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11.主人公強し
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街へ向かうと酷い有様だった。ネズ公の仕業だ。
俺も現場にいたけど、ネズ公がやった。俺はチンコが痛かっただけだ。
ちなみに今も痛む。変な液体が出る度に、強烈な痛みが襲う。でも苦痛じゃないんだ。俺の性感帯はイカれてしまったようで、ノーハンドで感じることができる。
人は逞しいのだよ。ぶっ壊れた街でも、ほら。
この歓楽街にはちらほらと明かりが見える。全壊した建物の側には掘っ立て小屋があり、軒先には強面のおっさんが立っている。ちゃんと営業してるねえ。
ふむ、よかろう。ちょっくらワシが評価してやろうじゃないか。こちとら小金持ちじゃい!性病持ちだからって文句は言わせんぞ!
「アンタはダメだ」
「えっ?」
真っ直ぐに店へ入ろうとしたら、速攻で止められた。体中の血は魔法で落としたし、爪もキレイだよ?ほれ?だめ?まさかコイツ!服が透けるコンタクトでも入れてるのか……。
チンコを見たっていうのか……。
それはないな。
じゃあなんだい、貧乏人に見えたってのかい。それなら見せてやろう、一生お目にかかれないだろう白金貨をな!
「金ならあるぜ」
ネズ公から巻き上げた白金貨をポケットから抜き出し扇のように開いてみせた。2枚だ。これで文句はあんめえよ。
「だからダメだ」
「ふえ?何ゆえ?」
「その魔力、抑えらんねえか?ウチは魔族専門でよお、魔力が多いと暴れちまうかもしんねえんだ」
「ほうほう」
「抑えらんねえなら、人間を相手にしてくれ」
魔力が多いね。確かに何人かの嬢に言われたな。てっきりリップサービスだと思っていたが、そんなにダダ漏れなのかね。抑えてるつもりなんだけどな。
「どうやって抑えんの?」
「はあ?そんなもん知らねえよ。他所で聞いてくれ」
何だこのハゲ、教えるぐらいいいじゃねえかよケチ!
ああ、魔族専門店ねー。魔族ってなんだよ、悪魔とかそういう系か?羽が生えてて尻尾の先がハートになってるあれか?
――いいじゃねえか。
めっちゃいいじゃんよ。是非ともダダ漏れにしてもらいたいね。魔力は抑えるからアッチを空にしてほしいね。
「おいおい勘弁してくれよ。魔力で脅そうってか?」
「What?」
「魔力を抑えろっつったそばから魔力で威嚇するやつがあるかって聞いてんだよ。騒ぎは起こさねえでくれや」
えー、おいら何にもしてねえんですけど。ちょっと興奮しただけなんですけど。さっきアマネちゃんを虐めたせいで、息子がヨダレだらだらなんですけど。病気のせいかも知れないけど、ベタベタなんだよー。
はあ、なんだいなんだい、どうしてもダメってのかい。
ていうかジョンはどこ行ったんだ?アイツだけ卑怯だぞ!
「分かりましたよー。人間さんに慰めてもらいますよ。また来るからな!絶対に来たい!」
「ああ、魔力をどうにかしてくれれば歓迎だ」
ふんっ、今度来たときは楽しむんだからっ。ぷんぷん。
「すみません」
さあて、他に明かりがついてるのは……。
「あの、すみません!」
ありゃ、奴隷専門店か。趣味わりいな、人のペットを調教してやろう的な性癖か?俺の魅力に気づかせてやるぜ的な?ふむ、悪くないな。
魔法が強力で、俺の魅力に一ミリも気づいてくれないだろうが、燃えるな。俄然やる気が出てくるな。これが雄としての本能か。サルの頃から受け継がれてきたDNAがキーキー喚きやがるぜ。よしっ、行こう!
「おいっ!シカトすんなよ!」
「――――はあ、なんですか?人違いですよ」
コイツは見なかったことにしてやろう。それよりも息子に息抜きをさせてやらねば。寒いよパパって震えてるじゃねえか、カチコチになってやがらあ。今すぐに温めてやるからな、待ってろよ。
「アンタ日本人だろ。人探しをしてるんだ」
またもや強面のおっさん。今回は頷いてくれたな、後ろのバカは連れじゃねえよ?
よーし。ふわー、入口はまるで快楽へのトンネル。
トンネルを抜けるとそこは雪国で……。
ガッ!
