実在しないのかもしれない

真朱

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07. 伯爵家の内幕

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ロゼリエは、2階の奥から2番目の部屋に脇目も触れずに猛ダッシュすると、有無を言わせず室内に突入し、後ろ手にドアを閉めた。

「ごめんお坊ちゃん、匿って!」

本を読んでいたらしいお坊ちゃんが、ぎょっとしたように顔をあげた。

「えっ、は? ろ、ロゼリエ様??」

後ろから、バタバタと駆け寄ってくる足音が聞こえる。
もうそこまで来ている。
全体重をかけて、ドアが開かないように阻止しながら、お坊ちゃんに助けを求める。

「家令のヤツ、なんか暴走しちゃってるのよ」
「か・・・家令??」

お坊ちゃんが、ぽかんとしたカオを向ける。

あ、そういえば、アイツ本当は家令じゃないって言ってた。
・・・じゃあ何なんだ??

「てめえ小僧!ここ開けろ!」
お坊ちゃんの部屋の前に到着した家令は、ボッコボコにドアを叩く。

(うわあ!本人を前に『小僧』言っちゃってるし!!)

しかもドアの叩き方が、もう何かおかしい。
『どがあっ』とか、そんな音がしている。

「だめだめだめお坊ちゃん開けちゃだめ!あいつ今日なんかおかしい!」

だいぶ年下の子供に頼って大変申し訳ないとは思うが、もう半分縋るように、お坊ちゃんに頼み込む。

そんなロゼリエを気の毒そうに見つめながら、
「・・・すみませんロゼリエ様・・・うちは大体いつもこんなかんじです・・・」
と、お坊ちゃんは言った。

「え、こっちが素ってこと?」

思わず呆気にとられるロゼリエに、お坊ちゃんは
「はい・・・もし我が伯爵家に入っていただけるのでしたら、これには慣れていただくしか・・・」
と、恐縮するのだった。

そして、
「ロゼリエ様は、もうあの姿を引き出されたんですね・・・
 何事にも物怖じしなさそうに見えて、
 なかなか自分を表に出せない人なんですけど・・・」
と、少し感心したように付け加えた。

「マジか―――――・・・」

思わず力が抜けそうになるロゼリエの耳に、

「開けろっつってんのが聞こえねぇのかこのクソガキが!
 今すぐ開けねぇなら顧客名簿丸暗記の刑に処すぞゴラぁ―――――!!」

という、なんかもう人が変わったとしか思えない家令の声が響き、
ロゼリエは再び、必死にドアを押さえ直した。

それを見ていたお坊ちゃんが、

「あのう・・・少し落ち着きましょう・・・? 
 ロゼリエ様びっくりしちゃって、出るに出られないですよ・・・?」

と、家令をなだめようと声をかけてくれるではないか。


ロゼリエは、ちょっとわかった気がした。
お坊ちゃんは人見知りなのではなく、周りの人間がパワフルすぎて萎縮してしまうだけなんじゃなかろうか。

前回は前触れもなく突撃したせいでロゼリエも萎縮させてしまったが、今日なんかもう既に心得ていて、びくびくする様子もなく会話してくれているではないか。

甘ったれ坊主だとばかり思っていたお坊ちゃんの印象がだいぶ変わった。
・・・同時に、家令の印象もだいぶ変わったが。

「このガキんちょが!いつの間にロゼリエ様に取り入りやがった!?
 どんな手使いやがった! 若さか!若さなのか―――――!!」

ドアの向こうでは、家令が吠えに吠えまくっている。

「お坊ちゃん・・・若いのに苦労するね・・・」
思わずロゼリエが同情すると、お坊ちゃんは苦笑しながら、

「そうですね・・・うちは親からしてちょっと変わってますので・・・
 大変申し訳ありません・・・ 」

と、なんだか遠い目をして呟いた。

何かあると思っていた伯爵家だが、
思っていたより残念な方向に転がっている気がした。

「ところで、コレどうしようかな・・・」

どごんばごん音をたてながら、お坊ちゃんの部屋のドアを攻撃し続ける家令。

おそらくお坊ちゃんは、この家の中では話が通じる部類に入るんだろうな、と、何だか悟ってしまったロゼリエは、今後のことも鑑みて、お坊ちゃんのフォローに乗り出してみる。

「あのさ家令? お坊ちゃん、結構やれる子だと思うよ?
 ここはひとつ、家令も協力して、お坊ちゃんを一人前に育て上げよう?」

しかし、それにより更に、家令は激高した。

幼気いたいけアピールで、ロゼリエ様をたらしこみやがって!
 表に出ろや小僧!! その腐った性根を叩き直してやる!!」

ロゼリエが唖然とする中、お坊ちゃんは慣れた様子で、

「あ―――――・・・はい。わかりました。」

と了承すると、すんなりと扉を開け、
荒ぶる家令に怯える様子もなく、大人しく後に付いて行くのだった。


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