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第二章 公爵は身代わりの花嫁に接近したい

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―――夜会に向け、恵麻はダンスの復習などをしながらのんびり豪華な屋根裏部屋で過ごしていた時だった。
ドッカ―ンッッッ!
バキバキバキバキッッ!
地響きと物凄い音に屋根裏部屋から恵麻は直ぐに顔を出すと、公爵家を守る為に設置された見張り塔にヘリコプターがめり込んでいた。
「あなたは救急車、あなたは消防車、あなたは警察連絡。あなたは全員を集めて、点呼」
屋根裏から飛び出ると、恵麻は塔に駆け寄りながら指示を出す。
「人命救助!消火器を持ってきて」
今のところ火の気が上がっている気配はないが、ヘリコプターが突っ込んだということは。
ヘリコプターからガソリンが漏れ出し、引火する可能性もある。
テキパキと恵麻は指示を出していく。

見張り塔は昔は人が常駐していたが、今はカメラをつけての警護体制で恵麻達の暮らす本館の警護室で監視可能のため、ヘリコプターが激突したところには誰もいないはずだが。
塔の1階部分は、護衛達の仮眠室兼休憩所。
この時間帯は無人のはずだが、万が一という事もある。
「2次災害に特に気をつけて」
恵麻は救助や状況把握に努める使用人達に声をかける。
それにしても・・・。
見事に突っ込んだわね。
「恵麻様。危険ですので、屋敷にお入りください」
止める使用人達をよそに恵麻はヘリコプターから自力で降りて来た見るからに位の高い初老の男性に率先して肩を貸した。
足の骨が折れてるわ。
「応急処置よ。板と紐を持ってきて。固定するわ」
「恵麻様っ。お洋服が汚れます」
「洗濯したらいいでしょう?私の事より負傷者よ」
そう言って誰よりも動く恵麻に全員が続いた。

***
ふぅー。
「死人が出なかっただけが救いだわ」
恵麻は見張り塔を眺める。
このヘリコプターは隣の国のミカルド王族の国旗が付いているから、この初老が王族かしら?
そして2人はメイドと執事、気絶してるのが専属パイロットね。
このヘリコプターの定員は4人だし。他はいないわね。
有栖川家の護衛達も見張り塔には入っていなくてよかったわ。
さぼらず勤務するなんて、優秀ねっと思いつつ救急車がやって来ると4人を見送り。
入れ違いに、血相をかえてやって来た飯田を見る。
「飯田さん。ミカルド王国に連絡、建物の修繕の手配をお願いします」
「はい」
「今日は・・・。護衛の皆さんの休憩所と仮眠は屋敷の1階にある貴賓室を整えて使ってもらって。夜間も護衛の皆さんにお家に帰ってもらうわけにはいかないし。もし、修繕までの間、来客があれば公爵夫人の部屋を使ってもらえばいいわ」
「恵麻様のお部屋をですか?」
「私は戸籍上。名ばかりの公爵夫人で、使っていない部屋だもの」
「え?一体どこで暮らしているんですか?」
屋敷の全員と仲がいいが、日の浅い人や屋敷の中で仕事をしていない使用人は恵麻が屋根裏部屋で過ごしている事は知らない。
護衛の一人、三木は驚きの声を上げる。
「屋敷内で勤務をしない一部の人は知らないわよね。私、屋根裏部屋に住んでいるの」
「そんなっ」
「戸籍上は正式な妻だけれど。認識的には、ご主人様に疎まれる手違い妻だから驚くことはないわ」
さらっというと、飯田は携帯電話を差し出す。
「ご主人様の許可を取らなければなりません。恵麻様、ご主人様に電話をお願いできますか?」
「飯田さんからお願いするわ」
長年仕えている飯田から電話をした方が私よりも状況を上手く説明できるだろう。
最近は歩み寄ろうとしているので嫌われているわけではなさそうだが、初日にハッキリ拒絶をされ。
その言葉を撤回されていない以上は、積極的に関わることは憚られる。
「ゴホッゴホッ。先程、砂埃を大量に吸い込み咳が止まらないのです」
王宮に見張り塔にヘリコプターが追突した知らせを受け。
絶対に恵麻は傍観はせずに先陣を切って救出やら救助に行くことが予想でき。
龍迫は口には出さないが、心底心配し、王宮の会議を恵麻の訃報や怪我の情報が入ってきていない以上。
龍迫は駆けつけることができなかったが、地獄の番人と言われるほど、仕事ができる龍迫がそこから判断は的違いで支離滅裂な発言をしており飯田は派遣されたのだ。
「そうなの?埃は立っていないように思うけど・・・。うがいをしてきて」
恵麻はそういうと、飯田から携帯電話を借りて電話を掛ける。
「状況は」
ワンコールも鳴らない内に龍迫は電話に出ると尋ねる。
「恵麻です」
その瞬間、龍迫はふぅっと息を吐いた。
恵麻は怪我は多少しているかもしれないが、話ができる程度には無事なようだ。
「ご説明します。先程、ミカルド王国の王族の乗ったヘリコプターが見張り塔に追突。死者はいませんが、パイロットが腕を折るという怪我人1人の事故がありました。4人とも既に救急車で病院に向けて出発済みです」
安心する龍迫に淡々と恵麻は話す。
「よかっ。・・・そうか」
良かった。怪我はないか?
そう聞きたいが。
今までの関係性で聞くことができない。
心配する前に初日の件を謝ることが先だ。
「ミカルド王国より、見張り塔の修繕費は負担してくださるそうなので既にそちらの手配もしております。見張り塔の1階の休憩所兼仮眠室がしばらく使えないので、護衛の皆さんには本館の貴賓室を代わりに使ってもらってよろしいでしょうか?」
「あぁ」
「合わせて。見張り台が崩壊し。この有栖川公爵家の屋敷の構造からすると、屋根裏部屋を見張り部隊に使ってもらうのが一番かと思いますので。私は敷地内の南西にあるメイド寮に身を寄せて良いですか?」
公爵家からは逃げませんよと、言う意図でメイド寮に住むと恵麻は伝えるのだが。
「駄目だ」
龍迫は否定する。
「では、どのようにいたしましょう」
「・・・お前には・・・。”しかるべき部屋”があるだろう」
「かしこまりました。では、“しかるべき部屋”に移動します」
「今夜の夜会は自己処理があるので、欠席許可を貰った」
「かしこまりました。では、今よりしかるべき部屋に移動します」
龍迫は電話を切ると、トイレに移動し。
誰にいないことを確認すると、その額を打ち付けた。
今日の夜会では、深酒をして酔った勢いで謝るつもりだった。
酒に酔って謝ることは相手にとって誠意のない失礼で不誠実な行為で、信用されない謝罪になったとしても、謝るつもりであった。
28歳にもなり。
人生で初体験をすることなど、何もないと思っていたが。あった。
くそっ!機会を逃したと思う一方で・・・。
恵麻は”しかるべき部屋”に移動をしてくれるという。
しかるべき部屋=恵麻の本来居る部屋。
つまり、恵麻=公爵夫人=公爵の妻=龍迫の妻=龍迫の隣の部屋=しかるべき部屋だ。
物理的な距離を精神的な距離だとは思わないが、物理的な距離が近くなればなるほど接点が増え、謝るタイミングも増えるはずだ!
それに、自分の隣の部屋に移動をしてくれるという事は嫌われて・・・ないはずだ。
龍迫は拳を握り喜びを噛み締めた。

