鳥とキツネとアイツ

永倉圭夏

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僕とあいつの未来図

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 夕食は化け狐の本領発揮だった。父親にお酌しながらニコニコと分厚い面の皮で笑顔を作り振りまく。中1の妹にまで愛想をふるうその姿に僕は内心あきれ果てた。

 後片付けを母親と僕たち二人でするとまた2階の僕の部屋で僕の焼いたクッキーを食べながらくつろぐ。

「はー、4月から大学生かー」

「先輩と呼べよ。あともう食うな、全部あたしの」

「はい先輩」

「あれ、妙に素直じゃん」

「今日の僕は何事にも寛容なのだよ。怒鳴られようと蹴られようと」

「へえ……」

 あいつはすくっと立ち上がる。

「どうした?」

「コンビニ行こ。おごって」

「僕はおごられる立場だと思うんだが」

「いいじゃんいいじゃん、寛容なんでしょ? 気にしないの」

「ちぇっ」

 近くのコンビニで中華まんとコーヒーを買ってさらに近くの公園のベンチに座って脚を投げ出す。

「……お前こそ」

「え? なに? 聞こえない」

「お前の方こそ男子の注目の的で、ハラハラしてたんだ。今まで何人から『紹介してくれ』って頼まれたと思ってんだ。まあ全部断ったけど。だから『あいつは恋愛対象じゃない。ただの幼馴染なんだ』って思いこもうとしてずっとごまかしてた」

「そっか、ごめんね」

「お前だって実際何人にも告白されてただろ。僕の知ってるだけで4人」

「……うん。実際はね7人。小5の時から」

「モテモテだな。断るの大変だったろう」

 少し長い沈黙ののち答えが返ってくる

「…………うん、でも好きな人がいるから、って……」

「えっ、好きな人って……」

 思い切り足を踏まれる。

「いてっ」

「察しろよばか」

「はい察しました」

「大学はさ、めっちゃ楽しいから。楽しみにしとけよお」

「はいはい500回聞いた」

「あ、雪」

「天気予報通りだな」

「ふふっ、『ホワイトホワイトデー』だね」

「確かに。さ、帰るか。そっちの親御さんだって心配する」

「だね、名残惜しいけど帰るかあ」

 僕たちは立ち上がってこれから5分程度の道のりを歩く。

 僕の隣の元幼馴染、現彼女の横顔を見下ろす。同じ顔だけど別人のような気もする。目が合うと微かに笑って腕を絡ませてくる。

「なあ……」

「ん?」

「僕たちのこれから」

「うん」

「大学で先輩後輩になって」

「ん」

「そっちが先に卒業して就職して」

「うん」

「もしかしたら僕は院に行ったりして」

「へえ」

「お互いどんな未来があるかわからないけどさ」

「そだね」

「僕たち、ずっとこのままでいような」

「……らしいなあ、そういうこと言っちゃうとこ」

「なにを」

 彼女が体重を預けてくるので僕は少しよろめいた。フフッと笑ったあいつはつぶやく。

「でも、嫌いじゃないよ」

 人生がこの先どこまで続くのか、そんなもの誰にもわかりゃしない。そんなあやふやな未来に向かって僕たちは手に手を取って歩み続けていきたい。

 こいつは外面ばっかりの化け狐だけど、僕の前でだけは本心をさらけ出してくれる。だから僕もそれをしっかり受け止めてやろう。嘘もつかないようにしよう。

 粉雪舞い散る中、体を寄せ合いながらそんなことをぼんやり思った。
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