肩を掴まれたんですけど!?変態ですか!?俺が女だったら叫んでますぜ。でも野郎なんだな、クソっ。これからって時に邪魔すんなよ。
「何だよー帰れよー触んなよー」
「話を聞けよ。金は払うから情報をくれ」
「金を払うから死ね、どう?」
「ふざけんなよ。同じ日本人同士、仲良くしようと……」
「ワタシ、日本人ジャナイネー。エチオピアねー知ってるエチオピアー?アンタアホ面、ワカラナイネー?」
「もういい」
それでいいんだよボケが。
――ああ、お前らもアホ面してんな。どんな容姿か知りたいんだろ?
青髪で真っ黒なジャケット着て、指先がない手袋してた。それから、金属製の首輪をしたドM少女がいた。現場からは以上です。
はあい!気持ちを切り替えて、遂に来ました。ここが楽園です。受付には茶髪のおっさんがいますねー、胡散臭いですねー。
「おお、ジローさんじゃん?元気だねー」
「ああ、どうも。この店も仕切ってるんですか?」
「仕切ってるって、経営だよ。奴隷も好きなの?」
「試してみようかと思っただけですよー」
「食わず嫌いはイケないからね。この娘オススメだよ!何してもいいんだってさ。ジローさんドSでしょ?」
「えっ!?どこから仕入れた情報ですか?」
「見りゃわかるよ。この道何年だと思ってんのよ、20年よ?殺さなきゃいいから、好きにしていいよ」
「ちょっと若くないですか?」
「〇〇歳だからね。ヤッたことないっしょ?食わず嫌いは良くないよー」
「フレデリカ、どうした?」
「……」
「フレデリカ?」
「できれば熟女がいいなあ、今日は優しさに包まれたいんで」
「ん?んああ、熟女ねえ。奴隷の熟女はいないよ。いるとすれば……」
「あの人、あの人が私を……」
「あの茶髪の男か?何をされたんだ?」
「んん?アイツは、確か……」
「いますか?熟女?ねえ、熟女います?今すぐに優しさに包まれたいです。ここに来てからイライラが止まらないんです。熟女プリーズ!」
「あの人が私に酷いことをした。お母さんも……」
「分かったよフレデリカ。君の過去は僕が消してあげるからね」
「ユウキ……」
「お願いします!今すぐに熟女下さい!大将!熟女1丁!」
「あっ、アイツはまさかっ!」
勘弁してくれええええ!主人公は俺の癒やしまで奪うのか!アイツはまさかっ!じゃねえんだよ!あんなガキに何したんだ?お母さんに何したんだよ。あのイキったロリコンに殺される前に熟女をまとめて寄越せやぁぁぁ!
『武器選択、黒蛇の鞭』
「おいてめえ、その武器はなんだ!」
ペシンッ!
「ぐはっ……」
ヒィィィィィヤァァァァァ!ボディーガード弱すぎるだろおおがああ!
主人公!
主・人・公!
虫酸が走る!絶対に殺ぉぉす!
ヒュンッ!
「あがっ、だずげで」
茶髪がどうなろうが知ったこっちゃない。
俺に助けを求めんな、そうだ紫色になれ。プルーンになってミ〇プルーンになれ。
お前は仕事を全うしなかったから仕方ない、死んで詫びろ。そして青髪のガキ!熟女チャンスを潰したアホンダラ!
誰が俺の愚息を慰めるんだよ!殺す!絶対にお前は殺す!
「ひっ。ユ、ユウキ、あの人……」
「なんて魔力だ。待て!アンタに恨みはないんだ」
イキリ〇〇カスボケなすおたんこなすがっ!
「さっさと殺せ。その後にお前を殺す、すぐに終わらせろ、今すぐ!」
「――待ってくれ、アンタと敵対したいわけじゃない」
「俺がシタいんだよ。シタかったのにおめえが奪ったんだよ、アタックチャンスをよお」
「アタック……?意味が分からない」
よし死んだな。茶髪の魔力が消えたし、体力値も0だ。
はあーん、このガキ、ゲーム的な世界線で生きてんだな?タッチパネル見える系主人公だな。簡単にリセットできると思うなよ?
