上 下
73 / 102
第四章【転移者サイゾー】

第18話―部長

しおりを挟む

 サイゾーの核心を突く言葉に、レノッグは絶望的な表情を浮かべた。若干の間を置いた後、暗い表情でポツポツと事情を語り出した。

「元は……父がやっていた仕事なんです。その頃は主に貴族がお客様でして、収入に困ることはありませんでした。しかし別の郵便業者が台頭してくると、次第に仕事が減り、気がついたら貴族邸への出入りも禁じられてしまいました……」

 なるほど、元はうまくやっていたのかとサイゾーは頷いた。

「その後は事実上廃業してしまい、父は鉱山に働きに出ました。しかしそこで事故にあい……」

(重い! 凄く重いぞ!)

 サイゾーは無表情を貫きつつ、内心で叫んでいた。

「母一人で家計を支えられるわけも無く……そして私は父のこの仕事に誇りを持っていました! 私は父の仕事を継ぎました! ……しかしなかなか上手くいかず……」

「あの、どのようにお客さんを集めていますか?」

「酒場や広場、露店街などの店長さんに、お話を広めてもらうように頼んでいます」

「手紙の集配方法は?」

「え? もちろんここに持ってきてもらった物を届けます。……ああ! もちろん私たちは送り先を間違えたり中を覗いたり、ましてや盗んだりなどしませんよ! 父の誇りにかけて!」

 どうやら彼は誇りの持って行き方を間違っているらしい。

「それは……ダメですね」

「ちょっと! お兄ちゃんのどこがダメだっていうのよ! すっごい真面目で頑張ってるんだから!」

 そこに突然、彼の妹が割り込んできた。

「こら! ミノリア! お客さんになんて事を言うんだ! すみません! 謝罪します!」

「いえいえ、お兄さん思いの良い妹さんですね」

「え、ええ?!」

 なぜかそこでミノリアさんが赤面した。

「ダメというのは、商売のやり方ですよ、残念ながら努力でどうにかなるものではありません」

「それじゃあ……どうしたらいいのよ!」

 レノッグではなく、妹のミノリアが叫んだ。

「そうですね……」

 サイゾーは熟考した。ここで郵便システムを教えるのも良いが、せっかくなら商売に活用したい。その為には彼らを取り込まないといけないのだが……。

 メリットとデメリットを考える。どうやってもハイリスクハイリターンにしかならない。

(さてどうするか……)

 ジッとサイゾーを見上げるミノリア。

(決めた。取ろう)

