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出会い編
9.
しおりを挟むご飯が終わるとまた違う部屋に連れてこられた。
アマンダは何かするたびに部屋を変える。全部1つの部屋ですればいいのに。
また椅子に座らされる。またご飯食べるの?もうおなかいっぱいなのに。
「じゃあ早速ですけど今日からいろんなお勉強をしていきますよ!まずは言葉から!」
言葉……喋るってことだよね?怒られないのは分かったけどやっぱりなれない……
「何か知りたい時はそれを指さして『なぁに?』って言うんですよ。それじゃあ言ってみましょう。」
「せーのっ」
「……あー?」
今までずっと喋ってこなかったから口が動かない。多分言えてなかったよね…
「惜しいです!母音は出てます!」
ぼいんってなんだろ…でも惜しいのかな?ほんとに?聞き取りはできるのに喋れないのはもやもやする…
「もう一度行きましょう!せーのっ」
「なぁ…?」
「そうです!!あともう1文字!」
アマンダが今まで見たことないくらい張り切ってる。こんな顔できたんだ。僕のことでかな?僕ちゃんと困らせないようにできてるかな…?
もう独りにはなりたくない。捨てられたくない。
夕方までお喋りの練習は続いた。途中でお昼ご飯が本当に食べれたり、おしっこして騒がれてトイレの仕方を教えて貰ったりしたけど結構順調に進んだと思う。
アマンダが教えてくれた通り本当に夜ご飯も食べれるみたい。一日に3回もなんて信じられない。そしてあの不思議な味は『美味しい』って言うらしい。あの部屋のは美味しくなかったってことらしい。
お昼はあの3人はいなかったけど夜ご飯はまた一緒に食べるらしい。まだ3人は部屋に来てないけど来たら今日覚えたことを発表しましょうってアマンダが提案してくれた。きっと喜んでくれるって。
僕がいろんなことを覚えたらみんなも嬉しいらしい。変なの。僕のことでみんなには関係ないのに。でもなんだかほわほわする。不思議。
だから僕は胸を指さして
「なーに?」
って聞いてこのほわほわしてる理由を聞こうと思った。でもアマンダには伝わらなかったみたい。
「シルヴィア様ですよ?」
「ちゃう。なーに?」
「えぇ…?ヴィー様ですか?」
「ちゃう……」
名前を知りたかったわけじゃないのに……
ああ、またアマンダに困った顔をさせてしまった。ただ知りたかっただけで困らせたいわけじゃないのに…。やっぱり言葉を覚えるのは僕には向いてないのかもしれない。
「おっ、ヴィーはやいなぁ。沢山勉強したか?」
「ヴィーはお利口だからアルと違ってサボったりしないわよ。」
「だぁからあれはサボったんじゃねぇって」
「はいはい落ち着いて2人とも…ヴィーお疲れ様」
3人はいつも一緒にいる。それにずっと喋ってる。喋っても怒られないってこの3人がいたから信じられた。いまでもちょっと喋るの怖いけど。
「ぼく、しるびあ、よーしく……?」
合ってる?言えてるかな……?
「!!すごい!もう自己紹介出来るようになったのね!!」
「ヴィーお前やっぱ天才だな!!」
「ヴィーすごいね!まさかここまでとは……」
喜んで……くれてる?のかな?
みんな駆け寄ってきてギューってしてくれる。みんなアマンダより固い。あれ?リアも固い。リアはアマンダと同じじゃないの?なんで?
リアを指さす。
「なーに?」
「え?り、リアだけど…」
「ちゃう。なーに?」
「え、え…?」
今度はリアを困らせちゃった……やっぱり喋ったら良いことにならない…さっきまであんなに笑顔だったのに困らせちゃった……
しょんぼりしてたら僕の頭にぽんっとロイが手を乗せた。
「……胸当てじゃないか?使用人より固いからびっくりしたんだろ。俺らは付けてないし。」
「あー、あの胸用の鎧なぁ。」
「あ、ああ!そういうこと!びっくりした…忘れられたかと思った……ヴィーこれはね、身体を守るためのものなのよ」
何かを知れた喜びよりロイが僕の言葉を分かってくれた驚きが勝った。なんでロイは分かったんだろ?
じゃあロイならこのほわほわも伝わる?
「なーに?」
「ん?……えっとシルヴィア…かな?」
「ちゃう。なーに?」
「…………んー?ちょっとわかんないや。」
ロイまで困らせちゃった。でももしかしたら僕だけなのかもしれない。こんなほわほわしたのを感じるのは。だからみんな分からないのかも。
「……私にも先程同じことを聞かれて…でも私もロイ様と同じ答えしか答えてあげられなかったのです」
「うーん…まぁまだ言葉を覚え始めたばかりだしね。これから分かるようになったらきっとヴィーの言いたいことも伝わるさ。」
明日からも沢山覚えないと。それではやくこの世界について勉強して役に立たないと。『約立たず』になったらきっとみんな僕を殴る。捨てられないように頑張ろう。
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