そうだ、古い処刑でイカセよう。ゲーム世界でギロチンとか凌遅刑とか来ると思わないだろ。
よしっ車裂きがいいな。簡単そうだし、痛そうだし。
『縛れ』
撚り合う太い縄が四肢に絡みつき、身動きが取れなくなるはずだった。
これはあるあるだが、自動的に攻撃を無効化するらしい。そんなあるある、あってたまるか!何もしてねえじゃん、うぜえ、無敵のチートうぜえ。
『紫電の鞭』
黒い鞭が紫の稲妻を纏った。蛇のようにしなり、俺の目を抉ろうと迫る。
『反駁』
バヂィ!
俺の場合は自動じゃないんでね。いちいち技名を言わなきゃならん。いや、想像するだけでもイケるって神様が仰ってたな。イケるってのは発動できるってことな。下ネタじゃないから。下ネタだと思ったやつ、絶対バチが当たるから、覚悟しとけよ。
「やっぱり転生者か。止めよう、まず話し合おう。何か不快なことをしたなら……」
『良心の呵責』
「聞く気もないのかよ」
主人公はこの世界に来ると箍が外れがちだ。倫理観道徳観がガバガバになる奴が大変多い。めちゃくちゃ殺すし、奴隷を当たり前のように買うし、ハーレムなんか作ってイキるし。ああ、羨ましいっ!
そんな彼らに現世の真っ当な常識を埋め込む精神操作系の能力が良心の呵責。今までの罪というよりは、今目の前で犯しかけている罪を咎めてくれる。
どうだ!もう攻撃できんだろ!
「俺は死ねない、死ぬわけにはいかないんだ。アイツらに復讐するまでは!だから、アンタを殺さないといけないんだ!」
説明乙!全く効きませんでした!ヤヴァイ!
『武器選択、暴れ牛の銃角』
鞭が霧散して、ガキの手には銃が握られていた。滑らかな黒塗りでゴツい銃口が俺のドタマを狙っている。OMGこりゃてーへんだ。
バンッ!
『反駁』
――めっちゃ痛いんですけど。
拳銃よりも早口で唱えるとか無理でしょうがっ!想像じゃムリなんだよー、練習してないんだよー。俺も全自動にしてくれ、神よ、何とかお願いできませんか……。
「うゔっ、いでえー」
「外れたっ!?くそっ、なんでブレたんだ!もう一度!」
おかわり禁止だ馬鹿野郎!
『陥穽』
突然だか俺には『主人公殺しの眼』という使い勝手のいい眼がある。主人公を探し出せる能力と鑑定眼を備えていて、鑑定眼に関しては主人公に由来するモノが何でも見える。
コイツは武器ばっか作るスキルはあるが、魔法はほとんど使えないのだ。中二じみた雷攻撃と定番の火の魔法だけ。
つまり……。
空飛ぶ魔法を覚えて無くて残念でしたー!
穴の底には、俺の息子よりも立派な杭があるからそのままヴァージン喪失しちゃって下さいよ!
「ユウキッ!『浮遊せよ』」
――取り巻き、取り巻き、取り巻き、海苔巻き。
やだやだやだやだ、矢田〇〇子かよ!やめてくれよ、粘るなよ。主人公君だけ死んでくれれば、お前は生かすつもりだったのに。なんで余計な事すんのかね。
お前も殺す、殺す、絶対殺すっ!
あれ?ウサギみたいな目をしてるな。真っ赤な瞳が綺麗ですねー。
コイツ、人間じゃねえな?不純異種族間交遊ですか、獣姦ですかあ?人型で可愛いならいいかぁ。
ああ、羨ましい!
『燃えてくたばれ』
ジャンヌ・ダルク宜しく、燃えて神の下に召されよ。と神に祈りを捧げながら、少女を包む明るい火を眺めていた。
だがしかし、悲鳴が聞こえてこないどころか、ユウキ君が浮き上がって来た。なんで?どうして?教えてユウキ君!
『音速の角弾』
ドンッ!
大砲みたいな音が響いた。次こそ死んだ、ああ終わった。こんなクソガキに殺られるなんて、性病のまま死ぬなんて。来世ではちゃんと治療しよう。ケチらずにもっと優良なお店に行こう。お願いします神様、どうか来世には主人公がいませんように――。
激しい衝撃が俺の体を貫き、受付をへし折る勢いで壁に激突した。どこが痛いのかも分からないほど全身が痛い。
どこを撃たれたんだ。
腸がベロベロ出てる的なやつは止めてくれよな。息子がザクロみたいになってるだけで十分だろ、これ以上体を醜悪にしないでくれ。
恐る恐る腹を見ると、のっぺりとしていた。ひとまず腸は出てないみたいだ。中年ふとりもしてない。だったらどこですか……。
――OH SHIT!
