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会遇編
49.
しおりを挟む皆で手を繋いで心を落ち着かせる。
転移のために子爵が魔力を流し、アレクシスが場所を思い浮かべる。
「……もし何かあったらいつでも城に来てくれ。出来る限り力になるからな。」
そう言って笑うカイルは吹っ切れたような清々しい笑顔を浮かべていた。
「ああ。頼らせてもらう。カイルも……元気でな。」
行き先を告げることは無い。これから転移することは教えているがどこに飛ぶかまでは教えていない。今のカイルが探しに来るとは思わないし、もう普通に会ってもいいのだけれど新しい人生を進むけじめとして関わりを断つべきだと思う。
口には出さないがカイルもそう思っているんだろう。
「……多分もうそろそろいける。皆構えとけ」
普段の軽薄さの欠けらも無い真剣な子爵の声に気を引き締める。
転移装置を見ると薄く発光していた。魔力が溜まっている証拠だろう。
景色を目に焼き付けるように当たりを見渡した時、緑の中で何かが光った気がした。
「?今なにか──っっ!?」
「ユルハ様!!」
「ヴィー!!」
「ユルハ!!」
輝きを見た次の瞬間胸が焼けるように熱く、痛みがはしった。
何が起きたのか理解できなかった。
ただ右胸に刺さった矢が全てを物語っていた。
「…っっビルド!!お前何してんだ!」
意識が朦朧とする中、ビルドを押さえつけるカイルと憎悪の篭った瞳で俺を睨むビルドが見えた。
「早く飛ぶぞ!!」
「もう行ける!絶対手を離すなよ!!」
「ユルハ様!!ユルハ様!!貴様ァ…!!」
「ユルハ大丈夫か!?しっかりしろ!!」
遠くで聞きなれた声がギャーギャーと騒いでいるのが聞こえた。
「……ろ、い………」
白みがかった視界の中で記憶の中の救世主が見えた気がした。
眩しい光が閉じた瞼の上から瞳を刺激する。
顔を顰めながら目を開くと見覚えのない部屋に寝ていた。
俺の寝ているベッドの隣で椅子に座りながら寝ているヒルハの姿があった。
起き上がろうと力を入れると胸が指すように痛んだ。
起き上がることを諦め声をかける。
「ヒルハ…」
随分と掠れた弱々しい声が出た。
隣に座っているヒルハにすら届かないような音量だ。案の定眠っているヒルハには届かない。
どうしたものかと思案しているとガチャリ、と音がした。
「交代だぜ…って寝てんのかよ。おーい、おき、…ろ…は!?ユルハ!?」
扉を開けて入ってきたのはクミネだった。髪を切って随分とさっぱりしている。
「……ん、うるさいな…」
「いや、おいみろよ!?ユルハが起きてる!!」
「は、ぁ…!?ユルハ様!!何時お目覚めに!?何たる不覚か…!!命を持って償わさせて頂きます!!」
「馬鹿なこと言ってねえで他の奴ら呼んでこい!!」
テンポの良い掛け合いに思わず口角があがる。とはいっても表情筋が固まってしまっているのかぴくりと口角が動いた程度しか動かせなかった。
慌ただしく部屋をでていったヒルハを見送る。
その間にクミネが濡れたタオルで顔や身体を拭ってくれたり、水を飲ませてくれたりした。
いつの間にかクミネの使用人スキルが上がっている気がする。
でていった時と同じように慌ただしくヒルハと子爵、そしてアレクシスが部屋に入ってきた。
ひとしきり良かった良かったと騒いだあと状況を説明してくれた。
転移する直前潜んでいたビルドに弓で右胸を射られた。ビルドはすぐにカイルが取り押さえてくれたおかげで2射目は無かったものの俺は意識を失ったまま。
転移には成功してアレクシスの師匠の家に飛び、看病を始める。幸い、封魔の石で作られた石ではなかったためすぐに目覚めると思われたが目覚めず1時は命が危なかった。
その前から光の御子の治癒能力を失っていたことを思い出したヒルハとクミネ。
もう本当に終わりかと思っていた頃、徐々に傷が治っているのを確認。
「……ユルハ様はもう二週間も寝たきりだったんですよ。」
「ほんとに死ぬかと思ったんだからな!!」
泣きじゃくるヒルハとクミネをあやしながら苦笑する。
なんだかんだ俺はまた光の御子になってしまったらしい。一時的に力を失った理由は分からないが消えて喜んでいた力に命を助けられるなんて、どんな皮肉なのだろう。
まぁ元々はこの力のせいで命を狙われたのだが。
「ただ、多分これは今までのような自然治癒ではない。おそらく命の前借りのようなものだと思う。」
神妙な面持ちで物騒なことを語る子爵に、冷や汗が顔を伝った。
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