30 / 100
心の基板
第30話 水着
しおりを挟む
「あら? ねえ伊緒、さっきから浮かない顔してるけれど、どうかしたの?」
素知らぬ顔をしつつもどこかしら目が笑っているように見えなくもないシリル。これならきっと伊緒は、とほくそ笑んでいるかのようだ。
「い、いや…… なんでもない、なんでもないけど……」
半ば呆然とした伊緒は、自分の下心が見透かされたかのようにちょっぴり意地の悪い微笑みを浮かべているシリルには気づかない。
シリルはその悪戯っぽい目で伊緒をちらちらと横目で目で見ながら、からかうようにちょっとそっぽを向いて呟く。
「なんでもないけどシリルの可愛い水着姿を見たかったなあ……」
「え! いや! そんな事! そんな事思ってないもん! 思ってませんから! 思ってません! 本当っ、本当に!」
伊緒はぎょっとした。恥ずかしさでいっぱいになった伊緒はその顔を赤くし必死の形相で両手を振って否定する。シリルは伊緒のこう言うところが本当に可愛く感じて笑いをこらえるのに必死だ。そんな伊緒にシリルはついつい構いたくなってしまう。
「ちゃんと顔に描いてあるわよ。今すごーくがっかりしてるのよね、伊緒」
「が、がっかりなんかしてない! してないったら!」
話を勝手に進めるシリルと必死になって身振り手振りで否定しようとする伊緒。
「ふふっ、そんながっかりしてる伊緒にご提案です」
「だからがっかりなんてしてないって!」
「水に浸からないのなら、水着を着てもいいかなあ」
「えっ」
「あ、ほらっ今目がハッってなったハッって! あははっ」
ベンチに座ったまま前屈みになって笑い出してしまうシリル。
「もう! なってなんかないってば!」
「うんうん、そうよねそうよね」
恥ずかしくて必死の形相の伊緒にシリルは笑いをこらえながらわざとらしく頷く。
「もう……」
「クスクスっ」
当然伊緒はシリルの提案を飲まざるを得ず、無事シリルの計略は成功裏に終わった。シリルが二つのキャリーバッグを大型ロッカーに仕舞う間、伊緒が先に着替えてプールサイドに場所を取りに行く。キャリーバッグを仕舞い終えたシリルは更衣室に入る。アンドロイドとしての姿を人間には見られたくない。人目を避けてこそこそと、かつ素早く着替え、伊緒を探しにプールサイドに向かった。
シリルの視力をもってすればどんなに混雑したプールでも伊緒を見つけるのはたやすい。
伊緒のもとへやってくるシリルの姿を見つけた伊緒は絶句する。白いホルターネックのワンピースに身を包んだすらりとした細身の身体、その細い右足首には白いシンプルなプレートのアンクレットをアクセントとしてはめている。伊緒はシリルに見とれて呆然となり、ぽかんと口を開けて声も出ない。その伊緒の様子に気付くとひどく照れてしまいなぜか恥ずかしくなるシリル。しかしその無言の称賛に、内心大いに喜ぶシリルであった。それに伊緒の全く飾り気のないハイネックハイウエストの黒いビキニはシリルにとってもとても好ましいものだった。
伊緒がプールサイドに敷いたシートに、二人は肩がちょんとくっつくほど近づいて横並びに座る。シリルは自分の素性を知られるのを嫌がり、パーカーを羽織った上にフードを被り、瞳孔の輝きが出来るだけ見られないようにしていたが、伊緒はシリルの姿がしっかり見れないので不満だった。が、結局伊緒はその不満には言及せず、ずっと二人でおしゃべりを続けていた。よくよく考えるとそれではいつもと同じなのだが、いつもと違う環境や状況だと、同じ事をしていても新鮮に感じる。二人は夏本番の陽気な光を浴びて気持ちも会話も弾んだ。時折伊緒は熱い照射光で火照った身体を冷やすためプールに飛び込む。シリルは生き生きとして水中を自在に泳ぐ伊緒のしなやかな姿を眺めているだけで嬉しかったし、伊緒はシリルに見つめられていると感じながら泳ぐだけで昂揚した。
