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第一章 切望

08 再会と戸惑い

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 「何盛り上がってるの?」

カメラを持った優しそうなおばさんが、こちらへ向かいながらそう言った。

「やぁ、清水さん今、新メンバーを紹介してたんだ」

「じゃあ君が、この公園だけ参加する人?」

「はい、空太です。よろしくお願いします」

わざと苗字は言わなかった、同じ轍は踏まない。

「こいつ、香木空太ってんだ。柿食う太、ってからかうのはやめてあげて下さい」

東さんこそからかっている気がする。

「そんな事言わないわよ。東くんこそ、程々にね」

「大丈夫っすよ。こいつ意外と乗りいいから。なっ!」

「はい…でも程々でお願いします」

「またまたー。楽しいくせに!」

「東くんいつもより楽しそうね。私たちじゃ不満だったってことかしら」

ちくりと清水さんが言い放った。
意外と怖い人なのかな?

「そんな事をないっすよ。ただ年が近いと、色々話が合うだけっす」

「年齢は私の方が近いじゃない。精神年齢が近いんじゃない?」

「ひどいなー、こっちが合わせてるだけですよ」

東さんがタジタジしている。
清水さんはこっちを見て軽くウインクをした。
どうやら僕を助けてくれたらしい。
だが、笑顔で毒を吐く人は一番怖いかもしれない。
対象が僕だったらと思うとゾッとする。
僕の中で怒らせてはいけないリストと、大事な友達のリストの両方に清水さんが早々にランクインした。

「紹介遅くなってごめんなさいね。私、清水と言います。お母さんより年上かもだけど仲良くしてね」

「はい!色々教えてください」

ニコッとした、こっちが本当の笑顔みたいだ。

「そういえば遥さんと花火ちゃんは?女子いないと盛り上がんないっすよね」

「あら、私じゃ女子に入らないかしら?」

「ごめんっすけど入んないです。どう見たってお母さんって感じですもん」

「あなたみたいな息子いらないわ」

「えー。酷くないっすか」

ねぇねぇ、と僕とカメ爺に賛同を求めるが、僕達は笑いを堪えるのに必死でそれどころではなかった。

「また清水さんにやられているんですか?」

クール、その言葉がぴったりの顔立ちののロングヘアの美人なお姉さんが会話に入ってきた。

「そうなんすよ。遥さん止めてくださいよー」

「東くんが不用意すぎるせいだからどうしようもないわ。ね、花火ちゃん」

遥さんという人はそう言って後ろにいた人を前に押し出した。

その瞬間、心臓が止まったように身体が固まった。

この前、僕を注意したあの子だ。

「自業自得ですので、仕方ないです」

そう女の子が言うのを聞いてみんな笑っていたが僕だけは顔を引きつらせていた。彼女が悪いわけではないのだが決して良い印象ではないので少し、身体が縮こまった。

するとカメ爺がパンっと手を叩いた。

「じゃあ全員が揃ったところでもう一回紹介するね。香木空太くん。今日からたまにだけど参加してくれるそうです。あとは本人からね」

「はい。カメラ初心者ですがよろしくお願いします」

「私、遥です。少し歳離れてるけど気持ちは10代だからよろしくね。花火ちゃんとは歳近いから仲良くね。ねー花火ちゃん!」

「うん、よろしく。高校どこ?私近くの西海高校だけど」

僕のことは覚えていないのかな?
こっちはこんなに気にしているのに全く覚えていないのは酷い話だな。

「......僕も西海です」

「そうなの?見たことなかったけど、クラスは?」

「えっと分からないです。休学しているので」

あんまり突っ込んで聞いて欲しくないが、ズカズカと聞いてくる。

「えー何で、不良ではないよね。病気?引きこもり?」

「えっと......」

あまり病気のことは聞いて欲しくない。
言葉に詰まった。

「まぁまぁ。あんまり聞いちゃダメよ。まだ初対面なんだから」

清水さんがフォローしてくれた。

「そうね、ごめんなさい」

謝られてもバツが悪い。
空気もさっきまでとは打って変わって暗いものになってしまった。

そんな空気を察してなのか東さんが、話題を変えてくてた。

「そういえば長老がいないっすね。また休みですか?」

「そうだね。あまり体調が良くないみたいだよ。心配だけど戻ってくるまでそっとして置こうね」

「戻ってきたら戻ってきたで、面倒ですけどね」

「それにしても、東くん。長老ってあだ名はやめた方がいいんじゃないかな」

「えーー。いいじゃないですか。お似合いなあだ名でしょ」

「じゃあ東くんは舎弟みたいだからからそう呼ぼうかしら」

遥さんがニヤつきながら東さんにあだ名をつけた。

「舎弟ぽいっすか?番長でしょ!」

全員声を揃えてそれはない、とニヤニヤと笑った。

「酷いっすー。まさか今日初の空太まで笑うとは、もう良いっすよー」

そう泣いたふりをしながら大げさに走り回っている。
残ったみんなで顔を見合わせてにこりと微笑んだ。
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