電話を切ると恵麻は携帯を嗽をして戻って来た飯田に返す。
そして、考え込んだ。
メイド寮よりも良くないしかるべき部屋と言えば、階段下か物置か。
今の時期は寒い。
階段下はコンクリートか石畳みなので、夏には良いが冬は身が堪える。
っとなれば、物置なのだが。
有栖川家の物置はパンパンなのだ。
困ったわね。
「恵麻様!ようやく、しかるべき部屋をお使いになるのですね。なんでもお手伝いいたします」
岬は恵麻の手を取る。
他のメイド達も歓声を上げてる。
うーん。
この喜びようからすると、しかるべき部屋は公爵夫人部屋になるけれど。
それは、お客さまの貴賓室にさっき飯田さんに指示を出したばかりだし。
屋敷の全員が恵麻が本来生活の公爵夫人の部屋に移動をすると思い舞い上がる。
誰1人として、来賓が来たときの部屋を公爵夫人の部屋をあてがうと言う恵麻の発言を忘れいた。
「大丈夫よ。一人でできるわ。皆は護衛の皆さんのお引越しをくれぐれも気をつけながらお手伝いしてください」
「「「はい!」」」
元気に明るく返事をするのは、メイド達だけではない。
恵麻がしかるべき部屋。
一般的に、妻がいる部屋はこの屋敷の女主人の部屋。
龍迫の隣の部屋。屋根裏部屋よりも、納屋や物置のほうがこのお屋敷では随分とランクが上なのね。
恵麻はそう思いながら、屋根裏部屋に上がると最低限の荷物を袋に入れる。
塔の修繕は2か月程度かしら?
このベッドも、ソファーも凄く使い心地が良かったけどしばし、お別れね。
さぁ、どこに移動しいようかしら?
思考を巡らせている恵麻の一方で・・・。

メイド達は浮足立っていた。
「恵麻様、こんなナイトドレスはどうかしら?」
「こっちの下着もセクシーだわ」
「お部屋のドアもスムーズに開くし、照明もばっちりよ」
龍迫の隣の部屋は盛大に飾られ、整えられ恵麻と龍迫の夫婦としてのグッツも整えられていく。
“しかるべき部屋”に移動することを龍迫が提案し、恵麻が頷いた。
龍迫が恵麻に惹かれていることは、屋敷の誰もが知っており。
恵麻も龍迫を嫌っているそぶりはなく本当の意味の夫婦になるのだろうと誰もが思っていた。

事実、龍迫が恵麻にぞっこんで、恵麻も龍迫に惹かれていた。
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