右脚が、腰からねえ、ああ、痛い、クソ痛い、痛い……。
俺の脚、落ちてるよ。くっつけねえと、夜の試合、でき、ねえじゃん。
※※※
「ケケケ、緊急事態、標様が瀕死です」
「何っ!?何があった!モヒートはどうした!」
「ケケケ、存在が露呈するのを恐れて、何もできなかったと。標様が戦闘をお始めになったようです」
「今すぐに敵を殺せ!」
「ケケケ、承知しました」
「クソっ!」
御魔森の横にある集落、その中でも少しだけ大きい平屋の一室で、一人の男が悪態をついていた。
「クソっクソっ!」
寝酒の為に飲んでいたウイスキーの瓶を、ギチギチと握り締めついには粉々にした。
手の傷など構わずに立ち上がると、足早に家から出て忙しなく目を動かした。さっさと来いダイキリ!
「目が赤いぞ、魔法が解けかかっているな」
闇夜から声が響いた。
「そんなことはどうでもいい!今すぐに、助けに行ってくれ!」
「念のため聞いておくのだが、次を待つ気はないのだな?」
「ない!あの方こそ我らの標にふさわしい」
「――そうか。では行ってくる」
ダイキリは隠れるように姿を消した。あの男がいれば転生者一人ぐらい簡単に消せる。勇者と名高い者どもを屠る実力者だ、必ず戻ってくるはずだ。
しかし、標様に素性がバレたらどうなるだろうか。あの方が呼ぶ主人公とは我らが呼ぶ転生者を指し示し、敵は同じである。
だから配下として堂々と付き従いたいが、あの方はそれを許さないだろう。主人公の特権とも言える神の加護にさえ怒りを向けるお方だ。主人公と同じ境遇など唾棄なさるだろう。
標様の部屋に住む族長一家から情報を得ているから分かるのだ。
だからダイキリは次を待たないのかと聞いたのだ。
次に降臨なさる標様が、我らを受け入れてくれるはずだから、それまで待たないのかと、半ば自分の意思を表明したのだ。
待たない、待つわけがない。
我らの意思を代弁できる方はあの方の他にいない。神をも恐れぬ強い意思こそ、まさに我らと我らの祖先の恨みを体現している。
だから死なせるわけにはいかない。正体を晒してでも、助けなければならないだろう。心のおける親友がその正体を明かし、首を刎ねられようとも、あの方が必要なのだ。
俺も現場にいたけど、ネズ公がやった。俺はチンコが痛かっただけだ。
ちなみに今も痛む。変な液体が出る度に、強烈な痛みが襲う。でも苦痛じゃないんだ。俺の性感帯はイカれてしまったようで、ノーハンドで感じることができる。
人は逞しいのだよ。ぶっ壊れた街でも、ほら。
この歓楽街にはちらほらと明かりが見える。全壊した建物の側には掘っ立て小屋があり、軒先には強面のおっさんが立っている。ちゃんと営業してるねえ。
ふむ、よかろう。ちょっくらワシが評価してやろうじゃないか。こちとら小金持ちじゃい!性病持ちだからって文句は言わせんぞ!
「アンタはダメだ」
「えっ?」
真っ直ぐに店へ入ろうとしたら、速攻で止められた。体中の血は魔法で落としたし、爪もキレイだよ?ほれ?だめ?まさかコイツ!服が透けるコンタクトでも入れてるのか……。
チンコを見たっていうのか……。
それはないな。
じゃあなんだい、貧乏人に見えたってのかい。それなら見せてやろう、一生お目にかかれないだろう白金貨をな!
「金ならあるぜ」
ネズ公から巻き上げた白金貨をポケットから抜き出し扇のように開いてみせた。2枚だ。これで文句はあんめえよ。
「だからダメだ」
「ふえ?何ゆえ?」
「その魔力、抑えらんねえか?ウチは魔族専門でよお、魔力が多いと暴れちまうかもしんねえんだ」
「ほうほう」
「抑えらんねえなら、人間を相手にしてくれ」
魔力が多いね。確かに何人かの嬢に言われたな。てっきりリップサービスだと思っていたが、そんなにダダ漏れなのかね。抑えてるつもりなんだけどな。
「どうやって抑えんの?」
「はあ?そんなもん知らねえよ。他所で聞いてくれ」
何だこのハゲ、教えるぐらいいいじゃねえかよケチ!
