上 下
17 / 30
第三章 溺愛しだしたら、止める事はできません。暴走開始です。

しおりを挟む
王宮のパーティー会場に入ると、誰もが2人に注目した。
龍迫といえば、地獄の番人と異名を取るほど冷静かつ的確に物事を判断し、仕事をさばくやり手公爵。
そんな彼が、28歳の今まで女の気配がなく、この国一、美しいといわれるバツイチ出戻りの恵莉をめとろうとしたら。
男癖が悪く、阿婆擦れと評判の妹を書類の手違いで娶った。
そして、その妻は結婚後も毎夜、遊び歩いているという根の歯もない話を能津一族が会場全体に広げており。
それを信じた者は完璧人間な龍迫がどんな顔をして、会場にやってくるのか興味があり。

恵麻に関しては、悪い噂に加え。
有栖川公爵領のさらなる繁栄に貢献、街で子供達とジーパンにTシャツ姿で遊ぶ目撃情報。
ビシッとスーツを着て龍迫と共に公務に勤しんでいる目撃情報も耳に入りどちらも女神のような美しさという話。
恵麻はいつも夜会ではダボッとした服で、無表情で会場の隅におり人の印象に残らず何が真実で、何が嘘なのか誰もが興味があった。

龍迫が大切に大切にエスコートしながら会場入りすると、誰もが恵麻に目を奪われた。
漆黒の黒髪に透き通るような真っ白の肌。
大きな瞳にリンとした瞳。
王族達はこの春まで王族専用の高価な宝石や家具の載っている雑誌でみていた伝説のモデルだと見入った。

「英雄色を好むとは昔から言いますし。仕事、家庭、遊びと恵麻は上手く両立していようね。お母様」

恵莉はいつも以上に恵麻を攻撃する気満々だった。なぜなら、恵莉は恵麻が美しい事は知っていた。
しかし、ここまでだとは思わなかった。
それに、悔しい!噂を信じ嫁に行かなかったが、そうでなければ今、龍迫に大切にされ、着飾れたのは自分だ。
「本当に!結婚して堂々と魔性を隠さなくなったわね。夫公認で男を漁るつもりなのね!全くっはしたない。今までは、地味を装いこっそりしていたのに堂々となんて」
継母は着飾っていなかったのは、恵麻の策略。
能津一家がいじめで、みすぼらしい服、化粧をさせていたわけでではないと否定するように叫ぶ。
本当に口が上手いというか、頭の回転が速いというか。
夫公認で男をあさるって・・・。そこまでなったら、もはやそういう家庭なのだろう。放っておいてやれよ。
龍迫は地獄耳で、微かに聞こえる2人の声に心の中で突っ込む中。
能津伯爵家は派手を好み。
機嫌を取っておいた方が、有益になる貴族達は・・・。
「英雄色を好む。私も聞いたことがありますわ」
「本当に。あの容姿だと、殿方は全員、騙されますよね。あんなに美しい人が悪い女だなんて、考えたくないもの」
2人の言っている事は、本当なのだろうかと思いつつも加勢した。

「凄い視線ね。旦那様は本当にオモテになる」
不満を口にする恵麻に龍迫が恵麻の腰に当てた手は少し力が入る。
可愛い。可愛すぎる。
妬いているのか?可愛い。とにかく可愛い。叫びたい。このまま、可愛いと心のたけを叫びたい。
「この視線は恵麻が集めている。だって、恵麻はこの世の者とは思えないほど、美しいのだから。本当に、どうしてこんなに”俺”の恵麻は美しいのだろう。僕の為に生まれてきてくれてありがとう。あぁ、世の中には”女房の妬くほど亭主もせず”ということわざはあるが”亭主妬くほどく女房モテる”ということわざも作るべきだな。恵麻が奪われないか心配だ。本当に心配だ。心配で、剥げてしまいそうだ」
「旦那様がチビ、デブ、禿に変身しても大丈夫ですよ。どうぞ、安心して禿げてください」
「それは、安心したよ。将来、禿げて恵麻に愛想とつかされたどうしようと最近悩んでいたんだ。禿散らかしても、今のように愛してくれるのか。そうか、そうか安心したよ」
本当に禿げたらどうしようと悩んでいたのかしら?
そんな事を思う恵麻に龍迫は携帯をポケットから取り出す。
「チビ、デブ、禿に俺が変身しても変わらずに愛してくれるということは。恵麻は俺の中身が好きで、この上なく愛してくれているという事だ。人間は美男美女に惹かれる。それはDNAが傷ついていない。人間の強く優秀な種を残そうという本能から至極当然の事。それを否定するということは、俺には容姿ではない素晴らしい人間性が備わっているという事。恵麻、嬉しいよ。君は俺をそんなに愛していたんだね。さぁ、録音ボタンを押した。俺の中身が大好きだっと言うんだ。音声データを保存用、普段使い用に複製して楽しみたい」
凄い肺活量ね。
これだけ長い言葉を1度も呼吸をせずに言い切るなんて。
恵麻が感動した時だった。