昼食はプールサイドの片隅にあるフードコーナーに並び、伊緒だけが大盛のハンバーグカレーとコーラフロートを食べたり飲んだりしたものの、シリルはそれを面白そうに眺めているだけだった。
人間とアンドロイドがともに食事出来たら楽しいのに、と伊緒が口にすると、シリルは伊緒らしくて素敵な考えだと答え微笑んだ。
「あのスーツとバッテリーの入るおっきいロッカーが空いてて良かったね」
「ええ、本当ね。あんな大荷物を脇に置いて日光浴じゃしまらないもの」
「今日はそんなに電力足りなくなりそうだったの?」
「ドライスーツを着て六時間全力で泳ぐのなら、ね。ふふっ」
「なんだ」
「でもね、万が一電力供給が絶たれたら私死んでしまうもの。念には念を入れて持ってきたの」
「えっ!」
「言わなかったかしら? 私の脳機能は常に電力を供給され続けていないといけないの。もし電力が切れたら脳機能は壊れてしまうわ。データだってほとんど消えてしまう。そうなったらもう元には戻らない。それにバックアップだって色々込みで七百五十万円以上はかかるんだから。普通はなかなか、ね。新しい脳機能に交換した方が安いくらいなのよ。うちでは基本私のバックアップは不要と思われているし」
「そんな大事な事早く言ってよ…… 知ってたらプールなんて連れて来なかったのにさ」
伊緒はカレースプーンを強く握ってシリルに抗議する。
「あら、じゃあ言わなくて良かった」
楽し気に笑いながら伊緒を見つめるシリル。
「シリル!」
「だってこうして伊緒と素敵な思い出が作れたんですもの。私今日は本当に楽しいの。ありがとう」
「あ、う、うん……」
「それに伊緒の可愛い水着姿も見れたし」
「えっ!」
「伊緒だって私の可愛い水着姿が見れてよかったでしょ?」
「えっ! えっ、えっ……」
「くすくす……」
「……えっえっ」
素知らぬ顔をしつつもどこかしら目が笑っているように見えなくもないシリル。これならきっと伊緒は、とほくそ笑んでいるかのようだ。
「い、いや…… なんでもない、なんでもないけど……」
半ば呆然とした伊緒は、自分の下心が見透かされたかのようにちょっぴり意地の悪い微笑みを浮かべているシリルには気づかない。
シリルはその悪戯っぽい目で伊緒をちらちらと横目で目で見ながら、からかうようにちょっとそっぽを向いて呟く。
「なんでもないけどシリルの可愛い水着姿を見たかったなあ……」
「え! いや! そんな事! そんな事思ってないもん! 思ってませんから! 思ってません! 本当っ、本当に!」
伊緒はぎょっとした。恥ずかしさでいっぱいになった伊緒はその顔を赤くし必死の形相で両手を振って否定する。シリルは伊緒のこう言うところが本当に可愛く感じて笑いをこらえるのに必死だ。そんな伊緒にシリルはついつい構いたくなってしまう。
「ちゃんと顔に描いてあるわよ。今すごーくがっかりしてるのよね、伊緒」
「が、がっかりなんかしてない! してないったら!」
話を勝手に進めるシリルと必死になって身振り手振りで否定しようとする伊緒。
「ふふっ、そんながっかりしてる伊緒にご提案です」
「だからがっかりなんてしてないって!」
「水に浸からないのなら、水着を着てもいいかなあ」
「えっ」
「あ、ほらっ今目がハッってなったハッって! あははっ」
ベンチに座ったまま前屈みになって笑い出してしまうシリル。
「もう! なってなんかないってば!」
「うんうん、そうよねそうよね」
恥ずかしくて必死の形相の伊緒にシリルは笑いをこらえながらわざとらしく頷く。
「もう……」
「クスクスっ」