ああ、魔族専門店ねー。魔族ってなんだよ、悪魔とかそういう系か?羽が生えてて尻尾の先がハートになってるあれか?
――いいじゃねえか。
めっちゃいいじゃんよ。是非ともダダ漏れにしてもらいたいね。魔力は抑えるからアッチを空にしてほしいね。
「おいおい勘弁してくれよ。魔力で脅そうってか?」
「What?」
「魔力を抑えろっつったそばから魔力で威嚇するやつがあるかって聞いてんだよ。騒ぎは起こさねえでくれや」
えー、おいら何にもしてねえんですけど。ちょっと興奮しただけなんですけど。さっきアマネちゃんを虐めたせいで、息子がヨダレだらだらなんですけど。病気のせいかも知れないけど、ベタベタなんだよー。
はあ、なんだいなんだい、どうしてもダメってのかい。
ていうかジョンはどこ行ったんだ?アイツだけ卑怯だぞ!
「分かりましたよー。人間さんに慰めてもらいますよ。また来るからな!絶対に来たい!」
「ああ、魔力をどうにかしてくれれば歓迎だ」
ふんっ、今度来たときは楽しむんだからっ。ぷんぷん。
「すみません」
さあて、他に明かりがついてるのは……。
「あの、すみません!」
ありゃ、奴隷専門店か。趣味わりいな、人のペットを調教してやろう的な性癖か?俺の魅力に気づかせてやるぜ的な?ふむ、悪くないな。
魔法が強力で、俺の魅力に一ミリも気づいてくれないだろうが、燃えるな。俄然やる気が出てくるな。これが雄としての本能か。サルの頃から受け継がれてきたDNAがキーキー喚きやがるぜ。よしっ、行こう!
「おいっ!シカトすんなよ!」
「――――はあ、なんですか?人違いですよ」
コイツは見なかったことにしてやろう。それよりも息子に息抜きをさせてやらねば。寒いよパパって震えてるじゃねえか、カチコチになってやがらあ。今すぐに温めてやるからな、待ってろよ。
「アンタ日本人だろ。人探しをしてるんだ」
またもや強面のおっさん。今回は頷いてくれたな、後ろのバカは連れじゃねえよ?
よーし。ふわー、入口はまるで快楽へのトンネル。
トンネルを抜けるとそこは雪国で……。
ガッ!
肩を掴まれたんですけど!?変態ですか!?俺が女だったら叫んでますぜ。でも野郎なんだな、クソっ。これからって時に邪魔すんなよ。
「何だよー帰れよー触んなよー」
「話を聞けよ。金は払うから情報をくれ」
「金を払うから死ね、どう?」
「ふざけんなよ。同じ日本人同士、仲良くしようと……」
「ワタシ、日本人ジャナイネー。エチオピアねー知ってるエチオピアー?アンタアホ面、ワカラナイネー?」
「もういい」
それでいいんだよボケが。
――ああ、お前らもアホ面してんな。どんな容姿か知りたいんだろ?
青髪で真っ黒なジャケット着て、指先がない手袋してた。それから、金属製の首輪をしたドM少女がいた。現場からは以上です。
はあい!気持ちを切り替えて、遂に来ました。ここが楽園です。受付には茶髪のおっさんがいますねー、胡散臭いですねー。
「おお、ジローさんじゃん?元気だねー」
「ああ、どうも。この店も仕切ってるんですか?」
「仕切ってるって、経営だよ。奴隷も好きなの?」
「試してみようかと思っただけですよー」
「食わず嫌いはイケないからね。この娘オススメだよ!何してもいいんだってさ。ジローさんドSでしょ?」
「えっ!?どこから仕入れた情報ですか?」
「見りゃわかるよ。この道何年だと思ってんのよ、20年よ?殺さなきゃいいから、好きにしていいよ」
「ちょっと若くないですか?」
「〇〇歳だからね。ヤッたことないっしょ?食わず嫌いは良くないよー」
「フレデリカ、どうした?」
「……」
「フレデリカ?」
「できれば熟女がいいなあ、今日は優しさに包まれたいんで」
「ん?んああ、熟女ねえ。奴隷の熟女はいないよ。いるとすれば……」
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「んん?アイツは、確か……」
「いますか?熟女?ねえ、熟女います?今すぐに優しさに包まれたいです。ここに来てからイライラが止まらないんです。熟女プリーズ!」
「あの人が私に酷いことをした。お母さんも……」
「分かったよフレデリカ。君の過去は僕が消してあげるからね」
「ユウキ……」
「お願いします!今すぐに熟女下さい!大将!熟女1丁!」
「あっ、アイツはまさかっ!」
勘弁してくれええええ!主人公は俺の癒やしまで奪うのか!アイツはまさかっ!じゃねえんだよ!あんなガキに何したんだ?お母さんに何したんだよ。あのイキったロリコンに殺される前に熟女をまとめて寄越せやぁぁぁ!