「恵麻。娼婦活動が上手くいって嬉しいわという連絡を姉に毎日してこないでくださいます?」

「連れていけ」
含み笑いをしながら、口元を手で隠し、声を掛けて来た恵莉に龍迫は一瞥することもなく連れて来た護衛隊長の堤下に命じる。
今は恵麻に愛しているという言葉を録音することが最優先、最重要事項だ。
「御意」
筒下は一礼すると、自分達に優しい女主人を侮辱されたことに怒りを露わにして、ぞんざいに恵莉の腕を掴んだ。
「放しなさい!無礼な!平民無勢が、私に触るだなんて!恵麻も本当の事を言われて焦っているのね!ふっ私が正しい事を言っているからって、乱暴をさせないで!」
恵莉は声を荒げる。
「ここ最近。毎日。3人の男といい事をして、7万円せしめたといって高笑いをしていたじゃない。録音しているのよ!」

恵麻は今までの経験から声が出ない。
恵莉の言葉を否定して、数日間、毎日手を上げられ続けた記憶が蘇る。
”娼婦活動なんてしていない”
言い返えしたところで、龍迫は信じてくれるだろうか?
龍迫にプレゼントのネクタイを作る為、使用人を従え、ここ数日は頻繁に外出をしていた。
その時に逢引きをしていたと・・・誤解を・・・・されないかしら?
恵莉と恵麻は声が似ている。
録音データの捏造は簡単だろう。
「何を不安な顔をしている。ここ最近、仕事三昧でお昼ご飯も食べずに働いていることを俺は良く知っているし。夜は毎晩、毎晩、俺と甘い夜を過ごしているんだ。娼婦活動をする暇と体力がないのは俺が一番よく知っている。人間として恵麻は体力があるが、娼婦活動をできるくらいに体力を付けてくれると、俺はもっと気兼ねなく恵麻を堪能できてありがたいと思ってしまうくらいだ」
恵麻の不安な心を見透かしてか、龍迫は恵麻を抱き寄せながら真剣にもっと”夜、大人の遊びをしよう!”とさくさに紛れて要求してくる龍迫に恵麻は顔を赤くする。
「こ、公式の場ですよ」
「すまない。3人の男で7万という金額はあまりにも安すぎて、怒る気にもならなくてな。恵麻であれば1人で俺の月収分、数億円を支払ってやろうという人間は吐いて捨てるほどいるだろうし。王国の一つくらいホイホイ献上されてもおかしくはない。まぁ、それをしてきたところで俺の人生をかけてぶっ潰す。あいにく、一国程度ぶっ潰せる程度の武器を買う財産は有栖川公爵家にはある」
「旦那様っ!」
「俺の可愛い妻、恵麻。人の事は言えないが、お昼ご飯は大切だ。ちゃんと食べよう。俺もついつい、食べるのを忘れてしまうが、恵麻は細すぎる。もっと太った方がいい。もし100キロを超えるふくよかな女性になっても俺は変わらず恵麻を愛そう。筋トレを頑張り、今と変わらず抱っこも可能だ。俺も恵麻がチビ、デブ、禿に変身してしまっても変わらぬ愛を注ごう。むしろ、滲み出る恵麻の内面、外面の魅力を抑える為には変身したほうがいいかもしれない。約束をするよ。俺は恵麻のその美しい顔、髪、胸、手足。全て好きだが見かけだけで惚れたわけではないんだ」
恵麻は真っ赤になりそれ以上口を開くなと、龍迫の口を手で塞ぐ。
「おいおい。いい大人なのだから、口を塞ぐのは手ではないだろう?」
お黙り下さい。
この変態惚気大王。
初めてだわ。
恵莉と対話しながら、こんなに気恥ずかしい気持ちになるなんて。
「僕の聡明な恵麻。口は口で塞ぐものだ」
少し屈み小さな子供に社会のルールでも教えるような真剣な龍迫に恵麻は真っ赤になると顔を背けた。

