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第二章【入会されますか?】
第2話―「貴様ら! 恥を知れ!」
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「ここか……」
王宮騎士キシリッシュ・ソードが登城すると、ちょうど王女の用事を仰せつかり呼び出された。雑談の中で例の詐欺だと思われる商売の話が持ち上がった。
それを聞いた王女はすぐにキシリッシュに実態調査を任命した。本来ならそんな命令権はないのだがキシリッシュの上官を含めて誰も何も言わない。それが大人というものだ。
勅命に鼻息を荒くしているのはキシリッシュ・ソードただ一人だった。
そうしてキシリッシュは意気揚々と王都74区画の酒場兼宿屋「海が恋しいアホウドリ亭」の前に立っていた。
金銀に映える美しい鎧を纏った、銀髪の美女と言えば、10人が10人とも振り返る。
そして場違いな人間がそこにいると認識し、そそくさと逃げ出すのだ。キシリッシュの経験上彼女を見て逃げる奴は大抵やましいことのある人間だ。
最初は74区画の警備兵を連れてこようとも思っていたのだが、もし、彼らの怠慢で犯罪が見逃がされていたのなら、全力で誤魔化しに走ることだろう。だからキシリッシュは一直線にここまで来たのだ。
突っ走るのは彼女の得意技である。
酒場は大変に賑わっていた。休日でも無いのに、昼間から男共が群がっている状況は、なるほど健全な店とは言えないだろう。
妙に熱狂的な男たちは揃って背中を向けている。いや、なぜか全員壁に注目していた。
キシリッシュはその異常な光景に眉をしかめた。
もしかしたら、商売などでは無く、邪教の崇拝儀式なのかも知れない。確かにガルドラゴン王国では国教であるハマ教以外の宗教を禁じていないが、邪教となれば話は別だ。
「貴様ら!」
凜とした声が酒場に響いた。人間に出せるとは思えない音量で。騎士訓練の賜物である。
そこにいた全員が飛び上がって声の主に振り返り、その姿に2度飛び上がりそうになった。
誰が見間違うものか、王宮騎士がそこに仁王立ちしていた。
「貴様ら! 恥を知れ! 己が欲望のために邪教を崇めるとは、王国民としての誇りは無いのか! ハマ教を信じろとは言わんが、人間、楽な方へ走って得することなど何もないぞ!」
よりにもよって剣を抜き、男たちの集団に突きつけるキシリッシュ。緊張よりも間抜けな空気が走っていることに本人は気づいていない。
「さあそこをどけ! 邪神像かなにかは知らぬがこのキシリッシュ・ソード! 打ち壊してくれる!」
男たちは顔を見合わせた後、無言で道を空けた。
つかつかと開かれた人の道を通ると……やはりそこは壁だった。
「……なんだ、これは?」
彼女が見た物は、絵画を飾る額縁の様に細かく彫り込まれた贅沢な木枠だった。
だが肝心の名画は飾られておらず、代わりに面積の半分はピンを止めやすい材質で出来た板にはわら半紙が沢山貼り付けられ、もう半分の面積は板が黒く塗り潰されていて、そこに白色の擦れた文字が書き込まれていた。
「これはいったい……」
男たちの一人が、無言で飾り枠のてっぺんを指さした。キシリッシュは釣られて視線を移す。
出会い掲示板【ファインド・ラブ】
まさに「ななよん新聞」に載っていたシロモノだった。
「おい! 貴様! これはなんだ!」
先ほど指をさした男がキシリッシュに胸ぐらを掴まれる。
「な、何って、見ての通り掲示板だろ! 何か文句があるのか? 騎士様よ?!」
「掲示板?」
なるほど、言われてみれば、掲示板だ。騎士の連絡にも、このような掲示板は使われている。黒塗り板の方は良くわからなかったが……。
「そうだよ! 俺たちはただ掲示板を見ていただけだ! 何か問題があるのか?!」
「いや……しかしなんで冒険者ギルドでも無い酒場にこんな巨大な掲示板があるのだ?」
「それは俺から説明しよう」
突然背後から声を掛けられ、咄嗟に剣を向けてしまうキシリッシュ。
「……うををををを?!」
ワンテンポ遅れて声の主が悲鳴を上げた。反応が鈍すぎる。背後を取られた理由がイマイチわからなかったが、己の油断だと、キシリッシュは気を引き締め直した。
「お前は?」
倒れ込み、尻餅をついた男は見事な黒髪だった。異国人も多く集まるこの王都だが、ここまで艶のある黒髪は珍しい。キシリッシュはちょっとだけ羨ましく思った。