『武器選択、黒蛇の鞭』
「おいてめえ、その武器はなんだ!」
ペシンッ!
「ぐはっ……」
ヒィィィィィヤァァァァァ!ボディーガード弱すぎるだろおおがああ!
主人公!
主・人・公!
虫酸が走る!絶対に殺ぉぉす!
ヒュンッ!
「あがっ、だずげで」
茶髪がどうなろうが知ったこっちゃない。
俺に助けを求めんな、そうだ紫色になれ。プルーンになってミ〇プルーンになれ。
お前は仕事を全うしなかったから仕方ない、死んで詫びろ。そして青髪のガキ!熟女チャンスを潰したアホンダラ!
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「なんて魔力だ。待て!アンタに恨みはないんだ」
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そうだ、古い処刑でイカセよう。ゲーム世界でギロチンとか凌遅刑とか来ると思わないだろ。
よしっ車裂きがいいな。簡単そうだし、痛そうだし。
『縛れ』
撚り合う太い縄が四肢に絡みつき、身動きが取れなくなるはずだった。
これはあるあるだが、自動的に攻撃を無効化するらしい。そんなあるある、あってたまるか!何もしてねえじゃん、うぜえ、無敵のチートうぜえ。
『紫電の鞭』
黒い鞭が紫の稲妻を纏った。蛇のようにしなり、俺の目を抉ろうと迫る。
『反駁』
バヂィ!
俺の場合は自動じゃないんでね。いちいち技名を言わなきゃならん。いや、想像するだけでもイケるって神様が仰ってたな。イケるってのは発動できるってことな。下ネタじゃないから。下ネタだと思ったやつ、絶対バチが当たるから、覚悟しとけよ。
「やっぱり転生者か。止めよう、まず話し合おう。何か不快なことをしたなら……」
『良心の呵責』
「聞く気もないのかよ」
主人公はこの世界に来ると箍が外れがちだ。倫理観道徳観がガバガバになる奴が大変多い。めちゃくちゃ殺すし、奴隷を当たり前のように買うし、ハーレムなんか作ってイキるし。ああ、羨ましいっ!
そんな彼らに現世の真っ当な常識を埋め込む精神操作系の能力が良心の呵責。今までの罪というよりは、今目の前で犯しかけている罪を咎めてくれる。
どうだ!もう攻撃できんだろ!
「俺は死ねない、死ぬわけにはいかないんだ。アイツらに復讐するまでは!だから、アンタを殺さないといけないんだ!」
説明乙!全く効きませんでした!ヤヴァイ!
『武器選択、暴れ牛の銃角』
鞭が霧散して、ガキの手には銃が握られていた。滑らかな黒塗りでゴツい銃口が俺のドタマを狙っている。OMGこりゃてーへんだ。
バンッ!
『反駁』
――めっちゃ痛いんですけど。
拳銃よりも早口で唱えるとか無理でしょうがっ!想像じゃムリなんだよー、練習してないんだよー。俺も全自動にしてくれ、神よ、何とかお願いできませんか……。
「うゔっ、いでえー」
「外れたっ!?くそっ、なんでブレたんだ!もう一度!」
おかわり禁止だ馬鹿野郎!
『陥穽』
突然だか俺には『主人公殺しの眼』という使い勝手のいい眼がある。主人公を探し出せる能力と鑑定眼を備えていて、鑑定眼に関しては主人公に由来するモノが何でも見える。
コイツは武器ばっか作るスキルはあるが、魔法はほとんど使えないのだ。中二じみた雷攻撃と定番の火の魔法だけ。
つまり……。
空飛ぶ魔法を覚えて無くて残念でしたー!