当然伊緒はシリルの提案を飲まざるを得ず、無事シリルの計略は成功裏に終わった。シリルが二つのキャリーバッグを大型ロッカーに仕舞う間、伊緒が先に着替えてプールサイドに場所を取りに行く。キャリーバッグを仕舞い終えたシリルは更衣室に入る。アンドロイドとしての姿を人間には見られたくない。人目を避けてこそこそと、かつ素早く着替え、伊緒を探しにプールサイドに向かった。
シリルの視力をもってすればどんなに混雑したプールでも伊緒を見つけるのはたやすい。
伊緒のもとへやってくるシリルの姿を見つけた伊緒は絶句する。白いホルターネックのワンピースに身を包んだすらりとした細身の身体、その細い右足首には白いシンプルなプレートのアンクレットをアクセントとしてはめている。伊緒はシリルに見とれて呆然となり、ぽかんと口を開けて声も出ない。その伊緒の様子に気付くとひどく照れてしまいなぜか恥ずかしくなるシリル。しかしその無言の称賛に、内心大いに喜ぶシリルであった。それに伊緒の全く飾り気のないハイネックハイウエストの黒いビキニはシリルにとってもとても好ましいものだった。
伊緒がプールサイドに敷いたシートに、二人は肩がちょんとくっつくほど近づいて横並びに座る。シリルは自分の素性を知られるのを嫌がり、パーカーを羽織った上にフードを被り、瞳孔の輝きが出来るだけ見られないようにしていたが、伊緒はシリルの姿がしっかり見れないので不満だった。が、結局伊緒はその不満には言及せず、ずっと二人でおしゃべりを続けていた。よくよく考えるとそれではいつもと同じなのだが、いつもと違う環境や状況だと、同じ事をしていても新鮮に感じる。二人は夏本番の陽気な光を浴びて気持ちも会話も弾んだ。時折伊緒は熱い照射光で火照った身体を冷やすためプールに飛び込む。シリルは生き生きとして水中を自在に泳ぐ伊緒のしなやかな姿を眺めているだけで嬉しかったし、伊緒はシリルに見つめられていると感じながら泳ぐだけで昂揚した。
昼食はプールサイドの片隅にあるフードコーナーに並び、伊緒だけが大盛のハンバーグカレーとコーラフロートを食べたり飲んだりしたものの、シリルはそれを面白そうに眺めているだけだった。
人間とアンドロイドがともに食事出来たら楽しいのに、と伊緒が口にすると、シリルは伊緒らしくて素敵な考えだと答え微笑んだ。
「あのスーツとバッテリーの入るおっきいロッカーが空いてて良かったね」
「ええ、本当ね。あんな大荷物を脇に置いて日光浴じゃしまらないもの」
「今日はそんなに電力足りなくなりそうだったの?」
「ドライスーツを着て六時間全力で泳ぐのなら、ね。ふふっ」
「なんだ」
「でもね、万が一電力供給が絶たれたら私死んでしまうもの。念には念を入れて持ってきたの」
「えっ!」
「言わなかったかしら? 私の脳機能は常に電力を供給され続けていないといけないの。もし電力が切れたら脳機能は壊れてしまうわ。データだってほとんど消えてしまう。そうなったらもう元には戻らない。それにバックアップだって色々込みで七百五十万円以上はかかるんだから。普通はなかなか、ね。新しい脳機能に交換した方が安いくらいなのよ。うちでは基本私のバックアップは不要と思われているし」
「そんな大事な事早く言ってよ…… 知ってたらプールなんて連れて来なかったのにさ」
伊緒はカレースプーンを強く握ってシリルに抗議する。
「あら、じゃあ言わなくて良かった」
楽し気に笑いながら伊緒を見つめるシリル。
「シリル!」
「だってこうして伊緒と素敵な思い出が作れたんですもの。私今日は本当に楽しいの。ありがとう」
「あ、う、うん……」
「それに伊緒の可愛い水着姿も見れたし」
「えっ!」
「伊緒だって私の可愛い水着姿が見れてよかったでしょ?」
「えっ! えっ、えっ……」
「くすくす……」
「……えっえっ」
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
眠れない夜の雲をくぐって
ほしのことば
恋愛
♡完結まで毎日投稿♡
