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第二章 素望
17 不器用な心
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「ただいま」
遅くなってしまったので、恐る恐るリビングへ入る。
するとウロウロと部屋を歩き回る落ち着かない様子の母がいた。
「何していたの!電話しても全然出ないで。また倒れたのかと心配したじゃ無い!」
電話なんてかかってきていたかな、と携帯を確認する。
「病院だから入るときに切ったんだった。ごめんねお母さん、気がつかなくて」
「気をつけなさいよ。病院?なんで病院なんか行ったの?」
何から説明したらいいのか、今日は色々な事が起こり過ぎた。
「えっとね。今日のクラブ終わりにみんなで喫茶店に行ったんだ。そこでクラブのメンバーの子に、お姉さんの入院している病院に来て欲しい、って言われて無理やり連れていかれちゃって」
「そうなの。取り敢えずよかった、何もなくて。、それで、なんでその子は空太を連れて行きたかったの?」
「わからないんだけど。お姉さんに会わせてっ、て言われたんだって。でね、そのお姉さんがいい人だったんだ。僕にもあんなお姉ちゃんが居ればいいのにな」
やっと落ち着いたようで椅子に腰掛けた。
「あら、お兄ちゃんなら居るじゃ無い。姉も兄もそんなに変わらないわよ」
「そうだけどさ...お兄ちゃん僕のことあんまり好きじゃ無いでしょ」
僕は本音を吐露する。
母は目をパチクリとさせた。
「空太もまだまだね。どんだけ達也が空太のこと考えているか。あなたが病気になった時なんてスッゴイ怒っていたのよ。弟を傷つけた先生は許さないって、訴えるぐらいの勢いだったわね」
今度は僕が目をパチクリさせた。
「ホント?だってお兄ちゃん僕には何にも言ってこないし。最近なんて、あんまり喋ってくれないよ」
「嘘じゃないわよ。でも、あの子、分かりづらい性格しているからね。あなたが見ているところでは絶対見せないけど結構悩んでいたみたいよ。なんたってお兄ちゃんだからね」
「そうなんだ。全然気付かなかった」
「まぁ分からないのも無理ないわ。達也は恥ずかしがり屋で、不器用だからね。不器用なりに色々考えているみたいよ」
そうだったんだ、僕の見ていた部分は、兄が必死に見栄を張って作った表面の上澄みだったのかもしれない。
きちんと理解しようとすれば、兄の心の奥にある本当の優しさに気付けたのかもしれない。
そう考えると怒ることも表面上の怒気だけを見れば怖くなってくるが、その奥にある真意がわかればそんなに嫌な事でも無いのだろう。
怒られて単純に怖いと思ってしまうのは僕の浅はかな部分なのかも。
「でも、お兄ちゃんって損な性格だね。僕みたいに家族でもわかってあげられない人が居るぐらいだから、いっぱい誤解されているんじゃない?」
「そうかもしれないわね。でもあの子は、本当のところは優しいから、分かってくれさえすれば仲良くなれる。ほら充くんとか凄く仲良くしてくれるじゃない。何も全員と仲良くなくてもいいの。何かあった時に、絶対に味方してくれる友達が数人いれば人生それでいいのよ」
そうなんだろうけど、そうゆう友達を作るのが一番難しい。
「僕には一人もいないよ」
「これから作ればいいじゃない。写真クラブの人だっていい人いるんでしょ」
「うん。いい人ばっかり。でも、あの人達からすると僕は友達なのかな?いっぱい友達居そうだし」
「それは分からないけど。人間、優しくすれば優しさが返ってくるわ。そうしていればいつの間にか出来ているものよ」
「そうなればいいな」
するとちょうど兄が帰宅したようだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。今日はどうだったの?」
「どうだったって、何が?って言うか、何で二人してにやけてんの。気持ち悪いよ」
自然とにやけていたようで必死に手を横に振る。
「なんでもないよ。気のせいじゃない」
ねーーっ、と母と二人で目を見合わせる。
「ふぅん、まぁいいけど」
そう言ってそそくさと階段を上がって行った。
母の話を聞いてから兄を見ると前とは違って見えてくる。なんだか可笑しくなってきた。
ピコーン。僕の右ポケットの携帯が鳴った。
短い音だったのでメールだろう。
流石にメールの音にも慣れてきた。
携帯を開くと知らないアドレスからのメールで、件名すら無い。
「ヤッホー海歌です。いきなりメールしてごめんね。花火にアドレス聞いたの。突然だけど暇だったら明日も病院来てくれない?私、話し相手欲しくてさ。本当に暇だったらでいいからね」
お姉さんからだった。
どう返信したものか、2日連続はどうなんだろう。
すると、横からお母さんが興味津々そうに携帯を覗こうとしている。
「誰からのメール?女の子?」
「さっき話した入院しているお姉さん。明日も来てくれないかだって」
「あら気に入られちゃったんじゃない?良かったわね」
お母さんにこうゆう話をされるとなんだか無性に恥ずかしくなる。
他の人としても、こう恥ずかしくはならないのに、何でだろう。
「そんなんじゃないよ。話し相手が欲しいだけだって」
「ふふっ、分からないわよ」
お母さんが、からかい始めたので逃げるように自分の部屋へ急ぐ。
部屋に入ってベットに腰掛けて直ぐに携帯に手をかけてメールを打ち始める。
「こんばんは、空太です。」
ここで手が止まる。断ってしまうのは簡単だが、病気と闘っているお姉さんの頼みを聞いてあげないのもなんだか、自分の中にしこりを残す気がする。
「こんばんは、空太です。明日でしたら予定も無いので伺わせて頂きます。よろしくお願いします。」
