」
椿の状況説明に、俺の脳内は大混乱状態だった。
あいつらってやばい奴なのか? あと、“私たち”って……ほかに誰かいるのか?
「な、なあ、椿。まず、知りたいことがめっちゃあるんだけど……」
「後で詳しく話すわ。それより……薬、もらったでしょ? “人生をやり直せる薬”」
話題をそらされむっとするが、今は椿の意見を飲み込んだ。
とはいえ、幼馴染に人生をやり直したいと話すことは気が引ける。ふと椿の顔を見ると、彼女は眉根を寄せつつもその目は真剣に俺を見ていた。椿の強いまなざしを見ると、話さざるを得ない気にもなってしまう。
「……ああ、今部屋の中にあるよ」
「入っていいかしら」
「……」
追い返したいが、なぜか喉で言葉が突っかかる。俺はものすごい違和感を抱いていた。
「いいのね? じゃあ、失礼します」
そう言って椿は革靴を脱ぐと、部屋の中に入って行った。一緒にいた女の子も後に倣って部屋に上がる。
目の前に明るい茶髪の女の子が通り過ぎたとき、彼女は俺に顔を向け、一言お辞儀した。
「ごめんなさいね、リツさん……」
「あ、ああ……」
あれ、なんでこの子、俺の名前知ってるんだ?
しかもこの横顔、どこかで見たような……いや、今はそれどころじゃない! 俺は急いで2人を追いかけた。
「ちょ、椿!」
俺は声をあげるが、二人は意に介さずテーブルの上にあるパンフレットと薬を見ていた。
「お姉ちゃん、これ、わたしが飲んじゃった薬だよ」
「やっぱり。あいつ、うっかり飲むとこだったみたいね」
椿はため息をついて胸を撫で下ろした。
「もう少し遅かったら……危ないところだったわ」
「危ないって、勝手に人の家に上がっといて、お前らいったい何なんだよ」
俺は怪訝な顔になって椿たちに声を上げた。
「ごめんね。でも、この薬、絶対飲んじゃ駄目よ。飲んだらあなたも……紅葉みたいになってた」
そう言って椿は茶色い髪の女の子に顔を向けた。女の子はこくりと頭を上下させる。
紅葉、という名前。俺には聞き覚えがあった。
でもあの子、前会ったときは中学生だったよな……。今は高校生のはず。なんでこんなに小さいんだ? 人違いか? でも、椿を見て “お姉ちゃん” って言ってるし……。
「まさか、この子、椿の妹の、紅葉ちゃんか?」
「ええ。紅葉はこの薬を飲んだのよ」
「え、マジか⁉︎」
俺は驚愕のあまり目が飛び出そうになった。
この女の子が、紅葉ちゃん? 俄かには信じられない。
確か、最後にあったのは三年前の冬、成人式のころだ。車から晴れ着姿の椿と、中学生の制服を着た女の子がいたけど……。
記憶の中の紅葉ちゃんと、目の前にいる女の子を見比べる。
確かに顔は幼い頃な紅葉ちゃんそのものだ。
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