牢獄の王族

夜瑠

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会遇編

25. ヒルハside

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「次の晴れた日、お前のお仲間のエリザベートの処刑を実行することが決定した。」

「……そうですか。」  

「抵抗しないのかい?」

「仲間じゃないですしね。」

風邪が治りかけた頃、事情聴取の前に担当の男──モルはそう言った。

自分とは関係の無い女だがもし関係性から一緒に処刑されるのは困る。そんな焦りを押し殺し極めて冷静に対応する。今、この瞬間の一挙手一投足で生死が分かれる。


「でも知り合いなんじゃないの?」

「どこからが知り合いと言うのかは分かりませんがただの客と店主の間柄ですね。」

あんなクズ女と知り合いだとは思いたくない。我が主を傷つけた超本人だ。唯一感謝するならばユルハ様に出会わせてくれたことくらいか。


「ふぅん?」

訝しげにこちらを見つめるのを無表情で見つめ返す。

「ねぇ、君がいつも当たり障りのないことばかり言うからさ今日はこんなものを用意したんだ」

そう言うとモルは服をごそごそと漁り液体の入った瓶を取り出した。

……とてつもなく嫌な予感がする。

にやりと笑みを浮かべるモルに冷や汗が流れる。

「これさ最近隣国で開発された香水を改良してできたなんだけどさ。振りかければ聞いたことがなんでもすーらすら!」

「なっ!?」

まずい。それは非常にまずい。どうやって切り抜けるべきか。

「何も疚しいことなんてないんならこれ、使ってもいいよね?」

「…その安全性が分からないしもし関係ない個人情報まで聞かれる可能性があるから嫌だ。」

もし中毒にでもなってみろ。ユルハ様に合わせる顔がない。もう二度と会いに行けない。

「えー?ちゃんと保証書あるよ?」

「それが偽装されたものじゃない可能性がない。」

「でもこれで君が意見を覆さなかったらすぐ解放だよ?」

「私は疚しいことなんてないから別にいくらここにいても良い。」

その後も鬱陶しいほどにこの男は問答を繰り返すが答えは変わらなかった。






「……い…お……おい起きろ」

「………ん……」

夜中誰かに揺すられている気がする。しかし今日は眠過ぎて意識がはっきりしない。

「…睡眠薬入れすぎたかな…?まぁいいや、使ってもいい?いいよね?」

「…ん……?うん……?なにが……?」

何かを言っているが頭に文章として入ってこない。うとうととして今にもまた夢の世界に行ってしまいそうだ。

「よし、今うんって言ったね?君が許可したから使うんだからね?」

「……え……?……ぅわ…!」

急に顔に何かが振りかかった。その冷たさで一気に意識が浮上する。

暗闇の中、灯りを持ったモルとその部下たちがベッドの周りに佇んでる。

ばっとモルの手元をみる。そこには昼間見せられた自白香があった。

「ってめぇ!!汚ぇぞ!!」

「えーこわーい。ちゃんと許可とったし~」

「はぁ!?あんな状態できょ、か…とか……」

ふわり、と甘い香りが鼻腔をくすぐる。やばい。吸ってしまった。

甘く、重たく、頭が、脳が、麻痺する匂い。

な、に……これ…


「あ、回ってきた?じゃあお名前は?」

な、まえ?わたしのなまえ…

「ひる、は」

後ろの部下達が一斉にメモを取り出す。脳の一部は警鐘を鳴らすのに思考を埋め尽くすのは重たい甘い香り。

「やっぱ偽名か。歳は?」

「にじゅ、にさい」

「へぇそれにしては小さいね。もっと下かと思った。君めっちゃ俺のタイプ」

ぼーっとする。もうなにもかんがえられない。

「エリザベートになんの用だったの?」

えりざべーと。だれだそれ、……あああの女…ゆるはさまをきずつけたあくじょ…

「……まどうぐを……かいにいった…」

「何の魔道具?」

「ゆるはさまのための……ゆるはさまをまもるまどうぐ」

ゆるはさま。ゆるはさまにあいたい。どうしてあえないんだっけ。わたしがちかくにひかえてあげないと。

「……ユルハ様?それは赤ん坊か?」

あかんぼう。ゆるはさまはあかんぼうだっけ。

「……うまれたて…ともいえるかもしれない」

あのおかたはさいきんまでなにもしらなかったのだから。

「ユルハ様は何歳なの」

「はたち」

「大人じゃねえか。ユルハ様ってどんな人?」  

ゆるはさま。ゆるはさま。

「ゆるはさまはかみ。うつくしいかんばせ、すきとおるこえ、きゃしゃなてあし。じあいのこころ。それとむじゅんするひつうなかこ。すべてはあいつらのせいなのに。あのくそおんながゆるはさまをきずつけた…!!いまいましいおんな……!!だがそれよりもいまいましきは、」

「あれ、これって感情が昂らない効果あるんじゃなかったっけ?ねぇ、」

「ゆるはさまをうらぎった=!!!」


その瞬間、静寂が空間を包み込んだ。痛いほどの沈黙が耳を刺す。


「───へぇ?なにそれ面白そうじゃん。」

口端を持ち上げてモルはニヤリと笑う。
そんな顔なんて目に入らない。ただユルハ様への思いが溢れだしていた。ただユルハ様に会いたかった。はやくお傍に控えたい。禿の頃のように2人だけの世界を作りたい。やっと2人きりで暮らせると思ったのに、あの家に2人も人が増えてしまった。

はやく、はやく…ユルハ様の隣に。

人が何人増えようとその場は私の場所なのだ。

奪われないようにはやく戻らないと。














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