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九
婚約 (1)
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「じゃあ、手を繋ぐ練習だ」
藤原晃成のマンションへ戻る帰り道、遅いからと送ってくれた巧が手を差し出す。
「手を繋ぐ練習なんて、いらないっしょ?」
私は躊躇した。
巧と手を繋ぐのは乗り気がしない。
「本番で、やっぱりキモくて手を繋げないってなったら、困るだろ」
「……それは言えてる」
私は渋々差し出された手に、自分の手を置く。
しっとりとした感触に、ちょっと驚いた。
「何の石鹸、使ってるの? 意外と肌がきめ細かい」
「さあ、普通にスーパーで売ってるやつだ。いいか、俺達は片時も離れたくない程愛し合っているカップル、と言う設定だ。そんな彼女役を演じ切るんだ」
「だったら、こんな感じ?」
私は手を離すと、巧の左腕にべったりと絡んだ。
間違っている感が存分にする。
「う……無理」
思わず呻くと、
「そうか? 俺は満更でもない」
とハッと笑って、巧が茶化す。
「熱々のカップルという設定は止めだ。仕事関係のパーティーでベタベタするのも不自然だしな。代わりに長年友達だったけど、最近付き合い始めたと言う設定で行ってみよう。その方が俺達には自然だ」
今度は友達感覚を残す感じで、手を繋いでみた。
「これなら、まあ」
「いけそうだな」
そんなこんなで、手の繋ぎ方を吟味していると、彼のマンションに着いてしまった。
向こうから人影が、私と巧に近づいて来る。
それが藤原晃成だと気づき、巧の手を離した時には、既に遅かった。
「七瀬、協力してくれてありがとう。俺達の熱々ぶりに、ストーカーも俺を諦めてくれそうだ」
巧がとっさに、手を繋いでいた理由を作り上げる。
パーティーのことは、彼に言いたくないと巧に話してあるからだ。
「婚約おめでとう。じゃな」
明らかに機嫌が悪い藤原晃成に一応声を掛け、去って行った。
「手を繋いでいたのは、巧に執着する女性がいて――」
「分かってる」
彼がはねつけるように遮り、私の右手を握ってマンションに入る。
浮気をしていたわけでもないのに、気分が悪い。
彼に嘘をつくのは、確かに悪いことだけど……
「痛……」
彼が玄関のドアを閉めるなり、手の甲を強く吸った。
赤いキスマークをくっきり残し、彼の舌が私の腕を這う。
巧に触れていた腕の上を……
「何して……」
「消毒だ」
腕を舐める彼が流し目で、私をぞくっとさせる。
私の唇を奪うと、彼の舌が私を貪欲に味わった。
唇を貪りながら、私を玄関のドアに押さえると、彼の手が私のTシャツをめくり上げ、もう片方の手がスカートの中に入っていく。
「んー……」
彼に唇を塞がれたまま、私は抗議した。
彼が唇を離す。
「こんな場所で……あ……」
弱いうなじを唇で摘まれ、彼を拒めなくなる。
スカートの中を愛撫し、私を一気にイカせると、彼が私を優しく包むように抱きしめる。
「……乱暴にしてすまない」
彼が私を抱き上げると、ベッドに運んだ。
私の顔から髪をそっと指で梳き、彼が私の瞳を見つめる。
「……コウ……セイ……」
私の足を割って、彼がゆっくり侵入してくる感覚に、思わず彼の名前を呼んだ。
甘い快感に悶える私の表情を、つぶさに見守りながら彼が動く。
そのうち余裕をなくしたように、彼の動きが早くなり――
仰け反る私の身体に、彼の身体が重なった。
藤原晃成のマンションへ戻る帰り道、遅いからと送ってくれた巧が手を差し出す。
「手を繋ぐ練習なんて、いらないっしょ?」
私は躊躇した。
巧と手を繋ぐのは乗り気がしない。
「本番で、やっぱりキモくて手を繋げないってなったら、困るだろ」
「……それは言えてる」
私は渋々差し出された手に、自分の手を置く。
しっとりとした感触に、ちょっと驚いた。
「何の石鹸、使ってるの? 意外と肌がきめ細かい」
「さあ、普通にスーパーで売ってるやつだ。いいか、俺達は片時も離れたくない程愛し合っているカップル、と言う設定だ。そんな彼女役を演じ切るんだ」
「だったら、こんな感じ?」
私は手を離すと、巧の左腕にべったりと絡んだ。
間違っている感が存分にする。
「う……無理」
思わず呻くと、
「そうか? 俺は満更でもない」
とハッと笑って、巧が茶化す。
「熱々のカップルという設定は止めだ。仕事関係のパーティーでベタベタするのも不自然だしな。代わりに長年友達だったけど、最近付き合い始めたと言う設定で行ってみよう。その方が俺達には自然だ」
今度は友達感覚を残す感じで、手を繋いでみた。
「これなら、まあ」
「いけそうだな」
そんなこんなで、手の繋ぎ方を吟味していると、彼のマンションに着いてしまった。
向こうから人影が、私と巧に近づいて来る。
それが藤原晃成だと気づき、巧の手を離した時には、既に遅かった。
「七瀬、協力してくれてありがとう。俺達の熱々ぶりに、ストーカーも俺を諦めてくれそうだ」
巧がとっさに、手を繋いでいた理由を作り上げる。
パーティーのことは、彼に言いたくないと巧に話してあるからだ。
「婚約おめでとう。じゃな」
明らかに機嫌が悪い藤原晃成に一応声を掛け、去って行った。
「手を繋いでいたのは、巧に執着する女性がいて――」
「分かってる」
彼がはねつけるように遮り、私の右手を握ってマンションに入る。
浮気をしていたわけでもないのに、気分が悪い。
彼に嘘をつくのは、確かに悪いことだけど……
「痛……」
彼が玄関のドアを閉めるなり、手の甲を強く吸った。
赤いキスマークをくっきり残し、彼の舌が私の腕を這う。
巧に触れていた腕の上を……
「何して……」
「消毒だ」
腕を舐める彼が流し目で、私をぞくっとさせる。
私の唇を奪うと、彼の舌が私を貪欲に味わった。
唇を貪りながら、私を玄関のドアに押さえると、彼の手が私のTシャツをめくり上げ、もう片方の手がスカートの中に入っていく。
「んー……」
彼に唇を塞がれたまま、私は抗議した。
彼が唇を離す。
「こんな場所で……あ……」
弱いうなじを唇で摘まれ、彼を拒めなくなる。
スカートの中を愛撫し、私を一気にイカせると、彼が私を優しく包むように抱きしめる。
「……乱暴にしてすまない」
彼が私を抱き上げると、ベッドに運んだ。
私の顔から髪をそっと指で梳き、彼が私の瞳を見つめる。
「……コウ……セイ……」
私の足を割って、彼がゆっくり侵入してくる感覚に、思わず彼の名前を呼んだ。
甘い快感に悶える私の表情を、つぶさに見守りながら彼が動く。
そのうち余裕をなくしたように、彼の動きが早くなり――
仰け反る私の身体に、彼の身体が重なった。
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