牢獄の王族

夜瑠

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悔恨編

19.

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「良い話だろ?少なくとも悪くは無いはずだ」

「……そうだな………」

「ミーネ様!?」

目の前で男はニヤリと笑った。
ヒルハは親のかたきを見るような目で男を睨んだ。俺はただ腕を組んで考えていた。


話は数刻前に戻る。

フォルネウス伯爵が倒れたと聞き、更に命を落としたと聞いてから早4日。その間もギルと俺は何度も言い争った。

分かりやすく加護を与えろ。奇跡でも起こして伯爵を生き返らせろ。貴族を引き戻せ。

嫌だ。無理だ。何でもかんでも俺の力を利用するな。


当然俺達の意見が交わることはなく何度も殴られ、蹴られ、四肢を落とされた。

気を失いそうなほどの痛み。

だが俺にとっては慣れ親しんだ感覚。


俺は何度も首を横に振った。


そして今日とうとうギルは覚悟を決めたらしい。
俺をいつもの部屋にヒルハと共に呼び出すとただ一言告げた。

「……加護を与えないならお前はいらない。数日中にここから出ていけ」

「ギル様!?兄上様はNO.1ですよ!?」

ヒルハが驚いたように言葉を紡ぐ。
俺は少しだけその可能性も考えていたのでそこまで衝撃ではなかった。といってもかなり低確率だと思ったのだが。

俺を手放すのはかなりの痛手になるはず。なのに何故?きっと何かがあったはず。

「ロイ=アドマイヤーがここにお前がいることに気づいたらしい。貴族の寄り付かなくなった見世に更にお前がいて反乱軍の奴らが来たら営業出来なくなる。これ以上利益は減らせない」


「……ロイ=アドマイヤー………か。何故ここを?」

「ふん、光の御子様を探してるんだとよ。」


────何を今更。


俺は沸々と怒りが込み上げてくるのを感じた。俺を探していた?4年もそんな素振りがなく?俺からフォルネウス伯爵を奪っといて今度は俺の居場所まで奪うのかよ。

ありえない。絶対許さない。


とはいえ、それはギルには関係の無いことで確かにここに俺が残った方が総合的には迷惑なのだろう。ここ数日言い争いはしたし気に食わないが4年間確かに俺はこいつに生かしてもらった。その恩は返さないとならない。

「……わかった。ただ出ていくのに数日くれ。さすがにすぐには無理だ」

「それは分かっている。……ヒルハもついて行きたいなら勝手にしろ」

「!…ありがとうございます!!これまでの長きに渡る御恩に感謝を。」


それだけ伝えるとひらひらと手を振りながらギルは扉から出ていった。

2人だけの無言の空間。
 

「……お前俺についてくるのか?」

「えぇ。私はミルネス様のお付きの禿なので。」

「ふーん……そうか」


素っ気なく返しながらも、俺は嬉しくてたまらなかった。裏切られるかもとかそんなのは今はどうでもいい。ただ嬉しかった。


そんな心地よい静寂を破ったのは部屋に入ってきた1人の子爵だった。

フーレ子爵は定期的に俺の身体を調べる3人のうちの1人だ。子爵位も研究を評価されて授かったのだとか。そのため生粋の貴族ではなく敬語がとても下手くそだ。

まぁそれはどうでも良い。
問題は内容だった。


「俺に加護を与えたらお前達が市井に下る手伝いをしてやる。それに歴代の光の御子の情報もな」


それは喉から手が出るほど欲しいものだった。
ここから出るとして家、金、仕事、容姿、どうにかしないといけないことだらけだ。
それに俺は光の御子のことをあまり知らない。痛みや自己回復能力といった1部に偏っている。

だから子爵の提案は気になるものだった。


「俺に加護をくれたら全ての準備をしてやるし毎月金も渡してやる。もちろん家なんかもやるよ」

「……それは少し話が美味すぎるのでは?何を企んでいるのです?」

「なに簡単なことだよ。この間の研究結果が国王様に睨まれたから自衛のために加護が欲しいんだよ」


そう、フーレ子爵は研究バカだ。金、睡眠、食事、名誉。そんなものよりも実験結果が大事。常に研究していたい人間だ。


大方知的好奇心を満たそうとヤバい研究に手を出したのだろう。


「良い話だろ?少なくとも悪くは無いはずだ」

「……そうだな………」

「ミーネ様!?」

ヒルハが焦ったように叫ぶ。こいつに頼ることが嫌なのだろう。
だがこいつは多分もっとも光の御子おれについて知っているし手を組んだ方がメリットが高い。それにここまで愛よりも光の御子の生態を求められているのが分かれば逆に楽でもある。執着しなくて済むから。まぁたまに子爵に買われることもあるから抱かれたこともあるのだが。


「ていうか加護の与え方なんて知らないんだけど。」

「それは簡単。心の中でこの人を守れ!て願うだけ。俺は防御の加護が欲しい」

「図々しいですよ」


願うだけで本当に出来るものか?半信半疑で俺はとりあえず願ってみた。目を閉じ手を胸の前で組む。


フーレ子爵をあらゆる攻撃から守り給え


ゆっくり目を開くとフーレ子爵が光っていた。身体の周りから黄色っぽい膜が張っているようだ。

「……すご……」

「え?できてる?何か変わった?」

「ミーネ様?何を見ているのです?」

「え、見えないのか?この膜が」


2人には見えないらしい。
俺の言葉に知的好奇心を擽られたフーレ子爵に捕まりそれから朝までその加護についての研究に付き合わされた。

とりあえずこれで市井に下る準備は出来た。
ここから離れるのは少し寂しくもあるが仕方がない。きっと楽園は沢山ある。


俺を愛してくれる人だって、きっと。









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