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熱い夜

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 まさか、こんな事態になろうとは……
 巧のマンションから戻ると、ドッと疲れが出てベッドに倒れ込んだ。

 巧と私が恋人に……?

 今までの関係を覆すような事態に、頭がパンクしそうだ。
 とりあえず、今、巧の件を考えるのはやめておこう。
 返事はまだいいと言っていたし、と自分に言い訳すると、頭の片隅に追いやった。
 そして、ムクッと起き上がると、いつものようにお風呂に入って、髪を乾かし、歯を磨いて、パジャマに着替えてベッドに潜る。
 藤原晃成の香りがするベッドに顔を埋めると、無性に彼が恋しくなった。

 今夜、彼は帰って来るだろうか? 
 引っ越しのことをどう伝えよう?
 私の引越しに、彼はホッとするだろうか?

 そんなことを考えていると、いつの間にか眠ってしまったらしい。
 私の髪に触れる指、僅かに軋むベッドの音で、目を覚ました。
 すぐ側に、彼が立っていた。

 すごくすごく会いたかった彼がすぐそこに……
 暗闇の中で、ベランダに続く窓から差し込む月の灯りが、彼の整った顔を神秘的に照らす。
 手を伸ばすと消えてしまいそうで、私はいつまでもそのまま見つめていたかった。
 不意に彼が目を閉じ、辛そうに顔が歪む。 
 彼の手が、額を押さえた。

「大丈夫?」

 私は彼に話しかけた。
 突然の声にビクッとして、彼が私を見る。

「起きていたのか?」

 彼はしまったというような顔をしている。
 私に会いたくなかった……?

「久しぶりだね」

 チクっと傷んだ胸を隠して、私は明るく言った。

「そうだな……」

 彼が顔を逸らし、気の無い返事をする。
 以前だったら、彼はすぐ私の隣に座ったのに。

「座ったら?」

 じれったくなって、私はベッドの上に彼を促した。

「まだ、仕事が残っているんだ」

 落ち着きなさそうに、彼がベッドから離れようとする。

「行かないでっ」

 私は咄嗟にベッドから手を伸ばして、彼の袖を掴んだ。

「……キッチンに行くだけだ」

 彼が困惑して、私を見る。
 そんなのは分かっている。
 でもここで彼と話をしないと、ダメなような気がしてならない。

「アパートを見つけたの。契約も――」

 私は早急に要点を言って、彼を引き止めた。
 効果はてき面だった。
 彼が表情を変える。
 予想に反したのは、彼がショックを受けたように青ざめたことだ。

「出て行くのか?」

 彼が聞き返す。まるで出て行って欲しくないみたいに。

「……行って欲しくないの? 私を避けていたのに?」

 私は身体を起こし、単刀直入に聞いた。

「避けていたのは、悪かった」

 彼が観念したように認め、ベッドに腰掛ける。

「……限界だったんだ」

「何が……?」

 検討もつかないでいると、私の首筋に彼が顔を埋めた。
 私の心臓がキュンと跳ね上がり、そのまま大きな音をたて続ける。
 彼の愛撫だけでもショック死しそうなのに、囁かれた彼の次の言葉がとどめを刺す。

「――君を抱けないのが」

 ここで私の頭がショートしてしまったのが、いけなかった。
 私の沈黙を拒否ととると、彼が立ち上がり離れる。

「……今のは忘れてくれ」

 分かっていたように、彼が呟く。
 私に背を向け、去ろうとした。
 違うのに……彼に触って欲しいのに……思うように声が出ない。
 もどかしくて、私は彼に後ろから抱きついた。
 彼の身体が強張る。

「……抱いて」

 ようやく私の口から、小さな声が出た。

「――え?」

 聞こえたことが、幻覚かどうか確かめるように彼が聞く。

「抱いて」

 もう少し大きい声が出た――と思ったら、私は押し倒され、彼にキスをされていた。
 彼の舌が容赦なく私の唇に割って入り、彼の手が私のパジャマの中に侵入する。
 胸に直に触る彼の手。
 首筋にかかる彼の熱い息。
 悶える私の甘い声。
 彼の手が急くように私からパジャマを剥ぎ取り、私の身体を彼の目に晒す。

「もう一度見たかったんだ。君の裸を」

 愛撫を中断した彼が、私から身体を起こした。
 何も纏ってない私の身体を彼の視線が舐め回す。
 ボッと身体中が赤くなるのを感じた。
 こんなの恥ずかしすぎる……
 彼はまだ服を着たままなのに。

「……ズルイ。私だけ」

「だったら、脱がせてみろよ」

 意地悪い笑みを浮かべ、彼が挑発する。
 えええっ? と私は胸の中で叫んだけど、いつもと違う一面を見せる彼をもっと見たくて……
 とことん見たくて……

 私は彼のシャツのボタンを外し始めた。
 一つ目、二つ目と外すごとに、彼の息が上がっていくのを感じる。
 四つ目を外すと、彼の指が私の背中の上でツーっと下へ動き、私の気が逸れた。
 彼の指が私の中を愛撫し、私から喘ぎ声が漏れる。
 ボタンを外せなくなった私の唇を貪ると、苦しそうな表情で彼が指を離した。

「悪い、もう……」

 ベッド脇の引き出しに手を伸ばし何かを取り出すと、服を脱ぎ捨てる。
 私に覆いかぶさると余裕なさそうに、彼が私の中に入ってきた。
 乱れる彼の呼吸。私を感じる彼の表情――

 奥へと激しく突き上げ、彼が私を満たしていく。
 甘美な波が一気に押し寄せ、彼が私の上に果てた。
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