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第6章 泥棒ネコと悪戯ウサギ

第41話 ライブ打ち上げで、先輩たちに挟まれるタイプの百合(前編)

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 ライブ会場から事務所に社用車で移動すること一時間。
 さらに事務所で撮影機材の片付けを手伝い、ロッカールームで私服に着替えると、時刻は日付をまたいでいた。

 数ヶ月前の川崎ばにらなら、「今日はおつかれさまでした!」と、先輩たちに頭を下げ、そそくさと帰る所だが――。

「ずんだにみんな、今日はおつかれさまやでぇ! レンタルスペース、いいとこ借りといたよ! ウーバーでご飯も飲み物も頼んどいた! 今日は朝まで騒ぎ倒すで!」

「「「「おぉー!!!!」」」」

「……ぉ、ぉぉ」

 今日は美月さんの誕生祭ライブの打ち上げに参加することになった。

 ゆき先輩(現在も絶賛謹慎中)が事務所前に手配したワゴンタクシーで、事務所から直で打ち上げ会場へ。

 場所は文京区は白山通り。
 飲食ビルの六階。

 エレベーター降りてすぐの受付を通るとドリンクバーがあり、そこから灰色の廊下が延びている。廊下には左右に二つずつドアが並ぶ。突き当たりは非常階段。
 めちゃくちゃリッチなカラオケ店という感じだ。

 部屋はワンルーム二つ分くらいの広さ。
 広すぎず狭すぎ。呑み疲れて眠るのにもちょうどいい感じ。
 床はピンクとミルク色のタイルカーペットが敷き詰められ、中央にはガラス張りのローテーブルにクッションが置かれている。さらに三人掛けのソファーがひとつ。
 シーリングライトのオレンジの光が落ち着いた雰囲気を醸し出している。

 思わず「女子力高ッ!!!!」と叫びたくなる場所に――。

「女子力高ァッ!!!!」

「あひる、うるさいよ。他のお客さんの迷惑になるでしょ」

 あひる先輩が私の代わりに心の声を代弁してくれた。

 そうですよね、女子力高いよね。
 こんな所、場違いですよね。
 カラオケだって、数えるほどしかばにーら入ったことないのに。

 いやけど、ずんだ先輩の家と比べれば。

「はいはい、入り口でもたもたしてないでさっさと奥に入っちゃって。あ、ずんだとりんごはテーブルの真ん中ね。今日の主役なんだから」

 配信のキャラとは打って変わって、しっかりと仕切るゆき先輩。
 そんな彼女に促され、私たちは思い思いの場所に座った。

 ずんだ先輩とりんご先輩を中心に、左端から――すず先輩、もみじ先輩、いく先輩、ぽめら先輩。右の端から――うみ、ゆき先輩、あひる先輩、という並びだ。
 ドリンクバーで人数分のソフトドリンクを用意して、すぐに乾杯――。

「ちょっとばにら。なんでアンタそんな離れた所に座ってるのよ」

「…………バニ。なんか、錚々たる面子に気後れしちゃって」

「アンタ、その錚々たる面子のトップじゃない。なに言ってんの」

 と、行きたかったがそうはいかず。
 部屋の隅で体育座りをする私を『氷の女王』が憮然とした顔で睨んだ。

 まあ仕方ない。
 宴会でこんなことしてたら怒られて当然だ。
 けどけど、苦手なんだから仕方ないじゃないですか。

 やはり来るんじゃなかったバニ――。

「まったくしょうがないなばにらは。ほら、委員長の隣、空いてるゾ☆」

「ゾ☆じゃねえんだわ! お前と隣になるとセクハラされるから絶対いやバニ!」

 こんな時でもお決まりのスーツ姿。
 バリキャリウーマンお疲れスタイルになったうみが、黒いタイトスカートに覆われた膝を、ぽんぽんと叩いて私を招く。

「ばにらちゃん、そんな緊張しなくていいのよ」

「そうだよばにらちゃん! 打ち上げなんだから楽しくやろう! 今日は先輩も後輩も、大人もJKも、狐も人間も――関係なく無礼講きーつね!」

 ゆったりしたセクシードレスのもみじ先輩と、有名私立高校の制服のすず先輩がけらけらと笑う。二人とも、なんか顔が赤い気がするけれど、まさかもう呑んでるの?
 というか、すず先輩ってたしか未成――。

