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第四章 過度に許しはしないけど、過度に仕返しもしません。

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「ひぃっ。あ、あの。妹は?」

龍迫は書斎に戻ると、机に座り恵莉を睨みつける。
「夫婦は同列と常に扱う事ができる。俺が要件を聞こう」
「妹の顔を見たくて・・・」
悲鳴じみた声を上げる恵莉の声に恵麻はテラスの窓を叩く。

「顔を見たいなんて、そんなわけないでしょう。何の用?」
書斎のテラスの窓を叩きながら聞こえる呆れた恵麻の声に龍迫はがっくり窓に背を向けたまま息を吐き、肩を落とした。
なぜ戻って来た。
「はぁ」
龍迫は露骨にため息をつく。
「さてさて。俺の愛しの恵麻は、どこをどうやったら、そんな所から登場することになるんだ?車に乗ってなぜ子供達にお菓子を届けに出かけていないのだろうか?不思議だなぁ。夏の昼間に幽体離脱か?そっくりさんか?」
なぜ、大人しくしていてくれないのだろうか?
龍迫、自らテラスを開けると恵麻を招き入れ、テラスを見るが梯子などは見当たらない。
「俺の”大事な大事な恵麻”。ここ、重要だから繰り返すぞ?良く聞けよ?俺の”大切な大切な恵麻”。まさかと思うが」
「“自分の家”に侵入しました」
「”自分の家”に侵入するな」
この有栖川公爵邸を自分の家だと言ってくれるのは嬉しいが。
今は、それについて談義している場合では無い。
「使用人通用口からパスワード入力で敷地に入って、1階の窓からお家に入って、隣の部屋のテラスからやって来ました」
「忍者か」
「女だから。くノ一かしら?」
突っ込む龍迫に恵麻はサラッと答える。
「テラスを移動って、落ちたらどうするつもりだ。恵麻に怪我でもあったら、俺は生きていけなくなる。本当に幽霊じゃないんだな?」
「ええ。生身の人間です。幽霊ではありません。最近は我が身が大事で、2階以上の高さは登らないと決めているので安心してください。それに仮に落ちたとしても、着地するときに背中から芝生に上手に体重を逃しながら落ちれば、確実に怪我はないわ」
「それは、落ちてから自信満々に言ってくれるかな?」
「自分から落ちたことはないけれど、そこの恵莉に何度か落とされたことはあるから自信があるわ。旦那様の事だから、徹底的に色々と調べているでしょう?」
「あぁ。何度か2階から落ちたと記載があって、誰かに落とされたのだろうと思っていたが。そうか」
なにせ10年以上前の家庭内での事。
全てを調べるには限界がある。
龍迫は机の裏板に貼っていた剣を取り出す。階段から身でも投げたくなるような関わりを恵莉としたくなった。
「これだけ、警備がきっちりしているお家なのに。そんな所に護身用の剣を隠し持っているだなんて。本当に旦那様は用心深いわね」
恵麻も馬鹿でも、天然でもない。この状況で剣を出すという事は、絶対に護身用ではなく、尋問用だろうが。
この書斎は気に入っている。
汚されたくない。
「それで?要件は?元気にしてるかなって顔を見に来るような姉妹関係でははないでしょう?」
逃げようと椅子の上で身をよじる恵莉に穏やかに話しかける。
「恵麻っ!お願い!助けて」
「具体的に」
恵麻は淡々と尋ねる。
「私、島流しになった王族男性の元に嫁ぐの!王族という文字だけみて、書類にサインをしてしまったの」
「王族と結婚なんて素敵ね、おめでとう。それに、島に住むの?海水浴し放題、きっと新鮮なお魚天国よ」
最近、龍迫が何かしていると思ったら。こういうことをしていたのね。
恵麻はパチパチと手を叩き姉の再婚を祝福する。
「その男は何度も窃盗を繰り返し、島流しにあったのよ!」
「まぁ。泥棒男と詐欺師女の結婚なのね」
恵麻はそういうと、頬に手を当て心配そうに龍迫を見る。
「俺の賢い恵麻。2人でタックを組まれて、犯罪に手を染められたら困るな。インターネット環境を今すぐ撤廃し、王族の人間だから週替わりで使用人を派遣していたが。人が多いのは悪事を計画しやすくなる。看守だけにする」
「さすが、旦那様」
恵麻はにっこり笑うと、龍迫は携帯を操作した。
「手配した」
「本当に便利な世の中ね。メール一本で完了してしまうなんて」
「そうだな。まぁ、その男は泥棒をする際に鉢合わせしたら相手に暴行もしたらしいから。医者と看護師も下がらせたし、気を付けろ」
「2階の窓から突き落とされないようにね。コツを掴むまでは、痛いわよ」
ふふふっと恵麻は笑うと、恵莉は悲鳴を上げる。
「嫌っっ!私は美しいの!」
「美しいから何?美なんて個人の主観でしょ?嫌なら今すぐ逃げ出せば?まぁ、評判と事実は異なることがあるから、行ってみて嫌なら島には柵がないらし。サメに気を付けながら、頑張って泳いで逃げてもいいわね」
「私、泳げないわっ!」
「驚いた。私を池、川、海に投げ落として強制水泳させていたから、てっきり泳げるのかと思っていたわ」
「恵麻っ!例え、逃げ出したとして。その後はどこで生きていけばいいの?私は高貴なの姉を助けようとなぜ思わないの!」
「高貴というのは、伯爵令嬢の地位の事を言うの?その地位につくにあたって。貴方は何か努力をした?伯爵令嬢として社会に何か貢献した?」
恵麻は恵莉を冷たく見る。
「わ、分かったわ。怒っているのね!心が狭いわね!謝ってあげる!ごめんなさい」

「許すことはしない。でも、不幸になれとも思わない。腹は立っているから、旦那様を止めようとも思わない。今までの行いを振り返って、自分で道を切り開いて"勝手に私の知らないところで"幸せになって」

恵麻はそういうと、龍迫から短剣を取り上げ、恵莉の拘束を解く。
「生意気なっ」
「生意気とは、低位の者が高位の者に対して、偉そうな態度や振舞いをすることよ?」
恵麻は冷たく言うと、護衛隊長の堤下、三木に連れていくよう指示を出す。
「旦那様」
「何?」
「私は旦那様が守ってくださっている事に感謝をしていますが、隠さないでください。残酷な事を見聞きして、精神崩壊を起こすようなひ弱な人間ではありません。私も自分を虐げて来た者たちの行く末を見ます」
「分かった。しかし、俺はどうも恵麻の事になると慎重かつ過保護になってしまうんだよ」
龍迫は恵麻を見る。
「呆れた顔も可愛いな」
「怒っています。なぜ恵莉は嫁ぐ以外の方法を取らないか。逃げ出して、自分の人生を切り開かないのか。私にしたことは許しませんが。恵莉も母親にもの心付く頃には、私を虐めるよう言われ。半端、洗脳状態。それが普通と思ったはず」
「・・・優しいな」
「私も虐められることが、物心つく前からそうされてきていたので当たり前だと思ってた。私も恵莉も・・・。境遇に疑問を持つべきだったし、継母に八つ当たりするのは父。恨むのも父と言うべきだった。継母はこの上なく、父を愛していたのでしょうね」

恵麻はそういうと、龍迫に手を差し出す。
「子供達におやつを届けに行きましょう」
「そうだな」
龍迫は頷きその手を取った。
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