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婚約 (1)

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「じゃあ、手を繋ぐ練習だ」

 藤原晃成のマンションへ戻る帰り道、遅いからと送ってくれた巧が手を差し出す。

「手を繋ぐ練習なんて、いらないっしょ?」

 私は躊躇した。
 巧と手を繋ぐのは乗り気がしない。

「本番で、やっぱりキモくて手を繋げないってなったら、困るだろ」

「……それは言えてる」

 私は渋々差し出された手に、自分の手を置く。
 しっとりとした感触に、ちょっと驚いた。

「何の石鹸、使ってるの? 意外と肌がきめ細かい」

「さあ、普通にスーパーで売ってるやつだ。いいか、俺達は片時も離れたくない程愛し合っているカップル、と言う設定だ。そんな彼女役を演じ切るんだ」

「だったら、こんな感じ?」

 私は手を離すと、巧の左腕にべったりと絡んだ。
 間違っている感が存分にする。

「う……無理」

 思わず呻くと、

「そうか? 俺は満更でもない」

 とハッと笑って、巧が茶化す。

「熱々のカップルという設定は止めだ。仕事関係のパーティーでベタベタするのも不自然だしな。代わりに長年友達だったけど、最近付き合い始めたと言う設定で行ってみよう。その方が俺達には自然だ」 

 今度は友達感覚を残す感じで、手を繋いでみた。

「これなら、まあ」

「いけそうだな」

 そんなこんなで、手の繋ぎ方を吟味していると、彼のマンションに着いてしまった。
 向こうから人影が、私と巧に近づいて来る。
 それが藤原晃成だと気づき、巧の手を離した時には、既に遅かった。

「七瀬、協力してくれてありがとう。俺達の熱々ぶりに、ストーカーも俺を諦めてくれそうだ」

 巧がとっさに、手を繋いでいた理由を作り上げる。
 パーティーのことは、彼に言いたくないと巧に話してあるからだ。

「婚約おめでとう。じゃな」

 明らかに機嫌が悪い藤原晃成に一応声を掛け、去って行った。

「手を繋いでいたのは、巧に執着する女性がいて――」

「分かってる」

 彼がはねつけるように遮り、私の右手を握ってマンションに入る。
 浮気をしていたわけでもないのに、気分が悪い。
 彼に嘘をつくのは、確かに悪いことだけど……

「痛……」

 彼が玄関のドアを閉めるなり、手の甲を強く吸った。
 赤いキスマークをくっきり残し、彼の舌が私の腕を這う。
 巧に触れていた腕の上を……

「何して……」

「消毒だ」

 腕を舐める彼が流し目で、私をぞくっとさせる。
 私の唇を奪うと、彼の舌が私を貪欲に味わった。
 唇を貪りながら、私を玄関のドアに押さえると、彼の手が私のTシャツをめくり上げ、もう片方の手がスカートの中に入っていく。

「んー……」

 彼に唇を塞がれたまま、私は抗議した。
 彼が唇を離す。

「こんな場所で……あ……」

 弱いうなじを唇で摘まれ、彼を拒めなくなる。
 スカートの中を愛撫し、私を一気にイカせると、彼が私を優しく包むように抱きしめる。

「……乱暴にしてすまない」

 彼が私を抱き上げると、ベッドに運んだ。
 私の顔から髪をそっと指で梳き、彼が私の瞳を見つめる。

「……コウ……セイ……」

 私の足を割って、彼がゆっくり侵入してくる感覚に、思わず彼の名前を呼んだ。
 甘い快感に悶える私の表情を、つぶさに見守りながら彼が動く。
 そのうち余裕をなくしたように、彼の動きが早くなり――

 仰け反る私の身体に、彼の身体が重なった。
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