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代わり人は私
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リツは幸子からもらったという鮮やかな桃色の着物を胸に抱いた。
「私、これを着させていただいて、死神様とともに参ります」
「何言ってんの。マジで救いようのないお人好しなんだから!」
あかねは怒気を孕んだ声で言った。
「あかねさんにはご両親がいるでしょう。あなたが居なくなったらどれほどお嘆きになるか。私には嘆く両親も弟妹もいません。私が死神様と行きます!」
「私が行くって言ってるでしょ!」
「いいえ! ダメです!」
「ダメとか言われる筋合いねーし! アンタみたいなクッソお人好し見てるとイライラする!」
「まあ、乱暴なお言葉遣い。この先も生きて、もっと綺麗な日本語をお勉強なさって下さい」
「綺麗な言葉も喋れるわ! とにかく私が行くって言ってんだろうが!」
「行くのは私です!」
「救いようのないアホッ! 行くのは、わ・た・し!」
「救っていただかなくて結構! 行くのは、わ・た・し・で・すッ!」
「わからずやッ!」
「どっちが! 意地っ張り!」
「ぶりっ子!」
「どういう意味よ! 駄々っ子!」
あかねとリツが今にもつかみかからんばかりに顔を近づけた時だった。
「ギャウニャオーーーーー!」
凄まじく荒々しい鳴き声とともに、黒い物体が宙を舞い、二人の頭を引き離すように踏みつけて跳ね飛んだ。
「フシャーーーー!」といきり立った声を出し続ける総毛立った黒猫が、死神の腕の中におさまっていた。
「マルオ… マルオなの」
リツがビックリした表情で、何度か瞬きしながら黒猫を見つめている。
「知ってるの?」
「若奥様が結婚前から飼ってた猫ちゃん… 生きてたのね… マルオ」
「そんなバカな…」
あかねは半笑いで顔をゆがめる。
マルオを抱いた死神が、位置を確認するように立ち直し、威風堂々胸を張る。
「お前らぁぁ! 二人ともぉぉ! 不合格だぁぁぁ!」
「もういいわ、それ。飽きた」
あかねがフンと鼻を鳴らして視線を背ける。
死神の目が泳ぎ、咳払いを一つ。口をパクパクと動かし始める。
ギョェッ… キキキェ~…
瞬時に般若の形相のあかねから、鋭い眼光が飛んでくる。
死神は口を閉じ、視線を落とした。
「と… と、とにかく、お前たちは不合格だ… ああ… もう気の強い女は同行する気が失せる…」
「死ぬのに合格不合格があるわけ? ほんっと、アホだわぁ」
「本当に死神様も頭が、少~しお弱いようですね」
死神は疲れ切ったように姿勢を崩した。
あかねが死神の丸くなった背中を半眼で見る。
「未熟な魂は必要ないの?」
「マルオを連れて行く。彼女はリツの着物の裾に隠れて、共に写真の中にいたのだ」
「ねえ、リツさん、今、死神が『彼女』って言ったけど、マルオ、女の子?」
「はい… どうしてマルオと付けたんだか…」
「お前たちのような、偉大な死神であるこの私を罵るような不届き者より、マルオのほうがはるかに謙虚で礼儀正しい」
話しているうちに調子づいてきた死神が、背筋をピンと伸ばして胸を張る。
「私はぁぁ! 偉大なるぅぅ! 死神なのだぁぁ!」
その甲高い声を、あかねとリツのはしゃいだ声がかき消していく。
「うちの先祖、名前のセンスないわぁ。パパの名前も『ゆうり』っていうの。どうよ、このセンス」
「ゆ…り… 女の子みたいな名前ですね」
「でしょう。名前の通り女々しくて頼りない」
「あかねさん、言い過ぎ!」
「この偉大な死神のぉ… 私は偉大なぁ… 死神なのだぁ…」
蔵の中には、あかねとリツの弾けるような笑い声が響いている。
「この私を… 偉大なる死神の私を… む、無視しおって… ふ、不届き者め…」
ワナワナと震える死神の腕の中に抱かれたマルオが、機嫌をとるように「ニャウニャウ」と死神に頭を摺り寄せ、チラリとリツとあかねを見やった。その瞳は二人を優しく包み込むように微笑んでいた。
死神は二人を一瞥すると、フンと鼻を鳴らして一瞬のうちに消え去ってしまった。
「あ、マルオ消えた…」
「マルオ… マルオ…」
リツがマルオの名を呼び、あたりを見回す。
「マルオ… マルオがいない…」
今まで確かに見えていた死神とマルオが居た場所に向かって、リツが手を合わせる。
「ごめんなさい… マルオ、ごめんなさい…マルオ… マルオ…」
