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会遇編
43.
しおりを挟む兵士をぶっ飛ばした犯人は何事も無かったかのような顔で扉を開けて俺たちを待っている。
「え、えぇ…?そんな簡単に……?」
「ユルハ様!早く行きましょう!今ならば人通りも少ないはずです!」
「いやそうだけど…そうなんだけど……」
必死に考えていた俺のシリアス感を返して欲しい。とりあえずヒルハの言う通り今が1番安全で、今を逃せばきっともう城から出ることは出来ない。
「──よし、行こう」
俺たちはこの国を出る。
「……よし、行け……あ、クミネ待て。…………OK、来い」
壁沿いに張り付き足音をたてないようにしながらアレクシスの指示に従って進む。
やはりほとんどの人はアマンダの処刑を見に行っているようだ。
彼女を助けたい気持ちと彼女の処刑のおかげで動けている罪悪感で頭がおかしくなりそうだ。
「ユルハ。待て。1回全員聞け。」
進もうとしていると停止の指示がでる。
いつになく真剣な顔をしたアレクシスが辺りを警戒しながら話す。
「あとはそこの角を曲がれば外に出れる。外に出たらさっきユルハが言ってた転移装置で国外にでる。……ここまではいいな?」
全員が頷く。ここまで来る途中に先程アマンダから聞いた国外に出る方法を共有してある。
「で、どの国に行くつもりだ?国外のイメージが出来るやつ挙手。」
「「……………………」」
そう、あの後その場所をイメージすることが大切だと言われたのだ。
俺は言わずもがな国外に出れなかった。
ヒルハもクミネも無理。
フーレ子爵は研究関係で出たことはあるが研究のことしか記憶になくイメージできない。
あれ、もしかしてこれ……詰みなのでは……?
「……じゃあ俺の師匠の家に飛ぶぞ」
「え、お前国外から来てたのか?」
アレクシスの苦々しいため息と共に言われた言葉に驚く。
「あぁ、元々他国の戦災孤児で師匠に拾われて育てられたんだ。……まぁそれはいい。じゃあそれでいいな。」
全員で頷く。それ以外に選択肢はない。そういえば昔そんなことを言っていたな、と思い出した。盗賊に騙されて拷問されたとか。まぁ、今はそんなことはいいだろう。
「……よしじゃあ行くぞ」
俺たちはまた進み出した。
城の外はお祭り騒ぎだった。人混みで兵士に見つかることはないだろうが変わりにみんなとはぐれてしまいそうだった。
これから人が死ぬというのに祭りのように騒ぐ人々に吐き気がした。
人の流れに逆らうように東の山へと向かう。
息を乱しながら数十分かけて登るとそこには話にあったように1つの墓があった。
「……やっとついた……!」
思わずその場に崩れ落ちる。こんなに歩いたのは初めてかもしれない。アレクシス以外みな似たような状態だ。
不意に景色を見ようと顔を動かして凍りついた。
人がある一点に集っている。
─────あそこだ。
あそこで今からアマンダが…
その事実に指先が冷たくなり顔から血の気が引く。
そんな俺とは反対に人々は熱狂している。遠く離れたこんな山頂にまでその熱が伝わってきそうだ。
「……ユルハ様…あまりみない方が……」
「ユルハ…大丈夫か……?」
ヒルハとクミネが心配そうに俺を見ている。
俺はあの日自分も登っていた処刑場から目を離さず首を降った。
「……俺は見届けないと…そして祈らないと。アマンダがチキューに帰れるように。」
「……ユルハ様…」
俺たちは何も言わずにただ処刑場を見つめていた。
そして人々の熱狂が一際大きく高まり、その時が来た。
処刑場に赤い華が咲く。
あの日の俺の家族のように。あの日の記憶が蘇る。トンボを見つめていた何も知らなかったあの日、返り血で汚れた俺のことを洗ってくれたのはアマンダだった。
困ったように笑いながらお湯を飲もうとした俺を止めた。ナイフとフォークの使い方を教えてくれた。
色んなことを教えてくれた。
彼女はたった今この世を離れた。
「エル=サンティシエラ=ル=ディラ=ヤハネ=シルヴィア」
「え?それなんだ?」
不思議そうな顔をするクミネにあの日の俺もこんな顔をしていたのかな、と思いながらあの日彼女が教えてくれたように教える。
「教会でミサに参加すると教えて貰える呪文の1つで心を落ち着かせる効果があるらしい。」
「……へぇ…なら安心だね」
「安心?」
「うん、……光の御子のユルハが心からアマンダって人のために唱えたんだからあの人の心も落ち着かせてあげられるよ」
「……そうかなぁ…そうだといいなぁ……!!」
俺はしばらくその場で泣き続けた。
さよならアマンダ。
我が愛しき母よ。私の全てを持って貴方が心休まる地へ向かうことを願う。
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