木星の鳥

猩々飛蝗

文字の大きさ
上 下
2 / 17
pf.Prediction

pf.Conference

しおりを挟む
 JUNO021は無人探査機であるが、自身の乗組員を兼ねている。彼はJUNO01、まだ木星の均一性が広く信じられており、No.の最大数が99に設定されていた頃から、JUNO020迄の記録、更に必要と思しき記録を全て搭載している。その全ては回転する磁石帯に入っている。


 JUNO021は暇人である。人類である。人種を持つ。生まれと、常識を持つ。意向を持ち、欲望を持つ。だからJUNO021は自身が無人探査機であることを不満に思っている。厳密には、自身に乗組員はいないが、自身ですらそれに近いものでしか無いと認めているが、自身が人類であることは確信している。


 コップの中には、何も入っていない。


 ではコップは入っていないのか?


 JUNO021はこの命題の精査に任務以上のメモリーを費やして、暇を潰している。


 JUNO021はpf.Conferenceにおける七番目の動画ファイルを閲覧し始める。
 



 『
「発表者、J.J.片桐、発表題、木星における窒素の異常な複雑性です」


パチパチパチ


「はい、ありがとう、ハロー、エブリバディ、(カメラの方へ向き直り)今晩は、インドネシアの皆さん」


パチパチ


 パチ


 ……


 拍手が止む。


 片桐が両手を擦りあわせる。


「早速本題に入りましょう」


片桐が丁度左心室上にあるポケットから小さな瓶を取り出す。


その瓶を掲げ、聴衆の方へ振りながら強調し、スライドへ事前に撮影された瓶の動画が写し出される。


「窒素は極めて安定的な分子であり、アンモニア、アミノ酸等が化合される他例も少ない物質です」


窒素分子がCGで現れ、クルクル回転しながらアンモニアやアミノ酸へ化合していく。


「しかしこの瓶の物質、metanitroと我々は呼んでいるのですがね、ふざけた名前だ、これはmetanitro一分子を素単位として水素とその他微量の元素を含み縦横無尽な結合性を見せます、強力なγ線放射下に於いてですがね」


瓶内部の固形は既に無惨な空白に、気体と化していた。


「この様に単純かつ興味深い発見が成されたのが我らが地球ではなく、探査衛星による報告だというのは極めて不思議なことです、確かに地球上でこの物質が自然的に発生する可能性はゼロに近いが、化学研究者ですら気が付かなかったのだ、これは窒素の安定性への過信と言わざるを得ないでしょう、しかし、更に興味深いのはここからです……」


片桐が指を鳴らす。


 スライドに写し出されたのは捻れ、回転する半結晶。


「この物質はとある熱源の吸収による放射と運動の結果自身を維持し、不確定に分化してゆく傾向にある、内部はとてもカオティックで詳しくは分かりませんが自然淘汰的傾向、生物的傾向を内包しているのです」





 
 JUNO021は木星内部の精密な調査を行わねばならない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

†ブラックボックス・ネスト†

猩々飛蝗
SF
ちくわぶアンソロジー企画参加作。猩々飛蝗に「テーマがちくわぶなら何してもいいよ」って言っちゃうとこうなる。

宇宙を渡る声 大地に満ちる歌

広海智
SF
九年前にUPOと呼ばれる病原体が発生し、一年間封鎖されて多くの死者を出した惑星サン・マルティン。その地表を移動する基地に勤務する二十一歳の石一信(ソク・イルシン)は、親友で同じ部隊のヴァシリとともに、精神感応科兵が赴任してくることを噂で聞く。精神感応科兵を嫌うイルシンがぼやいているところへ現れた十五歳の葛木夕(カヅラキ・ユウ)は、その精神感応科兵で、しかもサン・マルティン封鎖を生き延びた過去を持っていた。ユウが赴任してきたのは、基地に出る「幽霊」対策であった。

銀河辺境オセロット王国

kashiwagura
SF
 少年“ソウヤ”と“ジヨウ”、“クロー”、少女“レイファ”は銀河系辺縁の大シラン帝国の3等級臣民である。4人は、大シラン帝国本星の衛星軌道上の人工衛星“絶対守護”で暮らしていた。  4人は3等級臣民街の大型ゲームセンターに集合した。人型兵器を操縦するチーム対戦型ネットワークゲーム大会の決勝戦に臨むためだった  4人以下のチームで出場できる大会にソウヤとジヨウ、クローの男3人で出場し、初回大会から3回連続で決勝進出していたが、優勝できなかった。  今回は、ジヨウの妹“レイファ”を加えて、4人で出場し、見事に優勝を手にしたのだった。  しかし、優勝者に待っていたのは、帝国軍への徴兵だった。見えない艦隊“幻影艦隊”との戦争に疲弊していた帝国は即戦力を求めて、賞金を餌にして才能のある若者を探し出していたのだ。  幻影艦隊は電磁波、つまり光と反応しない物質ダークマターの暗黒種族が帝国に侵攻してきていた。  徴兵され、人型兵器のパイロットとして戦争に身を投じることになった4人だった。  しかし、それはある意味幸運であった。  以前からソウヤたち男3人は、隣国オセロット王国への亡命したいと考えていたのだ。そして軍隊に所属していれば、いずれチャンスが訪れるはずだからだ。  初陣はオセロット王国の軍事先端研究所の襲撃。そこで4人に、一生を左右する出会いが待っていた。