「おうおうおう! ばにらそんな所でなにやっとんのじゃ!」

「お前、この中で一番後輩だろがぁ! カルピス注いで回らんかい!」

「あひる先輩! ゆき先輩! めんどくさい絡み方やめてもろて!」

「……あれ、ゆきち? この持ち込みのカルピス――原液じゃない?」

「え? カルピスはカルピスじゃないの?」

「え?」

「え?」

「コントか! あんたらこそ打ち上げでなにやっとんのじゃ!」

 お揃いの白と黒のパーカー姿のゆき先輩とあひる先輩がコントをやらかす。
 これにはちょっと緊張がほぐれた。

「……いいな、ばにらちゃん」

「い、いく先輩?」

「……あたしもそっち行っていい? 人が多い所、苦手でぇ」

 そして、なぜか室内なのに野球帽を被っているいく先輩が、羨望の眼差しを私に向けてくる。来られても、逆にもっと気まずくなるだけじゃないですかね。
 部屋の四隅はまだ三つ空いてるので、そのどれかにしてもろて。

「ほら、ばにら。ウチの隣を空けといてあげたからおいでー」

「うぇっ⁉ ぽめら先輩⁉ そこってずんだ先輩の隣……⁉」

「実は最近、ウチってば風水もはじめたんだよね。今日のばにらのラッキースポットは、ウチとずんだの間ってさっき占いで出たんだわ」

「いつの間にそんなことやってたバニですか⁉ 絶対嘘ですバニじゃん⁉」

「占いを信じるも信じないも貴方次第ですよ? この秋田ぽめらを信じなさい!」

「いつもは『占いは占いだから、信じすぎてもいけないよ』って言ってるのに、ここぞという時だけそれっぽいこと言う!」

 黄色のゆったりとしたワンピースの上に、渋柿色のサマーニットを羽織ったぽめら先輩が私のことを手招きする。ぽんぽんと叩くのは、彼女とずんだ先輩の間に置かれているクッション。本当にきっちり一人分のスペースが空けてある。

 これは流石に断れない――。

 しぶしぶ私はグラスを持ってぽめら先輩とずんだ先輩の隣に座る。
 コルクコースターの上にグラスを置くと、ずんだ先輩が湿っぽい視線でこっちを見つめてきた。「ふぅん」と、彼女がなんだか不満げに呟く。

「私の言うことは聞かないのに、ぽめらの言うことは聞くんだ?」

「そ、そういうことじゃ!」

「じゃあ、どういうことなわけ? 説明してよ?」

「それは……今日の主役は、ずんだ先輩で。その隣に、ばにーらみたいな後輩が座るのは、なんか『違うな』って」

「大トリ勤めたアンタが座らないで誰が座るのよ!」

「…………バニ」

 紅いジャケットにネイビーグリーンのタンクトップ。
 紺のスキニージーンズに包まれた脚を折り、女座りをした美月さん。
 そんな彼女が私の肩に手を回して強引に身体を引き寄せてくる。

 お互いの睫が見えるほどの距離に頬が熱くなる。

 だから、ちょっと距離が近いですって、美月先輩!

 みんなの前なんですよ。
 宅呑みじゃないんですから。

「それでは、ライブおつかれさまでした! 無事にずんだの生誕ライブが終ったことを祝して――乾杯!」

「「「「かんぱぁーい!!!!」」」」

 そんなドギマギとする私を余所に、ゆき先輩の音頭で打ち上げがはじまった。

☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 陰キャに呑み会って難易度高いですよね。(白目)
 ぽめらの機転で、無事にずんだの横に並ぶことにできたばにらだが、この呑み会を乗り越えることができるのか。死ぬなばにら。呑み会も社会人のたしなみだ。。。

 並び順にもちょっとした関係性が滲み出ていますね。こういう「細かい所に出てくる親密度しゅき」という方は、ぜひぜひ評価をよろしくお願いいたします。m(__)m
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