これくらいにしておくか。
真っ赤になって恥ずかしがる妻は可愛いが。
今、半径10メートルほどの人が恵麻を見ている。
こんな可愛い恵麻の姿を見せ続けるのは癪に障る。
龍迫は恵麻を周囲に愛しの妻が見られないように抱き込み、声のする方を見る。
「まぁ、随分と阿婆擦れ女は地獄の番人をたぶらかしたわね」
「地獄の番人と呼ばれる有栖川公爵様も判断能力が落ちたのではないかしら?」
「本当の事を恵莉様がおっしゃっているから、護衛に恵莉様を連れて行かせようとしているのね」
龍一は視線で飯田に囁いている者の名前、爵位を調べろと視線で合図をする。
「前に足蹴にした兄もそうだが。どうしても、能津のアホ共と無能な取り巻きは我が愛しき妻を淫乱女にしたいようだ。恵麻が行っている政策、業績を見ればそんな時間がない事は一目瞭然だろう」
ギロリっと鋭い射殺すような視線、破棄にヒソヒソと恵莉を擁護していた者は黙り込んだ。
有栖川公爵を敵に回せば、明日からの暮らしの保証はない。
そんな中、継母はクスクス笑いながら近づいて来た。
しおりを挟む
感想 34

あなたにおすすめの小説

婚約破棄され家を出た傷心令嬢は辺境伯に拾われ溺愛されるそうです 〜今更謝っても、もう遅いですよ?〜

八代奏多
恋愛
「フィーナ、すまないが貴女との婚約を破棄させてもらう」  侯爵令嬢のフィーナ・アストリアがパーティー中に婚約者のクラウス王太子から告げられたのはそんな言葉だった。  その王太子は隣に寄り添う公爵令嬢に愛おしげな視線を向けていて、フィーナが捨てられたのは明らかだった。  フィーナは失意してパーティー会場から逃げるように抜け出す。  そして、婚約破棄されてしまった自分のせいで家族に迷惑がかからないように侯爵家当主の父に勘当するようにお願いした。  そうして身分を捨てたフィーナは生活費を稼ぐために魔法技術が発達していない隣国に渡ろうとするも、道中で魔物に襲われて意識を失ってしまう。  死にたくないと思いながら目を開けると、若い男に助け出されていて…… ※小説家になろう様・カクヨム様でも公開しております。

【完結】愛を知らない伯爵令嬢は執着激重王太子の愛を一身に受ける。

扇 レンナ
恋愛
スパダリ系執着王太子×愛を知らない純情令嬢――婚約破棄から始まる、極上の恋 伯爵令嬢テレジアは小さな頃から両親に《次期公爵閣下の婚約者》という価値しか見出してもらえなかった。 それでもその利用価値に縋っていたテレジアだが、努力も虚しく婚約破棄を突きつけられる。 途方に暮れるテレジアを助けたのは、留学中だったはずの王太子ラインヴァルト。彼は何故かテレジアに「好きだ」と告げて、熱烈に愛してくれる。 その真意が、テレジアにはわからなくて……。 *hotランキング 最高68位ありがとうございます♡ ▼掲載先→ベリーズカフェ、エブリスタ、アルファポリス

性悪という理由で婚約破棄された嫌われ者の令嬢~心の綺麗な者しか好かれない精霊と友達になる~

黒塔真実
恋愛
公爵令嬢カリーナは幼い頃から後妻と義妹によって悪者にされ孤独に育ってきた。15歳になり入学した王立学園でも、悪知恵の働く義妹とカリーナの婚約者でありながら義妹に洗脳されている第二王子の働きにより、学園中の嫌われ者になってしまう。しかも再会した初恋の第一王子にまで軽蔑されてしまい、さらに止めの一撃のように第二王子に「性悪」を理由に婚約破棄を宣言されて……!? 恋愛&悪が報いを受ける「ざまぁ」もの!! ※※※主人公は最終的にチート能力に目覚めます※※※アルファポリスオンリー※※※皆様の応援のおかげで第14回恋愛大賞で奨励賞を頂きました。ありがとうございます※※※ すみません、すっきりざまぁ終了したのでいったん完結します→※書籍化予定部分=【本編】を引き下げます。【番外編】追加予定→ルシアン視点追加→最新のディー視点の番外編は書籍化関連のページにて、アンケートに答えると読めます!!

