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球技大会-取引
第15話 直談判
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放課後、希美代はシリルと伊緒《いお》を連れ立って大会運営委員会へ陳情に向かう。もちろん、シリルの選手登録と競技参加を認めてもらうためだ。これが通らなければ、優勝どころか試合参加すらできない。
当然のことながら大会運営委員会の委員長は難色を示す。シリルの飛び抜けた身体能力では人間の生徒のそれとの均衡を保てず、著しく不公平であると判断したのだ。また、シリルが人間でない事も参加を容認できない要因だと告げる。
シリルの出場が危ぶまれる事態に2人は不安を覚えるが、希美代は胸を張って交渉の前面に立つ。
「ヒューマンモードを使用します。これは簡単に言えば一般的な人間の平均と同等かそれ以下の能力と感覚しか発揮できなくなるモードです。これは赤ん坊から老人までどのような年代の能力にも対応できます。この機能はRevelation社のタイプAF全てに実装されています。そして矢木澤さんの型式はAF‐705(※1)ですからこの機能が使えます」
「えっ」
驚きの声が同時に2人の口を突いて出る。シリルの型式なんていつ知ったのだろう。そんな二人に気づいたのか、希美代は振り向くとシリルにいたずらっぽい微笑みを浮かべた。
「Revelation社製アンドロイドの型式はお尻にプリントされてるの。知らなかったの?」
「!」
真っ赤になって両手でばっとお尻を押さえるシリル。いつの間にか希美代にお尻を見られていたのか。そう思うと恥ずかしさと怒りがこみ上げてくる。
「冗談。虹彩の色や運動を見れば簡単に判別できるの。それだけ。それにお尻を見る機会なんてあるわけないじゃない」
希美代は首を傾げ、からかいの表情でシリルに言葉を投げかける。
「……っ」
シリルは赤い顔のまま、お尻を押さえていた手を離し無言で希美代の後姿を睨む。
大会運営委員会の会長はこのやり取りにも相好を崩さず渋面のままだ。
「しかしそれをどうやって確認すれば? つまりその機能が確かに働いているとどうすれば証明できますか? 言われただけではいそうですかと言うわけにはいきませんよ」
「そうね。Revelation社は『トークン』を発売しています。そのトークンでヒューマンモードだけじゃなくて様々なモードを指示できます」
そうなると希美代が言っていたヒューマンモード以外にも様々なモードがあって、ボタン1つでシリルを人間の思うままにできると言うことなのか。この希美代の話は伊緒にとってもシリルにとっても強い嫌悪感を覚えるものであった。希美代ははたと少し不思議そうな顔になりシリルの方を向く。
「矢木澤さんも知ってるでしょ?」
「はい、ヒューマンモード自体は初期装備としてありますが、トークンの存在までは情報を持っていませんでした」
「きっと不要だと思っていたのね。いい所有者さんね」
「そうでしょうか」
シリルの眉間にしわが寄る。
希美代はシリルの表情の変化を無視して「そうよ」とシリルに答えると、また委員長たちに向き直る。
「それでそのトークンを使用すれば、強制的に矢木澤さんの能力をごくごく平均的な高校生レベルにまで引き下げる事が出来るの。誤作動の確率は0.002%。これはメーカーのお墨付きだからそれを疑うのは合理的じゃないわ」
得意げに、しかも一方的に自説を主張し続ける希美代に辟易している委員長とその取り巻き。ここにきてようやく委員長が口を挟む機会を得た。
「いえ、しかし、さっきから言っているように、人間以外を人間と――」
「確かに矢木澤さんは人間ではありません。アンドロイドです。機械です。しかし、トークンを使用することで、少なくとも試合中は一般高校生と何ら変わる事なく競技に参加できます。競技中、能力の不均衡以外にどのような差異が問題になりますか? 外見だってご覧の通り完璧に人間と同じです。AF‐705の感情プログラムは、悔しいけれど他社のどのような感情プログラムよりも人間味に溢れ豊かで精緻な感情を編み出します。その多様性と繊細さはある意味人間以上でしょう。能力・外見・感情、全てにおいて人間と同等若しくは近似。この他に競技に参加する妨げになるような事はありますか。あるんですか? 委員長」
結局希美代はいつものように委員長の言葉を遮って一気にまくし立てる。そして自信に満ちた笑顔でうんざりした表情の委員長らを睥睨した。
▼用語
※1AF‐705:
Revelation社が販売する最新機種の感情型アンドロイド。シリルを構成する躯体でもある。