穴の底には、俺の息子よりも立派な杭があるからそのままヴァージン喪失しちゃって下さいよ!
「ユウキッ!『浮遊せよ』」
――取り巻き、取り巻き、取り巻き、海苔巻き。
やだやだやだやだ、矢田〇〇子かよ!やめてくれよ、粘るなよ。主人公君だけ死んでくれれば、お前は生かすつもりだったのに。なんで余計な事すんのかね。
お前も殺す、殺す、絶対殺すっ!
あれ?ウサギみたいな目をしてるな。真っ赤な瞳が綺麗ですねー。
コイツ、人間じゃねえな?不純異種族間交遊ですか、獣姦ですかあ?人型で可愛いならいいかぁ。
ああ、羨ましい!
『燃えてくたばれ』
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だがしかし、悲鳴が聞こえてこないどころか、ユウキ君が浮き上がって来た。なんで?どうして?教えてユウキ君!
『音速の角弾』
ドンッ!
大砲みたいな音が響いた。次こそ死んだ、ああ終わった。こんなクソガキに殺られるなんて、性病のまま死ぬなんて。来世ではちゃんと治療しよう。ケチらずにもっと優良なお店に行こう。お願いします神様、どうか来世には主人公がいませんように――。
激しい衝撃が俺の体を貫き、受付をへし折る勢いで壁に激突した。どこが痛いのかも分からないほど全身が痛い。
どこを撃たれたんだ。
腸がベロベロ出てる的なやつは止めてくれよな。息子がザクロみたいになってるだけで十分だろ、これ以上体を醜悪にしないでくれ。
恐る恐る腹を見ると、のっぺりとしていた。ひとまず腸は出てないみたいだ。中年ふとりもしてない。だったらどこですか……。
――OH SHIT!
右脚が、腰からねえ、ああ、痛い、クソ痛い、痛い……。
俺の脚、落ちてるよ。くっつけねえと、夜の試合、でき、ねえじゃん。
※※※
「ケケケ、緊急事態、標様が瀕死です」
「何っ!?何があった!モヒートはどうした!」
「ケケケ、存在が露呈するのを恐れて、何もできなかったと。標様が戦闘をお始めになったようです」
「今すぐに敵を殺せ!」
「ケケケ、承知しました」
「クソっ!」
御魔森の横にある集落、その中でも少しだけ大きい平屋の一室で、一人の男が悪態をついていた。
「クソっクソっ!」
寝酒の為に飲んでいたウイスキーの瓶を、ギチギチと握り締めついには粉々にした。
手の傷など構わずに立ち上がると、足早に家から出て忙しなく目を動かした。さっさと来いダイキリ!
「目が赤いぞ、魔法が解けかかっているな」
闇夜から声が響いた。
「そんなことはどうでもいい!今すぐに、助けに行ってくれ!」
「念のため聞いておくのだが、次を待つ気はないのだな?」
「ない!あの方こそ我らの標にふさわしい」
「――そうか。では行ってくる」
ダイキリは隠れるように姿を消した。あの男がいれば転生者一人ぐらい簡単に消せる。勇者と名高い者どもを屠る実力者だ、必ず戻ってくるはずだ。
しかし、標様に素性がバレたらどうなるだろうか。あの方が呼ぶ主人公とは我らが呼ぶ転生者を指し示し、敵は同じである。
だから配下として堂々と付き従いたいが、あの方はそれを許さないだろう。主人公の特権とも言える神の加護にさえ怒りを向けるお方だ。主人公と同じ境遇など唾棄なさるだろう。
標様の部屋に住む族長一家から情報を得ているから分かるのだ。
だからダイキリは次を待たないのかと聞いたのだ。
次に降臨なさる標様が、我らを受け入れてくれるはずだから、それまで待たないのかと、半ば自分の意思を表明したのだ。
待たない、待つわけがない。
我らの意思を代弁できる方はあの方の他にいない。神をも恐れぬ強い意思こそ、まさに我らと我らの祖先の恨みを体現している。
だから死なせるわけにはいかない。正体を晒してでも、助けなければならないだろう。心のおける親友がその正体を明かし、首を刎ねられようとも、あの方が必要なのだ。
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