 決してミノリアが可愛いから決意したわけではないと、サイゾーは自分に言い聞かせていた。誰が文句を言ったわけでもないのに。

 サイゾーは表情を引き締めて言った。

「レノッグ、君の会社……じゃなくて商会を丸ごと買いたいって言ったらどうする?」

「え? それはどういう意味ですか?」

「レノッグがやってる、郵便業務を丸ごと俺が仕組み事買い取りたい。つまり俺が上司になるって事だな」

「えっと、商会長がサイゾーさんで、私が雇われになるということですか?」

「そうそう。ただ、それだとレノッグの商会じゃなくなるけどな」

「それは……条件次第……です。続きを聞かせてください」

「俺はこれから出会い掲示板【ファインド・ラブ】という商会を作るんだ。この郵便業務をファインド・ラブの一部に取り込もうと思っている」

「商会に取り込む形ですね。たまに聞きます」

「うん。そうだな……ファインド・ラブ【郵便事業部】を作って、そこの部長にレノッグを任命したい」

「え? それって凄く責任重大ではないですか?」

「責任って意味では今と変わらないだろう? 月に大銀貨で50枚の資金を渡すから、レノッグは他に二人雇って、給料や諸経費込みで何とかして欲しい」

「大銀貨50枚?!」

 正確なレートがあるわけでは無いが、だいたい50万円と思って欲しい。

「ただし、俺の資金の問題で2ヶ月で掲示板に利益が出なかったら……商会は潰れる。それでも良ければだけどな」

 サイゾーは正直に内情を語った。誰か・・の様に騙して成功したいとは思っていなかった。

「それは……問題ありません。もう廃業するしかないと思っていましたから! 従業員の一人に妹を選んでも良いですか?」

「構わないが仕事中はちゃんと社員……商会のイチ従業員として接するのが条件だ」

「もちろんです! ミノリア、ちゃんと出来るか?」

「出来るよお兄ちゃん!」

 早速ダメじゃないかとサイゾーはため息を吐いた。

「ミノリア、お兄ちゃんじゃダメだ。仕事中は部長と呼ぶか、名前で呼ぶように」

「部長……ですか?」

「郵便事業部の長だから部長」

「わかりました。聞き慣れない言葉ですが、重要な役職であることだけはわかります。名前に恥じないように粉骨砕身で頑張ります!」

「頼もしいな。……ああ、しばらくは掲示板の仕事を手伝ってもらうぜ。ここに予算使うことになるから、別に人を雇えないんだ」

「もちろんです!」

「私も頑張るよ!」

 こうしてサイゾーは初めての部下を手に入れた。

 まさかこの郵便事業が後に王国にまで食い込む大事業になるとは思いもせず……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

とある元令嬢の選択

こうじ
ファンタジー
アメリアは1年前まで公爵令嬢であり王太子の婚約者だった。しかし、ある日を境に一変した。今の彼女は小さな村で暮らすただの平民だ。そして、それは彼女が自ら下した選択であり結果だった。彼女は言う『今が1番幸せ』だ、と。何故貴族としての幸せよりも平民としての暮らしを決断したのか。そこには彼女しかわからない悩みがあった……。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

何かと「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢は

だましだまし
ファンタジー
何でもかんでも「ひどいわ」とうるさい伯爵令嬢にその取り巻きの侯爵令息。 私、男爵令嬢ライラの従妹で親友の子爵令嬢ルフィナはそんな二人にしょうちゅう絡まれ楽しい学園生活は段々とつまらなくなっていった。 そのまま卒業と思いきや…? 「ひどいわ」ばっかり言ってるからよ(笑) 全10話+エピローグとなります。

〈完結〉妹に婚約者を獲られた私は実家に居ても何なので、帝都でドレスを作ります。

江戸川ばた散歩
ファンタジー
「私」テンダー・ウッドマンズ伯爵令嬢は両親から婚約者を妹に渡せ、と言われる。 了承した彼女は帝都でドレスメーカーの独立工房をやっている叔母のもとに行くことにする。 テンダーがあっさりと了承し、家を離れるのには理由があった。 それは三つ下の妹が生まれて以来の両親の扱いの差だった。 やがてテンダーは叔母のもとで服飾を学び、ついには? 100話まではヒロインのテンダー視点、幕間と101話以降は俯瞰視点となります。 200話で完結しました。 今回はあとがきは無しです。

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

お姫様と愉快な仲間たちの珍道中

ライ
ファンタジー
放浪癖が目立つお姫様が、いろいろな土地を旅しながら、その土地の問題を次々と解決し、伝説を作っていくお話です。 愉快な仲間とは彼女のげぼ、こほん、従者たちのことです。 初めは、短編にしようと思っていたのですが、思ったよりも下準備がかかってしまったので長編に変更させていただきました。 誤字脱字が目立つでしょうが、何卒ご容赦を 楽しんで書きますので、お読みくださる方も楽しんでいただけたら幸いです。 意見がある方はぜひ感想でお聞かせください。

殿下から婚約破棄されたけど痛くも痒くもなかった令嬢の話

ルジェ*
ファンタジー
 婚約者である第二王子レオナルドの卒業記念パーティーで突然婚約破棄を突きつけられたレティシア・デ・シルエラ。同様に婚約破棄を告げられるレオナルドの側近達の婚約者達。皆唖然とする中、レオナルドは彼の隣に立つ平民ながらも稀有な魔法属性を持つセシリア・ビオレータにその場でプロポーズしてしまうが─── 「は?ふざけんなよ。」  これは不運な彼女達が、レオナルド達に逆転勝利するお話。 ********  「冒険がしたいので殿下とは結婚しません!」の元になった物です。メモの中で眠っていたのを見つけたのでこれも投稿します。R15は保険です。プロトタイプなので深掘りとか全くなくゆるゆる設定で雑に進んで行きます。ほぼ書きたいところだけ書いたような状態です。細かいことは気にしない方は宜しければ覗いてみてやってください! *2023/11/22 ファンタジー1位…⁉︎皆様ありがとうございます!!

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...