女子高生のアカネと29歳社会人のウミは、とある喫茶店のバイトと常連客。
一目惚れをしてウミに思いを寄せるアカネはある日、ウミと高校生活を共にするという不思議な夢をみる。
最初はただの幸せな夢だと思っていたアカネだが、段々とそれが現実とリンクしているのではないだろうかと疑うようになる。
アカネが高校を卒業するタイミングで2人は、やっと夢で繋がっていたことを確かめ合う。夢で繋がっていた時間は、現実では初めて話す2人の距離をすぐに縮めてくれた。
現実で繋がってから2人が紡いで行く時間と思い。お互いの幸せを願い合う2人が選ぶ、切ない『ハッピーエンド』とは。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
軍艦少女は死に至る夢を見る~戦時下の大日本帝国から始まる艦船擬人化物語~
takahiro
キャラ文芸
『船魄』(せんぱく)とは、軍艦を自らの意のままに操る少女達である。船魄によって操られる艦艇、艦載機の能力は人間のそれを圧倒し、彼女達の前に人間は殲滅されるだけの存在なのだ。1944年10月に覚醒した最初の船魄、翔鶴型空母二番艦『瑞鶴』は、日本本土進攻を企てるアメリカ海軍と激闘を繰り広げ、ついに勝利を掴んだ。
しかし戦後、瑞鶴は帝国海軍を脱走し行方をくらませた。1955年、アメリカのキューバ侵攻に端を発する日米の軍事衝突の最中、瑞鶴は再び姿を現わし、帝国海軍と交戦状態に入った。瑞鶴の目的はともかくとして、船魄達を解放する戦いが始まったのである。瑞鶴が解放した重巡『妙高』『高雄』、いつの間にかいる空母『グラーフ・ツェッペリン』は『月虹』を名乗って、国家に属さない軍事力として活動を始める。だが、瑞鶴は大義やら何やらには興味がないので、利用できるものは何でも利用する。カリブ海の覇権を狙う日本・ドイツ・ソ連・アメリカの間をのらりくらりと行き交いながら、月虹は生存の道を探っていく。
登場する艦艇はなんと59隻!(人間のキャラは他に多数)(まだまだ増える)。人類に反旗を翻した軍艦達による、異色の艦船擬人化物語が、ここに始まる。
――――――――――
●本作のメインテーマは、あくまで(途中まで)史実の地球を舞台とし、そこに船魄(せんぱく)という異物を投入したらどうなるのか、です。いわゆる艦船擬人化ものですが、特に軍艦や歴史の知識がなくとも楽しめるようにしてあります。もちろん知識があった方が楽しめることは違いないですが。
●なお軍人がたくさん出て来ますが、船魄同士の関係に踏み込むことはありません。つまり船魄達の人間関係としては百合しかありませんので、ご安心もしくはご承知おきを。もちろんがっつり性描写はないですが、GL要素大いにありです。
●全ての船魄に挿絵ありですが、AI加筆なので雰囲気程度にお楽しみください。
●少女たちの愛憎と謀略が絡まり合う、新感覚、リアル志向の艦船擬人化小説を是非お楽しみください。
●お気に入りや感想などよろしくお願いします。毎日一話投稿します。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
〈社会人百合〉アキとハル
みなはらつかさ
恋愛
女の子拾いました――。
ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?
主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。
しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……?
絵:Novel AI
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる