牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

32.

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信じられないとでも言いたげなロイ──いや、カイルの顔を睨む。

騙された?それはこっちのセリフだ。こっちの方が何度も何度も騙された。


「……ヴィー……違うのよ…!!」

「うるさい!だまれ!」

涙を流し悲痛な表情を浮かべるリアに虫唾が走る。
どうせそれも演技だ。俺をそうして惑わせるつもりなんだ。


「……ヴィー……身分を弁えろ」


男が口を開いた途端空気が凍った。

「なっ!?何を言っている!?」

「急にどうしたのよ!アル!!」

慌てふためいたようにカイルとリアがアルを宥める。だがアルは冷たい双眸で俺を見ていた。

凍えるような瞳。

それはわかりやすく俺への嫌悪を含んでいた。

「……俺はお前が嫌いだ。お前が気色悪い人間のなり損ないの化け物だからだ。男に身体を売って媚びへつらうような淫売だからだ。何よりその瞳が気に食わねぇ!!」


一瞬何を言われたのか頭が真っ白になって分からなかった。だがすぐに腹の底から怒りが滾った。

「うるさい!!俺だってお前が嫌いだ!お前らが嫌いだ!!俺の仲間の数人以外の全人類が大っ嫌いだ!!」

全員俺のこと。俺達のこと。ゴミみたいな扱いしてきたくせに。今になってなんで関わってくるんだよ。放っておいてくれればそれだけで良かったのに。

「アル!!何馬鹿なことを言ってる!ヴィーは仲間だろ!?」

「ロイ。いやもうカイルでいいか。お前こそ何馬鹿なことを言ってんだ。化け物だぞ?腕がちぎれてもすぐに生えて、傷ができても一瞬で塞がる。ただの化け物だ。」

「アル…なに、言ってるの……?馬鹿なこと言わないでよ…」

「リアもよく考えろ。気持ち悪いだろ。こんなやつ。人間なんかじゃない。」


沸々と湧き出す怒りは増すのに俺の頭は段々と冴えていった。
こんな奴らを信じていた俺が馬鹿だった。兄のように慕っていた。いろんなことを教えてもらった。

けれどそれはただ光の御子の加護のため。そして光の御子すらもうこいつらは必要じゃなくなった。ただそれだけ。


何かを未だ言い争う3人を冷めた憤怒の瞳で見つめる。そして口を開こうとした時また扉が開いた。

そこには3人の人間がいた。

その中の一人。思わぬ人物に思わず呆然とする。

そして無意識に口はその名を紡いだ。


「…………アマンダ…?どうして…ここに……」

「死ぬため、かしら。」

どうでも良いことのように言い捨てられたことも気になったが同時に彼女の横にいる人物達もまた俺にとってとてつもなく大切だった。

「ヒルハ!アレクシス!無事だったのか!!」

俺より先に隣にいたクミネの歓喜の声に俺も安堵の息を吐く。
こちらを見上げて嬉しそうに笑うクミネの頭を撫でる。

いつものように飄々とした様子のアレクシス。
だがその隣のヒルハは様子がおかしかった。ヒルハだけ口に布を噛まされ手を拘束されていた。そしてその瞳に一縷の光すら刺してはいなかった。無表情に流れる涙が痛々しかった。

その様子に俺は悟る。

ヒルハが情報を吐かされたのか。

「……ヒルハ。」

俺の声にヒルハは可哀想なほど肩を揺らして怯えていた。そのただならぬ様子にクミネも先程から一転心配そうな顔をしている。


「……お前が保身のために情報を吐いたとは思えない。何かされたのだろう……?お前が無事なら俺たちの情報なんて幾ら喋っていても良いんだ。だから──」

顔を上げたヒルハは涙を流しながら縋るように俺の事を見つめた。


「だから責任を取って死のうとなんてするんじゃない。お前は俺の1番の理解者なんだ。」

「うっ……ふぅ、うぅぅ…~っ…!!」


布越しに聞こえる嗚咽が痛々しかった。額にある大きな痣が頭をかち割って死のうとしたことを物語っていた。それを防ぐため手を縛られ壁から距離を撮らされたのだろう。
口布に滲む血が勢いよく舌を噛んだことを悟らせた。恐らくすぐにでも治癒魔法で治されただろうが。


その姿にカイル達への怒りがさらに溢れる。俺の情報を得るためにヒルハがここまで思い悩むような方法をとるなんて。信じられない。


「……ヒルハに何をした。」

「化け物になった答えるつもりはない。」

「…俺の大事な大事な半身に…!!てめぇら…!!」

「ふん。ならこいつも化け物だな。」

「アル!!やめなさい!!ヴィー落ち着いて!話をしましょう!!」


必死に宥めるリアなんかもう視界に入らなくてただ未だに涙を流すヒルハと嫌悪に満ちた瞳でまっすぐ俺を見据えるアルだけが映っていた。






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