「酒場で剣を抜くのは御法度だろ……俺は、サイゾー・ミズタニ。この出会い掲示板ファインド・ラブの責任者だよ」
怪しい青年だった。
王宮騎士キシリッシュ・ソードが登城すると、ちょうど王女の用事を仰せつかり呼び出された。雑談の中で例の詐欺だと思われる商売の話が持ち上がった。
それを聞いた王女はすぐにキシリッシュに実態調査を任命した。本来ならそんな命令権はないのだがキシリッシュの上官を含めて誰も何も言わない。それが大人というものだ。
勅命に鼻息を荒くしているのはキシリッシュ・ソードただ一人だった。
そうしてキシリッシュは意気揚々と王都74区画の酒場兼宿屋「海が恋しいアホウドリ亭」の前に立っていた。
金銀に映える美しい鎧を纏った、銀髪の美女と言えば、10人が10人とも振り返る。
そして場違いな人間がそこにいると認識し、そそくさと逃げ出すのだ。キシリッシュの経験上彼女を見て逃げる奴は大抵やましいことのある人間だ。
最初は74区画の警備兵を連れてこようとも思っていたのだが、もし、彼らの怠慢で犯罪が見逃がされていたのなら、全力で誤魔化しに走ることだろう。だからキシリッシュは一直線にここまで来たのだ。
突っ走るのは彼女の得意技である。
酒場は大変に賑わっていた。休日でも無いのに、昼間から男共が群がっている状況は、なるほど健全な店とは言えないだろう。
妙に熱狂的な男たちは揃って背中を向けている。いや、なぜか全員壁に注目していた。
キシリッシュはその異常な光景に眉をしかめた。
もしかしたら、商売などでは無く、邪教の崇拝儀式なのかも知れない。確かにガルドラゴン王国では国教であるハマ教以外の宗教を禁じていないが、邪教となれば話は別だ。
「貴様ら!」
凜とした声が酒場に響いた。人間に出せるとは思えない音量で。騎士訓練の賜物である。
そこにいた全員が飛び上がって声の主に振り返り、その姿に2度飛び上がりそうになった。
誰が見間違うものか、王宮騎士がそこに仁王立ちしていた。
「貴様ら! 恥を知れ! 己が欲望のために邪教を崇めるとは、王国民としての誇りは無いのか! ハマ教を信じろとは言わんが、人間、楽な方へ走って得することなど何もないぞ!」
よりにもよって剣を抜き、男たちの集団に突きつけるキシリッシュ。緊張よりも間抜けな空気が走っていることに本人は気づいていない。
「さあそこをどけ! 邪神像かなにかは知らぬがこのキシリッシュ・ソード! 打ち壊してくれる!」
男たちは顔を見合わせた後、無言で道を空けた。
つかつかと開かれた人の道を通ると……やはりそこは壁だった。
「……なんだ、これは?」
彼女が見た物は、絵画を飾る額縁の様に細かく彫り込まれた贅沢な木枠だった。
だが肝心の名画は飾られておらず、代わりに面積の半分はピンを止めやすい材質で出来た板にはわら半紙が沢山貼り付けられ、もう半分の面積は板が黒く塗り潰されていて、そこに白色の擦れた文字が書き込まれていた。
「これはいったい……」
男たちの一人が、無言で飾り枠のてっぺんを指さした。キシリッシュは釣られて視線を移す。
出会い掲示板【ファインド・ラブ】
まさに「ななよん新聞」に載っていたシロモノだった。
「おい! 貴様! これはなんだ!」
先ほど指をさした男がキシリッシュに胸ぐらを掴まれる。
「な、何って、見ての通り掲示板だろ! 何か文句があるのか? 騎士様よ?!」
「掲示板?」
なるほど、言われてみれば、掲示板だ。騎士の連絡にも、このような掲示板は使われている。黒塗り板の方は良くわからなかったが……。
「そうだよ! 俺たちはただ掲示板を見ていただけだ! 何か問題があるのか?!」
「いや……しかしなんで冒険者ギルドでも無い酒場にこんな巨大な掲示板があるのだ?」
「それは俺から説明しよう」
突然背後から声を掛けられ、咄嗟に剣を向けてしまうキシリッシュ。
「……うををををを?!」
ワンテンポ遅れて声の主が悲鳴を上げた。反応が鈍すぎる。背後を取られた理由がイマイチわからなかったが、己の油断だと、キシリッシュは気を引き締め直した。
「お前は?」
倒れ込み、尻餅をついた男は見事な黒髪だった。異国人も多く集まるこの王都だが、ここまで艶のある黒髪は珍しい。キシリッシュはちょっとだけ羨ましく思った。
「酒場で剣を抜くのは御法度だろ……俺は、サイゾー・ミズタニ。この出会い掲示板ファインド・ラブの責任者だよ」
怪しい青年だった。
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