結局行く事にしてしまった。
明日は頑張って体調を崩さないようにしないとな。
遅くなってしまったので、恐る恐るリビングへ入る。
するとウロウロと部屋を歩き回る落ち着かない様子の母がいた。
「何していたの!電話しても全然出ないで。また倒れたのかと心配したじゃ無い!」
電話なんてかかってきていたかな、と携帯を確認する。
「病院だから入るときに切ったんだった。ごめんねお母さん、気がつかなくて」
「気をつけなさいよ。病院?なんで病院なんか行ったの?」
何から説明したらいいのか、今日は色々な事が起こり過ぎた。
「えっとね。今日のクラブ終わりにみんなで喫茶店に行ったんだ。そこでクラブのメンバーの子に、お姉さんの入院している病院に来て欲しい、って言われて無理やり連れていかれちゃって」
「そうなの。取り敢えずよかった、何もなくて。、それで、なんでその子は空太を連れて行きたかったの?」
「わからないんだけど。お姉さんに会わせてっ、て言われたんだって。でね、そのお姉さんがいい人だったんだ。僕にもあんなお姉ちゃんが居ればいいのにな」
やっと落ち着いたようで椅子に腰掛けた。
「あら、お兄ちゃんなら居るじゃ無い。姉も兄もそんなに変わらないわよ」
「そうだけどさ...お兄ちゃん僕のことあんまり好きじゃ無いでしょ」
僕は本音を吐露する。
母は目をパチクリとさせた。
「空太もまだまだね。どんだけ達也が空太のこと考えているか。あなたが病気になった時なんてスッゴイ怒っていたのよ。弟を傷つけた先生は許さないって、訴えるぐらいの勢いだったわね」
今度は僕が目をパチクリさせた。
「ホント?だってお兄ちゃん僕には何にも言ってこないし。最近なんて、あんまり喋ってくれないよ」
「嘘じゃないわよ。でも、あの子、分かりづらい性格しているからね。あなたが見ているところでは絶対見せないけど結構悩んでいたみたいよ。なんたってお兄ちゃんだからね」
「そうなんだ。全然気付かなかった」
「まぁ分からないのも無理ないわ。達也は恥ずかしがり屋で、不器用だからね。不器用なりに色々考えているみたいよ」
そうだったんだ、僕の見ていた部分は、兄が必死に見栄を張って作った表面の上澄みだったのかもしれない。
きちんと理解しようとすれば、兄の心の奥にある本当の優しさに気付けたのかもしれない。
そう考えると怒ることも表面上の怒気だけを見れば怖くなってくるが、その奥にある真意がわかればそんなに嫌な事でも無いのだろう。
怒られて単純に怖いと思ってしまうのは僕の浅はかな部分なのかも。
「でも、お兄ちゃんって損な性格だね。僕みたいに家族でもわかってあげられない人が居るぐらいだから、いっぱい誤解されているんじゃない?」
「そうかもしれないわね。でもあの子は、本当のところは優しいから、分かってくれさえすれば仲良くなれる。ほら充くんとか凄く仲良くしてくれるじゃない。何も全員と仲良くなくてもいいの。何かあった時に、絶対に味方してくれる友達が数人いれば人生それでいいのよ」
そうなんだろうけど、そうゆう友達を作るのが一番難しい。
「僕には一人もいないよ」
「これから作ればいいじゃない。写真クラブの人だっていい人いるんでしょ」
「うん。いい人ばっかり。でも、あの人達からすると僕は友達なのかな?いっぱい友達居そうだし」
「それは分からないけど。人間、優しくすれば優しさが返ってくるわ。そうしていればいつの間にか出来ているものよ」
「そうなればいいな」
するとちょうど兄が帰宅したようだ。
「ただいま」
「お帰りなさい。今日はどうだったの?」
「どうだったって、何が?って言うか、何で二人してにやけてんの。気持ち悪いよ」
自然とにやけていたようで必死に手を横に振る。
「なんでもないよ。気のせいじゃない」
ねーーっ、と母と二人で目を見合わせる。
「ふぅん、まぁいいけど」
そう言ってそそくさと階段を上がって行った。
母の話を聞いてから兄を見ると前とは違って見えてくる。なんだか可笑しくなってきた。
ピコーン。僕の右ポケットの携帯が鳴った。
短い音だったのでメールだろう。
流石にメールの音にも慣れてきた。
携帯を開くと知らないアドレスからのメールで、件名すら無い。
「ヤッホー海歌です。いきなりメールしてごめんね。花火にアドレス聞いたの。突然だけど暇だったら明日も病院来てくれない?私、話し相手欲しくてさ。本当に暇だったらでいいからね」
お姉さんからだった。
どう返信したものか、2日連続はどうなんだろう。
すると、横からお母さんが興味津々そうに携帯を覗こうとしている。
「誰からのメール?女の子?」
「さっき話した入院しているお姉さん。明日も来てくれないかだって」
「あら気に入られちゃったんじゃない?良かったわね」
お母さんにこうゆう話をされるとなんだか無性に恥ずかしくなる。
他の人としても、こう恥ずかしくはならないのに、何でだろう。
「そんなんじゃないよ。話し相手が欲しいだけだって」
「ふふっ、分からないわよ」
お母さんが、からかい始めたので逃げるように自分の部屋へ急ぐ。
部屋に入ってベットに腰掛けて直ぐに携帯に手をかけてメールを打ち始める。
「こんばんは、空太です。」
ここで手が止まる。断ってしまうのは簡単だが、病気と闘っているお姉さんの頼みを聞いてあげないのもなんだか、自分の中にしこりを残す気がする。
「こんばんは、空太です。明日でしたら予定も無いので伺わせて頂きます。よろしくお願いします。」
結局行く事にしてしまった。
明日は頑張って体調を崩さないようにしないとな。
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