リツが声を震わせ、瞳を潤ませる。
あかねがリツの肩を優しく抱き寄せた。
「マルオっていくつ?」
「若奥様が子供のころに拾われたそうで、確か17歳になるかと…」
「17! 老猫じゃない」
「でも、若奥様のご実家で飼われていた猫ちゃんは、26歳まで生きられたそうです」
「26歳! …まあ、それに比べれば未熟な魂と言えなくもないか」
リツがこぼれ落ちそうになる涙を拭い、微かに唇を震わせ、戸惑い気味にあかねを見つめる。
「私は生きていけるのでしょうか… 明治の代に生まれた女なのに…」
「あ、それ言っちゃダメね。平成って言わないと」
「へーせって…?」
「とりあえず着物脱いでスカートにしよっか」
あかねが、はいているスカートをつまみ上げた。
「す、すかあと… 腰巻ですか…」
リツが眉間に薄っすらと皺を寄せる。
「すかあとはイヤです。ま、股がスースー寒そうだし…」
「寒くない、寒くない。レギンスはけば暖かだよ」
あかねが、はいているレギンスをつまんで弾くと、リツの眉間の皺がさらに深くなる。
「そんな、く、黒くして… あ… あ、足を出すなんて恥ずかしいです…」
「今どき何言ってんのよ」
「だから、明治の代の女ですから」
「だからぁ、それ言っちゃダメだって」
蔵から聞こえるガールズトークを、しばらく屋根の上で聞いていた死神とマルオが、目を合わせてニヤリと笑う。
おもむろに立ち上がると、二人は天高く飛び立ち、天空の彼方へと消え去った。
終わり
最後まで読んでいただきありがとうございました。
心から感謝いたします。
Picrewのお遊びです。
死神になるようなイケメンを探してみました。
こんな感じでいかがでしょう(^◇^;)
「ストイックな男メーカー」「ストイックな男メーカー2nd」で作りました。
衣装は和服にマントみたいなのをイメージしてましたが、ないので西洋風にしてみました。
キリッとした死神
微笑む死神
同一人物です!(^◇^;)
あかねちゃん…あまりの口の悪さに、イメージがほぼギャグ漫画のようになったり、イメージが定まりませんでした。
それなら死神もそうだろうと突っ込まれそうですが、イケメン作りたくて…(^◇^;)アカネ…ゴメン
最後までお付き合いくださりありがとうございました。ごめんなさい。
「私、これを着させていただいて、死神様とともに参ります」
「何言ってんの。マジで救いようのないお人好しなんだから!」
あかねは怒気を孕んだ声で言った。
「あかねさんにはご両親がいるでしょう。あなたが居なくなったらどれほどお嘆きになるか。私には嘆く両親も弟妹もいません。私が死神様と行きます!」
「私が行くって言ってるでしょ!」
「いいえ! ダメです!」
「ダメとか言われる筋合いねーし! アンタみたいなクッソお人好し見てるとイライラする!」
「まあ、乱暴なお言葉遣い。この先も生きて、もっと綺麗な日本語をお勉強なさって下さい」
「綺麗な言葉も喋れるわ! とにかく私が行くって言ってんだろうが!」
「行くのは私です!」
「救いようのないアホッ! 行くのは、わ・た・し!」
「救っていただかなくて結構! 行くのは、わ・た・し・で・すッ!」
「わからずやッ!」
「どっちが! 意地っ張り!」
「ぶりっ子!」
「どういう意味よ! 駄々っ子!」
あかねとリツが今にもつかみかからんばかりに顔を近づけた時だった。
「ギャウニャオーーーーー!」
凄まじく荒々しい鳴き声とともに、黒い物体が宙を舞い、二人の頭を引き離すように踏みつけて跳ね飛んだ。
「フシャーーーー!」といきり立った声を出し続ける総毛立った黒猫が、死神の腕の中におさまっていた。
「マルオ… マルオなの」
リツがビックリした表情で、何度か瞬きしながら黒猫を見つめている。
「知ってるの?」
「若奥様が結婚前から飼ってた猫ちゃん… 生きてたのね… マルオ」
「そんなバカな…」
あかねは半笑いで顔をゆがめる。
マルオを抱いた死神が、位置を確認するように立ち直し、威風堂々胸を張る。
「お前らぁぁ! 二人ともぉぉ! 不合格だぁぁぁ!」
「もういいわ、それ。飽きた」
あかねがフンと鼻を鳴らして視線を背ける。
死神の目が泳ぎ、咳払いを一つ。口をパクパクと動かし始める。
ギョェッ… キキキェ~…
瞬時に般若の形相のあかねから、鋭い眼光が飛んでくる。
死神は口を閉じ、視線を落とした。
