実在しないのかもしれない

真朱

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08. 戦い?の行方

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伯爵家の中庭に いつもセッティングされていたテーブルセットは、いつの間にか撤去されていた。
いま、その場所には、木刀を手に向かい合って立つ、大人(推定年齢20歳)と子供(推定年齢9歳)の姿があった。

『師に手ほどきを受ける弟子の図』であれば、平和にも思えそうなところだが、残念ながら、そうではない。

主に、大人の方が。

「小僧・・・てめぇ生意気になりやがって・・・」
ぶつくさ悪態をつきながら、本気でガンを飛ばす家令に対し、
「おかげさまで、毎日鍛えていただいてますので・・・」
なんて、お坊ちゃんの方は既に達観しているかのように落ち着いていた。

(・・・どっちが大人なものやら・・・)

家令は何をこんな子供相手に八つ当たりしているのか。
しかも、仕える家のご嫡男に対して。
お坊ちゃんも慣れてる風なのが、もう何ともいただけない。

ロゼリエが途方に暮れかかっている間にも、件の大人と子供は、打ち合いを開始した。

圧倒的体格差にものを言わせて、力でねじ伏せようとする家令。

「うっわ、せっこっ!大人げなっ!」
思わず本音が飛び出るロゼリエに、家令が更にぶちキレる。

「ちっくしょう小僧ぉぉぉ!!すっかりロゼリエ様たらしこみやがってぇぇぇ!!」
「だから、あんた何言ってんの??」
「ロゼリエ様がショタコンだって、いつ把握しやがったぁぁぁ!!」
「いや違うし!!」

お坊ちゃんは、おそらくロゼリエと家令の会話は耳に入っていない。
体格も力も全く及ばない相手を前に、必死で攻撃を受け流している。

自ら攻撃を仕掛けるような余裕はなく、防戦一方ではあるが、辛うじて直撃を受けることなく、何とか食らいついていっている。

「え、お坊ちゃん、大人相手に凄くない?」

普通に関心してしまい、独り言のつもりで呟くと、
「もう生かしておけねえぞ小僧!すんなり死ねると思うな!!」
と、家令は勝手に煽られていて、もう何だか収集がつかなくなっている。

今にもふっとびそうなお坊ちゃんに、容赦なく木刀をふるう家令。
善戦していたお坊ちゃんも、だんだん息があがってくる。
木刀を受け流そうにも、受けた衝撃にぐっと体が沈み込むようになってきていて、うまく力を逃がせなくなってきている。

ハラハラしながら状況を見守っていたロゼリエだったが、ふと気が付いた。

家令はまだ息もあがっていないのに、攻撃は、最初より緩やかになってきている。
急所はもちろんのこと、後々ダメージが残りそうな部位なども、決して狙わない。
お坊ちゃんの構えているところに、小細工することなく真正面から打ち込んでいる。

言葉の暴力こそとんでもないが、家令なりに手加減はしているらしい。

(これも伯爵家流の教育の一環ってことなのかな・・・
 それがわかってるから、お坊ちゃんも文句ひとつ言わず受け入れたって考えると
 合点もいく。
 もしそうだとしても、それはそれで、だいぶ気の毒ではあるけど・・・)

そろそろ体力も限界かな、という頃合いで、家令はお坊ちゃんの足元を一払いして転ばせると、顔の前に木刀を寸止めし、『勝負あり』を明示する。
お坊ちゃんも、静かに木刀を地面に置き、勝負(?)は決した。

「おら小僧。おとなしく負けを認めて、そこにひれ伏せ。」

子供相手に高圧的な態度を崩そうとしない、残念な大人の家令に、
「えぇ・・・何様・・・?」
と、ロゼリエが思わず呟くと、
家令はやっと、いつもの飄々とした雰囲気を取り戻し、

「俺様。」

と、にやりと笑った。


「ご指導ありがとうございました。今後も精いっぱい精進して参りますので、
 どうかいつか、商会で使っていただきたく存じます。」

片膝をつき、礼の姿勢をとったお坊ちゃんが、丁寧に口上を述べる。

「ええっ!? お坊ちゃん、めちゃめちゃしっかりしてるじゃない!
 本当に人見知りってわけでもなさそうだし、将来 期待できるよ!」

ロゼリエが関心していると、家令がまた憮然とした表情になる。

「ロゼリエ様・・・? やっぱりソイツぶっ殺しますよ・・・?」
「だからあんたねぇ・・・」

子供のように拗ねて、不穏な発言を平気でしてくる家令をなだめていると、
お坊ちゃんは、大人のように寛容な笑みで家令を見守りながら

突如、ぶっこんできたのだ。


「僕は、伯爵家と商会を全力で支えていくことをお約束しますから、
 少しくらいはロゼリエ様にご助力いただくこともご容赦くださいね、
 。」


―――――と。

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