表現力豊かな楽器演奏をも可能にする繊細な手先の動きと、他社の追随を許さない高性能を有する脳機能Wによってはじめて実現された大容量感情プログラムにより、これまで以上に高い人間性を勝ち得た機種。AFはAuto(matic)とFellow(ship)の頭文字。
当然のことながら大会運営委員会の委員長は難色を示す。シリルの飛び抜けた身体能力では人間の生徒のそれとの均衡を保てず、著しく不公平であると判断したのだ。また、シリルが人間でない事も参加を容認できない要因だと告げる。
シリルの出場が危ぶまれる事態に2人は不安を覚えるが、希美代は胸を張って交渉の前面に立つ。
「ヒューマンモードを使用します。これは簡単に言えば一般的な人間の平均と同等かそれ以下の能力と感覚しか発揮できなくなるモードです。これは赤ん坊から老人までどのような年代の能力にも対応できます。この機能はRevelation社のタイプAF全てに実装されています。そして矢木澤さんの型式はAF‐705(※1)ですからこの機能が使えます」
「えっ」
驚きの声が同時に2人の口を突いて出る。シリルの型式なんていつ知ったのだろう。そんな二人に気づいたのか、希美代は振り向くとシリルにいたずらっぽい微笑みを浮かべた。
「Revelation社製アンドロイドの型式はお尻にプリントされてるの。知らなかったの?」
「!」
真っ赤になって両手でばっとお尻を押さえるシリル。いつの間にか希美代にお尻を見られていたのか。そう思うと恥ずかしさと怒りがこみ上げてくる。
「冗談。虹彩の色や運動を見れば簡単に判別できるの。それだけ。それにお尻を見る機会なんてあるわけないじゃない」
希美代は首を傾げ、からかいの表情でシリルに言葉を投げかける。
「……っ」
シリルは赤い顔のまま、お尻を押さえていた手を離し無言で希美代の後姿を睨む。
大会運営委員会の会長はこのやり取りにも相好を崩さず渋面のままだ。
「しかしそれをどうやって確認すれば? つまりその機能が確かに働いているとどうすれば証明できますか? 言われただけではいそうですかと言うわけにはいきませんよ」
「そうね。Revelation社は『トークン』を発売しています。そのトークンでヒューマンモードだけじゃなくて様々なモードを指示できます」
そうなると希美代が言っていたヒューマンモード以外にも様々なモードがあって、ボタン1つでシリルを人間の思うままにできると言うことなのか。この希美代の話は伊緒にとってもシリルにとっても強い嫌悪感を覚えるものであった。希美代ははたと少し不思議そうな顔になりシリルの方を向く。
「矢木澤さんも知ってるでしょ?」
「はい、ヒューマンモード自体は初期装備としてありますが、トークンの存在までは情報を持っていませんでした」
「きっと不要だと思っていたのね。いい所有者さんね」
「そうでしょうか」
シリルの眉間にしわが寄る。
希美代はシリルの表情の変化を無視して「そうよ」とシリルに答えると、また委員長たちに向き直る。
「それでそのトークンを使用すれば、強制的に矢木澤さんの能力をごくごく平均的な高校生レベルにまで引き下げる事が出来るの。誤作動の確率は0.002%。これはメーカーのお墨付きだからそれを疑うのは合理的じゃないわ」
得意げに、しかも一方的に自説を主張し続ける希美代に辟易している委員長とその取り巻き。ここにきてようやく委員長が口を挟む機会を得た。
「いえ、しかし、さっきから言っているように、人間以外を人間と――」
「確かに矢木澤さんは人間ではありません。アンドロイドです。機械です。しかし、トークンを使用することで、少なくとも試合中は一般高校生と何ら変わる事なく競技に参加できます。競技中、能力の不均衡以外にどのような差異が問題になりますか? 外見だってご覧の通り完璧に人間と同じです。AF‐705の感情プログラムは、悔しいけれど他社のどのような感情プログラムよりも人間味に溢れ豊かで精緻な感情を編み出します。その多様性と繊細さはある意味人間以上でしょう。能力・外見・感情、全てにおいて人間と同等若しくは近似。この他に競技に参加する妨げになるような事はありますか。あるんですか? 委員長」
結局希美代はいつものように委員長の言葉を遮って一気にまくし立てる。そして自信に満ちた笑顔でうんざりした表情の委員長らを睥睨した。
▼用語
※1AF‐705:
Revelation社が販売する最新機種の感情型アンドロイド。シリルを構成する躯体でもある。
表現力豊かな楽器演奏をも可能にする繊細な手先の動きと、他社の追随を許さない高性能を有する脳機能Wによってはじめて実現された大容量感情プログラムにより、これまで以上に高い人間性を勝ち得た機種。AFはAuto(matic)とFellow(ship)の頭文字。
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