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出会い編
21. ロイside
しおりを挟む「ヴィーは今日が初のお出かけ、か……」
「16年生きてきてあの部屋しか知らなかったのは本当に異常よ……よく耐えられたわね…」
「知らなかったから望めなかったんだろうね」
3人になると自然とヴィーの話になる。それだけみんな彼を大切に思っている。早くあの少年に幸せを不変のものにしてあげたい。
「ま、とりあえず今は会議だよ。帰ってきた時に少しでも憂いを無くしておかないと。」
「それもそうね。この間言ってた他国との関係はどう?」
「んー、やっぱりなかなか難しそうだよ。なんといっても俺らは反乱軍で元王家に牙を剥いた存在だからね。」
現在俺たちは他国との関係を良好にしていこうと画策している。しかし、明確な敵対国はいないが味方もいない。皆自分の国も乗っ取られるのでは無いかと警戒しているのだ。
「あ?でもこないだ他国の使者が来てたじゃねぇか。あれは味方じゃねぇのか?」
「…あれはシルヴィア効果ね。光の御子がいることが分かったからとりあえずその恩恵だけを求めてるのよ。シルヴィアさえ手に入れば私たちは用済みよ。」
「…ちっ、んだよそれ……胸くそ悪ぃな」
そう、俺もそう思う。胸くそ悪ぃ。けど実際のところ現在の俺たちの国に旨みがないのも事実だ。
国を纏められておらず、これといった特産品もなく、他国から不法に捕まえた捕虜もいて(丁重に送り返した)、光の御子は言葉すら覚束無い。しかし戦力だけは十二分にある。
この国はだからこそ攻められていないのだ。
光の御子とこの戦力があるから。反乱軍の多くはスラムの出や農村部からの人材だが俺たちは生きるために剣の型なんか習わずただただ一撃必殺の剣を磨き自分流の型を作ってきた。だからこそそこらの貴族の習う剣技より強く王城を制圧することが出来たのだ。
「シルヴィアと言えば例の没落令嬢はどうなった?」
「一応同世代の使用人たちの過去は調べられる限りは調べたわ。報告するわね。該当する中で怪しいと思われるのが約5人。
まずエルザ=クーリック、15歳。口減らしに花街に売られ禿として働いていたが見世が家事で焼失していた所に遭遇し勧誘。現在は侍女としてシルヴィア様にお仕えしている。
ユリ=クーリック、15歳。エルザとは同じ経緯で同じ見世に売られ仲良くなり一緒に勧誘。クーリックの姓は2人を買った主人の姓である。
キティラ=アンベル、16歳。元スラム街の住人で裏の世界に居たところを向こうから我々の存在を知り接触、入隊。現在は諜報員として仕えている。
イリナ=ユンハ、16歳。教会のシスター見習いで会ったが親に強制的にシスターにされ嫌気がさしていたところを勧誘。現在はこの国の新しい憲法作りに励み、文官として仕えている。
そしてアマンダ=ホーネット、恐らく16か17歳。スラム街出身で裏社会との関係があった。信頼できる人物であると同時に彼女の過去は巧妙に隠されている感じがして全て恐らくとしか言えない。
この5人が今のところ怪しいと思われるわね。まだまだ調べていくけれど現状これくらいの情報しかないわね。」
「いや……十分だよ…ありがとう」
やはりアマンダも怪しいか…
「おいアマンダをヴィーの側近にしておいて大丈夫なのか?あぶねぇんじゃねぇの?」
「いや、危険だからこそ安全なんだ。四六時中アマンダにシルヴィアといてもらうことで仲間との連絡の遮断とおかしな動きをすればすぐにヴィーを通じて俺たちが気づくだろう。」
ヴィーは精神が幼いからこそ人の感情に敏感だ。私たちの顔に少しでも不安の色が移ると心配そうにしている。聡い子だ。
「つってもなぁ…いつ動くかわかんねぇならずっと俺らといた方が安全だろ」
「それが出来たら苦労しないわよ……」
国を乗っ取った俺たちと一応乗っ取られた側の血族であるヴィーは本当は一緒にいない方が良い。
これが許されているのは光の御子という立場とヴィーの生い立ちのおかげだった。
「光の御子……ねぇ……」
「リア?」
ボソリとリアが呟く。その顔はどこか浮かない。
「光の御子って結局何なんだろ。」
「そんなの……、まぁ、とにかくあの能力はどうにかしないと狙われ続けるよ」
「痛みを取り戻したから基本的には怪我を避けるようになったと思うけど……」
流石に何も知らない人の前であの治癒の力を使うのは危険だ。もしかしたら一定以上の傷で死んでしまうのかも知れないし。
「けどあんな一瞬で傷が消えちまうのは反則だろ…それこそ世界中の研究所に狙われるぞ」
「だから特にあの能力がバレないようにしないと。」
きっとヴィーはモルモットにされてしまう。人間はとても欲に忠実だから危険な実験でも何の抵抗もなく行われるだろう。
俺たちはそうならないように守り続けてやらないと。
ふと顔を上げるとアルが思い詰めた表情をしているのが見えた。
「アル?」
「……なぁやっぱりおかしいだろあれは。あの力は。大きすぎる。」
「……何が言いたい。」
一段階つい低くなった声でアルに問う。言いたいことは何となくわかる。けど、それを口にするのはだめだろう。その思いをのせて厳しく見つめる。
「光の御子だからって傷痕どころか傷自体治るのはちょっとおかしくね?」
「そんなの女神様に聞いてよ。良いじゃない。ヴィーが怪我しないでいてくれるんだから。安心安全よ。」
「……まぁ、そうだけどよ」
リアがわざとおちゃらけたように言う。けれどやはり彼女も目は厳しかった。
嫌な…予感がする。
「……けどよぉ、ヴィーはありゃ化け物だろ」
「……アル!!この間ので懲りてなかったの!?」
「だってどんな傷も一瞬なんだぜ!?この間の聞き取り調査からしたら切り落とされた指もくっついたらしいじゃねぇか!おかしいだろ!?」
「アル…口にしていいことと悪いこと。まだ分からないのか?部屋で反省しておけ。」
「いやけどよロイ!!」
「アル?分かったね?」
「っ……分かったよ…」
アルに対する怒りもある。けれど心のどこかで否定しきれない自分もいる。彼は本当に人間なのか。
けどこれは断言できる。ヴィーは化け物なんかじゃない。心の優しい良い子なんだ。
ああ早く帰ってこないかな。無性にあの子を抱きしめてやりたい気分だ。
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