15分で時間が解決してくれる桃源郷

世にも奇妙な世紀末暮らし
SF
 住まいから15分で車を使わず徒歩と自転車または公共交通手段で生活、仕事、教育、医療、趣味(娯楽)、スポーツなどを日常における行動機能にアクセスできる都市生活モデル。そして堅実なセキュリティに広大なデジタルネットワーク。それを人々は「15分都市」と呼んだ。しかし、そんな理想的で楽園のように思われた裏側にはとんでもない恐ろしい内容が隠されていた。

古代日本文学ゼミナール  

morituna
SF
 与謝郡伊根町の宇良島神社に着くと、筒川嶼子(つつかわのしまこ)が、海中の嶋の高殿から帰る際に、 龜比賣(かめひめ)からもらったとされる玉手箱を、住職が見せてくれた。  住職は、『玉手箱に触るのは、駄目ですが、写真や動画は、自由に撮って下さい』 と言った。  俺は、1眼レフカメラのレンズをマクロレンズに取り替え、フラッシュを作動させて、玉手箱の外側および内部を、至近距離で撮影した。   すると、突然、玉手箱の内部から白い煙が立ち上り、俺の顔に掛かった。  白い煙を吸って、俺は、気を失った。

サイバーパンクの日常

いのうえもろ
SF
サイバーパンクな世界の日常を書いています。 派手なアクションもどんでん返しもない、サイバーパンクな世界ならではの日常。 楽しめたところがあったら、感想お願いします。

【完結】Transmigration『敵陣のトイレで愛を綴る〜生まれ変わっても永遠の愛を誓う』

すんも
SF
 主人公の久野は、あることをきっかけに、他人の意識に潜る能力を覚醒する。  意識不明の光智の意識に潜り、現実に引き戻すのだが、光智は突然失踪してしまう。  光智の娘の晴夏と、光智の失踪の原因を探って行くうちに、人類の存亡が掛かった事件へと巻き込まれていく。  舞台は月へ…… 火星へ…… 本能寺の変の隠された真実、そして未来へと…… 現在、過去、未来が一つの線で繋がる時…… 【テーマ】 見る方向によって善と悪は入れ替わる?相手の立場にたって考えることも大事よなぁーといったテーマでしたが、本人が読んでもそーいったことは全く読みとれん… まぁーそんなテーマをこの稚拙な文章から読みとって頂くのは難しいと思いますが、何となくでも感じとって頂ければと思います。

DOLL GAME

琴葉悠
SF
 時は新暦806年。  人類の住処が地球外へも広がり、火星、木星、金星……様々な惑星が地球人の新たな居住地となっていた。  人々は平和を享受していたが、やがてその平和も終わりをつげ新たな戦争の時代に入った。  「代理戦争」。自らが行うのではなく、他者に行わせる戦争だった。  そしてその戦争の中で、新たな兵器が生み出された。  「DOLL」。大型特殊兵器であった。  人間の姿をモデルに作られた「DOLL」は、今までの陸上兵器とも、水上兵器とも、飛行兵器とも違う、画期的な兵器だった。  戦争は「DOLL」を使った戦争へと変化した。  戦争が表面上終結しても、「DOLL」はその存在を求められ続けた。  戦争により表面化した組織による抗争、平和を享受してきた故に求めていた「争い」への興奮。戦いは幾度も繰り返される、何度も、尽きることなく。  人々は「DOLL」同士を戦わせ、それを見ることに熱中した。  その戦いは「DOLLGAME」と呼ばれ、大昔のコロシアムでの戦いを想像させる試合であった。勝敗は簡単、相手の「DOLL」を戦闘不能にすれば勝ち。  その「DOLL」を操縦するものは「人形師」と呼ばれ、人々の欲望の代理人として戦っていた。  「人形師」になる理由は人それぞれで、名誉、金、暇つぶし等が主だった。  その「人形師」の中で、自らの正体を隠す「人形師」がいた。  パイロットスーツに身を包み、顔を隠し、黙々と試合を行い、依頼をこなす。  そんな「人形師」を人々は皮肉にこう呼んだ。  「マリオネット」と。

処理中です...