「と… と、とにかく、お前たちは不合格だ… ああ… もう気の強い女は同行する気が失せる…」
「死ぬのに合格不合格があるわけ? ほんっと、アホだわぁ」
「本当に死神様も頭が、少~しお弱いようですね」
死神は疲れ切ったように姿勢を崩した。
あかねが死神の丸くなった背中を半眼で見る。
「未熟な魂は必要ないの?」
「マルオを連れて行く。彼女はリツの着物の裾に隠れて、共に写真の中にいたのだ」
「ねえ、リツさん、今、死神が『彼女』って言ったけど、マルオ、女の子?」
「はい… どうしてマルオと付けたんだか…」
「お前たちのような、偉大な死神であるこの私を罵るような不届き者より、マルオのほうがはるかに謙虚で礼儀正しい」
話しているうちに調子づいてきた死神が、背筋をピンと伸ばして胸を張る。
「私はぁぁ! 偉大なるぅぅ! 死神なのだぁぁ!」
その甲高い声を、あかねとリツのはしゃいだ声がかき消していく。
「うちの先祖、名前のセンスないわぁ。パパの名前も『ゆうり』っていうの。どうよ、このセンス」
「ゆ…り… 女の子みたいな名前ですね」
「でしょう。名前の通り女々しくて頼りない」
「あかねさん、言い過ぎ!」
「この偉大な死神のぉ… 私は偉大なぁ… 死神なのだぁ…」
蔵の中には、あかねとリツの弾けるような笑い声が響いている。
「この私を… 偉大なる死神の私を… む、無視しおって… ふ、不届き者め…」
ワナワナと震える死神の腕の中に抱かれたマルオが、機嫌をとるように「ニャウニャウ」と死神に頭を摺り寄せ、チラリとリツとあかねを見やった。その瞳は二人を優しく包み込むように微笑んでいた。
死神は二人を一瞥すると、フンと鼻を鳴らして一瞬のうちに消え去ってしまった。
「あ、マルオ消えた…」
「マルオ… マルオ…」
リツがマルオの名を呼び、あたりを見回す。
「マルオ… マルオがいない…」
今まで確かに見えていた死神とマルオが居た場所に向かって、リツが手を合わせる。
「ごめんなさい… マルオ、ごめんなさい…マルオ… マルオ…」
リツが声を震わせ、瞳を潤ませる。
あかねがリツの肩を優しく抱き寄せた。
「マルオっていくつ?」
「若奥様が子供のころに拾われたそうで、確か17歳になるかと…」
「17! 老猫じゃない」
「でも、若奥様のご実家で飼われていた猫ちゃんは、26歳まで生きられたそうです」
「26歳! …まあ、それに比べれば未熟な魂と言えなくもないか」
リツがこぼれ落ちそうになる涙を拭い、微かに唇を震わせ、戸惑い気味にあかねを見つめる。
「私は生きていけるのでしょうか… 明治の代に生まれた女なのに…」
「あ、それ言っちゃダメね。平成って言わないと」
「へーせって…?」
「とりあえず着物脱いでスカートにしよっか」
あかねが、はいているスカートをつまみ上げた。
「す、すかあと… 腰巻ですか…」
リツが眉間に薄っすらと皺を寄せる。
「すかあとはイヤです。ま、股がスースー寒そうだし…」
「寒くない、寒くない。レギンスはけば暖かだよ」
あかねが、はいているレギンスをつまんで弾くと、リツの眉間の皺がさらに深くなる。
「そんな、く、黒くして… あ… あ、足を出すなんて恥ずかしいです…」
「今どき何言ってんのよ」
「だから、明治の代の女ですから」
「だからぁ、それ言っちゃダメだって」
蔵から聞こえるガールズトークを、しばらく屋根の上で聞いていた死神とマルオが、目を合わせてニヤリと笑う。
おもむろに立ち上がると、二人は天高く飛び立ち、天空の彼方へと消え去った。
終わり
最後まで読んでいただきありがとうございました。
心から感謝いたします。
Picrewのお遊びです。
死神になるようなイケメンを探してみました。
こんな感じでいかがでしょう(^◇^;)
「ストイックな男メーカー」「ストイックな男メーカー2nd」で作りました。
衣装は和服にマントみたいなのをイメージしてましたが、ないので西洋風にしてみました。
キリッとした死神
微笑む死神
同一人物です!(^◇^;)
あかねちゃん…あまりの口の悪さに、イメージがほぼギャグ漫画のようになったり、イメージが定まりませんでした。
それなら死神もそうだろうと突っ込まれそうですが、イケメン作りたくて…(^◇^;)アカネ…ゴメン
最後までお付き合いくださりありがとうございました。ごめんなさい。
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