前世軍医だった傷物令嬢は、幸せな花嫁を夢見る

花雨宮琵
恋愛
侯爵令嬢のローズは、10歳のある日、背中に刀傷を負い生死の境をさまよう。 その時に見た夢で、軍医として生き、結婚式の直前に婚約者を亡くした前世が蘇る。 何とか一命を取り留めたものの、ローズの背中には大きな傷が残った。 “傷物令嬢”として揶揄される中、ローズは早々に貴族女性として生きることを諦め、隣国の帝国医学校へ入学する。 背中の傷を理由に六回も婚約を破棄されるも、18歳で隣国の医師資格を取得。自立しようとした矢先に王命による7回目の婚約が結ばれ、帰国を余儀なくされる。 7人目となる婚約者は、弱冠25歳で東の将軍となった、ヴァンドゥール公爵家次男のフェルディナンだった。 長年行方不明の想い人がいるフェルディナンと、義務ではなく愛ある結婚を夢見るローズ。そんな二人は、期間限定の条件付き婚約関係を結ぶことに同意する。 守られるだけの存在でいたくない! と思うローズは、一人の医師として自立し、同時に、今世こそは愛する人と結ばれて幸せな家庭を築きたいと願うのであったが――。 この小説は、人生の理不尽さ・不条理さに傷つき悩みながらも、幸せを求めて奮闘する女性の物語です。 ※この作品は2年前に掲載していたものを大幅に改稿したものです。 (C)Elegance 2025 All Rights Reserved.無断転載・無断翻訳を固く禁じます。

【完結】愛してるなんて言うから

空原海
恋愛
「メアリー、俺はこの婚約を破棄したい」  婚約が決まって、三年が経とうかという頃に切り出された婚約破棄。  婚約の理由は、アラン様のお父様とわたしのお母様が、昔恋人同士だったから。 ――なんだそれ。ふざけてんのか。  わたし達は婚約解消を前提とした婚約を、互いに了承し合った。 第1部が恋物語。 第2部は裏事情の暴露大会。親世代の愛憎確執バトル、スタートッ! ※ 一話のみ挿絵があります。サブタイトルに(※挿絵あり)と表記しております。  苦手な方、ごめんなさい。挿絵の箇所は、するーっと流してくださると幸いです。

婚約破棄でみんな幸せ!~嫌われ令嬢の円満婚約解消術~

春野こもも
恋愛
わたくしの名前はエルザ=フォーゲル、16才でございます。 6才の時に初めて顔をあわせた婚約者のレオンハルト殿下に「こんな醜女と結婚するなんて嫌だ! 僕は大きくなったら好きな人と結婚したい!」と言われてしまいました。そんな殿下に憤慨する家族と使用人。 14歳の春、学園に転入してきた男爵令嬢と2人で、人目もはばからず仲良く歩くレオンハルト殿下。再び憤慨するわたくしの愛する家族や使用人の心の安寧のために、エルザは円満な婚約解消を目指します。そのために作成したのは「婚約破棄承諾書」。殿下と男爵令嬢、お二人に愛を育んでいただくためにも、後はレオンハルト殿下の署名さえいただければみんな幸せ婚約破棄が成立します! 前編・後編の全2話です。残酷描写は保険です。 【小説家になろうデイリーランキング1位いただきました――2019/6/17】

当て馬令息の婚約者になったので美味しいお菓子を食べながら聖女との恋を応援しようと思います!

朱音ゆうひ
恋愛
「わたくし、当て馬令息の婚約者では?」 伯爵令嬢コーデリアは家同士が決めた婚約者ジャスティンと出会った瞬間、前世の記憶を思い出した。 ここは小説に出てくる世界で、当て馬令息ジャスティンは聖女に片思いするキャラ。婚約者に遠慮してアプローチできないまま失恋する優しいお兄様系キャラで、前世での推しだったのだ。 「わたくし、ジャスティン様の恋を応援しますわ」 推しの幸せが自分の幸せ! あとお菓子が美味しい! 特に小説では出番がなく悪役令嬢でもなんでもない脇役以前のモブキャラ(?)コーデリアは、全力でジャスティンを応援することにした! ※ゆるゆるほんわかハートフルラブコメ。 サブキャラに軽く百合カップルが出てきたりします 他サイトにも掲載しています( https://ncode.syosetu.com/n5753hy/ )

婚約破棄された私は、年上のイケメンに溺愛されて幸せに暮らしています。

ほったげな
恋愛
友人に婚約者を奪われた私。その後、イケメンで、年上の侯爵令息に出会った。そして、彼に溺愛され求婚されて…。

処理中です...